総理大臣、ダンジョンを駆ける~憲政史上最低支持率◤4.6%◢の総理大臣がダンジョンで無双した結果、日本までもが無双する~ 作:三月菫
更に奥に進むと、迅一郎の耳元に、再び結月の声が届いた。
『総理、先の玄室でイレギュラー反応があります。おそらく
「目的地に向けた迂回路は?」
『ありません』
「ならば答えは一つだ。押し通るしかあるまい」
『サポートはお任せください』
結月の言葉に一切の躊躇を見せることなく、迅一郎は玄室へと踏み込んだ。
冷えた風が渦を巻き、迅一郎の身体を撫でる。
遅れて玄室に入ったドローンのカメラアイがピントを合わせると、淡い照明に縁どられた視界の先で、モンスターの群れが蠢いていた。
:は??
:スタンピードだあああああああ
:A級モンスターの動物園!
:さすがに無理だって、総理帰ろ!?
:逃げてええええ!マジでにげてえええええ!!
「この程度であれば、スタンピードとしては小規模。問題ない。防衛行動を開始する——」
迅一郎はそう言って、刀を構えた。
その動きに合わせて、突っ込んできたのは、鶏の胴体に蛇の尾を持つモンスターだった。
:バジリスクだ!!
:こいつもめっちゃレアモンスターだぞ
:蹴爪に毒があって、わずか〇.一ミリリットルで、アフリカゾウを即死させるで
:モンスター博士の解説助かる
:てか凶悪すぎない??
「強力な毒というのは、毒が強力ということなんです。しかし攻撃を受けなければ、それは毒ではない。だから問題はないんです」
バジリスクが猛然と爪を振り下ろす。
迅一郎はその軌道を読み切り、紙一重でかわした。
同時に閃光のような一閃が走り、目にも止まらぬ速さでバジリスクの首が斬り裂かれる。
:一撃wwww
:やばすぎでしょ
:すげえええええ
「——コツは鶏の首と蛇の首を同時に落とすこと。なぜならバジリスクは脳を二つ持つからです。脳が二つあるということは、脳が一つではないということ。だから二つ落とさない限り攻撃が続くんです」
:メビウスの輪みたいな話し方やめろ
:話がループしてて情報が少ないの笑う
:「二つあるということは一つではない」←あたりめーだろwww
:脳が2つあるって言いたいだけで草
:なんだろうこのクセになる感じ
:総理、次の敵が来ますよ!
視聴者のコメントを受け、迅一郎は次の敵に視線を移す。
次なる相手は、牛頭の巨人、ミノタウロス。
その数、四体。
ミノタウロスたちは筋骨隆々の肉体を揺らし、一斉に突進してきた。
その迫力に空気が震える。
しかし迅一郎は軽やかに身を翻し、巨体の死角へと滑り込む。
次の瞬間、閃光のような斬撃がきらめき、四体のミノタウロスの脚が同時に切り払われた。
轟音と共に巨体が倒れ込む。
続く一閃が、なお咆哮を上げる首を一度に断ち切った。
:やっば
:ミノタウロスって、一応Aランクモンスターですよね……
:簡単に倒してるんですけど
:まず探索者一人じゃ絶対に相手できない。一頭倒すのに最低でも歴戦の探索者10人は必要って言われてるぞ
:それを4頭まとめて瞬殺するって、総理どうなってんすか?
「先のオーガもそうですが、ミノタウロスの脅威はそのフィジカルとタフネス。つまり攻撃を避け、相手の耐久力を上回る威力で攻撃を加えればよいのです。相手としては組みやすい」
迅一郎がそう解説するやいなや、天井の暗がりから大きな影が急降下する。
迅一郎は横っ飛びで回避。
それまで立っていた場所が大きくえぐれる。
土埃の向こう、現れたのは巨大な鷲のようなモンスターだった。
:ヒポグリフだ!?
:Sランクモンスターだぞ!?!?
:ちょっと息つく暇もないんですけど!
:でも総理なら……?
ヒポグリフは再び翼を大きく羽ばたかせ、宙へ舞い上がる。
そして鋭い鳴き声とともに、一直線に迅一郎へと急降下した。
迅一郎は刃を寝かせて構え、迎え撃つように刀を振るった。
だがその一撃は、ヒポグリフの鈎爪によって弾かれる。
耳をつんざくような金属音が玄室に響き渡り、交叉点から火花が散った。
ヒポグリフは再度羽ばたき、宙へと舞い上がる。
:やべええええええ
:あんな攻撃くらったら一発でおだぶつだ!
:しかし空からの攻撃は厄介だな
:どうするん総理?
「簡単です。相手が空を飛ぶのなら、こちらも翔べばいいだけのこと」
迅一郎は刀を納めると、深くしゃがみ込みんでから、力強く跳躍した。
その身は空中でさらに一段、二段と踏み出すように跳ね上がり、まるで見えない階段を駆け上がるかのように、宙を翔け抜けていく。
:ファッ!?!?!?
:飛んだ!?
:エアステップした!?
:マ○オじゃないんだからwww
:ワッ! ホホッ! ヒャッホー!!
:総理、ナチュラルに空飛ぶの辞めてくれませんか
跳躍する迅一郎の身体は、空を翔けるヒポグリフと同じ高度へと並び立つ。
刀を構える迅一郎の身体が鞭のようにしなった。
斬――!!
鞘から抜かれた刀が、閃光のごとく一筋の軌跡を描いた。
ヒポグリフは翼もろとも胴を斬り裂かれ、空中で真っ二つに裂け落ちる。
断末魔を上げることも叶わず、その巨体は重力に引かれて地へと墜ちていった。
:ヒポグリフすら瞬殺ってww
:注)分かりにくいですけど一応ヒポグリフはSランクモンスターです
:総理、強すぎっす
:ここまでくるとCGを疑うレベルww
迅一郎は軽やかな身のこなしで地面に着地。
刀を振り払って、刃にこびりついた血を払う。
迅一郎は再び刀を正眼に構え、玄室に満ちる殺気を真っ向から受け止めた。
焦り、恐怖、混乱。
群れをなすモンスターたちはそれぞれ異なる色の殺意を放つが、迅一郎にとってはただの雑音に過ぎない。
「防衛行動を継続する――」
静かな声とともに、彼は再び前へと踏み込んだ。
* * *
それからおよそ五分後。
『グギャアアアアアアアアアアアアア!!』
最後のモンスターが絶叫を残して、迅一郎の一閃により切り裂かれた。
斜めに走った刀閃が真紅の軌跡を描き、巨体は真っ二つになって鮮血を撒き散らしながら地面へと沈む。
足元にはバジリスク、ミノタウロス、ヒポグリフ……ありとあらゆる強敵の亡骸が折り重なり、死屍累々の光景が広がっていた。
その血の海に立つのは迅一郎ただ一人。
彼は静かに刀を納め、息一つ乱さぬまま宣言した。
「敵対反応、消滅。
:すげえええええ
:総理、無双すぎるwww
:一人軍隊じゃん……
:強すぎ
:なんかもう笑えてくるレベル
:俺達の総理、人間じゃなかった
『総理、見事な戦いぶりでした』
戦闘を終えた迅一郎に、結月の声が届いた。
『支持率に変化がありました。現在、5.5パーセントへ上昇しています』
「……数字に一喜一憂するつもりはないが、それでもやはり、嬉しいものだね」
『当然の結果です。総理の力が世に示されたのですから。むしろ、もっと上がってもおかしくありません』
「ありがとう白瀬くん。君のその信頼が、何よりも私の力になっている」
『……ッ!』
白瀬の吐息が漏れたかと思うと、プツリと音がして通信が途絶える。
一瞬、通信障害を疑う迅一郎。
ただ、モニターが示す通信状況に、エラーは発生していない。
迅一郎は、異常なしと判断し、探索を続けることにした。
「それでは皆さん、目的地に向けて先に進みましょう。じきに中層へ到達します——」
《TIPS》内閣支持率
国民が現在の内閣を「支持する」か「支持しない」かを示す世論調査の数値。新聞社やテレビ局などが定期的に調査を行い、政治の安定度や政権運営への評価を測る指標として用いられる。支持率が高ければ政権運営は有利に、低ければ政策推進が難しくなる。