総理大臣、ダンジョンを駆ける~憲政史上最低支持率◤4.6%◢の総理大臣がダンジョンで無双した結果、日本までもが無双する~   作:三月菫

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第5話 新宿ダンジョン③

 

 更に奥に進むと、迅一郎の耳元に、再び結月の声が届いた。

 

『総理、先の玄室でイレギュラー反応があります。おそらく集団暴走(スタンピード)。モンスターの大群を相手にすることになりますが、問題ありませんか?』

「目的地に向けた迂回路は?」

『ありません』

「ならば答えは一つだ。押し通るしかあるまい」

『サポートはお任せください』

 

 結月の言葉に一切の躊躇を見せることなく、迅一郎は玄室へと踏み込んだ。

 冷えた風が渦を巻き、迅一郎の身体を撫でる。

 遅れて玄室に入ったドローンのカメラアイがピントを合わせると、淡い照明に縁どられた視界の先で、モンスターの群れが蠢いていた。

 

:は??

:スタンピードだあああああああ

:A級モンスターの動物園!

:さすがに無理だって、総理帰ろ!?

:逃げてええええ!マジでにげてえええええ!!

 

「この程度であれば、スタンピードとしては小規模。問題ない。防衛行動を開始する——」

 

 迅一郎はそう言って、刀を構えた。

 その動きに合わせて、突っ込んできたのは、鶏の胴体に蛇の尾を持つモンスターだった。

 

:バジリスクだ!!

:こいつもめっちゃレアモンスターだぞ

:蹴爪に毒があって、わずか〇.一ミリリットルで、アフリカゾウを即死させるで

:モンスター博士の解説助かる

:てか凶悪すぎない??

 

「強力な毒というのは、毒が強力ということなんです。しかし攻撃を受けなければ、それは毒ではない。だから問題はないんです」

 

 バジリスクが猛然と爪を振り下ろす。 

 迅一郎はその軌道を読み切り、紙一重でかわした。

 同時に閃光のような一閃が走り、目にも止まらぬ速さでバジリスクの首が斬り裂かれる。

 

:一撃wwww

:やばすぎでしょ

:すげえええええ

 

「——コツは鶏の首と蛇の首を同時に落とすこと。なぜならバジリスクは脳を二つ持つからです。脳が二つあるということは、脳が一つではないということ。だから二つ落とさない限り攻撃が続くんです」

 

:メビウスの輪みたいな話し方やめろ

:話がループしてて情報が少ないの笑う

:「二つあるということは一つではない」←あたりめーだろwww

:脳が2つあるって言いたいだけで草

:なんだろうこのクセになる感じ

:総理、次の敵が来ますよ!

 

 視聴者のコメントを受け、迅一郎は次の敵に視線を移す。

 次なる相手は、牛頭の巨人、ミノタウロス。

 その数、四体。

 

 ミノタウロスたちは筋骨隆々の肉体を揺らし、一斉に突進してきた。

 その迫力に空気が震える。

 しかし迅一郎は軽やかに身を翻し、巨体の死角へと滑り込む。

  次の瞬間、閃光のような斬撃がきらめき、四体のミノタウロスの脚が同時に切り払われた。

 轟音と共に巨体が倒れ込む。

 続く一閃が、なお咆哮を上げる首を一度に断ち切った。

 

:やっば

:ミノタウロスって、一応Aランクモンスターですよね……

:簡単に倒してるんですけど

:まず探索者一人じゃ絶対に相手できない。一頭倒すのに最低でも歴戦の探索者10人は必要って言われてるぞ

:それを4頭まとめて瞬殺するって、総理どうなってんすか?

 

「先のオーガもそうですが、ミノタウロスの脅威はそのフィジカルとタフネス。つまり攻撃を避け、相手の耐久力を上回る威力で攻撃を加えればよいのです。相手としては組みやすい」

 

 迅一郎がそう解説するやいなや、天井の暗がりから大きな影が急降下する。

 迅一郎は横っ飛びで回避。

 それまで立っていた場所が大きくえぐれる。

 土埃の向こう、現れたのは巨大な鷲のようなモンスターだった。

 

:ヒポグリフだ!?

:Sランクモンスターだぞ!?!?

:ちょっと息つく暇もないんですけど!

:でも総理なら……?

 

 ヒポグリフは再び翼を大きく羽ばたかせ、宙へ舞い上がる。

 そして鋭い鳴き声とともに、一直線に迅一郎へと急降下した。

 

 迅一郎は刃を寝かせて構え、迎え撃つように刀を振るった。

 だがその一撃は、ヒポグリフの鈎爪によって弾かれる。

 耳をつんざくような金属音が玄室に響き渡り、交叉点から火花が散った。

 ヒポグリフは再度羽ばたき、宙へと舞い上がる。

 

:やべええええええ

:あんな攻撃くらったら一発でおだぶつだ!

:しかし空からの攻撃は厄介だな

:どうするん総理?

 

「簡単です。相手が空を飛ぶのなら、こちらも翔べばいいだけのこと」

 

 迅一郎は刀を納めると、深くしゃがみ込みんでから、力強く跳躍した。

 その身は空中でさらに一段、二段と踏み出すように跳ね上がり、まるで見えない階段を駆け上がるかのように、宙を翔け抜けていく。

 

:ファッ!?!?!?

:飛んだ!?

:エアステップした!?

:マ○オじゃないんだからwww

:ワッ! ホホッ! ヒャッホー!!

:総理、ナチュラルに空飛ぶの辞めてくれませんか

 

 跳躍する迅一郎の身体は、空を翔けるヒポグリフと同じ高度へと並び立つ。

 刀を構える迅一郎の身体が鞭のようにしなった。

 

 斬――!!

 

 鞘から抜かれた刀が、閃光のごとく一筋の軌跡を描いた。

 ヒポグリフは翼もろとも胴を斬り裂かれ、空中で真っ二つに裂け落ちる。

 断末魔を上げることも叶わず、その巨体は重力に引かれて地へと墜ちていった。

 

:ヒポグリフすら瞬殺ってww

:注)分かりにくいですけど一応ヒポグリフはSランクモンスターです

:総理、強すぎっす

:ここまでくるとCGを疑うレベルww

 

 迅一郎は軽やかな身のこなしで地面に着地。

 刀を振り払って、刃にこびりついた血を払う。

 

 大物食い(ジャイアントキリング)を果たした功績にも、称賛と驚愕で染まる視聴者の反応にも、なんの感慨も抱くことなく、その視線はすでに残りの敵に向けられていた。

 迅一郎は再び刀を正眼に構え、玄室に満ちる殺気を真っ向から受け止めた。

 

 焦り、恐怖、混乱。

 群れをなすモンスターたちはそれぞれ異なる色の殺意を放つが、迅一郎にとってはただの雑音に過ぎない。

 

「防衛行動を継続する――」

 

 静かな声とともに、彼は再び前へと踏み込んだ。

 

* * *

 

 それからおよそ五分後。

 

『グギャアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 最後のモンスターが絶叫を残して、迅一郎の一閃により切り裂かれた。

 斜めに走った刀閃が真紅の軌跡を描き、巨体は真っ二つになって鮮血を撒き散らしながら地面へと沈む。

 

 足元にはバジリスク、ミノタウロス、ヒポグリフ……ありとあらゆる強敵の亡骸が折り重なり、死屍累々の光景が広がっていた。

 

 その血の海に立つのは迅一郎ただ一人。 

 彼は静かに刀を納め、息一つ乱さぬまま宣言した。

 

「敵対反応、消滅。集団暴走(スタンピード)の収束を宣言します」

 

:すげえええええ

:総理、無双すぎるwww

:一人軍隊じゃん……

:強すぎ

:なんかもう笑えてくるレベル

:俺達の総理、人間じゃなかった

 

『総理、見事な戦いぶりでした』

 

 戦闘を終えた迅一郎に、結月の声が届いた。

 

『支持率に変化がありました。現在、5.5パーセントへ上昇しています』

「……数字に一喜一憂するつもりはないが、それでもやはり、嬉しいものだね」

『当然の結果です。総理の力が世に示されたのですから。むしろ、もっと上がってもおかしくありません』

「ありがとう白瀬くん。君のその信頼が、何よりも私の力になっている」

『……ッ!』

 

 白瀬の吐息が漏れたかと思うと、プツリと音がして通信が途絶える。

 一瞬、通信障害を疑う迅一郎。

 ただ、モニターが示す通信状況に、エラーは発生していない。

 迅一郎は、異常なしと判断し、探索を続けることにした。

 

「それでは皆さん、目的地に向けて先に進みましょう。じきに中層へ到達します——」

 

 




《TIPS》内閣支持率
国民が現在の内閣を「支持する」か「支持しない」かを示す世論調査の数値。新聞社やテレビ局などが定期的に調査を行い、政治の安定度や政権運営への評価を測る指標として用いられる。支持率が高ければ政権運営は有利に、低ければ政策推進が難しくなる。 
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