総理大臣、ダンジョンを駆ける~憲政史上最低支持率◤4.6%◢の総理大臣がダンジョンで無双した結果、日本までもが無双する~ 作:三月菫
「グゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
迅一郎が叫ぶと同時に、巨竜は応えるように咆哮した。
耳を裂く轟音とともに、衝撃波が空気を震わせる。
岩壁に突き刺さった鉱石が共鳴し、青白い光を散らした。
:モニタ越しでも伝わる圧やっば
:こんな絶叫間近で聞いたらおしっこ漏らすわ・・・
:今からでも撤退したほうがいいんじゃ
しかし、迅一郎は微塵も揺るがなかった。
全身を押し潰そうとする覇気の中で、彼は呼吸を整え、静かに間合いを測り続ける。
——次の瞬間、巨竜が地を蹴った。
その巨体に見合わない猛スピードで、迅一郎との距離を詰める。
巨岩のような前肢が、迅一郎の立っていた場所に振り下ろされた。
地面が爆ぜ、岩片が飛び散る。
迅一郎は横っ飛びでその鉄槌を回避。
だが、竜の猛攻はそれだけですまない。
立て続けに、長い尾を横に薙ぎ払った。
「——ッ!」
咄嗟に刀を立てて、火花を散らして受け止める。
しかし、巨大な質量から繰り出された衝撃を支えきれるはずもなく、迅一郎は真横に吹っ飛んでいく。
そのまま、迅一郎の体は、石切りのように地面を何度もバウンドし、壁に激突した。
ドラゴンの追撃は終わらない。
首を真上に上げて、大きく息を吸い込む。
その口先が真紅に輝きだし、次の瞬間、灼熱の炎が吐き出された。
:ぎゃああああああああ
:火炎ブレスだああああああ!!
:死んだああああああああ!!
:こんがり焼けました
:はい解散
:やっぱドラゴンは無理でしたね
:あの炎じゃ骨すら残ってないよきっと
:【悲報】内閣総辞職
轟々と燃え盛る炎の奔流が、玄室全体を真紅に染め上げた。
その豪炎により、岩肌は熔岩のように赤熱して、滴るように溶けてゆく。
——人間が、生きていられるはずがない。
視聴者の誰もがそう思った。
しかし——
「……ふむ。なるほど。これがドラゴンのブレスか」
炎の海を割り、歩み出る影。
それは無傷の迅一郎だった。
彼は平然と歩み出ると、スーツの肩についた煤を軽く払う。
「確かに豪炎。しかし、息さえ止めていれば、凌ぐことは造作もない」
:えええええええ!?!?
:総理、無傷っすか!?
:規格外すぎて笑うしかない
:人間やめてんだろこれ
『総理……!? いまの炎を……どうやって……』
そう問うたのは、モニター越しの結月だ。
彼女もまた、瞳を大きく見開いて、傷一つ負っていない迅一郎の姿を唖然と眺めていた。
迅一郎は襟を正し、口元に微笑を浮かべる。
「白瀬くん、君も知っているだろう。これは理化学研究所が開発した特注スーツ。一千度の高熱にも耐える。我が国の科学力の結晶だよ」
まるで雑談のような口調。
だがその瞳は、鋭くドラゴンを射抜いたままだった。
獲物を取り逃がした怒りか、それとも目の前の人間への警戒か。
ドラゴンが低く唸る。
再びその口元に炎が集まった。
ドラゴンは、今度はその炎を巨大な火球に凝縮し、轟音と共に吐き出した。
まるで隕石のような灼熱の塊が、空気を焦がしながら一直線に迅一郎へと迫る。
しかし迅一郎は微動だにせず、静かに刀を構えたままだ。
そして——
「ハァッ!」
迅一郎が刀を振るった刹那、刀身から閃光が放たれた。
刀の軌跡が閃光となり、灼熱の火球を真っ二つに切り裂く。
分断された炎塊は左右に分かれて迅一郎が立つ背後の壁に激突。
爆発音と共に衝撃波と黒煙を撒き散らした。
:ナチュラルに火球を斬ったああ!!
:化け物すぎて草ァ!
:もう人類最強だろこれ
:支持率200%いったわ
迅一郎の放った神業に、歓声で埋め尽くされるコメント欄。
「この刀——千子村正は、我が国が世界に誇る鍛刀技術の極地により生み出された名刀です。斬れないものはありません」
迅一郎が更に一歩踏み込み、刃を振り抜いた。
空気が震え、光の筋が奔る。
次の瞬間、巨竜の頑強な鱗が音を立てて弾け飛んだ。
:うそだろ!?
:ドラゴンの鱗を斬った!?
:竜の鱗は鉄より固いんだぞ!?
:つーかナチュラルに剣撃飛ばしてるんですけどこの人wwww
:漫画じゃないんだからwww
:総理、ツッコミが追いつかないっすwww
「ドラゴンよ。我が国の力を、舐めてくれるなよ——」
迅一郎は闇に輝くドラゴンの双眸をまっすぐ見据えて、そう言い放つ。
囁くような声。
だがその響きは、ドラゴンの咆哮にも勝る覇気を帯びていた。
その迫力に圧されたのか、巨竜が怒り狂ったように牙を剥き、地響きを立てながら突進してきた。
洞窟全体が揺れ、崩壊した岩が雨のように降り注ぐ。
だが、迎え撃つ迅一郎は、静かに刀を鞘へと納め、深く腰を落とした。
抜刀術の構え——
まるで世界がその瞬間だけ静止したかのように、場が張り詰める。
「和泉流抜刀術……奥義――」
屠龍!!
次の瞬間、抜刀。
目にも止まらぬ速さの斬撃が走り、白い残光が空間を裂いた。
竜の巨体は迅一郎と交差。
勢いそのまま進みぬけ——直後、血柱を拭き上げて、真っ二つに両断された。
:ドラゴンを真っ二つwwww
:やべええええええ
:これCGだろ?CGであってくれ
:支持率300パーセント待ったなし!
視聴者の興奮は最高潮に達し、コメント欄は火花のように次々と弾け飛ぶ。熱狂と驚愕が画面いっぱいにあふれていた。
その一部始終を見届けていた結月は、ただ唇を震わせる。
『総理……私は特別秘書失格です……貴方の力を信じきれませんでした。申し訳ありません……』
結月は迅一郎の実力を誰よりも理解していたつもりだった。
だが今、目の前で繰り広げられる光景は、その想像を遥かに凌駕していた。
己を恥じる気持ちと同時に、胸の奥から溢れ出すのは強烈な信頼。
この人なら本当に国を変えてしまう——
この国を正すのは、この人以外ありえない——
結月は、そう確信せずにはいられなかった。
『総理、敵対反応……完全に消滅。階層主、討伐完了です。お美事でした』
「ありがとう、白瀬くん」
:感動したああああああ
:すげーよ総理!!!!
:これ無料で見ていいの?国宝級の配信だろ
:はやく教科書に乗せてどうぞ
:ニッポンの総理大臣、最強だった
画面には絶賛のコメントが雨あられのように流れ続ける。
こうして、総理大臣が自らダンジョンを攻略するという前代未聞の配信は幕を下ろした。