死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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7話1 金という魔物~ビジネスバトルしようぜ

もう一枚。そこにホログラムが差し込まれる。それは長々とした文言を、貴族らしい意匠の装飾で彩った契約書。

金額と名前だけが空白である。

鼻をくすぐるのは、冷えた花の香り。冴えた香りが漂う中、キャストリルはまるでナイフを突きつけるように。

 

「名前と好きな額を描きなさい。その想像を超える額を払ってあげる」

 

思わず言葉に詰まるミナカに対し、キャストリルは言葉を続ける。

 

「貴方の人生が七回繰り返せられる程の額を上げるわ、レオパルドンにはその価値がある」

「拙者の意志は……」

「御免なさい、レオパルドン。貴方の立場は今、扱われるべき財産なの……だって貴方臣民権ないし」

 

臣民権という初めて出る単語。その意味をミナカに問おうとした矢先。

 

「臣民権があって人は初めて人として認められるわ。それが、この帝国を中心にした”主星系”とそれ以外の”アウター・ワールド”……辺境の星々を分ける唯一の法」

 

そこで、多分初めて二人はキャストリルの少しだけ申し訳なさそうな顔を見た。金の瞳を少しだけレオパルドンから逸らし。

 

「私は貴族。幾ら価値ある者でも陛下の臣として、それを曲げる事は出来ないの。今貴方の所有権はバルディナで――貴方が取れる唯一の手段は規定額を支払い、臣民権を買い取る事だけよ」

「……奴隷扱いでござるか」

 

目を逸らしたまま、否定しなかった。

キャストリルはそこで向き直り、ミナカの赤と青と目を合わせる。

 

「さぁ、バルディナ。選びなさい、貴方の一生がここで決まるわ」

「幾ら……でもですか?」

「幾らでもよ。貴族の誇りと名誉にかけて、これは公正な取引である事を誓う。なんなら念書にサインだってしてもいいわ」

 

白い名前の欄を見ると、まるで吸い込まれてしまいそうになる。

今、自分の前にいるのが運命の女神のように、あるいは答えを間違ったものを取って喰らう怪物のように思えた。

お金。凄いお金。キャストリルの言う事は多分本当で、彼女は約束を守る……そう思えてしまう。

 

お金は大事だ。

もし配信者として失敗しても、一生はこれで安泰だ。

………………今まで、ずっと馬鹿にされてきた。

 

『お前、本当にクズだな』

 

そうやって、バカにされる人生を変えたかった。名前を売って、一番の配信冒険者となって成功して見返してやりたかった。

貧乏で学のない辺境生まれの子供が大きくなるのは、それしかないから。

お金があれば、ママと…………今も一緒にいられただろう。

 

「手が震えていてよ、バルディナ? 息も少し止まって、それに凄い汗」

 

その時、ミナカは一度レオパルドンを見る。

赤い体に白い頭。顔は一切見えないが、ただ静かにこちらを見つめてるその姿は……まるで縋りつく子供の様にも見えた。

 

皆からクズと言われ、切り捨てられた。助けてくれる人なんていなかった。

彼以外は。

 

『まだ……まだ……』

 

あれだけ、誰かに助けてもらったのは初めてだった。あぁ、でも駄目。そういう目先の感情に揺れるのは。

元から利用する為に嘘八百吹き込んだんだ。

現実を見ろ。売る以外選択肢なんて無いだろう。結局あの配信で稼いだ金も、スマホも返してもらっていない。断ったら莫大な借金を抱える羽目になる。

配信者三原則三条、数字を裏切る事は出来ない。そして一条、損はしない。

 

「あ」

「あ?」

「……あ?」

 

まずい、口を開いてしまった。あぁ、駄目だ。口を開いたら聞いてしまう……でも気になって、で途中でやーめたなんて言えない。

 

「もし、貴方にお兄様を売ったとしたら……貴方はどういう売り方をするんですか?」

 

それに対して、キャストリルは一度右手で口元を覆った後。満面の笑みを浮かべ答えた。

 

「いいわ、今回だけ特別に答えてあげる。

 勿論、我がオルムステッド家が全力でサポートしますわ。最高の武器、最高のトレーニング……配信冒険者への品質管理体制はいつだって万端」

「こ、広告は打つのですか……」

「勿論です。腐っても我が家は元首位、広告代理店にも伝手はあります……コラボやタイアップもして、その名は直ぐに銀河に轟かせて見せます」

 

あ。

あ、あ。

――駄目、この人。

 

「ダンジョンは最奥まで潜らせるんですか?」

「基本的にそれは無いわ。レオパルドンの能力、怪力と頑健さは目を見張るけど……リスクヘッジを考えたらねぇ」

 

駄目だ。

この人は、多分見る目はある。売れる商品、使える人材を見抜いて、こうして安くない保釈金を払い、先手を打って抑える行動力はある。

でも、売り方は知らない。この人じゃ、金の生る木は腐るだろう。

 

ここで売るのは間違いなく損だ。

 

それに何より、レオパルドンは帰りたがってる。キャストリルの方針では、レオパルドンのやる気が育たない。

キャストリルが求める結果は出ないだろう。なるほど、それは確かに首位から転げ落ちる訳だ。

そうと分かれば、途端ピントのレンズが合った様にミナカの中から思い込みが晴れる。今、目の前にいるのは神でも怪物でもない――金持ちで頭がいいだけの無難な経営者だ。

それに、

 

『それに命を救ってくれたお兄様に、少しでも恩返しをしたいんです! 大丈夫です、ミナカがつきっきりでサポートするとお約束します! 動画編集とカメラと宇宙船操縦には自信があります! お料理もお洗濯もお掃除も!』

 

配信者三原則第二条――約束は守る。

 

「さぁ、バルディナ。どうしたの?」

「――お断りします」

 

直後、促されたからそう答えた。

決める時は簡単な物で、短い言葉は思ったより簡単に出た。

手の震えも、息も汗もそこでピタリと止まる。頭は冴えていた。……キャストリルの金の瞳が大きく見開かれてる間に、ミナカはその機先を制する為に持論を話す。

 

「問題はお金じゃないんです。貴方の下にいたら、お兄様はきっと潰れてしまう」

 

真実というパーツで会話を組み立てる。多分、こいつは嘘を見抜く。なら下手な混ぜ物は厳禁。

 

「貴方に預けたら、お兄様の故郷に帰りたいという望みは叶わない。金に飽かせた最高のバックアップは大事だけど、それなら何故首位から落ちたのでしょうか? ワガハイ思うに、有り余る資本力に頼り過ぎて、そういう個々人に合ったプロデュースを怠った事こそ原因ではないでしょうか?」

「……いいでしょう、続けて?」

「それに、貴方の広告代理店を使った宣伝戦略は芽が出ないとは言わない。けど、最大値に届くともワガハイ思いません」

 

あえて、足早に話題を切り替える。ここで大事なのはテンポ。少しでも一つの話題を長く話せば、突き込む隙を与えてしまう。

ミナカは熟知している、自身がそうだからだ。

この貴族の女は損得勘定で生きている。得で生きているヤツの心を読むのはチョロかった、何せ同じ穴のムジナなんだから。

 

「今、このレオパルドンはこの配信銀河が最も気になってる存在です。さっきネットを見たら古代人説なんてものも出てました、この謎を利用しない手は無いでしょう……この状況を利用する選択肢が思い浮かばないなら、王朝の再建なんて夢のまた夢だと思います」

「ふむ、なら貴女はどうやって売るつもり?」

 

喰いついた……そう思うと、思わず口元が吊り上がる。

 

「では、今回だけ特別に教えてあげましょう」

 

ミラーリングは宣戦布告の証。ここからは展望を、その先の夢を売る。

 

「今はロマンに飢えた時代。なら、謎の人として売るんですよ……古代文明の足跡を求める謎の鎧の傭兵、キャッチコピーとしてはいささか無難に過ぎますか」

 

頭の中は高速で回転し、どう売るか、何が最適解か組みあがっていく。

 

「用意するのは壮大な謎解きゲームです。九十九%の嘘に、たった一%の真実を混ぜ、思わせぶりな情報を腹いっぱいに吟味させる――この男を銀河配信社会最大の謎にするんです」

「それだけ言うととある作品みたいでござるな」

「お兄様、うるさい」

 

ここでハッキリと決めの言葉を告げる。相手に見せつけるのだ、ここにいるのは一枚上手の相手だと。

お前は切り捨てる側じゃない。切り捨てられる側なのだ、と。

 

 

「このミナカ・アラギは、レオパルドンと配信冒険者ランキング一位を目指す。

 ……お兄様が欲しいなら、金だけじゃなく未来も持ってこい三下貴族。わたしにマネーゲームを仕掛けるのはそこからだ」

 

 

キャストリルのその金の瞳がミナカを測る。

怒りを覚えてもおかしくはない言葉だが、ミナカには確信があった。

この女、良くも悪くもプライドが高い。たかがバルディナと舐めてる女に、キレるのはそれだけで敗北を意味する。……負けたくないが勝ちを望めない勝負、この女ならきっと取る方法は一つ。

 

「確かに貴方の意見にも一理はある。なら、一つ賭けをしましょう」

 

――勝負を変える。

劣勢となったゲームを、ルールごと覆す。

あえて、相手のリングに入る。

 

 

 

 

 

 

 




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