死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について 作:生駒伊織
「嫌です! 絶対行きたくありません! やだ! 小生やだ! お金に関してはワガハイが上手い事考えます!」
――――。
「お兄様!? いや、ちょいお兄様!? スルーですか!?」
――――。
「あ”――――! わかりました、わかりましたってば! その代わり、準備は入念にしますよ! 命は銭金を賭けた分だけ繋がれるんですからね!」
――――。
「はい、という訳で次回は惑星レーゾスのダンジョンに潜る事になりましたー。レーゾスの秘められた文明の残滓を求め、レオパルドンが今立つ! 是非高評価とチャンネル登録よろしくお願いしますー」
――――。
――。
青空に薄もや――埃臭い黄土色の土煙がかかり、壊れた配管や鉄骨から上がる鉄の焦げた匂いがまだ鼻に残っている。
そうして配信が終わった後、ミナカがまず速攻で行うのはSNSの次回告知。嬉しい事に立てて一分も経たずに十八万いいねが付いた。
「よしよしよし、いいぞー! 早速バズってやがりますよ! 嫌よ嫌よも好きのウチってね!」
鋼鉄の残骸が放り込まれる音が響く中、反重力で巻き上げられる塵が舞う。
同時に宇宙船から持ってきた作業用パワードスーツを身に纏い、レオパルドンと共に今回のダンジョンの敵の解体と梱包に勤しむ。
立った時の身長は二メートル。
形状としては、黄色の丸っこいフォルムで背中から体を包む楕円形のポットに細い、丸い棒のような両手足が付いている。手は五指じゃなくて、円形の上下にしか開かないマジックハンド。
パイロットであるミナカを覆う装甲版はない。ミナカの顔に当たる部分には二本のパイプで柵のような物が辛うじてあるだけだ。
「やっぱワガハイって、天才ですね! お兄様を人気者にしつつ、こうして解体作業もこなしちゃうなんて!」
「……」
「しかし、ラストの一発が効きましたね! ね、お兄様?」
ダンジョンの報酬は奥にある宝箱だけではない。
モンスターの残骸も高く売れる。
……ドラゴンの子機や、今まで倒した敵の残骸をアーク切断機で解体した後。ここまで引き込んだ反重力コンテナに入れていく。
「……」
そんなミナカと違い、レオパルドンは黙って手を動かしていた。跳躍補助の反重力機能を使い、十メートル以上はあろうかというドラゴンの肩を、まるでアスレチックのように駆け上がる。
背中の中央に着地すると、そのまま左右の翼の根元を右ガントレットのプラズマアーク切断機で切断し始めた。
「さてさて、流石お兄様! それでは御開帳と行きますか!」
レオパルドンが黙々と翼部分を解体していく中、ミナカはパワードスーツの両腕を繰って胸元を引きはがしていく。
そこに現れるのは、あの時のミノタウロスと同じ赤い結晶。三十センチはあろうかという球体が、機械仕立ての円の台座の上に嵌っていた。
「わぁお! こんなおっきいのワガハイ、初めて見ましたよ!」
特に大事なのはEXコアだ。
情報を与える事で結晶構造を変える性質を持つEX素子。
その司令塔であるコアは、宇宙船の装甲やアンドロイド作成のあらゆる事に使え、時々宝箱の中身以上の高値で売れる事もある。
「見てください、お兄様! お兄様?」
「……」
「ちょ、お兄様! シカトですか、ワガハイのトラウマが刺激させられますよー!」
「……あぁ、申し訳ござらぬミナカ殿。拙者あのレーゾスをどう突破するか考えていて……」
右にいるレオパルドンはあのボトルキャップを見てから、心ここにあらずという感じだった。
そもそも基本的にレオパルドンは、配信の映えというのを度外視して動いている……少なくともミナカにはそう思えた。
レオパルドンの戦い方は、よく言えば無骨。悪く言えば華がない。
元々、戦いとは無縁の人であったらしい。彼なりに、慣れない戦いの配信に必死なのだともミナカは思っている。
ましてや、キャストリルの元に行けば地球とかいう星に帰る術を探す事が出来なくなるかもしれない……表面上は愛想よくしてるが、内心にはさっきの話し合いも確実にストレスが溜まっているだろう。
なら、それをカバーし上手く調理するのも自分だとミナカは考えていた。
レオパルドンは確かに金のなる木だ。
利用するにはコツがいる木だ。
――――。
――。
アスファルトが罅割れた路面には雨風でくすんだケーブルが露出していた。
既に廃都市の中央部を去り、その郊外。風景はコンクリート八割から、徐々に滲むように深緑が生えていく。
その上を、土煙を上げて二機のパワードスーツが滑走する。
一機はミナカ。もう一機はフィールド・モジュレーターをを纏ったレオパルドン。二人とも足の裏のローラーを回転させ、時速四十キロの緩やかな速度で走っていく。
レオパルドンの背後には彼の腰と連結した反重力コンテナ。ミナカは時折周囲に目を配りながら警戒している。
「索敵結果は異常なしですね、いやー平和なもんですよ」
その時、レオパルドンが首を横に向ける。
改めて見ると、レオパルドンは大きかった。その少し怒らせたような円柱型の肩と、二又の銀の角が巨大な影となってミナカを覆うのを見て、少しばかりたじろいでしまう。
「しかし反対ではござらんかったのか、ミナカ殿?」
「あんなのカメラが回ってる時の方便ですよ、お兄様。……受けるしかないですよ。今回のドラゴンダンジョンで逆転狙えると思ったんですが……」
ドラゴンダンジョンの再生数は現時点で十億、総課金額は二億。
オーディエンスの反応を視界の裏で確認する。半透明のウィンドウに白文字で数値が表示される。
〈AUDIENCE REACTION〉
〈GOOD:853298312〉
〈BAD:39337164〉
十億再生でこれである、低い。低いと言わざる負えない。
タイムラインと共に同接数のグラフを次に展開。半透明の赤のグラフが映る。
戦闘シーンをたっぷり見せる為、あえて難易度の高い所を狙ったのに開幕してからアクセス数ががくんと減った個所がある。
「は”あ”あ”あ”あ”! ここで減ってやがるー! やっぱボス戦入るまでパッとしなかったから切られましたか……あ”あ”、ここで初動失ったのがデカかったか!」
頭を抱え、切られた痛み――萎える心を道化染みた叫びで誤魔化す。
ついでにパワードスーツも繰って、両腕で頭を抱えさせるモーション。
……線を割ったか、これではダメだと思う。
ふとミナカが視線を右上へ。レオパルドンは腕を組み、考え込む素振りを見せた。
「どったんですか、お兄様?」
「いや、改めて見てミナカ殿のリアクションが新鮮で……なんていうか、同接率が落ちてこんな悔しがるというのが」
「そりゃあそうですよ! 配信者は同接が命ですよ! 見られない配信者なんて……想像しただけでもう――――タマヒュンですよ!」
「……お下品でござるよミナカ殿。というか、タマはないでござろう」
諫めるレオパルドンを後目に、ミナカは両腕を掴んで身を竦める。少なくない数がこの配信を切り捨てたと思うと、自然と身震いが起きた。
残り二週間。次は外さない、必ず当ててやる……ミナカは心の中で牙をそっと研ぎ始めた。具体的にはAIアプリを使い、ネットのステマ工作員達に次の指示メールを作成した。
「――という訳で、今回どうせ受けるなら一悶着あった方が配信的に盛り上がると思うんで、見せイヤイヤをした訳ですよ」
「そこまで考えてたのでござるか?」
「? 普通はそうじゃありません? ――ンアーッ! まだ配信冒険者ランキング三位、今回はイケると思ったのにー!」
そこで、ミナカの視界の前に白文字が浮かび上がる。
〈TIPS:配信冒険者ランキング〉
配信冒険者ギルドが集計している人気ランキング。各チャンネルの登録者数・高評価数を集計し、リアルタイムで反映される。
1位には名誉の証として赤ダイヤモンドの盾がギルドより進呈。
「ン”ア”ア”ア”ア”ア”ア”! このクソTIPS機能マジで邪魔ー!」
「確かに、これは視聴者的にもテンポが壊れるでござるな」
TIPSを避けた後。リアルタイムで更新されるランキング表を再び見て、ミナカは歯噛みした。
実際本当に悔しかった。今回なら行けると思ったのに。
……もう既にキャストリルはいない。仕事を伝えた後は、動画映えを計算して速やかに帰った。いけすかない女だが、動画者として最低限の配慮はしてくれてる。
いちいちミナカのコンプレックスを逆撫でしていく女だが、殺すのはまたの機会にしよう。
「さて、お兄様! 早速我が家に戻って準備しますよ! 出発は三日後です!」
「少しばかり急ぎすぎてはござぬか?」
「何を甘い事言ってるんですか! 動画配信なんて早ければ早い程がいいんです! 視聴者様は赤ちゃんより飽きやすくて忘れっぽいんですから!」
一日で食料や燃料などの物資を補給。キャストリルから貰った情報を元に動画内容の練り直し、情報の洗い直し。更にレオパルドンのフィールド・モジュレーターのメンテ。
――そこで、じくりと承認欲求が痛む。
自分は一体何をやってるんだろうか。そう迷う心を頬の内側を噛んで押し殺す。
そうだ、現実的に行こう。
自分の承認欲求なんて物の数ではない。そんな甘い考えでは一位は取れない。
それよりも前を向こう、やる事は盛りだくさんだ。
「そう言えばミナカ殿。拙者、今日はこの前作ってくれたヤツが食べたいでござる」
「あー、わかりました。作っときますね」
この前作ったヤツというのがミナカには解らないが、レオパルドンの機嫌を損ねない様に適当に話を合わせとく。大事な稼ぎ頭のメンタルケアにも手抜かりをしてはいけない。
そう思って、スマホを弄ってアプリを起動。ダークウェブで電子麻薬を補充しとく。
闇市で金を出せば何でも買えるのは、ネットもリアルも同じだ。
「これ脱いだらコーヒーを飲みたいでござる、ミナカ殿の淹れるコーヒーは美味いでござるからな」
レオパルドンの鎧は一人では脱着出来ず、もっぱらミナカが介助していた。基本的に動画配信中はレオパルドンの食事シーンやトイレ休憩もない、ミナカはそれを鎧が長く戦える様に生理機能を抑制してるのだと言いくるめていた。
「いつだって愛情たっぷり込めてるからでござるよー」
「新しいお洋服も欲しいでござるな。この前、ズボンのお尻の部分が破れたでござる」
そんな話をしながらあのボロ船へ戻っていく。百年前の型落ちも良いとこの軍用機だが、ギルドに確保された後返却され、今も彼女達の貴重な足になっていた。
「そう言えば、もう一個の洗面台って何で使えなくなったでござるか? 二個あったからいいものの……」
「あー、ちょっと諸事情で。とりあえず今結構荒れてるんで、入っちゃダメですよ」
それととある理由から壊れた洗面台の修理もしなくてはならない事を思い出し、ミナカは頭を抱えた。
そしてアンドロイド避けの電磁トラップをばら撒いておいた道までたどり着くと、歩行に切り替えて一際小高い丘を越えたその先を抜けると。
「……うそーん」
「……あー、これやっちゃったでござるな。ガンプラのジオラマみたい」
大破していた。完膚なきまでに。
サンドドラゴンの締め付けに軋みを上げつつ耐えていた装甲も、ダンジョン産のドラゴンの牙には耐えられなかったらしい。
ドラゴンの子機が今や外から宇宙船の内部が覗ける程にミナカの宇宙船を食い荒らしていた。歯形は、地下で遭遇した子機の物と似ていた。
ミナカは自然とポットの中のブラスターを抜いた。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”、野郎ぶっ壊してやるぅぅぅぅぅぅぅ!」
「お、落ち……もちつくでござるよミナカ殿!」
これからという時に足が無くなってしまった。廃墟の街の中ミナカの絶叫とブラスターの乱射音が虚しく木霊する。
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