死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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9話2 胎動するは我に在り

 

 

「なるほど、これは面白い」

 

その一室。幾つもの古代文明の文献に囲まれたテントの中、ヴァレン・スローンもまた彼の配信動画を見ていた。

使い込まれたオイルランタンの、赤々とした灯が一帯を照らす。

周囲には、文献の他には様々な発掘品や埋葬物が乱雑に並んでいる……。

 

「ケルベロスですか。それに、あの円形のゲート……更には記録にない品物の数々」

 

手元にある本を手早くめくりながら、ぽつりと呟く。

 

「あれらの物品は、ダンジョンが星のエネルギーを引いて異世界より引き寄せた……と見るべきでしょうね」

 

そこでヴァレンは一度近くにあったノートを手に取ると、手慰みにスケッチをする。

白いノートの上には、あの赤と黒の鎧姿。

レーゾス、そしてラクトゥー……神々の時代は遠く過ぎ去り、眠りについた遺跡達はこの男の出現と共に突如覚醒した。

 

「貴方は何処から来たのでしょうね、レオパルドンさん」

 

もしかしたら、あれは自分が探し求めていたものかもしれない……そう思って被りを振るう。事実ではなく、ただの願望だからだ。

この世界はジャ=クー時間、十六時三十二分四十一秒ジャストから変わった。

 

一度咳き込むと、彼は直ぐ近くにあった薬に手を伸ばしマグカップの水と共に流し込む。

もう一度咳き込むと、手につく血の色は赤。鮮やかなその色は、臓腑から来ている。

 

「死にたくありませんね……もって、後一年と言ったところでしょうか」

 

しかし、絶対に死ねない。何故ならまだやる事がある。

外の空気を吸う為、テントを出ると惑星ラクトゥーの草原に差し込む月の光。

楚々とした光が、この人が絶えて久しい大陸の遺跡を照らし出す。

巨大な全長五十メートルはあろうかというリングが三つ、まるで巨人のあばら骨か何かの様にそびえ立つ。その中央にあるのは、それより遥かに小さな石碑だ。

 

 

石碑の周囲には青く澄んだ水を、まるで池の様に湛えている。石碑の前に行く足場はない。

それは今は遠く離れた神々の時代の名残だ。神話に謳われた聖域を知る者は、もうヴァレンしかいない。

 

 

――この青い水に囲まれた石碑。簡素なこれこそがヴァレンの悲願でもある。

彼は足元にあった小石を一つ、石碑に向けて投げる。すると池の周囲に入った瞬間、小石は跡形もなく消えた。

 

「現実を情報に、情報を現実に相変換する巨大な演算機。手にするにはこの情報流体で満ちた小さな死海を突破しなくてはならない」

 

ヴァレンの空気が一段冷める。言葉は短く、何処か危うさを孕んでいた。

 

「かつてこの惑星の前任者であったカプランを見つけ出さなければならない。彼の持っていたラクトゥー年代記、アレには全てが載っていた」

 

その言葉に、ぽつりと感情が灯る。蝋燭のように灯ったそれは、様々な感情が1オクターブの中に滲んでいた。

 

「カプランが何故、私に何も話さなかったのか。理解に苦しみますが、それは問題ではありません……そしてもう一つの方法があるとすれば」

 

そこでわざとらしく作った笑みを浮かべる。まるで煮えたぎった湯を、水で埋めるように。

 

「もう一つの方法は現実を固定する金属、イドロダイト」

 

そこで彼はおもむろに懐から、ある物を取り出す。右手に握られたのは小剣。

それこそ希少なイドロダイトで出来ており、異能の力を注ぎ込めば演算機の機能を僅かばかり使える……この遺跡の鍵だ。

ヴァレンはそれを、庭の池の前まで持っていくとギリギリの所で突き刺す。

小石と違い、刃は数多の位相のズレ――七色のプリズム――に包まれながらも分解されずそこに在る。

 

「伝承によれば神話の神々が使っていた鎧は総イドロダイト製であったと言います。しかし、神々の姿すら今は殆ど残っていない……」

 

実在はしている。この聖域がここだ。

神が封じたこの情報の海を突破しさえすれば、あの石碑の僅か数センチの穴にこの短剣を突き刺しさえすれば……この配信銀河社会全てが手に入るというのに。

 

「しかしよしんば……神の力を手に入れたとしても、この体は酷使し過ぎました。このままでは十中八九耐えられないでしょう。所詮この身は選ばれし者では無いのですから」

 

選ばれし者。

それは銀河配信社会に伝わる伝説だ。

異能を使っても露程の代償も発生しない者、配信せずとも異能を振るえる程の、有り余る才に溢れた銀河配信社会の申し子。……しかしヴァレンはそうではない。

 

《ヴァレン様……》

 

背後から声をかけたのは、黒ずくめの二メートルもある女だ。頭から爪先まですっぽりと黒いローブで覆い、声は草原に似つかわしくない電子音。それが彼の背後で数十人跪いていた。

そこでヴァレンは振り向く。丁度荒涼とした月を背にし。

 

「それで、ここに来たからにはそれなりの理由があるのでしょう?」

 

先頭の女が一巻きの書簡を懐から取り出し差し出す。

 

《先日ジャ=クーで確保したレオパルドンの破片の分析結果が出たので入手いたしました》

 

彼女等の名は黒き手、という。

それはヴァレンに付き従う、影の組織だ。然るべき時に然るべき情報を。それもネットワークを介さずにヴァレンの元に届けられる程度の勢力ではあった。

ヴァレンは書簡を開く。そこで初めて彼は口元を綻ばせた。

 

「貴方達はこの私がウィザードの異能の力を分け与えたかけがえのない者達、ここにいる皆全て私の切り札です」

《ヴァレン様……》

 

――また素材は幻の金属と呼ばれるイドロダイトが使用されてる。[出典1:ミナカ・アラギの公式発言]

 

ネットの記事。真偽不確かなこの一行にほんの僅かばかりの好奇心を抱き、ヴァレンは彼らに命じてレオパルドンの破片を確保し調べさせていたのだ。

書簡は、初めて衆目の前に現れた時ミノタウロスの斧が欠けさせた破片がイドロダイト。しかも数万年は経っている可能性が高い事を示していた。

大きな疑問がある。

もし、あれが神の鎧ならば、彼はどこであれを手に入れたのか。

 

「レオパルドンさんの情報が欲しい、何でもです……――いえ、情報だけではありません……あの鎧を手に入れる必要がある」

 

総イドロダイトの鎧。アレがもし神話の鎧であるなら、そこに眠る転生の機能を使えば……ヴァレンは異能の力を捨てる事をせず生き延びれる事が出来る。

生への執着は野望への拘泥を生み、呪いとなって彼を蝕み始めた。

 

《ヴァレン様、これを》

 

そこで黒ローブの女アンドロイドが、ヴァレンの元に画面を開いたままのタブレットを差し出す。そこに書かれた一際大きなタイトルは、『レオパルドン○○説シリーズ』と書かれていた。

公式の動画を少し再生してみる。タイトルは『判明! レオパルドンの正体!? 1』とある。

 

《拙者の正体は、父をとある組織に殺され、瀕死だった所を宇宙人の王子にエキスを注入され救われたバイクレーサーでござる。鎧は彼から与えられたものでござるよ》

 

他にも様々な説が彼自身の口で語られていた。光の星からやって来た巨人が正体だ、心臓が二つあり十二回まで転生する特徴を持つエイリアンだ……など。

更にネットでは、○○の星域の戦争で彼を見た、△△の企業の新型パワードスーツだとこの説と合わせてネットミームとなり波及していく。

 

「なるほど、この話を全てまとめれば……無茶苦茶な人間になりますね」

 

このネットが発達した社会で、二週間でも正体が明かされないなど異常事態と言ってもいい。

 

「私も少々気になる事があります」

 

もし、あれが神の鎧だと仮定したら何故今だったのか。

これから自分達が行う事を鑑みれば、ヴァレンは偶然で済ます事は出来なかった。詳細に調べ上げねばならない。

月が群雲に隠れ、光が途切れる。

 

「貴方達は引き続き、ソーサラー・カプランを探して下さい。何かあれば報告を。こちらも分かり次第声をかけます」

 

闇が隠すヴァレンの顔もまた……。

 

 

 

 

 

 

 




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