死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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10話2 世界を売った少女の真実

 

 

――同時刻。銀河の外れ、惑星ラクトゥーにて。

 

 

聖域に立てられたテントに驟雨が当たる中、ヴァレンは静かにタブレットを見つめている。

画面に映るのはレオパルドンの黒い頭。背後のコードをうねらせながら、彼は過去を話し続ける。

 

《拙者は、かつてとある組織に連れ去られ、改造された改造人間でござる》

 

彼の語る過去を書き出し、傍らに置いたもう一台のタブレットに映るのは電子歴史書――神話の自体から五万年の歴史を詳細にまとめている。

それは一部では時の政権により秘匿、隠ぺいされた物を中心にして。

 

――帝国歴三万八十三年、この年より各秘密結社が台頭する事となる。彼等が用いた人間を他の生物や、無機物と合成する技術は後のサイボーグ化や、バイオ技術の萌芽となった。

 

「なるほど、辻褄が合いますね」

 

レオパルドンの語る過去全てが、一部しか知り得ない筈の真実に触れていた。

その時、ヴァレンのスマホに着信が一つ。黒き手の一人からである。

スピーカーをオンにして、彼は取った。

 

《ヴァレン様、レオパルドンの正体候補者三十五号ですが経歴の確証が取れました。ヤツはシロです》

「わかりました。引き続き、次の候補者を洗ってください。彼の親族やそれに類する者を見つけたら、必ず報告を」

《承知しました、ヴァレン様》

 

ヴァレンがぞっとするのは、彼の過去を調べれば調べる程に謎が深まっていく事だ。

しかし、方法が無い訳ではない。結節点は惑星ジャ=クーだ。

物がひとりでに現れるなどあり得ない。必ずあれを運んだ誰かがいる筈である――普通に考えればだが。

 

そこでヴァレンはあの配信を見直す。レオパルドンが初めて現れた、その瞬間の物を。

木の瘤のように膨れ上がった壁。こんな物、ヴァレンですら見た事がない現象だ。

 

「まさか、あの鎧の中に本当に神か幽霊が入っているという事は無いでしょうね……」

 

その時、ヴァレンのスマホに遅れてもう一度着信が入る。

先程と別のアンドロイドだ。耳から聞こえるのは、排気音もまばらで騒然とした声が周囲から響く。

 

「どうされました」

《ヴァレン、様……ツイニ見ツケマシタ》

「何を見つけられたのですか?」

《カプランヲ探ス折、ヴァートゥノ秘教……神聖不可侵ノ大聖堂ニ行キマシタ。ソノ時、ミツケタノデス――コレガ神々ノ姿デス》

 

惑星ヴァートゥには神の似姿が秘匿されているという。しかし、宗教上の理由で誰の目にも――ヴァレンですら見る事が出来なかった。

その声からしばらくして、何かが爆ぜる音と共に電話は途切れる。代わりにヴァレンのスマホに画像が送られた。

それは壁画だった。照度は辛うじて保たれており、何が描かれてるかは何とか分かる。

 

「よくやりました。これで証明作業は終了です、本当にありがとうございました」

 

ぽつり、と口から漏れ出た言葉は驟雨に打たれて消えた。

 

神話に語られる神々。

壁画に刻まれた色、形状、その姿……その全てがジャ=クーで現れたレオパルドンと全く同じであった。

 

「さて、では次は実務に取り掛かる事にしましょう……神の鎧だというのは分かった」

 

得てして神の鎧の確証は取れた。

しかし、手に入れるにはまだまだ情報が少ない。レオパルドンが何者で、何を求めているのか。どういう傾向の人物なのか、少しでも情報が欲しい。

 

《拙者、ある調査に駆り出された兵士で、このイドロダイトの鎧はとある遺跡で偶然見つけた物でござるよ》

 

そこで耳に入るのはレオパルドンの正体説。

 

「では、折角ですし利用させていただきましょう」

 

ヴァレンは自分のスマホを取り出すと、保持しているコネクションへの手紙を認める。ヴァレンとて清廉潔白ではない、幾らかの不正を働いて来て、それなりのコネクションという物を持っている。

送る宛先はドヴェル=スタイン伯爵家。

程よく強欲で、程よく軍備を持ち、かつ古代文明技術に明るい家柄。そこの長男は中々の愚物で、次男との後継者争いでの決定打に飢えている。

……遺跡から発掘されたというイドロダイトの鎧は恰好の獲物に見えるだろう。

彼の証言を補強するように歴史をこじつけた文面に、先程同志が報告したレオパルドンの分析結果も載せた。見返りは多額の報酬。

 

「まずは小手調べ」

 

欲深な人間というのは、わかりやすい物を好む。

目先の利益への確証と、相手が単なる小銭稼ぎだと信じ込ませれば簡単に動く……これで損せず使える便利な兵隊が手に入った。

 

 

◆◇◆◇

 

 

――場所は再び戻って、惑星コーグ。

 

 

引き渡される船が出来上がるのは三日後。生き残ったゼロ点エネルギーエンジンと各種武装の搭載と調整。最低限の内装の仕上げ、パイセンはそれらを急ピッチで進める事となった訳である。

それに合わせて、ミナカ達は出来上がるまで足止めを食らう事となるので、パイセンの好意に甘えて廃戦艦城に泊まる事になった。

 

一キロにも渡る廃戦艦の一画は、手入れが行き届いており、二人は同じ部屋で休む事となった。

ベッドは二つ。風呂トイレ別、洗濯機と乾燥機完備。

食事はパイセンの下で働いているアンドロイドが届けてくれた。テーブルの上には湯気の立つ料理が並んでおり、乳白色の陶器に入った物をコップに入れて舐めてみたら酒だった。

 

「青い酒でござるか! 初めて見るでござる、今日は久々に挑戦するのもアリでござるな!」

 

おそらく土地の地酒なのだろう。……困ったな、酒はあんまり飲めないのにと思いながらミナカは頭を掻く。

 

「ミナカ殿、そろそろこの鎧を脱ぎたいでござる」

 

絨毯の敷かれた床にぺたりと座り込んだレオパルドンが、急かす様にミナカに対してそう言う。

 

「はいはい、お兄様」

「いやー、しかし結局あの肉食べられなかったでござるな……生理機能が抑制されてるとは言え残念でござる」

 

自らに背中を向けて待つレオパルドンに対し、ミナカはまずスマホを指で操作して惑星ナージャンで買った電子麻薬を用意した。何事もタイミングと準備が大切だ。

適当に相槌を打ちながら、電子麻薬を設定――調合する。

設定は今この場から明日の朝七時まで。食事と睡眠と排泄と入浴、日常生活のありとあらゆる行動をセット。

 

「今日も疲れたでござるな。そう言えばさっきアンドロイドから、入浴剤を買ったでござるが――」

「――おまじない」

 

右の人差し指と中指を絡ませて一閃。そこでレオパルドンの言葉がピタリと止まる。そうして一度空気が抜ける音が鳴り響き、二つの卵みたいな目が緑から黒に落ち、無音になった。

赤と白の鎧は、前方から数十か所に分かれて開く。

ミナカがスマホを持って向かうと、その前面は――

 

「本当、お兄様って一体何なんでしょうね……」

 

中は空。

何も知らない人が見れば、ただの着装待ちのパワードスーツにしか見えないだろう。少なくともミナカにはそうとしか見えない。

背中。丁度、心臓の位置。

全長二十センチ程の黒い四角形のそこがぼんやりと赤く光る。

そうしてミナカはスマホの中の電子麻薬を遠隔で流し込む。闇市で買った上物で、現実そっくりの幻覚を見せる事が人気のヤツだ。

 

 

〈E-DRUG: LOAD OK / PROTOCOL: DAILY-LIFE-PACK(07:00)〉

〈VR-RESP: −0.19/day / AUTO-TUNE: FAIL〉

 

 

何故か少し効きが悪い。

自分で使う時も同じような事があった事を思い出し、そろそろスマホを新調しないと駄目だなとミナカは思う。

彼が食事をしたり、入浴したり、トイレに入ったり――それら一切合切全部がこの僅か数十キロバイトに圧縮された電子ドラッグの仮想現実である。

この秘密を知る者はミナカしかいない。誰にも知られてはいけない、特にレオパルドン自身にすらも。

何故なら――

 

『か、体が! 体がない! じゃ、じゃあ拙者は――拙者が――お、おr』

『――おまじない!』

 

あれはもう彼の記憶から消え去ったように思える。少なくとも、この真実が再度明らかになればレオパルドンは狂ってしまうだろう。

彼との関係は今に至るまで実は綱渡りの連続である。

 

レオパルドンが発狂しかけた時、たまたまおまじないが効いた。

しかし、このままではまた暴れてしまうと思った。

そこで突如スマホの通知に現れたチャンネルに、シコる時いつも使ってる電子ドラッグを藁をもすがる気持ちで入れたら、たまたま上手く記憶が消えて都合のいい夢を見る様になった。

 

……きっと、地球はこの狂ったアンドロイドが見る夢なんだ、とミナカは思う。しかし構わない、彼はミナカの金の卵を生む雌鳥なのだから。彼が夢を見続ければ見続ける程、金は儲かり視聴者は喜ぶ。

そうだ、だから自分は正しい事をしてるんだ。自分が彼の金魚のフンである事はわかってる、でもしょうがないじゃないか。これが現実なのだから。

 

――わたしは、絶対間違っていない。

 

だけど、後ろめたさも感じてしまう。人の良い彼を騙している事に。

飲み込めない物を無理矢理飲み込み、なんとか今日もミナカは現実と折り合いをつける。

だって。だって欲しいんだもの、一位が。成功したいんだもの。配信冒険者ランキング一位になれば、切り捨てる側になれば、自分は幸せになれる。

 

「それではよい夢を、お兄様」

 

その赤と青の瞳は、まるで痛ましい物から目を背ける様に伏せられていた。

……気分転換に、動画を見る事にする。

子供の頃憧れてたウィザードの配信冒険者、フィアナ・アルフェルドの動画。雪の結晶を模った位相転換杖を持って彼女が活躍する様に、六歳だった頃のミナカは自然と憧れてしまった。いや、宇宙船の爆発事故で失踪した今でも。

 

”大丈夫、ミナカちゃんなら絶対ウィザードになれるよ!”

 

昔、一度だけ会った事があるのはミナカの誇りだ。砂の惑星の中で、唯一いい思い出と言っていいのがフィアナとの事である。

即席で作ってくれたホログラムのおもちゃもくれた。今は……もうない。

 

『わたし、全力で煌めきます!』

 

再生されるのはファンの間で人気の、悪堕ちしたウィザード=ソーサラー戦の配信切り抜き。

今のミナカよりちょっと上の彼女。

わたしも、あんな風になりたいと幼い頃は思っていた。少し見続けると緑色の髪に血色の良い顔で、自分が設計したという宇宙船の前でフィアナはこう言った。

 

『信頼できる仲間と後輩がいたから、ここまで来れたんです!』

 

後輩の肩を抱き寄せて頬にキスをするとこで再生を止める。次に選んだのはレーゾスダンジョンに入った迷惑系の動画の切り抜き。

ミナカは淡々とハルハルという男がケルベロスと戦う様子を分析しつつ、丁度運ばれてきた食事をかきこむ。酒も運ばれて来たので一気に飲み干す。

全部何の味もしない。

自分には、フィアナよりこっちがお似合いだと思った。

 

……憧れの配信冒険者の動画は、その日それ以上見る事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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