死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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11話1 幻視

 

 

――三日後の朝、パイセンは約束通り見事な仕上がりで船を引き渡してくれた。

それをレオパルドンはミナカと共に眺めていた。

 

「待たせたなコーハイ、これがお約束の船だ!」

 

出来上がった船に偽りはなく、どこもかしこも完璧に仕上がっていた。

船の名は、『モディファイド ジャ=クー・ファイターR-94”マーベラー”』となった。

別にジャ=クーとは縁も所縁も無い機体なのだが、既存の機体を改造したって建前の方が審査が通りやすいという事で、長々とした名前が刻まれた訳である。

 

「あそこの工廠はもうぶっ潰れてるからな! バレやしないぜ!」

 

とは、パイセンの弁だ。登録が終わるまでの間、レオパルドン達は街に出る事にした。

この三日間彼等も遊んでいた訳ではない。

レーゾス用のトラップ、ミナカ用の強化宇宙服、各種ナノマシン。磁気嵐によって通信が不安定になる為、特注のアンテナ。

ついでにミナカの電マが入った茶色い小箱。

 

必要な準備は全て行った。

パイセンから借りた荷運び用のホバー・カーで、ミナカ達は廃戦艦城から十キロほど先にあるコーグの市に向かった。

 

「見えてきましたよ、お兄様! 市です!」

 

そこで不意にミナカの声で、レオパルドンは物思いから我に戻る。

――惑星コーグの市はいつだって雑然としていた。青空を望む古風な石材と伝統装飾の街に押し込められた人間は百万。

数十キロ離れた先には数百年物の大型宇宙港があり、それが星の内外問わず様々な人や物が流れ込む遠因となっていた。

 

見えてきたコーグの市。その時、ラジオ代わりに流していた配信の曲が終わった。

 

《さて、次の曲は伝説のウィザード冒険者! フィアナ・アルフェルドの『魔法をかけて』です!》

「今日はなんてラブリーな日だ! やりましたよお兄様、フィアナの曲です!」

 

時代を感じるスピーカーから流れるのは、音楽配信チャンネルの流行りの曲。

丁度ミナカのその声が響いた時。

 

――ばちり、と頭の中でダイナマイトが弾けた様な感覚が走る。

一瞬の酩酊感を覚え、少しだけめまいがした。その時、幻聴と幻覚。

 

 

〈DIAG: SENSOR-FUSION LATENCY = +12ms(THRESH: +5)〉

〈SYS: SEDATION/INTOX TRACE = 0.00 / EXPECTED: 0.00〉

〈MEM: LAST-NIGHT BED-TRANSITION = “N/A”〉

 

 

『それではよい夢を、お兄様』

 

昨晩ミナカから聞いた覚えのない言葉。そして昨晩自分も一緒に食べた筈の夕食を、一人で黙々と片付けるミナカ。

直後、幻影が晴れる。

 

「どうしたんですか、お兄様?」

「いや、なんでもないでござるよ」

 

そこで、不意にレオパルドンは思い出す。昨日の記憶は曖昧で、いつの間にか眠っていた。

自分がどうやって、ベッドに行ったのか覚えていない。

 

「そう言えばミナカ殿、昨日拙者って何時頃寝ていたでござるか?」

「確かご飯食べたらすぐでしたよ。珍しくお酒も飲んでましたし」

 

――おかしい。

自分は、下戸の筈なのに。酒と煙草は憧れはするが、体質に合わなくて飲んだ事はない。

居酒屋ではもっぱら特技の手品で乗り切っていた。

 

その時、宇宙港から飛び去る巨大な宇宙船が影とエンジンの高音を残す。長引くその二つで有耶無耶になった。

 

「何でもいいから知ってる曲が久々に聞きたいでござるな、炎のさだめとか……」

 

頭の中で哀愁を漂わせるメロディーが鳴る中、レオパルドンはもし自分が帰ったら何をしようかを考える。

実家に顔を出そう、見ていなかった映画も、読んでいなかった本もある。そもそも後もう少しでブラックフライデー、今年は何が安くなるだろうか。……あのボトルキャップを見てから、地球の事をつい考えてしまう。

電柱のない青空に、宇宙船がかける飛行機雲が一つ。さ迷ってしまいそうな、見知らぬ街が見えてきた。

――一方の目は街を、もう一方は明後日に向いている。

 

 

◆◇◆◇

 

 

コーグの市で予定通りに食料を受け取った後、レオパルドンは荷物の積み込みに。行き帰りの運転手のミナカは浮いた時間を、暇つぶしに使う事にした。

スマホからはパイセンが『登録自体は終わった、帰ってくるまでに微調整を済ませとく』というショート・メールが届いていた。

どうやって時間を潰そうか、パイセンからは『都市の影に深く潜るなよー、人買いに奴隷ちゃんされるぞー』という忠告を与えられてる。

コーグの市の出店は様々だ。食い物屋から酒屋、服屋に骨とう品屋まで。

 

「さてさて、お兄様も頑張っている事ですし何かご褒美でも……」

 

彼に送ったら何を喜ぶかを考えながら店先を巡る。骨とう品屋には今は排斥された本やDVDなどが並んでいた、タイトルは掠れてよく見えないが両方とも娯楽作品であるらしい。

彼は喜ぶだろうか。

そこで思い返すのは、人のいい彼の姿。頼りがいがあると同時に、何処か子供っぽい感じのする赤い鎧。

……いつか言った方がいいだろう。それは自分でも分かっている。

 

「頃合いが難しいんですよね……でも、ううん……これ以上隠し通すのは……」

 

そう悩んでいた所。不意に右腕を誰かに捕まれ、暗い所に引きずり込まれた。

 

「ファ!? ワガハイ、なんでここに!?」

 

一寸先の闇ならぬ、裏路地。

そこに立つ、百二十センチの身長で黒革で出来た丸く平たい帽子、そして同じく黒いマントを纏った姿。周囲にいる人間も、また一様に同じ衣装に身を包んでいた。

ミナカはそれを知っている。ぞくりと背筋に冷たい戦慄が走った。

 

「――ミナカちゃん☆」

 

天使の様な笑みを浮かべ、その帽子を上げたのは黒い髪を腰までかかる長い髪をウェーブにした十歳程の少女だった。

嵌められた金の義眼が一度収縮する。見た目だけは少女である。

 

「会いたかったよ、ミナカちゃん☆」

 

忘れもしない、この顔は……。

 

「私の名前を言ってみて?」

「配信マフィア『マローダーズ』初代拳王、拳の芸術家、『虚爆掌』のキナイ・ミスリル様です!」

「よく出来ました! ――これはご褒美だよ☆」

 

高音が一つ。

茶髪の少女=キナイは、ご褒美と言って右手を向けた瞬間。ミナカの柔らかい腹が突如破裂する。鈍い音と浅い衝撃が走り、思わず腹を抱えてうずくまりそうになった。

原因不明の火薬でもガスでもない爆発。それがサイボーグ格闘者、配信冒険者としてのキナイの代名詞『虚爆掌』である。

 

「駄目だよミナカちゃん☆ ご褒美のマナー、忘れた?」

 

その声で、躾けられた体は脊髄反射でキナイの言葉に従ってしまう。

へつらった笑みが自然と顔に浮かび、ジャケットを両手でたくし上げる……全て彼女の下にいた時のまま。

 

「う、”嬉しいです拳王陛下。ご褒美はいつも最高級合成蜂蜜の様に甘い”」

「よーしよし、いい子☆。ミナカちゃん――ほらおかわり!」

「う! あ、”甘い”!」

「もういっちょ!」

「”甘……い”! ”甘い”! ”甘い”! ”甘い”!」

 

殴られたら甘い。蹴られたら甘い。何故ならこれは愛が詰まってる正義の暴力だから。

……たとえ、筋を通してけして安くない脱退金六百万を支払ったとしても、体に染みついた恐怖までは祓えない。痛みはミナカのご主人様だから。

 

「うぅ、ぐすっ、ひぐ……痛いよねミナカちゃん☆ 痛いよね、私も心が痛いよ☆」

 

ミナカを嬲り続ける中、キナイは泣きながら笑う。それは普段から常用している電子麻薬の影響だ。

 

「思い出して☆ 思い出して☆ 思い出せ、痛みが貴方のご主人様☆」

 

そうして、丁度十回目の”甘い”が響き、ミナカが堪え切れず路地裏の土に赤いゲロをぶちまけた時。

 

「羽振り良さそうだね、ミナカちゃん☆」

「ぐ、ぇ……あ……どうして、ここに……やめたのに」

「――欲望+タイミング+願望物☆」

 

胡乱な表情を浮かべミナカは見上げ、キナイは笑みを浮かべながら話す。

そこで、彼女はミナカの言葉を待たずに。

 

「SNSに上げられた写真☆ そこに映った月と星で場所を絞り込んで、最寄りの港で荷物の流れを見極めたら居場所の特定は簡単☆」

「そんな……」

「位置情報を消すだけじゃ甘い甘い☆」

 

そこでキナイはミナカのピンク色の髪を掴んで顔を無理矢理上げる。ミナカの赤と青の瞳は恐怖で涙が浮かんでいた。

そのまま、取り巻きの内二人がミナカの両腕を掴んで羽交い絞めにする。直後、ミナカのピンクと黒のジャケットからスマホが抜き出され、仲間の一人の元に渡った。

 

「いい獲物を見つけたね、ミナカちゃん☆ 今ネットで話題沸騰中じゃない!」

「い、一体何を……」

「貴方が組んでるレオパルドン☆ 今闇でも人気なの、正直彼の名前が付いていたらクソでも売れるぐらいに☆ ……一部じゃ古代兵器とも言われてるしね☆」

 

しまった、とミナカは思った。好奇心を煽り過ぎた。

キナイはそれを見て、にたりと笑う。

 

「ミナカちゃんはおバカさんだけど、頭は狡賢い……私が教えた事、人の煽り方と燃やし方をちゃんと守ってる☆」

 

少し前まで、キナイに全てを教えてもらった。

動画編集の仕方、闇市での物の買い方、SNSの扱い方、人の好奇心に触れる方法、ブラスターの撃ち方から宇宙船の操縦法まで。

そこでキナイは右手を彼女の前に差し出す。

 

「チャンスを上げる☆ レオパルドンの情報を売って欲しいの☆」

「う、売れだなんて……」

「ミナカちゃんだから特別に、持ちかけてあげるの☆ 他の人なら奪ってる――ミナカちゃんだから取引にしてあげるの、もし断ったなら……」

 

そこでキナイが視線を左に向ける。パーティーメンバーをかき分け、現れたのは二メートルものアンドロイドだ。

パーティーメンバーと同じカラーリング。そして両腕は紫電が走り、一定のリズムを上げて尖った刃の出し入れ。

明らかに、人に向ける物ではない。……思わずミナカは息を呑んだ。

 

「大変な事になっちゃうかもな……でも勿論、レオパルドンを売りさえすれば。あんな事はしないよ、それどころかお金まで上げる☆」

 

ミナカはよく知っている。この人はやると言えばやる。

そこで一度、ミナカのスマホが鳴るが手下が即座に消した。いつも速攻で出るので、多分不信に思われただろうか。

赤と青の瞳が、キナイ・ミスリルの金の瞳を見る。その金の瞳は冷ややかな光を帯びている。まるで猛禽類が獲物を見極めているかのように。

 

「レオパルドンならきっと面白い絵が撮れる――ブタ共の次の贄はアイツ☆」

「で、でもバズるか……だなんて」

 

そこでキナイは一度右手で髪を撫でると、溜息を突いた。空気を切り替えたらしく、ビジネスマンとしての面に戻る。

 

「需要はあるよ? たとえばお貴族様の中でも、ドワーフのドヴェル=スタイン伯爵家なんか特にご執心なんだって☆」

 

ドヴェル=スタイン伯爵家。帝国を構成する人種の一つ、ドワーフ種の中でも力を持った貴族の家柄。

 

「あそこの長男坊は弟との後継者争いの真っ最中、総イドロダイトの鎧を手に入れて決定打にしたい気持ちで一杯☆ もう水面下じゃ動き出してる!」

「動き……?」

「私とミナカちゃんが知り合いと言ったらなんと、前金だけで二十億☆ ねぇミナカちゃん、十億欲しくない?」

 

ごくり、とミナカの喉が鳴った。

十億。欲しくない訳がない。

その時、アンドロイドの腕が大きく空気を吸入する音と刃が熱を持つ音。痛そうな音、痛そうな刃。あんなの喰らったら……絶対無事じゃいられない。

 

損はしない、数字は裏切らない。

思い浮かぶのは、レオパルドンの事――

 

『ミ、ナカ、殿には……手を……』

 

――でも約束は、守らなくてはならない。

それに憧れのウィザード、フィアナ・アルフェルドはあの時こう言ったじゃないか。

 

『信頼できる仲間がいたから、ここまで来れたんです!』

 

そうだ。ワガハイは、わたしは――

 

「い、いりません! 絶対、いりません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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