死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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1話1 走れ! 命とバズの為、仲間を置いて!

 

 

――ドラゴンダンジョン配信より遡ること二週間前

 

 

〈NEURO-synC : ONLINE〉

〈GALAXY LIVE LINK:CONNECTED〉

〈REC:LIVE / ALL SYSTEMS:NORMAL〉

 

 

バズりたい。

何が何でもバズりたい。

 

まばたきのようにに白と闇に明滅する廊下――埃臭いコンクリートの瓦礫が幾つも散らばる、惑星ジャ=クーはかつての兵器工場の名残。

光子ミサイルの爆撃の跡が色濃く残る銀塗料で彩られた廊下で、そんな事を思いながら彼女は全力疾走する。

 

「あぁーッ! お許しくださいお許しください! ワガハイ、まだ死にたくないんです!」

 

十六歳頃の少女だった。髪型はネオンめいた桃色と黒のメッシュを両横に団子にしてから、左右非対称のツインテールに。

身に纏うのは同じくピンクと黒の格子柄のジャケットと、その下の百五十センチの体を包むサイバーめいた黒のボディースーツ。

両手に握ったシールとピンクの塗料で彩られたブラスターは、一切引き金を引かれる事はない。それでも沈み込む程重たい金属のそれを、彼女は上下に揺らしながら駆ける。

 

周囲を二つの黒とピンクに彩られた球体型ドローンが飛んでいる。プロペラの立てる風を切る高音が、追い詰められた心臓の音と重なって聞こえた。

止めたくなるそれは配信カメラ。止める訳にはいかない。

そんな彼女を何人かが目の当たりにし、配信画面では白文字でコメントが緩やかに流れる。

 

”この女、マジ顔と体と声だけは最高だな”

”がんばえー”

”むほほ、ムチムチ”

 

視聴者が見ているのは主に少女の胸である。

彼女の背後にはもう一人。痩せ型で似合わない赤と青の髪に染めた男性型アンドロイドが、レーザーライフルを両手に握りしめ同じく決死の形相で走っていた。

 

《マ、待テ! 置イテイクナ!》

 

彼の腕からワイヤーが射出される。その先のアンカーが彼女の腹に絡み、思わずつんのめりそうになった。

 

「ファ!? ちょ、何すん――」

《行クナ! 一人ハ皆ノ為ニ、皆ハ一人ノ為ニ!》

「それは人を地獄に引きずり降ろす時に言う言葉じゃないですよ!」

 

キリキリと音を立てて回るそのリールに、彼女は踏ん張ろうとするものの徐々に背後に引きずられていく。

焦燥の味が彼女の口いっぱいに広がる。そんな彼女の心境も知らずに、コメントは面白がるようなものが流れた。

 

”がんばれ! がんばれ!”

”はしれー”

 

そして更に離れた背後から重たい足音が一つ。光の点滅する廊下より更に後ろ、そこには照明の死んだ闇。冷たいコンクリートから醸し出される空気に、焼ける鉄の匂いが混じった。

聞こえるその重低音は、まず間違いなく人間ではない。

 

「離せ! ここでこんな事してる場合じゃないでしょう!」

《オ前ガ囮ニナレ!》

「約束したでしょう!? 仲間同士だから助け合うって!?」

《約束ハ守ルヨリ、破ル方ガ楽シイ!》

 

そうして、ワイヤーが目いっぱい張力を発揮し、彼女の体がまさに放り投げられそうになった時だ。

 

「こんのクズー!」

《ウォォォオオオ! オ前ノ事ハ忘レナ――》

 

突如風切り音。彼女が咄嗟に腰を折り、アンドロイドの彼がちらりと振り返ると――瞬間彼の体は裂けた。

 

「ンアーッ、死んだーッ!!??」

 

赤く熱された刃を付けた斧が、彼の右肩から左脇腹にかけてめり込んでいた。……直後倒れ伏した体から得物を引き抜き、追跡者が点滅する工場灯の元へ。

クロームが放つ、つるりとした銀が点滅する光に溶ける。即座に闇が輪郭を浮き彫りにする。

それは二メートルの牛の顔を模したアンドロイドだった。動力パイプがまるで鎖の様に体中を巡り、その姿は遥か昔の伝説の中の魔物=ミノタウロスの様である。

火花と風切り音が一度。

幸か不幸か、彼女を縛っていたワイヤーはそこで切れて、思わず彼女はつんのめりそうになった。

 

”逃げろ逃げろ逃げろ”

”死ぬぞー”

 

画面の右隅に数字が白く点滅する。

 

 

〈VIEWERS:11/Au REACTION LEVEL=LOW〉

 

 

僅かな視聴者はそれを面白がってコメントを賑わせた。

そうしてアンドロイドの彼は自分の体にめり込んだ斧が引き抜かれると同時、少女に向けて助けを求める様に手を伸ばす。彼女もまた反射的に手を差し伸ばした。

僅かな躊躇いの中、画面にAIが自動で『ここでの決断は?』と白文字が浮かび上がらせる。

そこで彼女が思ったのはこいつはもう無理だ、と。

そして、これはこれ。

……ここで止まれば数字が落ちる。

 

「あー……君の事は忘れない!」

 

彼女は目を背け、差し伸べた手を下す。

火花を散らし、オイルを垂れ流しながらアンドロイドは、のしのしと重低音を上げて少女を追うミノタウロスの背を見送るしかない。

 

《オ、俺ハココデ死ヌノカ……》

 

彼女の回りを浮遊していた二台の内の一つ。黒いドローンが、引き続き彼の最後を配信し続ける。

ぽつり、と呟いた言葉は配信画面内で字幕となって白文字で表示された。

 

”そうだよ”

”↑人間の様に言うな”

”↑へ、ヘイトスピーチ……”

”アンドロイドだろうが、人間だろうが…生き死にのかかった配信が一番面白い”

 

まるで弔辞の様に、配信画面には様々なコメントが流れる。その機械の左腕が弱々しく上がった。

 

《セメテ……少シデモイイ……課金……スパチャヲ……後生ダ》

 

それに対してのコメントは。

 

”甘えんな!”

”サイバークレクレかよw”

”無料だから見てる。金を払う程の物じゃない”

”アンドロイドは人間じゃないから後生なんてないだろ! いい加減にしろ!”

”↑へ、ヘイトスピーチ……”

 

それに対し、彼のスピーカーから一度ノイズが入る。人間で例えれば鼻を啜る様な物だったのかもしれない。

そこにピロン、と電子音が一つ。

同接数が11から、10に減った事を告げる音だった。

 

《同接、11カラ10ニ減ッタ……主ヨ、オ前ニ憎シミヲ》

 

それが最期の言葉だった。あらゆるセンサーから光が消え、コメントは彼を悼む物がちらほらあったが……スパチャが投げられる事は一切なかった。

自分の同僚が亡くなったのを、赤と青の瞳にはめた半透明のコンタクト型のモニターで見ながら彼女は一言。

 

「あーごめん! でも、しょうがないじゃないですか! あのダメージはアンドロイドでも無理ですよ! 助けろなんて死ね言うとるんですか!」

 

一方、そんな少女に対してのコメント欄はと言えば……。

 

”最低w確かにアレだったけどよ”

”クズぅぅぅ!”

”ヤ=マオカはんの鮎よりカス!”

 

当然の如く非難轟々の嵐だった。数少ない十人の視聴者は、面白半分で彼女を責め立てる。少女も最初こそ半笑いで返しながらも、非難が長引くのに堪えかねてついに……。

 

「それに視聴者様も配信的に面白かったでしょう!? せめて同接……あー一人減っちゃったか、せめて視聴者様の笑いを胸に抱いて眠れ!」

 

”それは、まぁ……”

”ごめん、俺ちょっとおもしろかった”

 

「これがダンジョン配信! これが現実! なにやっても面白ければ正義なんです! ……それにワガハイ約束は守るけど、あっちが破ったらね?」

 

彼女がそう言うと、思考を読み取って配信画面にTIPSが挿入される。

 

 

〈TIPS:ダンジョン〉

この銀河のあらゆる惑星に発生する原因不明の現象で、銀河のいたる所で発生する。ダンジョンの防衛機構として、アンドロイドが発生する事もある。

 

 

”ちょ、邪魔w”

”んなん、子供でも知ってるわw”

 

そんなダンジョンを突破し攻略するのが彼女達”配信冒険者”である。

ふと、少女は疾走しながら頭につけた黒いリボン……型の機械に手を伸ばすとリボンの結び目――中央のそこに緑色の光が点る。ピンクの髪が僅かに緑色の光を反射した。

 

「ンアーッ! やっぱ買ったばっかのニューロsynCは駄目ですね、思考操作がバグっていらない辞書を引きやがりました!」

 

”ニューロsynC……脳波コントローラーってクソ高いだろ”

”おいくらのコントローラー買ったの?”

 

「ちょっと後悔するくらいの値段。っと、そんな事より!」

 

”俺らのコメント、そんな事扱いかい”

 

「このミナカ・アラギの命がかかってるんですよ! 命とコメントどっちが――」

 

そこで、再びの風切り音。

ミナカ・アラギ――ミナカの右頬を、投擲された斧――熔断アックスが通り過ぎる。生暖かい一陣の風と戦慄、そして右頬に一筋の血が走った。

戦慄が一拍彼女の呼吸を止める。

 

「ああああああああ! こんな事してたら、追ってきてるぅぅぅぅ! ミノタウロスが廊下を練り歩いてるぅぅぅぅぅ! ……ブラスターちゃん! あ、ブラスターちゃんは無事だ」

 

そうして叫びながら、ミナカは思う。

本当はこんな筈じゃなかった。

……食うに困り、収益化も危うい彼女は一発逆転を狙って、最近発見されたばかりのダンジョンで何人かの仲間とコラボ企画をしていた。

その名もずばり、底辺配信者達が新ダンジョンに入ってみた。である。

配信冒険者をまとめる配信冒険者ギルドの情報では、なんでも遥か数百年前の戦争で放棄された兵器工場がダンジョン化したらしい。

なんとしても金と再生数が欲しかった彼女達はバズり狙いの博打に出た訳である。そして案の定、自分達の身の丈と全く合っていない敵と出くわし、仲間は一人また一人と斧の錆となり……もう生き残っているのはミナカしかいない。

 

「し、死にたくない! 死にたくない、死にたくない死にたくない! やだぁあああ、何でもするからぁぁああああ!」

 

なけなしの金を叩いて買ったEMPチャフを投げる。アンドロイドの視覚を殺す為のそれは、帯電したアルミ箔を乱舞するも品質からか、ミノタウロスを僅かに怯ませるだけに終わる。

コメントはと言えば……。

 

”ん? 今何でもするって言った?”

”ん?()”

 

この始末である。

 

”配信冒険者ギルドに救助要請とかしないの? 配信冒険者保険入ってないん?”

”アレ保険適用外だぞ”

 

配信冒険者ギルドのワードが出た瞬間、ミナカもそれに答えた。

 

「あんな奴等、金をボるだけボる金食い虫ですよ! この前だって、報酬をよくわかんない経費で削られました!」

 

ミナカが思い出すのは配信冒険者ギルドとの嫌な思い出。

一か月前に登録した時、無駄な金を請求されかかった事。戦利品の買取りで法律スレスレにまで買い叩かれた事。登録二日目に先輩配信者が規則違反で呼び出されたと思ったら、チャンネルごと消えた事。

そこでミナカは一度かぶりを振る。

 

「こんな辺境で呼んだ日には、違法風俗に入った殿方みたいにオプション付けまくりレベルでボッタクられるに決まってます!」

 

つまり助けは望めない。

しかし、それでもめげずにミナカは一度鼻を啜って涙を拭うと、振り返りその今まで使われる事のなかったブラスターを向ける。買ったばかりの武骨な奴を可愛くしたそれを腰だめに構えると数発放つ。

ほの明るい緑色の閃光が引き金の分だけ瞬く。しかし、ミノタウロスには直撃しても焼け跡一つ付かない。

そこで彼女は一言。

 

「ほら、視聴者様! かっこかわいいワガハイに渡す物があるでしょう!?」

 

ちゃんとドローンを操作して、ジッパーで開けた胸を強調するのを忘れない。課金の催促だ。

 

”こいつ自分の武器の使い方解っていやがる……だけどごめん、クズだから抜けない。いや抜ける”

”クズだからなー。見た目はいいけど。抜く”

”全裸画像貼れや……いや、やっぱいい……いややっぱり貼れ抜く”

”かわいそうだから課金してあげるよ。後抜く”

”お前のモラルは底無しか? 抜く”

 

そこで、金額にすれば一ヶ月分の食費相当のクレジットが彼女に入る。コインの入る電子音が立て続けに鳴り響くと、ミナカはにんまりと笑い。

 

「わかればよいのだ! さーて、ぶっこ抜きですよ!」

 

配信画面に白文字で新たなメッセージが表示される。

 

 

〈+Cr:1,000/Statistics Emotions:Sexual⇒BLASTER UPDATE〉

 

 

銃身にピンク色の光が螺旋を描いたかと思うと、彼女は即座に引き金を引く。先程とは違うピンク色の閃光は、先程とは違いミノタウロスの銀の肌を焼き抉っていく。

尚且つ、ミノタウロスの体は身動ぎもしない。先程と段違いの威力であれば、防御や回避の一つも取る筈なのだが、対敵は腕一つ動かそうとしなかった。

よく見ると、目にあたる部位にはハートマークが浮かんでいる。一瞬だけ水を打った様に場は静まり返った。

 

「魅了効果付きの弾丸は痛かろう! ダンジョン配信は地獄だぜ、ふーはっはははは!」

 

 

〈TIP:スパチャバフ〉

ギャラクシー・ライブリンクにおいて、課金と感情の乗ったコメントは力となる。そのコメントに応じて様々なバフがかかるのだ。

 

 

「ンアーッ! 消毒された汚物みたいに消しちゃいますよー!! って、アレ……?」

 

しかし、それにも制限時間がある。金額に応じてバフには必ず制限時間が設けられ、それが尽きれば今のミナカの様になる。

ブラスターから吐き出される光はピンクから緑に戻っていた。

 

「ちょ、ちょっと視聴者様! もっと課金してくださいよ!」

 

戦慄と焦燥と共に、ミナカのピンクと黒の前髪がはらりと落ちる。そんな彼女に対して視聴者のコメントは冷ややかであった。

 

”面白いことしろよ”

”がんばえー”

”甘えんな”

”おっぱいに甘えんな”

 

対し、ミナカはその赤と青のオッドアイで再び対敵を見る。ミノタウロスの目はハートマークが浮かんだままであるが、駆動音は一段階高い。圧縮された空気が吐き出され、クロームの体表には紫電が帯びていた。

人工筋肉が膨張し、ハードワイヤード神経繊維にパルスが走って弾けつつある。

 

”リミッター外れた! バーサークだ!”

 

 

 

 

 

 

 




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