死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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11話2 正義の道化師レオパルドン

「そう。じゃあ決裂☆」

 

脇を抱える二人に壁に押し付けられて、正面に二メートルのアンドロイドが腕を振り上げて立つ。狙い定めるのは腹。

恐ろしくて、怖くて、涙が浮かぶ。

そして次に放たれたのは――キナイのスマホが鳴る音。

彼女は取り出して画面を見つめると、一度首を頷いて。

 

「それじゃあ、約束の十億だよ☆」

 

ミナカのスマホが鳴ると、瞳の中のHUD画面に新着が一つ。

 

 

〈WALLET: +10,000,000,000 CR / TXID: …〉

〈SEC: UNAUTHORIZED ACCESS SUSPECTED / RISK: HIGH〉

〈LOG: REMOTE ERASE — TRACE LOST〉

 

 

十億がウォレットに入っていた。ちょっと、言ってる意味が解らなかった。

 

「え? だって、わたし……今断って……」

「ミナカちゃん、教えたでしょ? 相手の土俵に立つなって……こんなダラダラ話してる間に、ハッキングしたに決まってるじゃない☆ しかし、こんな秘密を隠してるとはね☆」

 

笑うキナイの顔が嫌にでも目に付く。含みのある言葉は何を知られてしまったというのか、知りたくない。

けれど、次に放たれた言葉で否が応でも理解してしまう。キナイはミナカの足元に、取り上げたスマホを放り投げると。

 

「レオパルドンが人間のフリしたアンドロイドとは☆」

 

自分の目が大きく見開かれるのが解った。どうして、それをとミナカがそう思った時。

 

「やっぱりか、ブラフだよ☆ でも人間じゃオーバードーズで脳死する程の電子麻薬、しかも内容は飯とか風呂。それにギルド登録した時の脳波無し反応……これだけ揃えば推測は簡単☆ 後は配信の音に気を付けるべきだったわね、響き方が違う……あれは空洞ね☆」

 

そこでキナイはふわり、と重さを感じさせずにミナカを抱きしめる。

 

「ありがとう、ミナカちゃん☆ これで私は大儲けだよ☆ ミナカちゃんは、私の後継者だと思ってるよ☆」

「わ、わたし……」

 

にたり、とキナイは笑う。それはどれだけ全身義体で少女の顔を騙ろうとも、隠す事の出来ない本質の発露だった。

彼女はそっとミナカの右耳に口を近づけ。

 

「――――」

 

何か解らない、聞きなれない言葉を囁かれた。口調は明るく可愛らしい、まるで少女が好きな物を話すかのように。

 

〈At-Tr:お前の本質は、姑息で卑怯な裏切り者だ〉

 

かと思うと、それはミナカの脳波コントローラーのスピーカーが拾い、自動で翻訳し字幕として表示する。

 

〈At-Tr:自分が相棒になったとでも思ったのか? いいや違うね、お前は最初から最後までレオパルドンを裏切ってる〉

「――」

〈At-Tr:これは私が誘導したからじゃない。お前自身が手を汚してたんだ、私はただほんの少しばかり箱の蓋を開けただけさ〉

 

脳が拒む。その白い字幕を読む度に、震えが止まらない。

 

〈At-Tr:お前に痛みを堪えて秘密を守ったなんて絵は相応しくない。お前は売ったんだよ、殆ど無傷で仲間の秘密を……お前に相応しいのはクズの道だ〉

 

キナイ・ミスリル。

それが本名かどうかも解らない、全身義体の女。わかるのは翻訳ツールなしで様々な語学を操り、得物は無手。真偽不明な謎の武術を納めているという事。

代名詞である『虚爆掌』。

他に有名なあだ名は、『演出家』。

 

〈At-Tr:その十億はご褒美だ。最高級合成蜂蜜より甘いだろう?〉

 

――風切り音。

 

「ミナカ殿!」

 

叫び声と共に、十メートル先の路地の入口。そこに現れるのはカーキ色のレインコートを被った影。

周囲の取り巻きがブラスターを引き抜き放つ中、焼き溶けるそこから現れたのは赤い体に白い頭のレオパルドン。……それなりの有名人である為、変装代わりにレインコートを着ていた訳である。

彼の両肩が一度動き、黒のバイザーの前に白十字がかかった。

――レオパルドンは、ミナカの周囲に人がいるのを見て一瞬硬直するも、即座に顔の前で腕を十字に組むとそのまま突進し始める。

赤い閃光が幾つも弾ける。総イドロダイトの装甲は、ブラスターの直撃を喰らっても傷一つ無く、レオパルドンは溶けたビニールが放つ白煙を漂わせミナカの前に立つ。

 

「拙者、レオパルドンと申すでござる。さて、ご婦人……ミナカ殿になんの御用があったでござるか?」

 

そこで彼は一度、背後を振り返ってミナカを見る。

 

「北斗のモヒカンだって、今時このような無体は働かんでござる」

 

後頭部のコードを揺らし、バイザーの奥の双眸を逸らさずレオパルドンはそう尋ねる。口調は静かな怒りを秘めていた。

そこで、キナイはにたりと笑った。

 

「凄い、まるで正義の戦士のようね……貴方ならきっと良い絵が撮れるわ☆」

 

そこで遠くから、サイレンの音が鳴り響く。それに対し、キナイは一度舌打ちした後。

 

「いいとこだったのに。ま、いいわ……今日は顔見せって事にしとく――それじゃ、またねミナカちゃんとレオパルドン☆」

 

そう言うと、キナイは地面に右手を向けて『虚爆掌』を撃つと粉塵と共に跳躍。そして喧噪が漂う中に消えていった。取り巻きも煙幕とチャフを撒き、それに紛れて路地裏から姿を消す。

一度腰から丸いデバイス=修理したアナライズガンを引き抜くと、その場で照射。何の仕掛けもされていない事をレオパルドンは確認。

その後に、残ったミナカに彼は駆け寄った。

 

「ミナカ殿、大丈夫でござるか! ミナカ殿!」

 

その声がかけられるのと、ミナカが咄嗟に目の前に転がったスマホに手を伸ばし、抱きかかえるのはほぼ同時。

頭のニューロsynCを操作して確認するが、端末のストレージは初期化されていた――送金を示すログは既に空である。

何を言えば良いのか、少しの躊躇をした後。

 

「ど、どうして……ここに?」

「荷物が積み終わったから、電話をしたら切られたでござる! だからネットリンクで、GPSを追ったらここに!」

 

レオパルドンのネットリンク機能。そう言えば、そんな物もあったな……そう思った直後、ミナカは戦慄と共に我に戻る。

 

「い、今の何処から見てました!?」

 

思わず声を張り上げた直後、痛む腹を抱きかかえた。それを見て気圧された様にレオパルドンはたどたどしく答えた。

 

「つい、さっき来たばっかでござるが……? ミナカ殿、今の方々は?」

「む、昔の仲間です……昔の、何でもないです」

「しかし……」

「大丈夫ですから、本当に……」

 

何とか取り繕った笑みを浮かべ、さも何でもない様に伝える。

いつもの駆け引きも、何もない。ただ怯えと恐怖だけ。レオパルドンから見てどう思うとか、そんなの念頭にすらない。

ゆっくりと痛む腹を抱えて立ち上がろうとするも、力が入らない。

 

「ミナカ殿……失礼するでござるよ」

「だ、駄目!」

 

ミナカの拒む声にも関わらず、レオパルドンは両腕で体を抱きかかえる。

その時、ミナカは自分の顔をクリアブラックのバイザーの反射で見た。涙を浮かべた、怯えた顔だ。

それを見て思うのは、どこまでバレただろうか……である。レオパルドンの内面は伺い知れないのが、それが酷く怖い。

レオパルドンはその緑色の双眸でしばらくミナカを見つめた後。

 

「…………言いたくなかったら、何も言わなくていいでござる。けれど、今のまま一人で歩くのはやめるでござるよ」

 

ミナカに、思いもしなかった声をかけた。

その時、ミナカは自分の頭より上にあるレオパルドンの顔を一度見て……そして目を逸らす。

 

「何故ですか……」

「ん?」

「何故、お兄様は……そんなに優しいのですか?」

 

直感で。

聞いてはいけない事だと思った。冷徹に冷酷に徹するなら、この人の事を知ってはいけない。

……ミナカの心の中で、危険信号のアラームが鳴ってる。ビジネスとは情を挟んではいけない事が鉄則だというのに。

そこで、レオパルドンは一度考える素振りを見せる。僅かな間を置き、少しばかり躊躇うように。

 

「拓也なら、同じ事をしたでござろうな……」

「え?」

「キャップなら、ミナカ殿を見たら助けたでござる。ピーターなら喧嘩を仲裁したでござる」

 

コブラなら、ビッグボスなら、光太郎なら、茂なら、ドクターなら、ヴァッシュなら、キリコなら……知らない名前をレオパルドンは上げ続ける。

 

「いつだって、人間は迷う物でござるよ。いじめにあった時、就職活動が上手く行かなかった時、ブラックな職場でパワハラを喰らった時……人を騙したり、貶めたりする尊敬出来ない人間が拙者の人生には多かったでござる」

 

人を騙したり……という所で、じくりとミナカは心が痛んだ。

 

「心療内科に通った事もあれば、二万する自己啓発セミナーに行った事もあるでござる。結論を言えば現実は全部クソだったでござる」

 

多分、彼にも色々な事があったに違いない。それを笑う気にはなれなかった。

 

「でも少しだけ収穫があったでござるよ、ロールモデルとメンターでござる」

「……なんです、それ?」

「つまりああいう風になりたいという人でござるな……現実で見つからなかったから、フィクションに求めたでござる」

 

レオパルドンは重たくなり始める会話を一転して、無理矢理明るい風を装う。

 

「拙者、隠してはいたが実はオタクでござるからな。メンターとロールモデルは腐る程いるでござる!」

「お兄様……」

「記憶力もいいでござるよ、拙者SF系の選手権が今あるなら優勝出来る自信があるでござる!」

 

端々は聞き取りづらかった。脳波コントローラーが感知して、今の言葉を字幕化するが一部バグってる。

 

「……現代日本の職場で話したら、いい年してと鼻で笑われる生き方でござるがな」

 

レオパルドンは遠い目をし、そう言って言葉を結ぶ。

ミナカは思った。

あぁ、きっとこの人はおかしい人なんだろうと。憧れるだけならまだ解る。でも、それを実際に行動に移す事なんてミナカには出来やしない。

ついていけない……あまりにも、彼は眩しすぎて。

――サイレンの音が近くで鳴り響く。爆発音にブラスター音は、誤魔化せないらしい。

 

「少し不味いでござるな、厄介な事になる前にお暇するでござる」

 

ミナカを抱きかかえたまま、レオパルドンは喧騒から足早に立ち去る。

 

「……どうしよう、パパぁ……」

 

囁くよりも小さく呟かれるその言葉は、レオパルドンにすら聞こえる事は無かった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

〈AML-FLAG:HIGH RISK / SOURCE:BLACK-LAYER-MARKET〉

〈RECOMMEND:ISOLATE WALLET / START COLD MIGRATION〉

 

 

――そのHUDは人知れず表示され、そして消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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