死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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12話1 拙者がアニーなら、ミナカ殿はオビ

「帰りは拙者が運転するでござるよ」

「…………お兄様、運転出来たんですか?」

「普通免許は持ってるでござるよ。ちゃんと坂道発進もクリアしたでござる……なんだったら宇宙船やロボットの運転だってできるでござる」

「…………宇宙船は、初耳なんですけど?」

「ゲーセンでしこたまやってたでござる」

 

……。

 

「あの、なんか……スピーカーから聞いた事ない音楽が流れてるんですけど」

「気のせいでござるよ」

 

……。

 

「あの、なんか……前方に切り立った崖が見えるんですけど」

「気のせいでござるよ」

 

……。

 

「なんか、視界の端に竜巻が四個ぐらい巻き起こってるんですけど!」

「気のせいでござるよ」

「なんか、前方で宇宙船が爆発炎上してるんですけど!」

「気のせいでござるよ」

「なんか、進行方向上で立て続けに無意味に爆発してるんですけど!」

「気のせいでござるよ」

「なんか、急に浮いたと思ったら石切場にワープしたんですけど!」

「気のせいでござるよ」

「ンアーッ! い”や”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”、降”ろ”し”て”ぇ”え”え”え”え”え”え”え”え”!」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「……お前ら、何をどうしたらこうなるんだ?」

 

廃戦艦城に戻った時、パイセンが絶句していた。

確かに運転中、不幸なアクシデントが何個かあったのはレオパルドンも認めている。けれど、ちょっと擦ったぐらいだ。

……そう思った時、盛大に大きな音が背後で鳴った。ポンという軽い音。振り返るとボディーが丸々焼けた白煙で燻ぶっていた。

それを見て、レオパルドンは正直な言葉を口にした。

 

「何もしてないのに壊れたでござる」

「……ひぇ、ひぇええええええええ」

 

レオパルドンがそう言うと隣で何故か怯えきったミナカに視線を移し、パイセンは何故か追及するのを止めた。

しかし、なぜミナカはこうも怯えているのだろうか、とレオパルドンは思う。車こそ壊れこそすれ、自分達は行った時と何の変わりのないドライブをしてただけなのに。

とりあえず買った食料品は無事だったので、適当なアンドロイドにマーベラーへの積み込みを命じ、ミナカは具体的な指示出しと在庫チェックで付いていく。

その間、レオパルドンはパイセンから装備一式の説明。彼等の前には鎖で吊り下げられた赤い鎧=フィールド・モジュレーターがある。

 

「ラージャンの素材を使ってフィールド・モジュレーターを改良した! そしてこれが新型アナライズガンだ!」

 

どういう改良かは説明はめんどくさいから後で説明書を読んどけと言われ、同時にレオパルドンは黒い革のホルスターに納められた新型アナライズガンをパイセンから手渡される。

そうして、レオパルドンの視界にパイセンからのテキストファイルが送られた直後。

 

「んで、どうだったんだよ? 暴漢に襲われたとは聞いたが……」

「見えたのは、黒い三度笠にマントを着た小柄な子でござった。拙者が現れると、右手を地面に向けたらキラークイーンみたいに爆発して去っていったでござる」

「キナイ・ミスリルか……」

 

胸糞悪そうに一度、パイセンは毒を吐く。そこでレオパルドンは初めてキナイの下の名前を知った。

ミスリル……朽ちない銀を意味する言葉を、レオパルドンは久しぶりに聞いた。

 

「知ってるでござるか?」

「一応な。……コーハイ、アイツの下にいたのか。厄介な奴と知り合いだな、おい」

 

そこでパイセンはレオパルドンを見て。

 

「レオパルドン、忠告しておく。多分、コーハイはあのババアに何か弱みを握られた。そしてそれは、絶好のタイミングで破裂する」

「ただの御仁では無いとは思ったでござるが……」

「奴は闇でも一際ロクでもない奴だ。嫌になる程鋭い推理力で陰謀の隙間を縫い、いつの間にか相手の枕元に立っている。……気を付けな、アタイにはそれしか言えない」

「……もしかして、面識があったのでござるか?」

 

レオパルドンはパイセンの口ぶりから、妙なリアリティーを感じていた。

彼がそう言うとパイセンは少しばかり遠くに目線を向ける。その青い瞳――人工培養された生体組織の義眼を。

その先には灰色のロッカーがある。

工廠の天井にあるクレーンが空虚に軋む。サイレンの木霊が哀愁を掻き立てる気がした。

 

「正義感に燃えてた時代がアタイにもあった…………それでアイツに立ち向かって仲間をとられ、この様さ」

 

わざとらしく赤い髪を撫でて人工物の首を露にする。頭と体を繋ぐ十センチ程の黒い横線、まるで黒いチョーカーの様なそれは全身義体の証だ。

全身をバイオ素材に換装しているらしい。一目では恐らく義体と気付ける物はいないだろう。

 

「ま、元々手先が器用だったんで今はしがないメカニック。この暮らしも諦めがつけば悪くはない、この特注の体もいいもんだぞ? それにまたかわいいコーハイも出来たしな」

「……失礼な詮索でござったな、許されよ」

「いいさ、過去に興味を持つのは自然な性だ。……爆発地点はアナライズガンで調べたか?」

「調べたでござる」

「新型アナライズガン代はタダでいい。ちょっと旧型が欲しいんだが」

 

特に断る理由も無かったので、旧型アナライズガン。丸い円盤状に収納した物をパイセンへ手渡す。

 

「……しかし弱み、でござるか」

 

レオパルドンは黒い頭をゆっくりと横に振る。高等部のコートが揺れた。そしてパイセンと共に視線を向けるのは、船の窓に映るピンクのツインテール。

医療用ナノマシンを打ったから、今は何とか動けている。しかしミナカのあの気弱そうな姿を……レオパルドンは初めて見た。

いつもはお調子者で、明るく、大人顔負けの活躍する少女が、一転して生き方に迷う幼い子供のように。

……あの姿があまりにも哀れで。本当は隠すべきだった事まで言ってしまった。

 

「嫌になったか?」

 

パイセンの声は、短くどこか試すような響きを含んでいる。こんな時、どうするべきか……一瞬だけ迷ったレオパルドンは、ふととあるキャラクターの事を思い返す。

青い球体を二つ重ねた姿。

あぁ、きっと彼ならこう言うだろう。

 

「弱みは誰しもがある事でござる。言い辛いというのなら、待つでござる……そして呼ばれたら力になるでござる」

「大人だな」

 

ふと視線を戻すと、パイセンは意外そうな顔をしていた。そこで目を引かれたのは、視線の奥の敏さ。

おそらく、この人の普段の様子はフェイクなのだろう。内心を悟らせない為、レオパルドンは一足先に仮面を被る。

 

「拙者がアニーなら、ミナカ殿はオビでござる。生きるも死ぬも一緒でござるよ」

「そこで良く解らん事を言わなければ満点なんだがなぁ……」

「とある小説風に言えば、拙者はこういうオタク知識のディティールの集積でしか、拙者を保てないのでござるよ……BYモブの老人」

「やめろ、わからんネタをわからんネタで解説するな」

 

タイミングは双方ともに同じ。

パイセンは苦笑いで返した時。レオパルドンは右手の人差し指をヘルメットと首の隙間に向けた時。……しきりに首を掻く事に気が付いた。

 

「なんだ、どうしたんだ? まさか痒いのか?」

「あぁ、いや別に痒くは無いのでござるが……早くこの鎧を脱ぎたいのでござるよ」

 

レオパルドンの胸部装甲の裏で、カリカリと空調が内側を撫でる。内部空調は適温、息苦しさも感じない。ただそれでも、無性にこの鎧を脱ぎたくて仕方がなかった。

 

 




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