死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について 作:生駒伊織
【レオパルドンに】ミナカのぶっっっちぎりダンジョン配信part893【腰巾着】
1614:名無し視聴者
このミナカって女一体なんなの?
1627:名無し視聴者
>>1614
レオパルドンの腰巾着
1630:名無し視聴者
なんであんなのと組んでるんだレオパルドン。他にもっといいのがいるだろ
1634:名無し視聴者
アイツの事知ってるヤツおりゅ? 何をどうしたらあんな化け物が生まれたのか知りたいわ
1765:名無し視聴者
>>1634
昔、アイツと同じ学校に通ってた
1879:名無し視聴者
>>1765
マジで!?
1887:名無し視聴者
どんなガキだったのよ?
1901:名無し視聴者
>>1879
>>1887
いじめられっ子だったよ。貧乏で片親だったし、で母親死んでから学校辞めた
――――。
――。
パパが、どんな人だったかは知らない。ママは、内気だったけど強い人だった。
『貴方が生まれた日は金曜日の午後、天気は晴れて病院のコカゲユラシが満開に咲いていたの……』
物心付いたら砂の惑星に二人きりだった。ザ・スラムって感じのスラムで、朝から晩まで砂に埋れた兵器のガラクタを拾い、その中でママはわたしを育ててくれた。
『ミナカ、伝わらない愛はないわ……どんな時でも、どんな形でも想いは確かに伝わるの』
ママはずっと、わたしにそう言い聞かせてくれた。
わたしの心を作ったのはママと、もう一つ。
『どんな時でも私は諦めない! 全力で煌めくぞ!』
配信冒険者、ウィザードのフィアナ・アルフェルドのダンジョン配信。緑色の髪に雪の結晶をあしらった位相転換杖を持つその姿、ダンジョンの怖いモンスターや悪い犯罪者と戦う様は、正義の味方って感じでずっと憧れていた。
『お前の母ちゃん、スカベンジャーなんてしてんだって?』
『きったね! お前がウィザードになんてなれる訳ないだろ、クズ!』
どんな時でも、ママとフィアナがいれば耐えられた。
――十歳の頃。ママとフィアナが消えた。
フィアナはダンジョン配信の外で、原因不明で宇宙船が爆発してそこから行方知れず。ママは長年の無理が祟って、流行り病でぽっくりと。
『ミナカ……生きて、どこまでも強く気高く……』
うん、ママ。
『せめて、最後に一目合いたかった……ヴァ――』
最後に言ったのは、きっとパパの事だったんだろう。けれど、パパはママが死ぬまで……死んだ後も来なかった。
その時分かった。ママは、切り捨てられたんだと。
夜中。砂漠の冷えた砂を手の感覚が無くなるまでショベルで掘って、ママのやせ細った体を、フィアナにもらったおもちゃと一緒に穴へ入れた。
それでも学校のいじめっ子は、ハゲタカのように責めてきた。
『お前の父ちゃん、きっとロクでなしだな!』
『お前の母ちゃんの葬式、だっせえよな!』
だから、わたしは誓った。配信冒険者として一位になって、こいつらを見返して、それでパパを見つけてママの元に連れてこさせると。
切り捨てる側に立てば、ママの死にも価値が生まれると。
墓標の前で、埋葬の花と共に。
『どんな時でも私は諦めない! 全力で煌めくぞ!』
くじけそうな時、響くのはあの声。
――憧れた声は、いつまでも眩く反響し……わたしを奮い立たせた。
けれど次に響いたのは、あの声。残響が何時までもわたしを絡めとる。
『いい、ミナカちゃん☆ 大衆って言うのは漏れなく全部ブタなの☆ 人が十人集まれば、それはもうお馬鹿さんの群れ。本能と感情でコロっと暴徒と化すのが構成の九割☆ そんな奴らを操る秘訣は何かわかる?』
『メッセージを断言して反復して感染させる、ですか?』
『んー、正解☆ いい子、いい子☆』
キナイと出会ったのは、その後だった。
彼女は何でも教えてくれた。人の操り方、裏工作の仕方、コネの作り方、ゴマのすり方まで。
『ミナカちゃん、悪党を長く続けるコツはルールを設ける事だよ☆ 今日、借金の取り立てダンジョンアタックでミナカちゃんがやった失敗はわかる?』
『――』
『借金の取り立て先に同情して損をした事☆ なんでもやるって私との約束を破った事☆ 再生数を信じきれず、日和って数字を裏切った事☆』
損はしない、約束を守る、数字は裏切らない。耳にタコが出来る程聞いたこの三原則。
生きるのには凄く役に立ったけど、キナイと一緒にいる内にわたしが憧れたフィアナから遠く離れていく気がして、……だから安くない上納金を払ってチームを抜けた。
それでわたしが何を手に入れたかと言えば……新しい宇宙船のトイレの中で、便座に座りながらケータイを握ってる。
船はもう惑星コーグを抜けた。今は惑星レーゾスに向かってる。
明るい――新品の電球が真っ白い壁紙と木で出来た手すりを何処か冷たく照らす。
ウォシュレット付き便座と正面の上から空くタイプの銀のドア。
清潔な牢屋、いや懺悔室という感じだ。
「レオパルドンの腰巾着、糞ビッチ、クズ……ろくでなし」
スマホに映るのはわたしの悪評。クズキャラで売った訳だけど、やっぱりクズは人を選ぶ……お兄様が人気になればなるほど、わたしはサンドバッグのようにボコボコにされていく。
感覚では解ってる。こんな売り方をしてたら、反感を買うだけだって。
ふと、暗くなった画面。ピンク色のケースの中のスマホに反射で映る顔は仏頂面だった。これではいけない。
にたり、といやらしさを意識して笑う。大事なのはヤケにならない事。ヤケになればその感じは視聴者様に伝わる。
「ははは! 大人気じゃないですかワガハイ! やっぱ悪名はね、無名の何百兆倍にも勝るんですよ! 皆さんご苦労さまです、今日もクズで飯が美味いってね!」
そうだ。わたしにはレオパルドンがいる。
レオパルドンが――無敵のお兄様さえいれば、わたしの人生はそれでオーケーなんだ。
わたしは、一位にはなれない。嫌という程現実は見た。
上に行ける人はウィザードや、サイボーグみたいに何かしらの強さを持ってる。
サイボーグには何回かなろうかと思った。けれど……ウィザードは機械を埋め込んだらなれなくなる。そう思うと、心の中でどうしてもまったがかかった。
だから、わたしはわたしの代わりにお兄様を一位にするんだ。
お兄様は、一位に行ける存在だから。戦い方に華がないけど、それはわたしがカバーする。
…………………………………………………………キナイの事、どうしよう。
どうしよう。アイツは一体何をしてくるんだろう。お金を払って暗殺するべきか、いやそんなのしたくないし、した所で生半可な奴だと返り討ちになる。
下手に手を打てば、付け入る隙を与えてしまう。アイツはそういう女だ。
……これお兄様にバレたら、どうなっちゃうんだろう。
いつも明るいけど、あれは仮面だ。怒った所を見たことがなくて、どう怒るのか想像がつかない。
わたしだって、本当は電子麻薬を使うつもりなんてなかった。
けれどあの時のお兄様は本当にショックを受けてて、旧式とは言え軍用機の分厚い壁に穴を空けた。
おまじないが効いた時、直感で電子麻薬を打って都合のいい夢を見せて、そこからここまでズルズルと来てしまった。
だって、お兄様のパンチは百トンもあるし。これが宇宙にいる時だったら、わたし達は一巻の終わりだ。
だから、わたしは間違っていない。
――ノックが響く。気遣う様な力で二度。
『ミナカ殿、大丈夫でござるか? 何か、大きな声を上げたみたいでござるが』
お兄様が、ドアの向こうにいる。心臓が鷲掴みにされる気分だった。
「だ、大丈夫です! ちょっと、ポンポンがペインで! それよりお兄様、お花摘み中の女の子に話しかけるのは殿方的にNGですよ!」
笑いに逃げた声が喉に引っかかる。悟られてはいけない、真実はいつだって一かけらの綻びから漏れるものだ。
『申し訳ござらぬ。あんな事があったから、少し心配で……』
「うっ!」
ポンポンがペインと言った瞬間、思い出したかの様に腹が痛んだ。やっぱり安物のナノマシンはダメだな。このまま忘れてしまえれば良かったのに。
『ミナカ殿!?』
「だ、大丈夫です……本当に大丈夫ですから」
『ミナカ殿、もし今出てきたら拙者とっておきの手品を見せるでござる……ほら耳がでっかくなっちゃった』
「お兄様、耳ないじゃないですか」
そこで、一度躊躇いが混じった空白。その沈黙が妙に怖い。
『キナイ殿、というらしいでござるな。あの方は……』
なんで知ってるの!? と一瞬思ったが、キナイは有名だ。調べれば容易に出てくるし、パイセンと話してるのも見えたから訊いたんだろう。
お兄様は躊躇いながらも言葉を紡ぐ。その言葉を待つ間が、ひたすら痛かった。
『ミナカ殿……拙者は、ミナカ殿の事を相棒だと思ってるでござる』
その言葉にぞわりとした。
駄目だ。脊髄が告げている、これは聞いては駄目だ。今更になって押し殺してきた罪悪感が、湧き上がってくる。
揺らぎそうになる正義を手の平を爪を立てて握り、痛みで無理矢理奮い立たせる。
『生きるも死ぬも一緒でござる。もし、言って楽になる事があれば何でも言って欲しいでござる』
わたしは間違っていない。
『力になるでござる。辛い時、挫けそうな時は手を貸すでござるよ……いや、この言葉は少し青臭すぎるでござるか』
間違っていない。
『でも拙者は、いつだってミナカ殿の味方のつもりでござる』
……いない。
『もし、レーゾスのダンジョンに地球に戻る術があったとしても借金を返すまでは……いや、これは捕らぬ狸の皮算用でござるな』
――。
右横に付いた鏡を極力視界から外す。自分の姿をなるべく直視しない様に。
『言いたかったのはそれだけ、コーヒーを淹れて待ってるでござるよ』
ドアの向こうで、重たい足音を響かせてお兄様が去っていくのが解る。これがSNSでブロック出来る程度の人だったら、どれだけ良かっただろうか。
もしお兄様の人格が最低な人だったら。善人じゃなければ……嫌な人でいてくれたなら。
……覚える痛みが二つに増えた。
ふと、鏡に映る自分を見つめる。
ピンク色のボサボサのツインテール、ピンクと黒の格子柄のジャケット。黒インナーの腹部分は土煙で汚れている。
鏡を見て、自分の赤と青の瞳から涙が流れてたのに初めて気づく。右頬の涙のフェイクタトゥーの上を、本物の涙が這っていく。
ジャケットの右袖で拭い、無理矢理笑い顔を作る。
こうじゃない。畜生の顔、視聴者様受けのいい顔はもっとこう。
そして、セリフは――これで決まりだ。
「……流す涙がもったいないですね。ここで流したら損ですよ」
駆り立てろ、お前の悪魔をと鏡に映る自分に念じる。
「もっとドライに、もっと……もっとクールに。じゃなくちゃ、お兄様が一位になれないじゃないですか」
自分は常にこずるく、賢く冷徹かつ道化的に頭の切れる女でなくてはいけない。
そこで、思い返す。
もし、レーゾスのダンジョンに地球に戻る術があったとしたら……わたし、これからどうなっちゃうんだろう。
もしかしたら、実はお兄様が言っていたのは……ひょっとしたら全部本当で、お兄様は『地球』という星から来た人だとしたら?
だとしたら、お兄様がもし……帰っちゃったら。
わたしが切り捨てられたら。
今はお兄様の人気でチャンネルは持っている。お兄様がいなければ、わたしのチャンネルは――一位になる希望の芽が無くなる。
『それに命を救ってくれたお兄様に、少しでも恩返しをしたいんです! 大丈夫です、ワガハイがつきっきりでサポートするとお約束します! 動画編集とカメラと宇宙船操縦には自信があります! お料理もお洗濯もお掃除も!』
今となってはこの約束が恨めしい。
いや、やっぱりそんな事ある筈がない。異世界人がどうやって来たというのだ、こんな形で現れる訳ないだろう。
お願いだから無いで欲しい。帰るとこなんてあってはならない。
だって、お兄様は……わたしの全てなんだから。
神様、お願いします。ずっとお兄様をここに、わたしの元にいさせて下さい。もしもなんて、そんなの無いで下さい。
お願いします、神様。
そこで、再びドアの向こうから重たい足音が響く。
『ミナカ殿、申し訳ありませぬ。キャストリル殿からお電話が……』
何となく、よくないニュースの気配がしてる。こういう時は悪い事が続くものだ。
便座から上げる腰は非常に重たく感じた。
「わたし……」
ふと鏡に映った自分に言い聞かせる。
「ワガハイ……」
わたしは不要。必要なのはワガハイ。
「呼ばれて飛び出てワガハイの登場ですよ。ロイヤルファッキンビッチはまた一体全体何をふっかけてくることやら……」
わたしをワガハイに塗り込め、扉を出た後に言う言葉はそれである。
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