死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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13話2 恐れ知らずの策士ミナカ・アラギ

 

 

《という訳で、貴方達に依頼したダンジョン攻略だけど中止になったわ……悪いわね、レオパルドン。ついでにバルディナ》

 

相変わらずイラつく女だ。そうミナカは思う。

真新しい宇宙船のコクピットは、広さは約二十平方メートル。広さを喩えるなら、ホテルのツインルーム程。

中央の単座の操縦席には三面に仕切られた窓が漆黒の宇宙を映している。周囲には計器や装置が所狭しと並べられ、今は正面の窓には翡翠の髪の運営貴族令嬢がモニターモードで映っている。

クリーム色を基調とした品の良い壁紙と、重厚な飴色の机が共に映る。豪奢な黒革の椅子に腰かけながら、執務室からマーベラーに通信が繋げられていた。

 

「なるほど、星の崩壊でござるか」

 

右横にいるレオパルドンの渋い声。対して、ミナカはと言えば。

 

「悪いわね……じゃないですよ、お貴族様は! どうすんの、これ! 船買ったんですよ、こっちはよう!」

《奇遇ね、私もよ……諸々の事考えたら頭が痛いわ》

「かわい子ちゃんの口座ちゃんだって、預金が突っ込まれるのを今か今かと待ちわびてるんですよ!」

《私の口座ちゃんもよ、バルディナ》

 

キャストリルは飄々とした様子でモニターの中でティーカップを一口啜る。それがミナカの逆鱗に触れた。

 

「呑気に茶啜ってんじゃないよ、このアマ!」

《お茶じゃないわ、ブランデーよ》

「なおさら悪いわ!」

《冗談よ。ビジネスの場で飲む訳ないでしょ、常識で考えなさいバルディナ》

 

一息置いて。キャストリルは金の瞳をそっと二人から逸らし。

 

《明日の夜九時に、惑星レーゾスの破壊を我が家が執り行うわ。どうやって執り行うかは、これを見てちょうだい》

 

次に画面に映るのは、巨大な黒い人型が漆黒の宇宙に浮かんでいる映像。

身長は四百メートル。

その姿は三本角の生えた兜、背中にはまるで宗教画で見る後光の様な円環が二重に。黒い鋼鉄の鎧を全身に身に纏い、両肩は巨大な球体……一つの大きな球を中心にして、まるで天球儀の様に棒で幾つもの小さな球体が付いている。

 

「まるで巨神兵でござるな……」

 

――顔には赤い球体がぼんやりと、まるで鬼灯の様に鈍い光を点しながらはまっていた。

それはまるで水に浮かぶ巨大な水死体の様に、うつ伏せの状態で右腕に二百メートルはあろうかという、赤い骨で形作られた筒を抱えている。それ以外の左腕と両足を下に伸ばしながら四隻の巨大な船にワイヤーで曳航されていた。

 

《これの名前は、『モルディッギアン』。我が家が没落しない理由の一つよ》

 

次に映るのは、その『モルディッギアン』が背筋をピンと張っている姿。

惑星の重力と慣性力が釣り合う地点に据えられた衛星に両足を突き、その鬼灯の様な顔は約数十万キロ離れた緑の星を睨んでいる。

 

その赤い骨で出来た筒を緑の星に向けると、まるで骨の花開く様に先端が三つに分かれた。

同時に背中の二重の円環がゆっくりと回転し始める。

その筒先に白い光が溜まって行く内、宇宙空間で黒みがかった七色の虹が巨大な人型『モルディッギアン』の周囲に広がり始めた。

背の円環は徐々に速度を上げていく。回転はやがて目にも止まらない程の速さとなった。

声が響く。

 

――超大型反物質キャノン『ファリオム』、発射。

 

光が。

否、光すら飲み込む白い闇が宇宙に溢れた。轟音と共にその闇は直線状に広がり、やがて緑の星を飲み込み跡形もなく消し去る。

白い闇が星を、まるでチョコレートの様に溶かす中。その反動から『モルディッギアン』の踏み締めた地面が、めり込み罅割れ、衛星の地核にまで衝撃は達する。

徐々に衛星は星の体裁を失い、破片が千々に飛んでいった。

 

――惑星の因果点消失確認。

 

再び声が響き、残ったのは無数の星の破片群。星を消し切った所で映像は終わった。

あまりの光景にレオパルドンもミナカも声を失う中、キャストリルは何も声が出ないのを見て説明を再開した。

 

《当日はこの方法を使うわ。レーゾスが割れた後の事も考えれば、これが一番安全だからね》

「ちょ、星の名前とかテロップ入れてくれないんですか?」

《入れてたわよ、名前が存在ごと消えただけで》

 

ミナカがどこか引きつった笑みを浮かべながらそう茶化すのに対し、キャストリルは何事でもないように端的にそう答える。

 

《モルディッギアンは歴史に干渉するの。今はまだ時間が浅いから認識できるけど、その内存在した事も忘れるわ》

 

そう言うとキャストリルは一息置いて。

 

《……で、これなんだけどレーゾス全土の撤退まで一日の猶予があるわ》

「一日、でござるか」

《えぇ。どうするバルディナ、潜るというなら止めはしないわ》

 

キャストリルはもう一度白磁のティーカップに口を付ける。

ミナカは一度赤と青の瞳で右横のレオパルドンを見る。フルフェイスの黒いマスク収まった二つの緑の瞳。表情なんて解る筈無いのに、不安そうなのが伝わった。

じくり、と良心が痛むのを押し殺してミナカは尋ねた。

 

「もし潜って、ダンジョンを攻略したとして……万が一門を止めたらどうなりますか?」

《我が家の家計簿が上向きに修正されるわね。蟲毒の兄や姉が私の首を狩りに来るのも避けられるし》

「家族、ですよね?」

《ええ、家族よ。でも私達って家族である前に貴族なの》

 

キャストリルの言葉は、破壊命令は取り消される事を暗に示していた。そこでキャストリルはティーカップにもう一度口を付ける。

清も濁も全て飲み込むと言わんばかりに。

 

「…………拙者は、ミナカ殿の判断に従うでござるよ」

「お兄様……」

「お金は何とかなる、地球に帰る手段も次を探すだけ。けれども命には代えられないでござる」

 

本心では、あの巨人が惑星を消し飛ばしたとしても潜りたいのだろう事が伝わる。

ミナカは見透かす……この言葉が出る時点で、未練があるだろう。

しかし、ミナカとしては行かせられる訳がない。借金もそうだが、もしここでレオパルドンが死のう物なら……彼女は間違いなく配信冒険者として破滅する。

 

けれど。

短い間だが、ミナカは彼と二人でやって来た。

こんな自分を何度も助け、相棒と呼んでくれた。

 

 

――でも拙者は、いつだってミナカ殿の味方のつもりでござるよ。

 

 

ミナカの事を彼は味方と言ってくれた。約束は、守らなくてはいけない。

 

駄目――

あんなの死んじゃう――

お兄様が死んじゃったら、わたし……わたし――

 

止める自分の内なる声を押し殺すのに、ミナカは約束を守るという鈍器を使う。

 

「稼ぎ時ですね。分の悪い賭けって、ワガハイ実は好みなんですよ」

 

言葉が出たのは一拍。それは、胸の奥で約束が打算で一瞬軋むのを堪える為。

それがミナカの全てであった。

レオパルドンの虚を突かれたような視線が突き刺さり、その後。

 

「いいじゃないですか、大いに結構! 普通の配信じゃつまんないって思ってたんですよ! あ、そのクソデカ巨神兵ちゃん撮らせて下さいよ? 視聴者様はおっぱいとか爆発とか、とにかくおっきいのを舐め回すアングルでお出しすりゃ満足するんです!」

 

数字は強い言葉に惹かれる。

品と下品を使い分けるのは、心をくすぐる為の常套手段。

キャストリルは翡翠の前髪を右手の人差し指で弄びながら、いつもと変わらぬ目でミナカを見つめる。

対してミナカは自分のピンクと黒が入り乱れる髪に付いたリボンを左手で触れる。

 

《大砲の前でダンスをするつもり?》

「ええ、それはもう、当然」

 

彼女はただ二律背反に苛まれながら、策士を演じる。何時だって大事なのは短くインパクトのあるセリフ。

キャストリルの購買意欲を駆り立てさせる名フレーズ。

 

 

「この世は、命を賭けるだけ面白い物は生まれるんですよ!」

 

 

ミナカがこの時決まった、と思ったのはキャストリルが白磁のティーカップを机に置いたから。

 

「配信者は数字が命なんです! 配信冒険者を見るなら、誰だって一位の人を見ます! 誰も底辺の配信なんて見やしない、切り捨てるんですよ!」

 

キャストリルの痛いところを突いてプライドを軽く刺激する。万年十位のオルムステッド家に、このセリフは堪えるだろう。

 

「人間は根本的に良い物しか触れたくない傲慢な生き物なんです! 一位とか金賞とか、そういうラベルを張られた物に弱いんです!」

 

次に具体例を挙げて人間の本質を表す。人間観はキナイから学んだ事だ。

――息を吸う。心を打つ為の一拍。

 

「この社会で一番強いのは命のやり取り! だから旧時代の本も音楽も映画も切り捨てられた、――現実の方がよっぽど残酷で面白いから!」

 

ちょっと、ワードセンスはイマイチだったかもしれない。けれど、心を打つ分には十分だ。

空かさず引き合いに出すのはレオパルドン。ここからは具体的な例を挙げて、キャストリルの心に訴えていく。

 

「見たいでしょ? レオパルドンが、崩壊寸前の惑星で危険なダンジョンを攻略! しかもお貴族様のクソデカキャノンが睨んでる中で! これだけで一億稼げる!」

《……》

「このお兄様は、配信冒険者ランキング一位になれる! ちょっぴり、戦闘に華が無いのが玉に瑕だけど。予言します、この配信は絶対お兄様史上最高の物になる筈です!」

 

そしてミナカはジャケットの右ポケットからスマホを取り出す。

画面にはSNS。たった今打ったばかりの予告、ブラックホールと巨神兵の文字が派手に並んでる。

 

「この数字、裏切るなんて馬鹿げてる――生憎、数字を裏切らないのが主義なもので」

 

たった数十秒。一分にも満たない時間である。

高評価は既に数十万にも達していた。

人間は裏切る。何事も平気で切り捨てる。しかし人間が残す数字はけして裏切らない。

 

「大衆を動かすのは簡単。わかりやすくて面白いメッセージを断言して、忘れない様に反復させる。そうすれば熱狂は熱病のように感染していく……」

 

そこでミナカは、レオパルドンの前に右手を伸ばす。まるで、自慢の商品を紹介するように。

 

「このレオパルドン程、わかりやすくて面白いメッセージはありません。ワガハイはお兄様がレーゾスのダンジョンを潜る様を見てみたい、それも特等席のかぶり付きでね」

「ミナカ殿……どうして?」

 

レオパルドンの声に喜色と困惑が浮かぶ。それに対し、ミナカは精いっぱいの作り笑いを浮かべる。

自分が、今どれだけ矛盾した事を言っているか解っている。けれど、止められない。

 

「言ったじゃないですかお兄様……生きるも死ぬも一緒だって、ならしょうがないから付いていってあげますよ!」

「…………ありがとう、ミナカ殿」

「お礼は百億兆万倍返しでお願いしますよお兄様! 今度こそはこのファッキン長い配信者坂――配信冒険者ランキング一位を取りますよ!」

「配信冒険者、一位」

 

一度、キャストリルは品定めする様な目でミナカを見た後。キャストリルは手元に置いていた扇子を右手に広げる。

髪と同じ翡翠色が広がると、それは口元を覆った――表情を隠す。

そうしてミナカのスマホに着信音が鳴った。

 

《それ、レーゾスへの入港許可と着地用の座標。それがある限り、剣帯に撃ち落とされる事は無いわ……現地の責任者に話も通しとく》

「お前も毒が回ってきましたね」

《調子に乗らないで欲しいわね。どっちに転んでも損をしたくないだけよ》

 

不快そうに眉をしかめるキャストリルに対し、ミナカはにたりと笑い返す。

 

《そこにペットボトルキャップがあるでしょ、それが鍵よ……我が家の研究所の報告書によれば――》

 

続く、キャストリルの説明をミナカは必死になって飲み込む。

入り組んだ話だったが……。

 

「つまり、まとめると三層まで行ってあのヘンテコペットボトルキャップに、お兄様が熱エネルギーを付与して投げ込めと」

《ちなみに門が暴走寸前の時だけよ。普通の状態で入れても効果は無いわ》

「爆発寸前のタイミングを狙えと!?」

《分の悪い賭けは好みなんでしょう? 用意したわよバルディナ、お好みの物をね》

 

なんて嫌な女なのだろうと思った。よりにもよって、最悪のタイミングでこれしかないという手段を出して来た。

しかし、背に腹は代えられない。どこまでも付いていく、さっきそうレオパルドンと約束したのだから。

約束は、守らなくてはいけない。

 

「有難く飲み干してやりますよ……ところで一日で、全部撤退出来るんです?」

《元々未開拓の土地よ、オルムステッド家の関係者しかいないわ……まぁ、子ネズミが何匹が潜り込んだみたいだけど》

「子ネズミ?」

 

キャストリルは机の上に乗った白い紙を、わざとらしく左手で取って見せつける。

 

《帝国貴族のドヴェル=スタイン伯爵家に動きがあった。私兵の一部がちょっと前に行方不明になったわ……恐らくは、ここに紛れ込んだでしょうね》

「は!? な、なんでですか!?」

《レオパルドンが欲しいに決まってるじゃない。……貴方が撒いた種じゃなくて、古代兵器説って?》

「……噓」

《オイタが過ぎたわね、バルディナ》

 

そこで一瞬、ミナカはキナイが情報をリークしたか。その考えが脳裏を過った。

そして、今この貴族令嬢はどこまで知ってるのか。もし知ってたとしたら、この女は今言うだろうか……いや流石にそれは無いだろう。

 

「つ、捕まえられないんですか!?」

《我が家が炙り出そうにも、逃げ足と隠れ身が早い。それにプラスで、今はまだ何の行動も移していない……もし見つけたとしても家格と金でゴリ押され、『緊急時の手違い』と言われておしまいね》

「そんな……」

《あそこの家って、強欲だけど腰が重いで有名なのに……今回に限っては妙に動きが早い。用心しなさい、バルディナ》

 

 

◆◇◆◇

 

 

――一方その頃。

 

 

闇の中で、キナイは黒髪を右手梳きながらぽつりと呟く。

ひと時は、次の仕事場に向かう為の宇宙船の中だった。無機質な銀の部屋の中、キナイは身を丸ませながら揺蕩う。

右手にスマホを持ち、革の帽子は彼女の右一メートル先にクラゲのように浮かんでいた。

 

「さてさて☆ ドヴェル=スタインの坊や達は早速行きましたか☆」

 

ドヴェル=スタイン家への情報提供は速やかに上手く行った。レオパルドンが電子麻薬の常習者という事を伝えた途端、既に長男坊は動いたという。

そこで、彼女は右手で画面をスワイプし、スマホ内のアプリを起動する。アイコンはデフォルメされたキナイ自身の顔。……もし彼女に恨みがある者が見たら、『クソみたいなアイコンだ』というに違いない。

起動した途端、画面は黒一色に染まる。そうして浮かび上がるのは黄色のHUD。

 

 

〈FLAG:ACTIVE〉

〈INTRUDE:WALLET-USER NAME:MINAKA ARAGI / REAL TIME TRACKING〉

〈Com St:STABLE〉

 

 

十億に仕込んだそれは、キナイに自分達の居所を伝える発信機となっていた。僅か一キロバイトにも満たない小さなプログラム片。これで動向は逐一掴んだ。

さて、これをどう料理すべきかとキナイは少し考えた。

電子麻薬の常用者を暴露……という絵面も悪くはないが、もっと面白い事はないだろうか。

 

その時、彼女のスマホに通知が一つ。

それは部下の一人が、ドヴェル=スタイン家周辺で妙な動きをするアンドロイドを誤って破壊したらしい。隠ぺいの為に今データを吸い上げてるらしいが、奇妙な事に惑星ラクトゥーとの通信記録が見受けられたという。

惑星ラクトゥーは配信冒険者ギルドによって封鎖されて等しい。あそこには何も無い筈なのだが。

 

「そう言えば、どっかのシンクタンクでも似たような話があったわね☆」

 

彼女はスマホに指を走らせ、気になった事柄を調べる。使うのは個人的なコネクションから一般の検索エンジン、SNSまで様々。

それはパズルが組みあがっていく様に似ていた。一つ一つの些細な情報が、彼女の元に集まり全体像が見えてくる。

 

 

――大手シンクタンクの不審な動き。

 

――ドヴェル=スタイン家周辺の不審なアンドロイド。

 

――惑星ヴァートゥの秘教に現れた侵入者。

 

――惑星ラクトゥーの通信記録。

 

――レーゾス周辺で見られた旧式の宇宙船の写真。

 

 

様々な点が、一つの線になる。

そうして見えてきたのは、一人の姿。そこでにたりと彼女は笑う。

 

「あぁ☆ そういう☆」

 

惑星ラクトゥーが封鎖された理由は、惑星に残された古代遺跡への学術研究の為。

封鎖したのは第63方面古代文明担当官。

名前は、ヴァレン・スローン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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