死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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16話1 喰らえ、今必殺の投石

 

 

――ミナカの前でメタルワームの解体は速やかに終わった。

 

 

レオパルドンはエネルギー付与したナイフを数本使いながら、ネットで表示された知識を元にメタルワームを速やかに解体していく。解体の手際自体はいい、ミナカには経験自体があるように思えた。

ミナカとしては正直解体はしなくても良いと思ったが、レオパルドンが十分だけという事で仕方なく時間を取った。

 

「サバイバルでは、こういうのが役立つでござるよ」

 

レオパルドンはメタルワームから採取した宿石と酸を回収した。……こんなのどこで使うんだよ、という感想が喉まで出かかったのを飲み込んだのは、ミナカだけの秘密である。

死体は生ごみ処理用のナノマシンをかけて乾燥させた後にブラスターで焼いて処理した。

それでようやく、ミナカ達はレーゾスダンジョンに潜る。

 

 

〈VIEWERS:1984224/Au REACTION LEVEL=NORMAL〉

 

 

視聴者達は解体が始まり五分後に少しばかり減ったものの、今は安定水域に戻っていた。

……先程上げた、ダイジェストが功を奏した。

メタルワームを倒した所までまとめ、今までのダイジェストとしてチャンネルに上げた。その後、メインで運用している十種類のSNSに宣伝を放流し、その導線により新規視聴者を引き込んだのだ。

賛は六あっても、否の四も捨てがたい。

そのリカバリーは、自分自身の役目だとミナカは思っている。

 

《という訳で皆様、お待たせいたしました……いえお待たせしすぎたのかもしれません。ここからはレオパルドンによるレーゾスダンジョン配信本編! あのクソデカケルベロスを相手に、お兄様が今立つ! 今の気持ちはどうですかお兄様!?》

「拙者はもう、やる気に満ち溢れてるでござる! 今日はヤツを拙者のカラテでネギトロめいた残骸にしてやるでござる!」

《はいはい、考察班への餌を撒かない! ……あぁ、もう新しいワードに学会スレ住民が喜んじゃってる!》

 

レオパルドンの両手にはブラスターではなく、フィールド・モジュレーターで作成した剣と盾が握られている。

右手に剣を、左手に盾。全長百五センチもある肉厚な両刃の片手剣と、長方形で両端が緩やかにカーブした盾だ。

 

”レオパルドンって、なんでブラスター持たないの?”

”↑エネルギー系はエネルギー付与が複雑で爆発しやすいらしい”

 

前哨戦のマイクパフォーマンスで盛り上げた後、ミナカはその赤と青。白と黒のドローンと共にレーゾスダンジョンの入口を見る。

黒い花崗岩で模られた、一階建ての寺院。二階の代わりに鐘楼塔が建っていたのであろう、その痕跡が見受けられるが、今は年月と雨風で根本まで崩れ落ちていた。

 

”な、なぁ今青い髪の男が見えなかったか? アレ、ハルハルじゃね?”

”は、どこよ?”

”↑かかったな間抜けめが”

 

その廃墟同然の伽藍が湛えた闇に、ミナカは一瞬息を呑む。思い返すケルベロスの顎と入口が重なって見えた。

 

「小三の時に家族旅行で行ったノートルダム大聖堂を思い出すでござる」

 

レオパルドンがまた誰にともなく呟くと共に、二人は足を踏み入れる。

目の前に広がるのは百メートルはあろうかという大広間。曇り空も相まって明かりのない廃墟は薄暗く、周囲には小さな小石や小動物の死骸が浮いている。ミナカが上を見ると十二メートルもの天井近くに、ドローンの残骸が浮かんでいた。

 

《重力の差が激しいですね……ハルハルの時よりも》

 

アーマーが割れる音が一つ。

右手に握っていた剣を、フィールド・モジュレーターのガントレットで固定した後。レオパルドンはミナカの左脇の重力ブロックにアナライズガンを向けてスキャン。共有したミナカの視界にデータが反映される。

 

 

〈ANALYZE GUN:ACTIVE〉

〈MAG:12.8 T〉

〈GRAVITY:ERROR…303025……NULL〉

 

 

事前にキャストリルから貰ったデータよりも磁場が高く、重力値に至っては計測出来ていない。……これもまた磁気嵐の影響なのだろうと彼女は分析した。

一応ミナカ達はハルハルの動画配信をつぶさに観察し、レーゾスダンジョンに潜る為の研究を重ねていた。彼女は右端にある重力ブロックにそこらへんに落ちていた石を拾うと、ジャケットの内側から銀色の細長い棒――ナノマシン配合の彩色スプレーで金色に設定し、染めると放り投げる。

 

ハルハルの時は百五十センチで上に静止したそれは、今は放り投げた瞬間に重力の加重によって砕け散った。

 

「なるほど。事前に作成した地図は使えないでござるし、アナライズガンも役に立たないと……なら、ここは拙者にいい案がござるよ!」

《まさか、またライブですか?》

「ミナカ殿、少しそのスプレーを借りるでござる」

 

レオパルドンはそう言うと、左の盾をミナカに預けた。

そしてその場に転がっていた石を左手で拾うと砕く。適度に塊と粉末半々になったそれに、レオパルドンは右手でミナカから貰った銀のスプレーで蛍光色の青に染める。

満遍なく色が広がり一瞬で乾くと、左手のそれを左から右に広げるように撒いた。

それを続けて数度行うと、周囲にまるで煙幕のように広がった。そうしてしばらくすると、重力ブロックが青色の石片で可視化される。

天井近くで青色の塊が光っている所から、青色の粉がつむじ風のように巻き上がっている所。何も起こっていない所から、パチパチと岩が砕け散る音が鳴り響く所まで。

 

「〇二年の映画、グラヴィティ・マインに似たようなシーンがあったでござる。こういう風に撒いて行けば、何とかなるでござる!」

 

預けていた盾を受け取ると、フィールド・モジュレーターの左腕に固定しレオパルドンは自信満々にカメラ目線でそう言う。その様を見てコメント欄はと言えば。

 

”かしこい”

”レオパルドン、重力ブロックを華麗にクリア”

”いつもはバトルメインだったから、こういうの新鮮”

 

そんな白いコメントが次々と流れ、おひねりとばかりにミナカのスマホに課金音が鳴り響く。その中をレオパルドンが淡く光る青の粉と共にゆっくりと歩みを進め、ミナカもそれに追従する。

二十メートル程進んだ時である。

――右手側、二番目の部屋から赤い光が瞬くのをミナカは確かに見た。

 

《お兄様!》

 

光。熱量が唸る。

瞬間、レオパルドンはミナカを庇うように前に半歩彼女の左に立つ。同時に左の盾が赤い光条で爆ぜるように溶けた。数滴、白く溶けた鉄や高速で飛散する破片がミナカの顔にかかるも、培養テクタイトの堅固なヘルメットで全て防がれる。

闇の中、黒いドローンが照らす光の元に現れたのはまず両腕。

次に装甲された古代の兵士の上半身と、節足動物のような六脚。

 

「こいつは、東西の回廊にいる筈だったでござるが……」

 

彼我の距離は八十メートル。レオパルドンは固唾を呑み、ミナカは一瞬止まりかけた心臓のまま手にしたブラスターをアンドロイドに向ける。

 

”やったれ!”

”ぶっ殺せー!”

 

白いコメントが殺意一色に染まる中、スマホに鳴り響くのは更なる課金音。途端銃身に赤い光が絡むように回り宿る

 

 

〈+Cr:1,000,000/Statistics Emotions:Kill⇒BLASTER UPDATE〉

 

 

場の感情が統計され、殺意の籠った弾丸の引鉄を引く。

緑色の光が瞬間、アンドロイドに着弾。激しい熱量が爆ぜるも、濛々と立ち込める白い靄が晴れると焦げた跡が残るだけだ。

 

《磁気嵐……の影響でルーチンが狂ったみたいですね》

 

一拍唾を飲み込んで、レオパルドンの問いにそう答えた。けれどおかしい、何故かスパチャで威力の上がったブラスターが効いていない。

まるで誰かと戦闘して硬度を増したようだ。けれど、今ここで配信しているのは自分達しかいない筈である。

そう走らせた思考を戻すのは二射、三射と次々放たれる赤いレーザーだった。

 

《ンアーッ! 一難去ってまた一難ですかよ、コンチクショー! アイサツ前のアンブッシュは反則モンですよ!》

「ミナカ殿、拙者の影に!」

 

彼女は咄嗟に赤い巨体の影に身を潜める。すると、レオパルドンは未だ握っていた青の粉を更に細かく砕くとそれにエネルギー付与をかけて、射線上にバラまいた。

射線上に放り投げたその先に、高温を付与され白熱化した粉塵が重力ブロックで浮かび上がると、大気がぼんやりと揺らぐ。時々パラパラという音が鳴るのは、比重の重たい破片が落ちる音。

瞬間放たれた赤いレーザーは、何故か直進出来なかった。

次々放たれる閃光は、丁度彼の前で霧散し続ける。

 

《ふ、防げた!? でも何で!?》

「レーザーってのは、空気を媒介にして放たれる物。高温で大気の屈折構造を壊せば、焦点を殺せる――コブラのオマージュでござる!」

 

一先ずは一難を凌いだ。そこで呼吸を整えた後、ミナカは冷静になった頭で状況を整理する。

まずいのは、遠距離攻撃手段が効かない事である。ミナカのブラスターは効かず、あちらのブラスターが効く。しかもこの手のモンスターはミナカの経験上、対象を消し炭にしなければルーチンを変えない。

ミナカは一度ぐるりと周囲を見回す。レオパルドンのフィールド・モジュレーターの材料になりそうな物は無かった。

刃を投げようとも、この距離では届かない事はミナカでも分かった。

 

「流石にこれは邪魔でござるな……よし、ならばこんな時は漫画『平安女子~私が巴で、巴が私』に倣うでござるよ!」

《ど、どうするんですか!?》

「こうするのでござる!」

 

レオパルドンは右手に握った剣を地面に落とした途端、その右腕――手首から関節までが縦にスライドする。一枚板の蓋が引かれて現れ、せり上がるように現れたのはワイヤーのロールである。絹糸よりも細くて黒いワイヤーが、全長八センチほどの丸いリールにまとまっている。

彼の右の手のひらに収まった瞬間、腕甲が十字に割れた。そして前方が更に十本の指のように割れ、ワイヤーを掴むと編んでいく。

出来上がった物は、長さ八十センチ程。中央は平たい皿のように編まれていた。

 

《編み……物?》

「そして、これに付け加えるのがこれ! 普通より重たい石でござる!」

 

左の手首がスライドする。そこから現れたのは鈍い銀の石――メタルワームから取り出した宿石である。

 

”石!?”

”ブラスター相手だぞ!? しかも重力ブロックで浮くだろ!”

 

レオパルドンはその丸々とした物を二つ手に取ると、一つを紐の受け皿に。もう一つは右の腕甲に挟む。高温エネルギーをかけた粉塵の壁が霧散した瞬間、彼はミナカの前で紐を回転させ放り投げた。

――音が爆ぜる。

重力ブロックの浮力を物ともせず直進上を駆け抜けて、爆発にも似た衝撃と威力がアンドロイドの胸の中央に走り命中した。幾重にも装甲が施されたそこは、大きくひしゃげ石の形に陥没していた。

その歪んだ胸板から赤い光が漏れる。EXコアだ、とミナカは思った。

 

”嘘ぉ!”

”重たい宿石に高速スピンをかけて浮き上がりや無駄な揚力を抑えたか……頭いいなレオパルドン!”

 

配信画面に流れていくコメントに、レオパルドンはまるで呟くように喉を震わせる。

 

「古来は日本の平安時代で農民のメインウェポン、現代でも北アイルランドでフル装備の警官隊に一人で相手出来る程には強いのでござるよ――ただの石は」

 

まるで心臓発作を起こした人間かのように、上半身を屈めるアンドロイド。それでも定められたルーチンは右腕を上げさせる。その胸はがら空きのまま。

それに対しレオパルドンは丁度出来上がった右腕の石を取り出し、紐の皿に入れた。

 

《な、なんですそれ? 両面が円錐の形ですけど……》

「中に重心を僅かに偏らせた芯を入れたでござる。ヤツの胸は今、革鎧……いや革鎧以下でござるよ」

 

もう一度右手の紐を再度高速回転し、それを投擲する。

一度重力ブロックの浮力で両面円錐石が浮かび上がり、弾道が反れるも弾丸は空中で一度軌道を修正――円錐の尖った面がアンドロイドを向く。

 

”ファ!? なんで!?”

”そうか、だから芯を入れたのか! 普通なら飛ばないのを、重力ブロックで修正する為に!”

 

コメントが流れるのと同時。音は先程と違い一瞬。空気を切り裂く澄んだ音。

一拍置いて、アンドロイドの六本の脚がまるでへたり込むかのように崩れ落ちた。

……両面円錐の弾は、正確にアンドロイドの胸を貫き、ダンジョン産モンスターの弱点たるEXコアを穿っていた。

 

「ローマのウェゲティウスによれば、円錐型の石は革鎧の兵士相手に矢以上の効果があったそうでござる……おっとっと、拙者これではまるで歴史オタクではござらんか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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