死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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1話2 WAKARASE~配信を切らないでください視聴者様!

”逃げるんだよぉぉぉぉ!”

 

再び鬼ごっこの幕が上がった。先程の倍以上の速度で迫り来るミノタウロスに対し、ミナカはコメントが流れるより早く再び駆け出す。

その格子柄のジャケット。髪と同じピンクと黒のそれを一心に見つめ、周囲のガラクタを吹き飛ばしながらミノタウロスは駆ける。

 

「あああああああああああああ! やめなされ! やめなされ! 惨い殺生はやめなされ! しーにーたーくなーい!」

 

ミナカは死にもの狂いで走る。明かりの明滅する通路を、生存本能のままに。もう地図すら見る余裕すらない。

がしゃん、という聞きたくない音がした。背後に目を向けると、ミノタウロスが熔断アックスを拾っている。

 

「ンアーッ! 拾うなよ、もおおおおおおう!」

 

ついで目を配信画面に走らせると、同接者数は10から30に変わっていた。カウンターはその間にも増え続けている。もうそろそろ50を越えそうだ。

 

「やっぱり数字こそ正義! 数字を裏切るヤツは馬鹿ですけど、ワガハイは数字を裏切らない!」

 

疾駆する中でミナカは思う。

人は平気で裏切る。気分次第で、平気で人を見捨てる。

だからこそ、自分は数字だけは裏切らないと信じるのだ。そうでなくてはなこの世は恐ろしくて渡れない。

……そう喜んだのも束の間である。徐々に見えてくる闇の先には、分厚い隔壁が降りたまま。袋小路の行き止まりである。

 

「ンアーッ! 嘘おおおおお!?」

 

その間も同接者数は加速度的に増えていく。既に50どころか100人に達している。コメント欄は非常に盛り上がっていた。

 

”やっべええええええ!”

”何とかしろー!”

 

白いコメントが次々と流れ、配信カウンターは次々同接者数と反応レベルを上げていく。

 

 

〈VIEWERS:106/Au REACTION LEVEL=HIGH〉

 

 

黒のドローンがぐるりと彼女の前に出ると、向かい来る敵機をフォーカスした。

残り十メートルとなった時。ミノタウロスが再び斧を投擲する体勢に入る。

がんばれ、がんばれ! というコメントが幾つも流れるが、課金の通知は一件も鳴らなかった。

 

”ここで終わりにするか、それとも続けるかクズ!”

”↑そんな決定権がお前にあるのか!?”

”門を開けろー!”

 

それに対してミナカは赤と青を走らせる。隔壁の右端には赤い光が点っている。通電はしているらしい、壁自体が歪んでる訳でもない。

 

「ああああああ、――おまじない!」

 

右手の人差し指と中指を組んで、丁度えんがちょの刀の形を作って隔壁の前で一度振る。が、反応はない。

二度三度と振り、四度目で電子音が鳴った。今まで閉ざされていた隔壁が僅かに動く。丁度滑り込める程の隙間が開くと彼女は無理矢理体をねじ込む様に潜り込んだ。

 

”え?”

”なにそれ?”

”なにそれは?”

”特殊技能!?”

 

困惑する視聴者コメントに、ミナカは隔壁に体を潜り混ませながらそれに答えた。

 

「おまじないです! 昔っから、これをやると何でか機械が言うことを聞いてくれる時があるんですよね!」

 

隔壁を何とか潜りきると、ついでに右手でベルトを引っ張り、その先にくくり付けたブラスターを手繰り寄せる。一瞬息を吐いたその時だ。

 

「よかった、傷ついていない! 買ったばかりのブラスターちゃん!」

 

手早くブラスターを見た直後、銃身にキスをする。

直後、衝撃と轟音がもたれかかった背中を叩いた。思わず飛び退くのと、ミノタウロスがまるで「オコンニチハ!」と言わんばかりに、出来上がった亀裂から顔を覗かせていた。

そうして、滅壊していく壁を見るとミナカは再び叫び声を上げる。

 

「ンアーッ!?」

 

暗い通路の中で、再び彼女は駆け出した。

ミナカの表情は見る見る内に曇り、赤と青の瞳は不安げに上をしきりに見渡す。

何故、こんな事になったんだろうか。

日頃の行いが悪かったのかもしれない。確かに自分の素行は良くない。

そんな迷信めいた考えが頭の中でカリカリと掠め、ミナカは涙を零し走りながら懺悔をする。そうすれば何となく罪が許されて、この足が少しでも軽くなる気がしたから。

 

「あぁ! 許してください許してください! 今までやった事全部懺悔します!」

 

懺悔が始まる。

 

「この前、盗まれた宇宙船を転売したのも謝ります! このブラスターを買う時、態度が悪かった店の悪評を書いて炎上させた事も! 後あれも謝ります、本当は期限切れの配給物資をまだ大丈夫って嘘ついて客に売った事! プラント工場で働き初めて、三十分でバックレた事! 配信冒険者ギルドで戦利品買い叩かれたから炎上させた事! ついでにTRPGで出目誤魔化したのもぉぉぉぉぉぉ!」

 

絶叫が木霊する暗闇にミナカも、視聴者も徐々に目が慣れていく。壁は兵器工場のそれから、徐々に生物染みたそれに変わっていった。ダンジョン現象による物体の再構成痕である。

まるで人間の動脈の様に壁には無数のチューブが絡み合い、何かが脈打っていた。

背後からはまだ重低音の足音が響いていた。

一際大きな場所に出る。周囲には放置された軍用機の残骸が転がっており、一部は壁や床に同化していた。

……やがて再び行き止まりに至る。今度は電力の生きた隔壁ではなく、代わりに木の瘤の様に不自然に膨張した壁だった。

ミナカの赤と青の瞳に分析の色が映った瞬間。

 

この瘤……なんか、変な感じ……?

 

ほんの一瞬、そう思った直後。その感覚はミノタウロスの雄叫びに掻き消される。

ひっ、という引き攣った声。

不運は続く。驚いた拍子にそこで足をくじき、その場に顔から思い切り倒れ込んだ。

 

”顔血まみれやん……”

 

それでも生きようとする執念から鼻血まみれの顔を手で拭い、涙と共に両腕でなんとか逃れようともがく。両腕で這いずり、なんとか少しでも距離を離そうとする様をドローンは淡々と映していた。

 

「あぁあああああああ! やだやだやだやだ小生やだ! 初めてバズったのに! まだ登録者数百万人すらも行ってないのに!」

 

壁を必死で叩きながら、どこか通れる所はないかと彼女は探す。しかし、四方のどこにも逃げ場は無い。

 

「今までバカにした奴等を見返してない! ウィザードにもなってない! 赤ダイヤモンドの盾もらってない! 可愛いショタのおちんちんピュッピュしてない! やだやだやだやだ!」

 

壁を叩く手は徐々に皮膚が破れ、血が滲んでいく。だが、そんな彼女に視聴者は誰も課金しようとはしなかった。

ミナカは急に世界で、一人ぼっちになった気分だった。

そうして、一際大きな影がついに彼女を飲み込む。振り返ったそこには右手の斧を大きく振りかぶった鋼鉄の牛機=ミノタウロスである。狙いは彼女の頭、直撃すればミンチよりも酷い事になるだろう。

 

「まだ、まだ死ねない……! もっと、もっともっと生きたい! ……ママッ! わたし、誰にも認められないまま……切られて、死にたくない! だって……」

 

ひきつった声が一度、体を瘤にすり寄せたのは僅かでも身を守ろうとする本能か。取り繕った一人称すら言葉から消える。

 

 

「だって、わたしは……配信冒険者の一位になるんだもん! お願いします、配信を切らないで下さい! 視聴者様!」

 

 

最後に残ったその願いが、牛機の足音一つで無残に砕け散る。斧の刃が高温で赤く染まった。

そこで彼女が縋るように見たのは、視界に映った白文字の同接カウンター。

 

 

〈VIEWERS:83/Au REACTION LEVEL=NORMAL〉

 

 

刃も、いや刃よりも自分が死ぬ瞬間に同接者数が減った事――命を賭けて切り捨てられた事に心臓の奥が冷たくなった。呼吸が一瞬止まりかける。

そこで彼女は叫ぶ。

 

「助けてパパぁぁあああ!」

 

刃が落ちる。

同時に、背後の瘤が爆ぜた。

 

「……え?」

 

先程の壁と同じ滅壊音を響かせ、瘤から生えたのは赤い装甲に包まれた右腕だった。赤熱化した刃を受け止めて、掴み、離さない。

機械仕掛けのミノタウロスも、これにはまるで生命の様にたじろいだ。その隙を狙ったのか、腕の主がその姿を表す。

 

体を覆うのは赤と黒の装甲板。黒い素体に、腕や頭や足や胸の要所どころに真紅のアーマーを付けている様に見える。一際目を引くのは胸のプロテクター。逆三角形を描くそれは、腹の半分まで覆う程分厚く広い。

百五十センチのミナカの体をすっぽりと覆ってしまう程大きなそれは、目測で二メートル。機械仕掛けの人型だった。

四肢には、まるで亀裂の様に細かな赤い光が幾条も流れ、それが点滅するさまはまるで血管が脈動するような印象を与える。

その頭、まるで古代の兜の様なそれ――目元はクリアブラックのバイザーで覆われ、その奥には卵型の二つの瞳がほんやりと緑色の光を浮かべている。

後頭部には馬の尻尾の様な白いコードが腰のあたりまで一本伸びて、斧を受け止めた衝撃で揺れていた。

 

刹那、異音が響く。

あらゆる電子機器から、施設内のスピーカーからミナカや視聴者の端末のスピーカーに至るまで、耳をつんざく程の甲高い音が響いた。

高音に耐え切れず、ミナカは思わず耳を塞いだ。ミノタウロスでさえもその音に麻痺した様子を見せるも、彼だけは平然とその場に立っている。

 

直後大量の空気が吸われる音がすると、全身から白煙と共に排気。

惑星ジャ=クー時間、十六時三十二分四十一秒ジャスト。

……彼は長い眠りから目覚めた伝説の巨神の様に、ミナカと彼女のカメラを通した視聴者達の前に現れた。

その姿は、まるで口笛と共に崖の上から現れた正義の戦士のように。

 

 

〈VIEWERS:392/Au REACTION LEVEL=HIGH〉

 

 

――同接数のカウンターが跳ねる。

突如現れた赤い巨体に、驚きに満ちたコメントが加速度的に増えていく。

一つの巨大な流れが彼から生まれ、それはネットを飲み込むように徐々に広がっていった。

 

 

 

 

 




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