死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について 作:生駒伊織
突発的な戦闘が終わり、レオパルドン達は重力ブロックの大広間を抜けた後。自分達が倒したアンドロイド達に駆け寄った。
全長二メートル程の残骸にまずやるのは調査だ。何故、こんな事が起きたかをミナカ達は調べる。
〈ANALYZE GUN:ACTIVE〉
〈UNLOCK:LOCK-PIN PATTERN / SOL: 5→2→8→1〉
レオパルドンがアナライズガンの機能の一つ、超音波解錠で背中のロックを解除し両開きに開いた後。ミナカはピンクと黄のジャケットから銀色の工具を取り出し、ドライバー一本でアンドロイドを解体していく。
適当なUSBジャックを見つけた後、自分のスマホにコードを繋げてシステムを調べ始めた。
《あー、やっぱり磁気嵐に焼かれたみたいですね》
スマホの画面を直で見て、ミナカは誰にともなくそう呟いた――風に見せかけてレオパルドンに話を振る。
理由は二つ。動画的に映えるのと、レオパルドンは話しかけなくても聞いてくるからだ。
「そうなのでござるか?」
《野生化したアンドロイドは防護障壁が極端に弱いですからね……見てください、このアルゴリズム。普通のと違ってグチャグチャですよ》
「防護障壁っていうのは、つまりセキュリティシステムの事でござるな?」
《えぇ。多分、ハルハルの時は辛うじて残ってた防護障壁が磁気嵐で溶け切って発狂……そこに運悪くワガハイ達がって感じですね、ってなんですその恍惚の様相?》
「すまぬでござる……その小説で見たのと同じ文言を、実際に聞くとつい高ぶりが……」
そんなミナカ達に対し、コメント欄はと言えば。
”まぁ、アンドロイドなんてモンスターとおんなじだし多少はな?”
”↑へ、ヘイトスピーチ……”
ミナカの分析に対して、アンドロイドに関する規制スレスレの白いコメントが流れていく。内幾つかは一拍置いて流れ切る前に消える――運営に検閲された。
《はいはい、視聴者様! 変なコメントがあんまり多いと伝家の宝刀BANしちゃいますよー!》
そんなコメントをしばし見て、レオパルドンが口を開いた。
「アンドロイドって、そんなに差別されてるものでござるか……?」
《ピンからキリというのが正直な所ですね。企業が作って臣民権持って理性のあるアンドロイドがいる一方で、こいつ等みたいにダンジョンから自然発生するヤツもいるんで、まぁ差別問題に発展しやすいですよ》
「なるほど。つまり、これファンタジーで言う所の亜人種の人権問題みたいな感じでござるか。エルフやドワーフは人扱いだけど、オークやゴブリンは人なのか……みたいな感じでござるね」
《……なんか有ったんですか、お兄様?》
「いや、地球では結構生成AIで色んな界隈が荒れてたでござるからな……これが未来の姿だと思うと感慨深いでござるよ」
その時、しげしげとアンドロイドの残骸を見つめるレオパルドンに対し、ミナカは言いようのない感情を覚えた。
わたしは彼にいつか言うべきなのだろうか、貴方もそのアンドロイドだという事を……いやそもそも言えるのだろうか。
キナイが、あの情報を握ってどうするのだろうか。
わたしは……わたしは……。
「ミナカ殿、どうしたでござるか?」
《あ、いえ……何でもないですよ》
ミナカを現実に引き戻したのは、他でもないレオパルドンのその声だった。ふとコメント欄を見る。
”おい、クズどうした?”
”大丈夫かよ……”
コメント欄の視聴者すら心配する声を上げていた。配信冒険者として失態もいい所である。
心の中で叱咤する。そうだ、今は配信に集中するんだ。こんな気の緩みが、数字の落ちるきっかけを作るのだ。
《申し訳ありません、お兄様と視聴者様! ワガハイ、ちょっと昨日シコり過ぎて……ちょっと亜鉛とマカのサプリを飲みますね!》
「嘘だと言ってくだされ、ミナカ殿!」
ミナカは乙女の尊厳を捨てて、下品な話題で空気を吹き飛ばす。コメント欄はすぐに心配から罵倒に変わった。
そんなやり取りの後、ふと彼女はアンドロイドの右側五本目の脚に何か付着しているのに気付いた。
それは緑色の粘液で、床に静かな溜まりを作っていく最中である。
《お兄様、あれ何ですか?》
「ちょっと待つでござるよ」
丁度同じタイミングで同じ物に気づいていたらしい、淀みなくレオパルドンは左手に持っていたアナライズガンを向けて引鉄を引く。
照射される超音波が直撃すると、溜まりには徐々に円形の穴が開いていく。
そうして同時に解析データがミナカとレオパルドンそれぞれに共有された。
〈ANALYZE GUN:ACTIVE〉
〈SCAN MATERIAL:GEL=NANO MACHINE〉
〈REMARKS:WHEN ELECTRICITY IS PASSED THROUGH IT,IT HAS THE PROPERTY OF EXPANDING DUE TO NANOMACHINES.〉
〈NEXT DATA……〉
《ナノマシン入りのジェル?》
「性質としては微弱な電気で膨れあがり、結合性質をもって凝固するみたいでござるな……で超音波で結合性質が解除されるからこう穴が」
◆◇◆◇
――レオパルドン達がレーゾスダンジョンに潜ったその頃。
惑星カリウスの夜は暗い。帝国標準時外で午前一時丁度の空には星も何もなく、暗闇に孕んだ雲が分厚く蠢くだけ。
その中を数十機の球体型のカメラドローンが展開する。
人気のない廃墟の街の中、ヴァレン・スローンはゆっくりと歩く。……彼の前には黒い服を着た、四十代後半の肥え太った禿頭の男が、もたつく足で必死の形相で駆けていた。
服の仕立てはよい。赤いチュニックは絹で、その表面は豪華な金糸で刺繍されている。ズボンの仕立てもよい、ただしその両方とも土煙と垢で汚れているが。
男に向けて、ヴァレンはゆっくりと口を開いた。
「もうお止めになられたらどうでしょう? 古代文明の品を不当に独占したのは、帝国への明らかな叛意です……それが貴族のなされる事ですか」
そこで貴族の男の脚がもつれ、その場に転がり込むとヴァレンは立ち止まる。貴族の男は即座に右手を向けた。
手には白の下地に金の装飾の拳銃タイプのブラスター。男は即座に引鉄を引くと、青白い閃光が一度。
しかし、それはヴァレンの前に現れた赤い壁に阻まれる。
「は!? な、何故だ! 何故この距離で!?」
「ブラスターへの対応は、ウィザードの基礎ですよ」
そこで男は引き攣る息を飲み込むと再度引鉄を引く。しかし、二発目が出る事は無かった。
「それは自裁用の拳銃です。バッテリーは一発分しかありませんよ」
男の手から役目を終えた拳銃が苦し紛れに投げつけられると、ヴァレンはそれを位相転換杖から青い刃を抜き放ち両断する。
最後の苦し紛れすら潰えた男は、とうとうその場に膝を折った。
”貴族もこうなってはお終いだな”
”ざまぁww”
その様をヴァレンの配信画面を見守る百万を超す人間がそれを見ていた。配信画面には白いコメントが絶えず流れる。
顔を白くした貴族の男は自然と両手をヴァレンに向けた。
「ま、待ってくれ! 話せば解る、お前が欲しいのを何でもやるから!」
「……貴方には無理ですよ」
「金か!? 麻薬か!? それとも女か!?」
「なら答えましょう」
白いコートの裾が一度翻り、右手に持っていた位相転換杖が宙を舞う。
高音が一度。そこで位相がズレた。
貴族の男の周囲が凍る。腰を抜かして両手を上げたそのまま、まるで百六十サイズの四角い水晶に閉じ込められたかのように。
「お金は不要。薬も内服薬がもう二十はあります。女は……一度目の結婚で飽きました」
ヴァレンは咳き込むと、左手で白いコートの裏側から銀のスキットルを取り出して中の薬を一口あおった。血の混じる薬の味はひたすら苦い。
スキットルを持つ手が僅かに震えているのは、ウィザードの力にもう体が耐えられていない事の証である。左手の震えはピークに達し、ヴァレンは思わずスキットルを地面に落としてしまう。
毀れてしまうのは薬か、それとも命か、はたまた力か。……そう思うと、彼の舌に新しく無情の味が広がった。
「いやはや、死にたくありませんね」
その時、ふと花の香が彼の鼻孔をくすぐった。仄かに甘やかな香りを放つそれを、視線で追う。
少し先、三メートル程離れたその先。黒々とした古木の枝から生えているのは、白と桃の花々。
「………………コカゲユラシですか、珍しいですね」
東の銀河に分布する花の名を、ぽつりと口にする。主張の少ないその香りから、病院などによく植えられている物である。
過去の記憶が脳裏を過るのと、白いコートの内ポケットにしまったスマホから着信音が鳴るのは同時。
”メッセ?”
”何だ?”
総視聴者数二百万。そんな衆人環視の中、ヴァレンは右手でスキットルを拾った後に位相転換杖に力を流した。
「コード・タイムライン」
瞬間、時が止まる。
次は男ではなく時と映像の位相がズレた。スマホに表示される時間は午前一時二分三十五秒で停止し、周囲のドローンはプロペラの回転する不気味な残響だけ残る。
「カメラを通して人の集合無意識に干渉し、認知の落とし穴を形成。同時にカメラの映像と時計を停止。ここは銀河配信社会の時の隙間です、干渉出来るのは振動数を調節した貴方だけです」
「知ってる子と話し方が似てるわね☆」
そこで彼はゆっくりと振り返ると、そこには黒く平たい帽子に同じく黒いマント。小柄な体は、まるで少女の様に。
二メートル先、それは彼の背後に立っていた。
スキットルをコートの中に仕舞った後。左手を胸に当てて彼女に一礼。
「初めてお目にかかります、『虚爆掌』キナイ・ミスリルさん」
「初めまして、ヴァレン・スローン特殊捜査官☆ 杖は向けないのね?」
「……人の悪い。何通も手紙を出していたじゃないですか」
ヴァレンは白いコートから印刷された紙を取り出す。キナイの金の義眼が収縮すると。
「我が同胞に、この男の情報を都合五度掴ませる。一度だけならいざ知らず、ここまで詳細な情報をリアルタイムで送る……こんな真似、貴方しか出来ません」
「あらら☆ 若いのに鋭いわね☆」
「それで、しがないギルド職員に何の御用でしょうか?」
「勿論☆ 商談に決まってるじゃない☆ ――レオパルドンの情報、買わない?」
一拍の沈黙。時の狭間に空いたそれに対しキナイはにたりと笑う。僅かな動揺を見逃さず、キナイは舌を回す。
「ドヴェル=スタインの私兵隊をけしかけて、出方を見る。目的はあの鎧の奪取……解る人には解るものよ☆」
「……これは、驚きましたね」
「で、その理由だけど☆ あの惑星、ラクトゥーだったかしら? ……怖い顔しないで、聞き耳を立てる人なんてここにいないんでしょ☆」
ヴァレンは微動だにしない。そこでキナイはマントの中から黒い封筒を取り出し、ヴァレンの元に歩み寄って渡す。
彼は無言でそれを受け取る。封を切ると、一度竜涎香が香った。中に入っていた紙は三枚。そこに書かれた内容をヴァレンは表情も変えずに目を走らせた後。
「なるほど、ここまで良くもまぁ」
「貴方の役職と経歴。今の状況に注意を払えば、想像は難しくないわ……で二枚目からが私の商品☆」
二枚目……そして三枚目に目を移すと、しばしヴァレンは黙考。
「なるほど、空ですか……通りで生身を映さない訳ですね。商談も望み薄でしょう」
「えぇ☆ 情報は確かよ、そこに書いてある通りの出元だから☆」
ヴァレンは視線を黒髪の老獪な少女に戻し、再び口を開く。
「……何故、私にこれを? 貴方の目的は?」
「少々のお金とスリルとサスペンス☆」
「……もし、私が貴方を知りすぎたとして口を塞ぐ事は考えないのですか?」
「そんな無駄な事、貴方がする訳ないじゃない☆ それに貴方のお仲間のアンドロイド達とは別に、人として動かせる駒が欲しいところでしょ☆」
そこでヴァレンはしばし考えた後、キナイに向けて。
「いいでしょう、手を組みましょう……では、まず試金石です」
「はーい☆ 何でも調べちゃうわよー☆」
ヴァレンの耳にもキナイ・ミスリルの名前は入ってきている。この女は劇薬だと彼は思った。
一つ使い方を誤れば身の破滅だが、正しい使い方を心がければ非常に高い効果を出す。
コツは一つ。手足に徹させて、心臓や脳には近づけさせない事だ。
「貴方には、かつてラクトゥーの前任者だったカプランの捜索に当たっていただきます……彼が何処に消えたのか、居場所を必ず探し当ててください」
「一週間で調べちゃう☆」
「また、終わり次第レオパルドンさんの素性調査に加わっていただけますか?」
「それは多分無理ね☆」
「……何故です?」
そこでキナイは右手人差し指を口にくわえる。何かを試算するように。
「私が調べられるのはこの現実に存在する物だけ。あれは多分この世の物じゃないわ☆」
「貴方でもですか……」
「アレを調べろっていうのは神様の実在を証明しろって言うのと同じね☆」
どうやら、流石のキナイ・ミスリルもあれが神の鎧とは思い至っていないらしい。珍しい希少金属で出来た鎧という認識なのだろう。
神話によれば。神は歴史の転換期、因果の変換期に現れるらしい。
それも時代に必要とした能力を持って。
もし、レオパルドンの出現が意図的な物ならば、彼は何かしらの役目を持って現れたと考えるべきだろう。
故に素性を含めてキナイに調べて貰いたかったのだが、彼女でも無理だというのならあ諦めるしかないだろう。……ヴァレンはそう思った。
「そんなにレオパルドン君の事が気になるの?」
キナイはにたりと笑いながら話しかける。手を組むとなった以上、ここで目的を隠しても仕方ない。そう思ってヴァレンは自らの事を口にする。
「彼の纏っている鎧。アレは神話に語られる神の鎧です」
「……」
「私はあの鎧が欲しい。ラクトゥーの遺跡を突破する手段。そして、あの鎧にあるという転生の機能による延命が目的です。……これが彼の鎧が何故神の鎧かの判断になった画像ですよ」
彼女のスマホにヴァレンはヴァ―トゥの壁画の画像を送る。
キナイの推し量るような視線が突き刺さった。荒唐無稽な話を信じるかどうか、刹那空気は和らぐ。
「なるほど☆ なるほど☆」
「それにもう一つ。何故今になってようやく現れたかも」
「偶然という理由が気に入らない感じ?」
「今まで追い求めていた物が、今このタイミングで現れた……好機というには出来過ぎている」
そういうと、キナイはしばし腕を組んで考え込む。
「まぁ、素性調査はともかく。顧客の希望には出来る限り答えるわ☆ あの体を手に入れる方法を考えてあげる☆ そうね、帝国宝物庫に確かいい物があったはず☆」
「……いいでしょう。それと最後にもう一つ、別件で頼まれて欲しい事があります」
ヴァレンはそこで十センチ程のガラスの試験管を取り出す。中には一本、ピンク色の長い髪が入っていた。そして自分の髪も一本抜くとキナイに手渡す。
「この髪。これと私の髪をDNAを鑑定して下さい」
その時、キナイの金の瞳が一度収縮する。ヴァレンはそこに映った自分の姿を見た。
ヴァレンの目の色は両目とも一見緑である。
しかし黒髪の老獪な少女の視線は偽装を察したらしく、ヴァレンは左手を両目にやった。
「これはコンタクトレンズですよ。視力は悪くありませんが、能力の関係上電脳化も出来ません。ですので、戦闘の補助で拡張現実を使ってるのです」
外した彼の瞳の色は、青と黃。右目が青で、左目は黃だ。
「我が家は代々、生まれてくる子供はオッドアイなのですよ。昔いた妻は子供を身籠ってました……その子供がどうなったのか知りたくて」
「捨てたの?」
「逃げられました。特殊な血筋から貰った妻でしたが、生まれる子のウィザードの資質がゼロを刻んだその日に」
言葉には仄かな感情が思わず滲んだ。
彼は、反射的にウィザードという存在に夢を見ていた時期を思い出す。この力は人を、そして世をよりよい物にしていく物だと思っていた。
しかし現実は違った。結局、ウィザードとは異能の力とは……単なる戦闘単位でしかない。
この銀河配信社会はつまる所の話、毎秒二百五十億の視線の中で常に戦争が行われてる社会である。
配信が経済の根幹を担い、配信が立法の中心となり、配信が国防の指針となる。
それは生まれ持った資質と能力は常に可視化され、優れない者は視聴者に無情に淘汰される事を意味する。
……素質のないウィザードの子には、どう足掻いても不自由な人生しか用意されていない。我が子に生まれた時から選択の不自由を強いれる程、ヴァレンは強くはなく。生まれたばかりの我が子の今後を思って、天に還す程勇ましくもなかった。
この現状を、変えねばならない。
それが去ってしまった妻と娘への彼なりの贖罪であり、アンドロイド達の大義の裏にそっと隠した真実である。
……ただ一つ不愉快だったのは、そんなヴァレンの内心を見透かしたようににたりと笑う目の前の女だった。
「存外、ウィザードも恐ろしい方じゃないのね☆」
「……貴方程ではありませんよ、キナイさん」
「あら心外ね☆ 私、こう見えても慎ましい小悪党よ? 隠せない悪事なんて数件しかないもの☆」
「なら、今まででやった一番の悪事は何ですか?」
ヴァレンはこのキナイという女が好きでは無かった。
直感が告げている。この女は関わってはならない存在であると。
そんな彼の内心をよそに、キナイはまるで少女のような顔で何を言おうか逡巡した後。わざとらしく両手を叩いて答えた。
「ウィザードを一人、消した事があるわ☆」
「ほう、それは誰ですか?」
「フィアナ・アルフェルド☆ 雪の結晶を模った位相転換杖が目印の☆ ミナカちゃんは私が殺めた事を知らなくて、あの子といる時は笑いを堪えるのに必死だったわ☆」
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