死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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18話2 闇の口

 

緑の粘液が、体から一気に離れた。

一体何が起きたかを探ると、脳裏を過るのは先程地上での事。

 

”性質としては微弱な電気で膨れあがり、結合性質をもって凝固するみたいでござるな……で超音波で結合性質が解除されるからこう穴が”

 

そう言えば、あの時。レオパルドンがこれに向けて引鉄を引いた時に、当てた部分から中心に穴が出来ていた。……このアナライズガンの超音波のお陰であると理解すると、記憶は徐々に繋がっていく。

今まで抑圧された生命力が、脳のシナプスに絡んでそれを手繰り寄せた。

超音波、G.H.O.S.T、カメラ、ニューロsynC、マグネシウムリボン、ガスで腐食した床――アナライズガン。

脊髄が即座にミナカの体を動かす。

 

《テメェ、このおん――》

 

緑の粘液の女がミナカに気付いたらしい。しかし、ミナカの生存本能より遥かに遅かった。

ミナカは即座にレオパルドンに向けてアナライズガンを引く。

 

 

〈ANALYZE GUN:ACTIVE〉

〈UNLOCK:LOCK-PIN PATTERN / SOL: ??→??→??→??〉

 

 

瞬間、フィールド・モジュレーターの拘束が外れ、剥き身のレオパルドンが露わとなった。

更にもう一度立て続けに引くと、粘液が途端剥がれ落ちる。音もなく緑の粘液は痙攣したように震えるだけになった。

 

同時にフィールド・モジュレーターが外れた事により、アームロックの拘束も服を脱いだかのように外れる。絵面は青い大男が手袋付きの空の長袖シャツを掴んでいるような感じだ。

青い腕の下をかいくぐる形で、レオパルドンは右横に体を出す。

 

「――ッ!」

「データ外の動きッ!」

 

彼女は更にアナライズガンとスマホを同期させる。そして事前に作った二層の地図を引っ張り出すと、解析アプリにかける。ガスと鉄の腐食度、EX素子の結晶構造――先程ミナカが落ちた時のスキャンデータを元に演算。

結果は一秒で解った、それをレオパルドンに即座に送る。

――銃声が一度。

銃弾は青い巨躯の背後を避けて、二度――壁、そして天井を反射。

 

《お、にぃ様!》

 

ミナカに叱咤されるのと同時に、レオパルドンはまるで蝉の抜け殻のようなフィールド・モジュレーターから右側へ、よろめきながら抜け出す。

腐食した鉄板を右足で踏み抜いた。弾丸は急に想定されていた高さが狂った事により電子頭脳の演算を超え、軌道を修正し切れずにフィールド・モジュレーターの右肩に直撃した。

 

《これ!!》

 

右足で足元に転がっていた剣の柄を蹴り出す。剣は丁度レオパルドンの右脇に滑り込んだ。

一瞬、困惑するレオパルドンにミナカは血を吐きながら二言目を口にする。真正面上を左手で指さし

 

《上、……ねら、って!》

 

全て納得したらしい、レオパルドンは渾身の力をかけて剣を取ると天井に投擲。ミナカが指さしたそこはEX素子と腐食した鉄の境目。

紙一重の均衡で岩を押しとどめている箇所。……ありえない怪力で突き刺さった刃は、力の均衡を崩して岩を崩落させる。

射線が埋まった。これでまず一つ敵の手を潰す。

 

その時、ミナカの視界で再び赤文字が躍った。

 

 

〈WELCOME〉

〈G.H.O.S.T:ACTIVE〉

 

 

青い巨躯のカメラが再びレオパルドンを向く。――そこで、ミナカは再びアナライズガンを青い大男に向けた。

 

 

〈ANALYZE GUN:ACTIVE〉

〈UNLOCK:LOCK-PIN PATTERN / SOL: ??→??→??→??〉

 

 

引鉄を引くと、超音波が高音を立てて放たれる。苦しむ顔と声が途端、巨体から漏れた。

 

「あぁ! で、データが!」

 

モーションカメラは急激な光や衝撃で落ちる事がある。おそらく、普通の状態ならこんな超音波大した事は無いだろう。しかし、G.H.O.S.Tで底上げされた知覚には応えるに違いない。

ミナカの推測は見事に当たった。巨体の顔、そして体を覆うレンズ……その全てから光が消えた。

 

《テメェ――》

 

その時、緑の粘液がよろよろとミナカを覆わんと動く。しかし、それは即座に向けたアナライズガンに阻まれた。

再びナノマシンの結合を解かれ、カリスは沈黙する。

そこが限界だった。そう言った瞬間、ミナカの体から力が抜ける。アナライズガンの筒先が下に。……彼女の体が地面に落ちる。

 

「ミナカ殿!」

 

右足を穴から抜き出し、レオパルドンはそのままフィールド・モジュレーターを背にしてミナカに駆け寄る。

肺が焼けている。何とか意識を保とうとするが、もう限界だ。最後の力を振り絞って、何とか生き残った医療用ナノマシンの筒を首元に当てる……どうやら外れを引いたらしい。

最後に残った一本は、よりにもよって一番安くて効果も薄い奴だった。これが効くのかどうかも分からない。

 

《おに、様ッ! てった、い……》

「あいわかったでござるッ!」

 

フィールド・モジュレーターさえその場に置き捨てて、レオパルドンは来た道を戻ろうとする。

しかし、灰色の煙の先。何かが落ちる音が立て続けに数度……。

 

 

◆◇◆◇

 

 

――煙の先から現れたのは、またしても緑色の粘液だった。

立て続けに落ちる落下音は止まない。両腕にぐったりしたミナカの体を抱えた後、レオパルドンは内心で歯噛みする。

 

 

《そうは、させねぇ……》

 

ハスキーな女の声が何処か弱々しく響いた。……十、二十と音は響いていく。

 

「どうやら、このスライムは貴公の分体と言ったところでござるか……申し訳ござらぬが、そこを通していただくでござる」

《させるかよ……キキ。大丈夫か……》

「……カメラが落ち、データ統合に支障が」

《三十秒稼ぐ》

 

緑色の粘液が立て続けにレオパルドンに殺到する。まずいと思った。じりじりとにじり寄るように距離を詰める中、アナライズガンはミナカの手の中にあり、彼が取るのは難しい。

背後で何かが動く音がした。視線だけ送ると、青い巨躯がゆっくりと立ち上がる姿が見えた。

対し、両腕のミナカの呼吸は徐々に荒れていく。

 

 

〈MED-NANO: ADMINISTRATION〉

〈EFFECTIVENESS RATE:31%〉

 

 

先程ナノマシンを投入したとは言え、視界の端に白で表示されるパーセンテージは遅々として進まない。効果適用率は三十パーセントをようやく突破した所だ。

……焦燥が彼の心を一層駆り立てた。

 

「もし、この鎧を引き渡せば……ミナカ殿の命だけは保証していただけると?」

《キキ、勿論さ……こっちも交渉の用意がある》

 

このアーマーを引き渡せば、ミナカは助かると思いたい。

だけど、キャストリルの借金はどうなる。

戦いの素人、ただの陰キャなオタクがこの異世界でラノベ主人公が如く無双できたのはただ一つ。この鎧、このチートアイテムがあるからだ。

これを渡すと、地球に帰る手段が無くなる。ようやく見えた希望の光なのに。

 

………………けれど、それは。

果たしてミナカの命と、引き換えにすべき物なのだろうか。

この状態でエネルギー付与を使えば、戦況は打開出来るかもしれない。しかし、ミナカはどうなるのだ。

 

「ほ、本当にこのアーマーを引き渡せば……ミナカ殿を助けてくれるでござるか……?」

 

喉が一度鳴る。彼は思う。

ノーと言って欲しい気持ちはあった。アーマーだけ取って、後の自分達はさっさと始末するぞと言って欲しい。

けれど、帰って来たのは彼の望みとは違う答え。

 

《あぁ、本当さ。そのアーマーさえ引き渡してくれりゃ……こっちも相応の対応をするさ》

 

その言葉に、人の心――自分の良心が縋ってしまいたくなった。

 

 

〈ENCRYPTED CHANNEL:CONNECTED〉

〈FON:MINAKA ARAGI〉

 

 

《……駄目》

 

秘匿回線で通話が繋がる。

言葉を目で追うと、そこにはミナカが必死の形相で自分の胸に縋りついていた。

 

《駄、目、……それだけは絶対……》

「しかし……」

《駄目ッ……! それは、お兄様の……ッ!》

 

喉から血を溢れさせ、苦悶を漏らしながら。

……レオパルドンが欲しかった言葉を、当のミナカ自身が代弁していた。

こんなに、自分の事を思ってくれるだなんてレオパルドンは思いもしなかった。肺を焼かれ苦しい筈なのに……ミナカの悲痛なその姿に胸が痛んだ。

 

何としても、死なせてはいけないと思った。彼女の為なら、何も惜しくはないと。

 

「ミナカ殿、拙者は相棒とチートなら相棒を取るでござる……」

 

それで、彼女が救われるなら。

地球への帰還など、惜しくなんか無い。

何故だか引き攣った顔を浮かべるミナカは、一度咳込むと縋るような声で再び声を振り絞り。

 

《下を、下に、……行きましょう》

「下……」

 

一度レオパルドンは視線を床に向ける。

 

「しかし……」

《そのアーマー、渡すのだけは……絶対駄目ぇ……》

 

息を呑む。その言葉には鬼気迫るものがあった。

 

《おい、何してやがる!》

《――お兄様ッ》

 

レオパルドンは――

 

 

〈FIELD MODULATOR:REMOTE ACTIVE〉

〈REMOTE CONTROL:ON〉

 

 

開いた装甲が、自動的に再装着される音が響く。

その一瞬の隙を突き、レオパルドンの前にあるフィールド・モジュレーターは青い巨躯に突進し彼を跳ね飛ばす。鋼の装甲が攪拌する中、レオパルドンは先程ミナカから送られた二層の地図を参照。

EX素子と石材、腐食した鉄。その紙一重の均衡地点――右斜め一メートルの箇所に向けて、その右足を思いっきり踏み締めた。

 

酸化して一際黒ずんだ鉄の板と、四方に広がるヒビが浅く刻まれたその一転。

瞬間、床にレオパルドンの右足を中心にして深い亀裂が走る。即座に腐食した鉄と花崗岩が断末魔の悲鳴を上げた。

 

《なんだと!》

 

全てが崩落する一瞬、レオパルドンはミナカを両手に抱いたままフィールド・モジュレーターに向かって飛び込み、再装着した。

地面が崩れ行く中、小さくジャンプしながら左から半回転し、フィールド・モジュレーターに背中を押し付けるような態勢となる。

虚を突かれた女の声が響く中、レオパルドンは鋼の鎧と共に緑の分体共々三層に続く深い奈落へ落ちていく。

 

闇が、大口を開けて牙を見せていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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