死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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19話2 The people with no name

 

 

――所戻り、レーゾスの二層から続く大穴にレオパルドン達が突入した頃。

 

 

ミナカは胡乱な頭でその大穴の中を滑空していた。途端、彼女の視界に緑の文字が浮かび上がる。

 

〈ANTI GRAVITY ASSIST:ACTIVE〉

〈ANTI GRAVITY OUTPUT:FULL POWER〉

〈EST DIST:30m/FALL SPEED:0.217m/s/ETA IMPACT:16.6s〉

 

風切音が鳴り止み、落下が柔らかな物に沈む感覚に変わった。

跳躍用の反重力アシストを最大限に入っていた。それで落下にかかる重力を軽減。しかし、途端無理をさせ過ぎたアシスト機能が悲鳴を上げる。

落下速度は徐々に上がっていき、予測着地時間は徐々に短くなっていく。

 

「これは、まずいでござるッ!」

 

パラシュートなんて物は流石にミナカも用意していなかった。

空気抵抗からアメーバのように不規則な形で落ちてゆく緑の分体と共に、ミナカとレオパルドンは成す術なく落ちていく。

レオパルドンにエネルギー付与を使わせるように言うか……一瞬それを考えるが、どれもこの状況を打開出来るとは思えなかった。

その時、大きな影が彼女達を覆う。

 

「緑の分体……」

 

二人同時に目線を合わせると、レオパルドンは呻くように呟いた。

その時、不意に彼の黒いバイザーの奥にある双眸が上を――光が上向きに灯る。

 

「カッ! ――ブゥン!!」

 

そこで更に彼女の視界に緑色の文字が浮かび続け、その最後の文字は――

 

 

〈DEMONSTRATION MODE:SET〉

〈STREAM LINK: OFFLINE-BOOST→MINAKA ARAGI WALLET〉

〈RAPID MANUFACTURING MODE:ACTIVE〉

 

 

瞬間、レオパルドンの姿が変わる。バツ型の胸がスライドし、鎖骨の上まで上がる。

体色は赤から銀。バイザーから覗く瞳の色は緑から赤に。

響くのは女の声。

 

《デモンストレーションモード確認。高速加工モードに入ります》

 

レオパルドンは高速加工モードを起動する。すると右手をミナカから外し、すぐそばの分体一体に伸ばす。

しかし、彼我の距離は一メートル以上もある。その時右手首がスライドすると、現れるのはワイヤーのロール。

更には丁度落ちてくる瓦礫の破片を掴むと――右手のガントレットが高速加工を始める。

一瞬で出来上がったのは十センチ程の円錐型の分銅。その先にはワイヤーが仕掛けられており。

 

「レオパルドン、ストリングッス!」

 

真横の分体に投擲すると、即座に絡みつきロールが逆回転し回収。ワイヤーから外すと、玉にしたそれを左脇に差し込んだ。

その時レオパルドンはちらりと下を見る。つられてミナカも。

下には瓦礫と分体の残りがおよそ十体。

 

「レオパルドン、ネットウ!」

 

ワイヤーが再び右手のガントレットによって加工し、投網が編まれる。そうして真横の分体、そして下の十体を狙うように彼は投擲した。

直径三メートル程まで網は広がると、その周囲の緑色の粘液や破片を包み込む。

 

《何を……》

「こいつは電気を通せば膨れ上がる性質を持つでござる、なら――」

 

血反吐で途切れそうなミナカの問いに、彼はそう返す。

レオパルドンは続けて網の一部分を解くと、先程回収した物を網の中に右手ごと突っ込んだ。メッセージがその後の彼の行動を示す。

 

 

〈AUX POw:ACTIVE〉

〈ARAGI MINAKA WALLET POw:ACTIVE〉

〈R-GAUNTLET:PLASMA ARC CUTTER〉

〈LOW OUTPUT→DISCHARGE START〉

 

 

右手の十字部分が縦に割れ、プラズマアーク切断機が半透明な緑の中に展開すると電流が流される。粘液は電力によるナノマシンの強制増殖によって徐々に膨れ上がった。

 

「これを落下時のクッションにするでござる!! が、効きが悪いでござるな」

 

流される電流は瞬きのように、時々途切れる――おそらく反重力アシストにも電力を回している為の副作用だろう。ミナカのウォレットから、次々ベル音が鳴るのは今回の配信途中のスパチャ代も電力に回してるに違いない。

……彼がそう言った直後。体感で七秒、七メートルに届いた所で徐々に体に速度が付く感覚。

反重力アシストが切れかかっているのが分かった。しかし、ナノマシンの強制増殖は明らかに間に合いそうにない。

着地直前までの予測速度は二十一.三三m/s――時速七十六キロと表示された。下は花崗岩、明らかに死ぬ速度だ。

 

地表が近づく中、ミナカは一瞬自分のスマホとレオパルドンを見比べる。

 

《お、兄様……》

「大丈夫でござる。拙者、必ずミナカ殿を守るでござるよ! ミナカ殿だけでも!」

 

――ここで死ぬのは間違いなく損だと思った。だから、ミナカは迷う事なく行動する。

監視用の交差したキャットウォークをすり抜けた直後、ミナカは自分のピンクと黄のリボン――ニューロsynCに触れると、今まで貯めていた自分の金をウォレットに追加する。

瞬間、プラズマアークの光が跳ねた。

ミナカの口座の金額は瞬く間に電力に換算される。

まるで内部の爆弾が破裂したように、緑の粘液は膨れ上がり一瞬にしてミナカとレオパルドン共々を包み込む程の量となった。

 

《高速加工モード終了》

 

フィールド・モジュレーターの高速加工モード終了の声。

――二秒後、鉄も破片も衝撃も……彼女の視界すらも、全ては緑に染まる。

 

 

――――。

――。

 

 

ミナカが気が付いたのと同時、真緑のジェルが一度揺れる。

焼けた肺は先程より苦しくは無かった。パーセンテージを見ると、ようやく効果適用率が四十パーセントに到達しようとしていた。

そこでふと目に入る物がある。先程狙撃で破壊された――カメラは生きてる方の――ドローンカメラとレオパルドンのアナライズガンが、同じく緑のジェルにくるまっていた。

右手で奇妙に粘つくジェルを掻き分け、その二つを自分の元に寄せた。丁度その時、巨大な影が覆う。

 

「大丈夫でござるか、ミナカ殿!?」

《なんとか……》

 

レオパルドンだった。仰ぎ見ると彼もまた無事そうで、フィールド・モジュレーターには傷一つ付いていない。

――レオパルドンに両腕で抱え上げられる形で三層を見る。

ナノマシンで膨れあがった緑のジェルを掻き分けて、レオパルドンの首と共に彼女はゆっくりと周囲を見回す。

 

巨大な円形ホールが明るいのは、中央に鎮座する円環型のゲートが常に青白い電流を放っているからである。

その数十匹の鳥が絶え間なくさえずるような甲高い音が部屋いっぱいに反響する中、門の周囲には分厚い煙が消える事なく漂っていた。

頭上を仰げば遥か三十メートル先の自分達が落ちて来た穴が見えた。

 

ミナカは自分の手にしたドローン。そのレンズを一度指で拭ってジェルを落とすと、回り続ける門に向けた。

 

 

〈GATE ENERGY〉

〈E_NOW:3.20e20J / E_CRIT:9.80e20J〉

〈TTC / 00:10:00〉

 

 

キャストリルから送られた物の一つ、エネルギー計測アプリをドローンカメラを通して起動する。

臨界点までの予測到達時間は十分とあった。

 

《惑星ドカーンの中心、とは思えないくらい静かですね……》

「エネルギーは全て地下に行ってるでござるからな、さしづめここは台風の目なのでござろう」

 

レオパルドンがミナカの腹の上に載っていたアナライズガンを、「失礼するでござる」と言って取るとゲートに向ける。

超音波が発生すると、埃はまるで煙のように膨れ上がり、背後に流れた。

 

「帯電しているでござるな。あれは全部花崗岩の埃でござるよ」

 

……七メートルにも及ぶ巨大な門の周囲には、良く分からないガラクタが以前見た映像より多く転がっていた。部屋の大きさも、ハルハルの配信で見た時より広々と、ともすれば三十平方メートル以上に膨れ上がったようにミナカには感じられた。

 

「タイガー戦車、電気ポット、年代物の映写機に98が入ってそうなパソコン、きさらぎ駅の看板……きさらぎ駅!? それにアレは……?」

 

レオパルドンの視線の先に両手に持ったドローンを向け、光を指す。

醒めるような白い光に照らされた真正面には、ハルハルの動画で見たケルベロスが何かのワイヤーで雁字搦めに拘束されている様子が映った。

三つの頭のセンサーアイは仄かに赤い光が灯っているが、巨体は微動だにしない。

 

「なんでござるか、アレは……?」

 

一瞬、ぼんやりとしてしまうが理性は遅れてやって来た――誰かがいるに違いないじゃん。

その時だった。

 

「アイツ等、しくじったな」

 

……声が聞こえたと思った瞬間、気づくとミナカは吹き飛ばされていた。レオパルドンの分厚い腕の中にいた筈が、今は石の地べたを転がっている。両手にしていた筈のドローンは、気が付くと何処かに行ってしまった。

何が起こったのかさっぱり分からず、理性が戻ってくるまでしばらく時間がかかった。

生理反応じみて顔を上げたそこには、百七十センチ程の白いサイボーグだ。白と黒のコントラストが、胡乱な理性に眩しい。

レオパルドンはと言えば、おそらく直撃したであろう右肩を左手で庇いながら一度ミナカの元を振り向き、再度白のサイボーグに視線を戻す。

じり、と一度彼は右足を真横に擦る……それでミナカの体が完全に隠れた。

 

「次から次へと、アイサツ前のアンブッシュは反則でござるぞ……」

「アルド、という。悪いがこちらも仕事でな――貴様のアーマー、確保させて貰うぞ」

 

その時、黒い円盤型のドローンが白いサイボーグ=アルドの周囲を右回りの螺旋を描くように闇の彼方からやって来る。

円盤ドローンの下には百二十センチ程の鈍い銀が光沢を放つケースが、四本のアームで吊るされていた。

ケースの下部が両開きに開くと、中から細長い鉄の棒が……よく見れば明らかに合っていない銀の鍔と柄が拵えられている。

アルドがその柄をスライドするとその中に、約六センチほどの黒いUSBメモリを滑り込ませた。

……途端鉄の棒に淡い青の光が覆う。

 

「悪いが速攻で決めさせてもらう……惑星爆発にも、オルムステッドの巨神兵にも付き合うつもりはなくてな」

 

――アレは何だ?

そう思った瞬間、再びの衝撃波がミナカの全身を襲った。

再度体は地べたを転がり、辿り着くのはガラクタの山。……レオパルドンが先程口にしたタイガー戦車の下に、アナライズガンと共に辿り着く。

 

《あぁッ》

 

次は耳と目が一瞬飛んだ。鋭い音と共に視界が眩んで焦点がブレる。

再び視界の焦点が合った時、ミナカの目に飛び込んで来たのは……自分の目の前で膝を落として沈み込むレオパルドンの赤い背中だった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

それは、レオパルドンが喰らった事のない攻撃だった。

殴られた事、撃たれた事はある。しかし、それはこのイドロダイトの硬度が今まで何とかしてきた。

しかし、これは違った。

 

「なん……で、ござるかこれ……」

 

正面にいるアルドが、いつの間にか刃を右水平に流す中。レオパルドンは思わず両膝を突き、半ば崩れ落ちるような態勢を取っていた。

飲めない酒を飲んで酔い潰れた時、その百倍は酷い気分だった。吐き気と眩暈と耳鳴りが絶え間なく起き、動悸で息が上がっていく。

一本指を動かすだけで胃の中の物を全部出してしまいそうになる。

不思議とフィールド・モジュレーターに傷は一切ない……なんだ、これは?

 

「これはお前が毎日キメている電子麻薬だ。……オーバードーズの気分はどうだ、レオパルドン?」

 

電子麻薬? 一体何の話だ。

そう思った直後、再びの衝撃波が彼を覆う。同時に身を焼くような飢餓感と焦燥感が走った。

再度体には一切の傷が無い。ただあの八十センチもある青い光の刃が振るわれる度、激しい感覚だけが体を走っていく。

 

「どうやって投与出来たか知りたいみたいだな……いいだろう」

 

アルドは右手に握った柄を、指先で弄んでくるりと時計回りに回転。その刃が縦に、柄が口元を覆うようにかざされる。

 

「これがダンジョンから百分の一の確率でしか採れない、言わばダンジョンの結晶――リプロ・ウェポンだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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