死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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20話1 リプロ・ウェポン

 

 

――レオパルドンが沈むのを、ミナカはガラクタに紛れながらただ黙ってみているしか無かった。

 

 

キナイが仕掛けた爆弾が牙を剥く中、目の前の白いサイボーグ=アルドがリプロ・ウェポンと口にした瞬間、ニューロsynCが反応する。

 

 

〈TIPS:リプロ・ウェポン〉

ダンジョンで極低い確率で生まれるアイテムの総称。総EX素子製。更に一部の物には異能力が備わっている。

 

 

リプロ・ウェポンのTIPSが視界に一瞬だけ踊り、消える。

有名な配信冒険者の動画で必ず登場するアイテム。武器になる金塊と言ってもいいその刃が、今自分達に向けられている事に不思議と現実感が無かった。

アルドは再び手の中の柄を回す。

 

「これを持つだけで、中規模惑星都市一つ分の値段が付くだろうな」

「……刃をデータに変換し、切った物を毒付き刃みたいに干渉すると言った所でござるか……」

 

ミナカの前でレオパルドンがぽつりとそう考察を口にしたのに対し、アルドは一度極短く息を漏らす。

 

「鋭いな、流石は短期間でのし上がった事はある」

「それに……おそらく、先程の衝撃波……奥歯のスイッチを些か多用し過ぎでは?」

 

そこでアルドの纏う空気が露骨に変わった。つるりとしたヘルメットの奥底で警戒が言葉に混じる。

 

「貴様、そこまで見抜いたか」

「衝撃波をまき散らす、目にも見えない速さの動き……加速装置以外考えられないでござる」

「あながち、傭兵というのも間違いではないと見た」

 

アルドと共にミナカも一瞬言葉を失う。あそこまでやられている中、考察していたというのか。

……その中でレオパルドンはゆっくりと立ち上がる。膝は笑っており、フィールド・モジュレーターの至る所からは人工筋肉を保護する為の緑の溶液が血のように噴出した。

 

「やめとけ、レオパルドン……俺とは相性が悪いぞ?」

 

その時、レオパルドンが後方を見た。ミナカと視線が合うと、こくりと頷く。逃げろという意味だと解った。

ミナカの背筋に冷たい物が走る中、レオパルドンは一度両拳を合わせる。

 

「……ここまで来て、諦める訳にはいかんでござるよ!」

「そうか。なら、諦めるまで攻める」

 

ミナカから見ても、アルドはどう考えても相性が悪かった。

単純な計算だ。レオパルドンは一回攻撃を喰らえばワンテンポのタイムラグが発生する、対してアルドは加速装置持ち。

普通にやれば一方的に殴られるだけである。

気合と根性で何とかなる物ではない。

 

――空気の弾ける音が立て続けに三十。イドロダイトが軋み、レオパルドンが短い呻きを上げる。

 

それでも倒れずにいるのは、持ち前の精神力の賜物だろう。

何か出来る事は無いか……そうして視界を泳がせた直後、ミナカの耳に銃声が入る。着弾はフィールド・モジュレーターの背後。衝撃からレオパルドンが短い呻き声を上げた。

攻撃の手を止め、アルドは右斜めに首を浅く向けると声をかける。

 

「遅いぞお前達」

「申し訳ありません、データ整理に追われまして」

《キキ、無理をいうなってアルド》

 

声のする方向――右斜めに目を移すと、廃棄されたエレベーターシャフトからはあの青い巨体が緑色の粘液を体に巻き付けて現れる。

 

「分体の残数は?」

《半分は撤退用に、もう半分はそこだ》

「そうか、無理をするな……警戒だけは怠るなよ」

《注意は払っておく》

 

彼がそう言うと、緑色の粘液が一度飛び跳ねて闇の彼方に消えた。それと入れ替わり立ち替わり、アルドの周囲を飛ぶ銀のドローンからはオネエじみた男の声が響く。

 

《次磁力弾行くわよん》

 

直後、銃弾が四発レオパルドンの足元に撃たれる。

高周波と共に強力な磁力が発生し、レオパルドンは再度膝を落とした。四つん這いの状態となる。

 

「網だ」

「はい、アルド」

 

その声で彼等の背後の闇の奥から青いドローンがタルデに向かって飛ぶと、リプロ・ウェポンの剣と同じように直径二十二センチ程の銀の玉を落とす。タルデがそれを右手で受け取り、レオパルドンに向けると銀色のヴェールのように目の細かい網がフィールド・モジュレーターごと覆いかぶさった。

レオパルドンに合わせて網は密着し、完全に身動きの取れない形となる。

白面のサイボーグは膝を折り曲げると、しゃがみ込むような態勢を取ってレオパルドンと視線を合わせ。

 

「だから言ったろう、相性が悪いとな」

「……ッ」

 

レオパルドンは何も言わなかった。ただ浅く呼吸をするだけ。フィールド・モジュレーターからは荒い空気の排気音と、夥しい量の青い溶液しか漏れ出ない。

私兵隊が全員揃ってしまった。

ミナカの額に嫌な脂汗が流れる。どうにかしないといけない。

逃げろと言った、でも彼を見捨てて逃げられる訳がない。

 

何か無いのか……そう思った時、目に入るのはワイヤーで拘束されたケルベロスの赤い瞳。

 

ミナカの喉が一度、覚悟含んだ生唾を飲み込み小さく鳴った。

後はアレに近づく手段なのだが……。

 

 

◆◇◆◇

 

 

――何も出来なかった。

 

幾度殴られたか分からない。幾度切られたか分からない、自分の理性を焼く電脳麻薬の炎と共にレオパルドンは今にも千切れそうな意識を手放すまいと、必死に耐えていた。

酷い酩酊感だった。頭は今もズキズキと痛むし、眩暈と耳鳴りで気が付くと床に突っ伏していた。

更に追い打ちとして奇妙な網。それが先程のタルデから覆いかぶせられた瞬間、なけなしの力が体から一気に抜ける。

 

「それは対貴方用に作られた模造イドロダイトの網です。貴方の配信データを分析し、発生するエネルギーを常に吸収して地面に流す性質を持っている。結合部にはナノマシン・ファイバーを使用し、フィットした拘束具合でしょう?」

 

青い大男の声が恨めしい。

せめてミナカだけは逃げて欲しいと思った。

 

「ミナカ・アラギはどうしますか? 現場を見られた以上は、口を封じた方がいいとデータは示していますが」

「逃げられやしまい……現れたら狙え」

《仕留めておくわ》

 

どうすればいいというのだ。……動かぬ体の中、焦燥と危機感だけがレオパルドンの中に積もっていく。

そんな時、レオパルドンの視界に白文字が躍り込んだ。

 

 

〈ANALYZE GUN:ACTIVE〉

〈FULL SCAN…〉

 

 

流れてくるのは何か巨大な構造物のスキャンデータ。ドアやエンジン、砲塔など一通りのデータが流れ込み、思わず気が飛んだ。

直後、超音波が鳴り響く。そして彼の視界が白い埃のカーテンに覆われた。

 

「なに!?」

 

咄嗟の事に声を上げたのはアルドだった。一体何が起こったのか分からないまま、レオパルドンの視界には次々と情報が流れ込んでくる。鍵開けのHUDから操縦席のスキャン、燃料の有無、弾丸の有無まで。

それを手に入れると、次に立ち上がるのはAI。オルドラウス文字でマニュアルが作成されるところまで、映るとレオパルドンは――

 

「冗談でござろう……?」

 

しばらくして、ゲートの電場が弾ける音を掻き消す音が一つ。

映画で聞いた事がある。これはエンジンの音だ。

――そして、白煙を割いて現れるのはカーキ色の砲身。

轟音を立ててキャタピラが高速回転し、SF異世界で史上最強と言われた重戦車=ティーガーが疾駆し始めた。

 

《何よアレ!?》

 

アルドは跳躍してその突進を躱すが、青い巨躯は諸に直撃し体を吹き飛ばされる。その際左足の関節に異常を来し、青い巨躯は黒煙を上げながらその場に倒れ込む形となった。

……ドローンから響く慌てふためいたオネエの声、それと共に銃弾が一発ティーガーに放たれ命中するが、まるで豆鉄砲のようにボディーに弾かれる。

無駄だとレオパルドンは思った。機動力を犠牲に、装甲と火力を強化したティーガーに豆鉄砲が通じる筈がない。

彼の想像通り前面に次々被弾するが、全て弾かれていく。

 

《わたしのケツを、舐めろぉぉぉぉぉぉ!》

 

その狙撃に対し、まるで答えるように砲塔が動く。狙いが付いているかどうかも怪しいそれは、疾駆しながら吼えた。

それは丁度弾丸が放たれる方向へ。荒い岩壁に榴弾が炸裂する。

 

《きゃああああああああ!》

「貴様!」

 

アルドの憎しみに染まった声が響く。

狙撃手に直撃したかどうかは分からない。ただドローンから聞こえる彼の悲鳴が全てであった。

 

その時。

ぞくり、とレオパルドンの背筋に戦慄が走った。

………………今、もしかして人が死んだのだろうか。そう思った直後、ドローンからは声が響く。

 

《狙撃ポイントを潰されたわ、悪いけど射撃援護はこれ以上出来そうにない》

 

ドローンから響く彼の言葉に安堵したのは私兵隊だけでなく、レオパルドンも同じだった。敵であるが、死んでいなくて本当に良かったと思った。

直後、目に入るのは青い巨体のサイボーグがミナカを視線で追う姿。

 

「このデータ……まさか、ケルベロスを解放するつもりですか……?」

 

そのままミナカは上部のハッチ=丸い戦車長用のそれから上半身を露わにする。そして地響きを上げながらティーガーは真正面、ケルベロスの前に辿り着いた。

思い浮かぶのはミナカの良く分からない特技、おまじない。おそらくはアレでケルベロスを再び解き放ち、暴れさせるつもりなのだろう。

 

「俺が行く」

 

その時、レオパルドンの生存本能が違和感を感じる。アルドから発せられる空気が、粒子の振動が一瞬間だけ垣間見えた気がした。

ミナカの邪魔をしてはならない。そこで思いつくのは、メタルワームの事だった。

 

”サバイバルでは、こういうのが役立つでござるよ”

 

レオパルドンは拘束される中で右腕の内側、そのカバーを電力が落ちているので左の指をかけて剝がす。中から現れたのは透明なカプセル。

彼はそれを左手に持つと、網に投げた。模造イドロダイトは溶けないかもしれない、しかし結合部はどうだろうか。

白煙を上げて溶け始める網。それに右腕を伸ばして出すのをきっかけにし、力で無理やり引きちぎり。

 

「そうはさせぬでござる!」

「何ッ!?」

 

アルドの右足に腕を伸ばした。足首を掴み、彼の足止めをする。その握力の前にアルドは成す術もなくその場に釘付けされる形となった。

その間。ミナカはケルベロスと向かい合う形になると、彼女は右手でアナライズガンの銃口を三頭に向けて引鉄を引く。

超音波がワイヤーを外した。が、巨体は微動だにしない。

 

「無駄です。アルドはボスの反応速度を超えてランサムウェアを流し込みました、ワイヤーを外したところで」

 

青い巨躯が何処か笑いながらそう言う。

ランサムウェア。感染したコンピュータを暗号化し、本来の利用者が使えなくするウイルス。

……しかし、その時その場にいる彼等が見たのは右手人差し指と中指が交差する仕草。

 

《おまじない!》

 

横一線。

左から右に指刀が振るわれた時、巨体がかすかに震えた。

 

「何ッ!?」

 

アルドの驚く声が鳴り響く。青い巨躯は無言で、まるで絶句しているように見えた。

まるで見えない鎖から解き放たれたように、ルーチンは身震いをするかの如く体を左右に震わせる。

その三つ首が天井を仰ぎ、遠吠えのようなモーションを取った。

 

《うぉお、やばいですよ! 一足お先!》

 

そう叫びながらミナカが戦車から右手側に飛び降りた瞬間、ケルベロスは左前脚で戦車を踏み砕く。狙撃の銃弾などかすり傷も追わなかった重戦車は、その一撃で呆気なく爆散。

彼女は転げながら再びガラクタの山に潜り込む。

――左側の首がじろり、とミナカを捉える。

――次いで右側は青い巨躯、正面はアルド。

右の口から光が溢れると、途端三ギガワットの光条が一直線に放たれ床を焼いた。

 

「そ、そんなッ! こんなのデータに――」

 

それが青い巨躯の最後の言葉だった。彼は地面に迸るレーザーに、一瞬の内に溶解させられた。

そのままレーザーは下から上へ、それは迸る光の壁となって遥か頭上――丁度ミナカが潰した狙撃ポイントに。

 

《嘘嘘、こんなの夢なら――》

 

その言葉の続きが聞こえる事は無かった。じゅっという水で火が消火するような響きを残し、彼の声はおそらく永遠に消えてしまった。

…………嘘だろ、という気持ちが後味の悪い空気となってレオパルドンの中に広がった。

しかしそれを掻き消したのは、他でもないアルドの声だった。

 

「よくも仲間をッ!」

 

その時、新しく声が響く。

 

《おい、こりゃあ一体何なんだよッ……》

 

アルドの視線の先、左前方。岩の亀裂から現れた緑色の粘液が丁度現れた時、ケルベロスの左の首が彼女を向いた。

超低周波がその口から放たれると、直撃した粘液が床に水音を立てて落下。

声も出さず不規則に痙攣した所を、ケルベロスの左前足が脳殻ごと踏み砕く。……レオパルドンが気になったのはケルベロスの前方、ミナカのいるガラクタの山。

きさらぎ駅の看板と、崩れたコンテナの隙間からはピンクと黄のジャケットの切れ端が覗いている。……共有したバイタル情報を開くと、どうやら気絶しているらしい。

 

「ッ……」

 

白いサイボーグから漏れる声は短くも、感情を押し殺しきれていないように聞こえる。

そこで今までボヤけていた焦点が急速に調律していく。アルドの短い言葉から発せられる感情を、レオパルドンは共感した。そこで理解する。

 

……人、死んでんじゃん。

現代日本ではけして目にしなかった光景に、思わず電子麻薬の酩酊感を超えて恐怖で足が竦んだ。

 

「ミナカ・アラギ、……許さねぇ」

 

そして、次に放たれた殺意の籠ったアルドの視線が彼女が隠れたガラクタに向けられるのを見て。

 

「……ッ」

 

その言葉の行間を、今怒った三つの死と重ねて想像してしまった時。それがレオパルドンの心を触発する。

――やらせる訳には行かなかった。

アルドの足首を掴みながらレオパルドンは模造イドロダイトの網を引き千切っていく。それに対し、アルドは右手に持ったリプロ・ウェポンの刃を振るい、再びレオパルドンに直撃させる。

 

「離せ!」

「行かせはせぬ! 行かせはせぬでござるぞ!」

「このッ、薬中風情が!」

「ぬッ、ぬぅぅぅぅ!」

 

再び襲う眩暈と吐き気、耳鳴りと頭痛に思わずよろめきそうになる。

電子麻薬の副作用が再び襲い掛かる中、それでもアルドの右足首を離す事なく握り続ける。

青い刃を振るわれる度、理性が軋みを上げた。

 

それでも、あの少女をこんなとこで殺させる訳にはいかなかった。

――駄目だ。

――駄目だ駄目だ駄目だ、絶対駄目だ。

最初は帰る為の唯一の希望だった。

けれど、今はかけがえのない相棒であると思っている。

分の悪い賭けが好みだなんて嘘まで吐いて付き合ってくれた、肺を病んだ身であそこまでしてくれた。

なら、自分は応えなくてはいけない。

 

「ミナカ殿は、けして殺させぬ!」

 

左の拳を振るい上げるも、それはアルドに掠りもしない。ただイドロダイトの装甲を貫通して痛みだけが走っていく。

背後からケルベロスが右の頭からレーザーを放つ。それは間一髪、レオパルドンとアルドの真横を焼いた。

早く何とかしなくてはならない。

焦りと共に攻撃を重ねようとした一瞬――ばちり、と頭の中でダイナマイトが弾けた様な感覚が走る。

 

「この――」

 

アルドが何度目かの刃を振るったその時、不意にその一振りが遅く見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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