死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで 作:生駒伊織
――レオパルドンに、ショックを受ける暇は無かった。
頭部の一つを破壊した為か、ケルベロスはレオパルドンの方を再び振り向くと正面の顔が一気に近づき、牙が彼を襲った。
咄嗟に出した両腕で防ぐと、火花が牙と彼の腕の間で散る。
今は最後に残ったこの怪物をなんとかしなくてはいけない、ショックを受けるのはその後だと思い直しレオパルドンは顎を防ぐ。
右手のワイヤーを帯状に編んだ後、拳にくくりつけてエネルギー付与で力場を付けて殴る。一度目は牙が数本折れる程であったが、二度目三度目と攻撃を繰り返す度に威力は半減していく。
……ナノマシンが威力を分析して耐性を付けたらしい。
左の頭。その口が開くと、至近距離で超低周波が放たれる。
しかし、レオパルドンには不思議と一切それが効かなかった。
またしても不思議な事に構ってる暇は無かった。今この場で悩むのが一番の罪だ。……そう思いながら更に四発目を叩きこむも、もう既に力場の拳は効かなかった。
《お兄様!》
拳から元ワイヤーの粒子を漂わせたところにミナカの声が響く。どうやら完全に覚醒したらしい、その時左の頭。その両目がミナカに反応を示す。
まずいと思った。
レオパルドンは迷う事なく、左胸に突き刺さった刃を抜くとそれを左の頭に投げつける。
投擲した刃は露出していた口腔の奥に突き刺さると、発生しつつあった超低周波を潰す。悲鳴を思わせるノイズが周囲に鳴り響き、左の頭の口腔からは大量の黒煙が漂い始めた。
「ミナカ殿、何か! 何でもいい、武器になるような物を!」
《そんな、武器だなんて……》
「廃材でも、何でもいいでござる!」
視界の端に映る黄色い文字は既に三十秒を切っていた。やっぱりロマンじゃなくて実益を取っておけばよかったかもしれない、とレオパルドンは今になって後悔した。
《お兄様! アレなんてどうでしょう!?》
「どれでござるか!?」
《あの上下でバッテンしたキャットウォークですよ!》
天井を見ると、そこには確かに交差したキャットウォークが見えた。おそらくは鉄製だろう、もしアレを落とせば何でも作れると思った。
目ぼしい物は特にない。
「アレ、どうにかして落とせぬでござるか!?」
《そんな、お兄様! ワガハイ、完全なる無手ですよ! 念力でも使えって言うんですか!?》
「そ、そこを何とか!」
レオパルドンがそう叫んだ時である。不意に左の首が上に上がると、遠吠えのような重低音を響かせた。
超低周波ではない。……それを響かせた直後、ホールの壁から銀の骨格――スケルトン兵達が一斉に湧き出した。同時に左の首から一切の動力が抜け、瞳からも光が消える。
《ンアーッ、嘘でしょこんなん!?》
ミナカはその場を彷徨うも、徐々に武器を手にしたスケルトン達に囲まれていく。骸骨兵士は様々な武器の切っ先をミナカに向けつつある。
何とか足元を滑り込み、ミナカは縦横無尽に逃げるも銀の骸骨達は何処までも追従。
弓を持った何体かは彼女目掛けて矢を放つ。
《い”や”あ”ぁ”ぁ”ぁ”、死にたくない死にたくない!》
「ミナカ殿!?」
逃げるので精一杯なのは見て分かった。しかし、レオパルドンもレオパルドンでケルベロスに釘付けにされて動く事など出来ずにいた。
左の奥歯のスイッチを舌で押す。確かな感触と共に、ビデオシグナルが発動。世界は十分の一にまで鈍化する。
鈍化する速度は均一じゃないらしい。先程のアルドの時は静止に近い状態であったが、今はケルベロスの動きがゆっくりだが見える。
一瞬背後にいるミナカに爆発エネルギーを付与した石を投げて、スケルトン達を減らそうかと思ったが現在彼女は不安定な足場――斜めに横転したトラックの上にいた。
迂闊に手は出せない。まずはこのケルベロスを何とかするしかないだろう。
再びケルベロスに目を向けると、何度目かの噛み付きに入る最中だった。
一点、気づいた事がある。
ケルベロスは噛み付こうとする直前、首の付け根の人工筋肉――何本もの黒いパイプを束ねたような物が左右に脈動する。その予備動作を行ってから、噛み付いてくるのだ。
直感でこれは使えると思った。
……再び世界が元に戻るとミナカはガラクタの山の中に再び突っ込むと、上に上り始めていた。
まずい。弱点を看破したと事に気を取られ過ぎていた。
しかし、背後を振り向いた瞬間。その挙動を見抜いたケルベロスが、一際強くレオパルドンの両腕に噛み付く。
《何か! 何か無いんですか! 何です、この正二十面体! 何です、この無駄に細かい細工の木箱! 何です、この刀――刀!?》
視線の先ミナカが右手に取っていたのは、鍔は黒。柄と鞘の色は赤、長さは百センチはあろうかという刀である。
レオパルドンは即座に思い出す。アレは、あの迷惑系配信冒険者の愛刀であると。
一体、剣を持った骸骨兵士が突出してミナカの前に現れる。
自分に剣の切っ先が向けられた瞬間、ミナカは咄嗟に刀を抜き放った。……その白い輝くような刀身は、刃の中間ごと斜めに切り落とす。
肩で息をしながら、ミナカはしげしげと見つめ。
《この表裏揃った独特の刃紋…………これ、ハルハルのムラマサですね》
何処かで聞いたようなセリフをのたまいながら、ミナカはアナライズガンを向けて引鉄を引く。
《あ、ちょい待って下さいお兄様! これ使えるかもしれません!》
そう言うとミナカは刀身を再び鞘に仕舞うと手早くハルハルのムラマサを操作する。柄の部分が中頃まで折れ、鞘の先端が割れて銃口が現れると、彼女は鞘を左手で持ち銃口を下に向ける。
左手の鞘のボタンを一つ押し、引鉄を引くと赤い光弾は、まるでショットガンのように広がり数十体の群がるスケルトン兵達を吹き飛ばす。
自分の足元を掃除した後、ミナカは銃口を天井に向けた。左手のボタンをもう一個押すと、筒先に赤い光が溜まっていく。
《落ちろぉぉぉぉぉぉ!》
それを二回。下の方のキャットウォークの付け根を二発でそれぞれ狙う。それは丁度レオパルドンの背後に落下。
《やりましたよ、お兄様! ――ンアーッ、そうこうしてたら矢が! ワガハイは射的の的じゃないんですよ!》
「ありがとうでござるミナカ殿!」
――戦略は急速に組みあがっていく。
落下と同時に数歩下がると、レオパルドンは背面でフィールド・モジュレーターを起動する。
加工が始まると完成予測時間が表示される。三分だ。
………………チャージアップ終了時間は二十秒を切っていた。
《デモンストレーションモード確認。高速加工モードに入ります》
レオパルドンは即座にデモンストレーションモードを起動し、高速加工モードを起動。しかし、完成予測時間は依然変わらない。
ミナカのウォレットは既に金が尽きかけていた。
「間に合わんでござる……このままでは!」
ぽつり、と漏らした言葉は再びの焦りが滲み出ている。
◆◇◆◇
――ミナカは思う、死にたくないと。
《ぬわあああん! ――死ねこの野郎!》
溶けたEX素子の焦げ臭い香りが鼻を突く。
迷惑系配信冒険者の形見の愛刀をブラスターモードにし、青いコンテナの上で自分に群がるスケルトン兵に次々赤い光弾を放っていく。が、減るのはエネルギーばかりで銀色の骸骨は次々と湧いてくる。
このままじゃジリ貧なのは目に見えていた。しかし、レオパルドンを助けようにも虎の子の貯金はもう底を尽きている。
…………いや、最後の奥の手がある。しかし、これを使ってしまえばどうなるか分からない。
そう思った時、ミナカの視界に赤文字で新しい表示が浮かぶ。
〈GATE ENERGY〉
〈E_NOW:9.35e20J / E_CRIT:9.80e20J〉
〈TTC / 00:01:32〉
どうやら先程アルドに吹き飛ばされたドローンの残骸はまだ生きて、ゲートを観測していたらしい。スマホと連動させたアプリは、ゲートの出力が臨界点間近まで達した事を通知した。
ふと視線を下に移すと、ゲートと十数メートルの距離。自分を狙うスケルトン達の足元に緑色の粘液がまとわりついた銀色の球体が転がっている。
……もう限界だ。今ここでやらなければ、こっちが死ぬ。
死にたくない。死ぬというのは最大の損だ。
何より――
”大丈夫でござる。拙者、必ずミナカ殿を守るでござるよ! ミナカ殿だけでも!”
――彼を死なせたくなかった。
ミナカは自分のヘルメットに付けたピンクと黄のリボン型脳波コントローラー=ニューロsynCに触れると、今まで凍結していたキナイの十億を解放。自分のウォレットに突っ込む。
「これは……!?」
視界に映るのは困惑するレオパルドン、銀と黒のフィールド・モジュレーターは目に見えて速く稼働を始めた。五千万ほど溶かしたところで、背中で生成された武器が生まれる。
それは二メートル程の長さの短鎗だった。色は穂先も含めて黒、少し変わってるのは石突にも同じ両刃の穂先がある。
ワイヤーを再び右拳に巻き付けると、レオパルドンは一度爆発と共に距離を取る。
同時に両手で槍を握ると、両足は肩幅に開き、両腕を交差して持った槍の柄を額の位置にする構えを取った。
「これは高貴なる窓の構えでござる!」
レオパルドンは槍の穂先にエネルギーを付与し、ケルベロスが正面の頭で噛み付いてきた所を向かって左に受け流す。
槍の穂先が当たった瞬間、反発作用が働いて正面の首は左に大きく逸れた。
その時、レオパルドンは槍を素早く反転させ、そのがら空きとなった左の首筋に石突の方の穂先。その刃を当てるとエネルギーを付与し、爆発させた。
ケルベロスの絶叫が響く。灰色の煙が一瞬立ち込め晴れた後、ケルベロスの人工筋肉の首筋には深く裂けた跡が刻まれていた。
そこでレオパルドンの体色が元に戻る。チャージアップが終了したと同時、彼は真正面に向けて駆けた。両腕を広げ、その太い首筋を抱き締めた瞬間。
「――レオパルドンブリーカー!」
フィールド・モジュレーターの人工筋肉から青い保護溶液をまき散らし、レオパルドンは渾身の力をもって最後の首を締め上げる。
まるで現実の生物が窒息に抗うように何度も顎は開閉した。同時にケルベロスの人工筋肉を破壊する鈍い音が響く。
正面のケルベロスの目から赤い光が消えた。そしてミナカの耳を貫く破裂音。……まるでギロチンのようにケルベロスの首は爆ぜ、千切れた。
巨体がその場に沈み込むと、ミナカに群がるスケルトン達も一斉にその場に倒れ込む。目から赤い光は消え失せ、完全に機能を停止していた。
《やったんですか!?》
ミナカはムラマサを背中とジャケットの間に差すと、ゆっくりとガラクタの山を降り、転がっていた球体型ドローンを回収。
後一分、何とかして通信状態を復旧してエネルギー付与で熱化したペットボトルキャップを投入しなくては――そう思いミナカは即座にスマホを見る。通信は断絶したままだった。
ジャマー……通信を遮断しているジャマーは無いだろうか。
何か探す術をと考えた時、目に入るのはレオパルドン。
《お兄様! ジャマーに接続できませんか!?》
「やってみるでござる!」
依然として円環型のゲートは青白く帯電していた。
闇雲に探すよりは、可能性のある方から当たる。そちらの方が間違いなく損が無い。……ミナカがそう言うと、レオパルドンは押し黙る。
……光を感じたのはその時だ。
ミナカの真正面で機能を停止したケルベロスの巨体が、突如発光し始める。
レオパルドンと共有していた視界に、青い文字が表示し始めた。
◆◇◆◇
【守護者破壊確認】
【レーゾス端末への緊急アクセス開始:分析レポートは別ウィンドウ参照】
【操作権限移譲:抵抗不可】
【人格データをチェック中…EX素子反発式プログラムパッチ適用中…】
【データ振動差確認】
【AIによる選択方式:人格データ抽出後、ゲートにて重力ブレーンを突破後。指定座標に転送】
【重力ブレーン攪拌開始、座標確認完了】
【座標:北海道東さっぽろ市幌内町(GMT/21:28:36 JST/12:28:36)】
【ゲート出力展開可能時間計算中…】
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