死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

39 / 50
21話2 汝の名は毒婦、裏切り者、あるいは詐欺師

 

 

――ミナカの目の前に広げられる意味不明な文章の数々。オルドラウス文字とも違うそれを、彼女は読む事は出来なかった。

 

 

「日本語でござるな。人格データ抽出? 重力ブレーン……ふむ、異世界をそう渡るでござるか……?」

 

ただレオパルドンの口から漏れる言葉の数々だけから察するしかない。だけど、ミナカには解った。これは当たりを引いてしまったのだと。

レオパルドンが帰る手段を見つけてしまったのだろう。

ダンジョンの一部には異世界に通じるだなんて、都市伝説だと思っていたのに。死んだ有名人が実は生きていたって言われた方がまだ信じられる。

 

レオパルドンにとって自分は人生の余禄だ。きっとこの世界と自分の世界なら、彼は自分の世界を取るだろう。

……そうすれば、ミナカの夢はどうなる? 配信冒険者一位の夢は、全てを手に入れるという願いは?

 

いや、まだ分からない。分からないという事にしたい、だって彼の口からまだ答えが出て無いんだから。

神様。

神様、お願いします。けしてそれが来ませんように……ミナカはそう願った。

 

《あ……そのお兄様》

 

彼は一度左胸に空いた風穴を撫でると、ミナカに向き合う。言葉は喜色に満ちていた。

 

「やりましたぞ、ミナカ殿!」

《い、一体どのような事だったんですか?》

「どうやら、このケルベロスを倒した時にEXコアがゲートに偶然データを繋げたようでござるが、帰還手段が見つかったでござる!」

《そ、そうなんですか。それで、お兄様はやはり帰られるのです?》

「勿論でござる!」

 

そして、くるりと彼は後ろを振り返る。彼が右手を伸ばすと、青白い電気を放つ円環のゲートは急速に……まるで熱が冷めたように動きを止めた。

一拍置いて見えないバルブを掴んで回すような仕草をすると、ゲートは再び光を灯して回転し始めた。

 

「どうやら拙者に操作可能な状態であるようでござる……キャストリル殿から教えてもらった方法はもう取らずに済むようでござるな」

 

ミナカはアプリの表示をチェックすると、エネルギーの臨界点は先程と比べて遥かに下回っていた。

……そうして彼はミナカが今一番聞きたくなかったセリフを口にする。

 

「あれは、やはり異世界に通じる扉でござった」

 

許せる訳が無かった。

ふざけないで欲しかった。今、レオパルドンに抜けられたら自分はまた元の底辺に戻ってしまう。

右手に持っていたドローンを左手に移し、右手人差し指と中指を絡ませる。

そうだ、自分にはおまじないがある。

 

これでもう一回電子麻薬を流し込もう、今度はもっと多く……自分の言う事を何でも聞いてくれるようにしよう。

 

そうだ、約束なんて守る必要ないじゃないか。最初からこいつを利用する為に近寄ったのだ、騙される方が悪いのだ。

……………………そうしてミナカが自分の中の悪魔を啓発している時だった。

 

「ミナカ殿には、本当に感謝しているでござる」

《…………え?》

「右も左もわからぬ拙者を、かいがいしく世話して下さった。その恩に報いる為にもまだ帰らぬでござるよ」

《な、なんでですか?》

「まだ、拙者は一位になっておらん。帰るのはミナカ殿と一位になってから――」

 

その時、レオパルドンは一度視線を右に移す。同じく視線を辿ったそこには機能停止したケルベロス、その右の頭があった。

私兵隊の一人、アルドの爆散した箇所。

 

「少し、色々な事があったでござるな……」

 

その言葉にミナカが抱いたのは痛みだった。

 

《お兄様……》

「ミナカ殿を失いたくなかった……それだけだったでござるよ」

 

よく見るとレオパルドンの両手は何かを掴んだように強く握り締められていた。声も少しばかり震えている。

それを、ミナカは分かってしまった。

 

「しかし拙者は、帰ったとして元の通りの自分でいられるでござろうか……」

 

その声は何処かか細く、あの時レオパルドンに生き方を尋ねた時のミナカと同じように聞こえた。生き方に迷ったこの姿を見て、彼女はただ痛ましく思った。

行かせたくなかった。

帰って欲しくなかった。

レオパルドンはミナカの全てだった。

 

――けれど、彼女は組んだ人差し指と中指を解いた。

 

《何言ってるんですか、あんなのただの正当防衛ですよ! じゃなかったらワガハイ死んでいますからね!?》

 

明るい声でいつもと変わらない調子を心がける。

 

《ただの正当防衛でどうこうなる訳ないでしょ! こんなの事故ですよ事故! お兄様が悩む価値なんて一ミリもないんです、――地球に帰ったって普通の生活が待ってるだけですよ!》

 

相棒と言ってくれた。

こんな自分をバカにしないで、一人の人間として扱ってくれた。命を賭けて守ってくれた。

そんな彼に、これ以上嘘を吐きたくなかった。どんな言葉でもいい、救いになって欲しかった。

 

《それにお兄様、その……ブレーレイが欲しくて今まで頑張って来たんでしょ? お父様とお母様に会いたかったんでしょう。ワガハイの事は気にせず、帰るべきですよ!》

「しかし……」

《なに、一位なんてワガハイだけで十分取れます! 人間命を賭けたら大概の事は何とでもなるんですよ!》

 

やはり、約束は守るべきだ。

彼は地球に戻って、幸せに暮らすべきなのだ。これ以上自分のワガママに突き合わせるべきではない。

キャストリルには金を払って自由にしよう。この汚い金は、そうして綺麗に使うべきなのだ。

……演じるのは何時だって諦めの悪い策士な自分。蓋を開けば策が十個もニ十個もあるような女。

ミナカがそう言うと、何かを飲み込むような間が数拍空く。

 

「ミナカ殿……ありがとうでござる、本当に本当にありがとう」

 

これで良かったのだとミナカは思う。一位はもう無理だったとしても、それでもこの感謝の言葉にだって価値がある。……そう思い込もうとして、口の内側からは血が滲んだ。

今まで稼いだ金を全て失ったし、保釈金を払えば僅かしか金は残らないだろう。

けれど、彼は……レオパルドンは……ミナカの相棒だった。

笑って送り出して上げたいと、そう思い作り笑いを浮かべる。

 

 

”でも少しだけ収穫があったでござるよ、ロールモデルとメンターでござる”

 

 

フィアナなら、ママならそうするとミナカは思った。

……そこで、彼女の顔にパラパラと土埃が降りかかる。

 

《はえ?》

 

彼と初めて出会ったダンジョンの時と同じように地響きが鳴り始める。重低音と共に瓦礫は次々落ちていく。

 

《な、なんですと!? なんで遺跡が崩れてくんです!?》

 

そう言うと、新しい青文字が視界に表示され始める。

 

 

【警告】

【守護者破壊によりEXコア命令停止、振動エネルギー負荷急速蓄積。EX素子結合脆化確認】

【ダンジョン崩壊の恐れ有り…推定崩壊時間計測中】

 

【操作権限移譲者へのバックアップ遺跡の座標転送】

 

 

相変わらず何の事が読めない文章が表示される。ただ直感で、悪い事しか書いていない気がした。

具体的に言えば一難去ってまた一難という意味で。

 

「どうやら、あのケルベロスを倒したからこのダンジョンが壊れるようでござる……」

《嘘ですよね!?》

 

けれど一瞬心が躍ってしまった。もしこの遺跡が破壊されれば、またレオパルドンと一緒にいれると。

 

「推定崩壊時間が出たでござる……一分でござるか!」

《どう頑張っても間に合わないじゃない――》

 

ですか、と言おうとしたタイミングでミナカが感じたのは奇妙な喉の張り付きだった。

途端、頭痛とめまい。ゲロをぶちまけながら、ミナカの体が床に崩れ落ちる。

 

「ミナカ殿!?」

 

一体何が起こったのか、ミナカは自分でも分からなかったが不意に触ったニューロsynCが白文字で答えを告げる。

 

 

〈SCAN:0ppm / 4500ppm〉

 

 

この部屋一帯の一酸化炭素濃度が急速に上昇していた。このままでは崩落の前に中毒で死ぬだろう。

レオパルドンが咄嗟に再び自分を抱き抱えようとする。しかし、如何に彼でも一分でこの三層から地上に上がるなど不可能だろう。

生きる目が一切見当たらなかった。

そんな中、彼女の瞳に新しい青文字が浮かび上がった。

 

 

【操作権限移譲者の意思読み取りにより緊急脱出プロトコル発動】

【座標自動選択:地表】

【計算中…】

 

 

この文字が一体何を意味するか分からない。もう意識も朦朧としてきた。

 

「ミナカ殿! しっかりするでござる、もう少しの辛抱でござる!」

 

レオパルドンの声が徐々に遠くなっていく。

ただ、心臓は絶えずに早鐘を打っていた。それは彼女の生への渇望だった

死にたくなかった。こんなとこで死にたくなかった。

まだ生きていたい。何も掴んでいないのだから。

……レオパルドンとまた一緒にいられるというのに。

 

「ミナカ殿! 何か、何かないでござるか――そうだ、ビデオシグナル!」

 

慌てふためく彼を見て思う。そうだ、わたしは生きなきゃいけない。

なら、取るべき手段は一つだ。

…………彼女の右手人差し指が、中指と絡む。

 

「ミナカ――」

《お、まじッ、ないッ》

 

渾身のおまじないでレオパルドンを開くと、ミナカは重たい体を引きずって彼の中に入る。フィールド・モジュレーターの×形の胸板が×字状=四片にスライドして開き、その中のレオパルドンの赤い胸もまた縦に開いて。

彼の体を着こむように――いつもの作業用パワードスーツと同じように入り込むと、蓋は即座に仕舞った。

薄暗い彼の体の中、黒い四角形の板――十センチ×十センチのそれが緑色に輝くのを見る。

 

中は非常に窮屈だが、正常な酸素が流れていた。

……その時ミナカが流したのは、生存への喜びの涙であった。

 

 

――一瞬、浮遊感を感じる。

そこで彼女の意識は途切れ、再び目を覚ました時一体どれ程時間が経ったのか分からなかった。

自分が死んだのか、それとも生きてるのかすらも察しがつかなかった。

白いHUDが彼女の視界に浮かび上がる。

 

 

〈RE CONNECTED〉

〈OLMSTED SATELLITE №79‐185762〉

〈GPS:PLANET RAYZOS/GROUND POSITION〉

 

 

レーゾスの地上に出た事を告げるそれを見ると、ミナカは一度喉を鳴らす。

 

《おまじ、ない》

 

再び右手の人差し指と中指を交差して浅く振るうと、レオパルドンは即座に開いた。

磁気嵐が未だ残る曇り空が視界一杯に広がる。それでも自分は生き残ったのだと思うと涙が流れた。

様々な表示が出るが、今は何も気にならなかった。

 

 

…………一酸化炭素中毒で一時的に判断力が落ちていた、という事も含めたとしても。

 

 

右足から先に出してレオパルドンの外に出る――足が地面に着かず、半ば飛び降りるような形となった。弾みで左手に持っていた銀色のドローンを落としてしまうが、それすらも気にならなかった。

 

《やった……わたし、生き残ったんだ》

 

割れたヘルメットを外して、その場に放り捨てる。

 

「わたし、生き残れた……」

 

自分のピンク色の髪を撫でる風が心地よかった。そんな彼女を現実に引き戻すのはたった一つ。

 

「ミナカ殿、これは一体どういう事でござるか?」

 

彼女が振り返ると、そこには。

自分の空洞を、右手で撫でるレオパルドンの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んで合いそうでしたら、お気に入り・しおりに入れていただけると更新を追いやすいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。