死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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22話1 その嘘本当

 

 

 

【ファッキン】ミナカのぶっっっちぎりダンジョン配信part1134【磁気嵐】

 

 

765:落ちた名無し視聴者

お、なんか再開しぞ?

 

766:落ちた名無し視聴者

マジで!?

 

767:落ちた名無し視聴者

地上に上がってんぞ!

 

768:落ちた名無し視聴者

レオパルドンの中身が……空っぽ?

 

 

◆◇◆◇

 

 

――曇天のレーゾスの風は湿り気を帯びていた。この感覚は果たして何処から来るのだろうと、レオパルドンは一瞬思った。

 

 

空っぽになった、中身の無い自分の空洞を右手でなぞる。自分は、自分と言う物は一体何だったのだろうか。

自分の前にいる、目の前の少女が引き攣った顔を浮かべて凍り付く。数拍待って、何も返ってこないのでレオパルドンはもう一度訪ねた。

 

「ミナカ殿、これは一体どういう事でござるか?」

 

二度目を聞いて、ようやくミナカは取り繕うような笑みを浮かべた。嫌らしい、媚びへつらったような笑みだ。

かつて働いた職場の女と、それが重なって見えた。

工場で財布が盗まれた時、自分をハメた女。一見明るく人懐っこいように見えて、その実陰口を叩き人を貶めていたヤツ。

……レオパルドンが一度首を横に振ったのは、その残像を振り払う為だ。冷静に物事を見極めなくてはならない。

 

「お、お兄様……これは、その」

「落ち着いて、ゆっくりと説明して欲しいでござるよ――拙者の体は一体どうなってるでござるか?」

 

自分の声が、一段低くなっている事に気付いた。でも、これは止められない。無い筈の胸から熱い物が走り、体中を巡っていくのが分かる。

それも、偽装された情報であるのだろうが。

 

「何故、拙者の体は空洞なのでござるか?」

「あ……」

「何故、ミナカ殿はそれを知っていたでござるか?」

「そ、それは……」

「何故、拙者の体に電子麻薬が投入したでござるか?」

「う……」

「何故、私兵隊は電子麻薬の事を知っていたでござるか? そして――」

 

投げかける言葉自然と矢継ぎ早な質問となってしまう。

……無い筈の喉から出る声は、まるで振り絞るような声音になっていた。

 

「――何故、ミナカ殿のウォレットには大金が……それも十億が入っていたでござるか?」

「そ、その……あのお金は陛下が無理矢理……」

 

ミナカのその顔が真っ青になっていく。声は凍えたように震え始め、見ているだけで可哀そうに見えた。

何処まで本当なのだろうとレオパルドンは自然と疑いを持ってしまった。

それでもミナカが湿り気を帯びていくレーゾスの空気の中で、一呼吸整えるのを待つ。

本当の事を言って欲しかった。どれだけ酷い事でもいい、もしかしたらミナカにも事情があるかもしれないと思ったから。

その時、ミナカはちらりと地面を見た。

 

「ご、ごめんなさいお兄様! まずは順序立てて説明していくとですね、キャストリルと出会った直後お兄様とわ――」

 

その時数拍の間が開く。喉に何かが引っかかったような、詰まったような素振りを見せて。

 

「ワガハイは――」

 

……一人称が、ワガハイだった。全てを正直に話す気はないのだろうと、レオパルドンはそう思った。

 

「宇宙船でお兄様がその鎧を脱いだ時、実はその時もう中身が空っぽで! ワガハイ、おまじないで何とかした後。とりあえず一旦落ち着いてもらう為に、電子麻薬を投入したんですよ!」

 

……。

 

「いやぁ、頃合いを見て話すつもりだったんですが、タイミングを失してしまって!」

 

……。

 

「陛下……キナイに関しては、無理矢理だったんです! ワガハイ、レイプ同然で路地裏に連れてかれて、あれよあれよの内に情報を抜かれて!」

 

……。

 

「でも、まさか私兵隊に情報が流れてたなんてワガハイも夢にも思ってなかったんです! これは本当なんです! 本当、ごめんなさいお兄様!」

 

………………雨が、降り始めて来た。

 

言葉は出なかった。ただ、彼女の声が空虚な振動にしか聞こえず、内容は一切頭に入ってこなかった。

沈黙に耐え切れなかったらしい。ミナカは怯えるように、媚びた笑みを浮かべながら恐る恐る話しかけて来る。

 

「お、お兄様……その、……怒ってます、よね?」

 

この女の事を、相棒だと思っていた。

命を賭けて守ろうとした。人を、手にかけてまで。

……その時思い出したのは、あの一節だ。昔読んだ漫画のラスト、人間という存在の移ろいやすさと醜さ。

それを突きつけられた時、何故自分は守ろうとしたのかという自己への疑問。

あの時の主人公と自分を、重ね合わせる。最後に主人公が何をしたかというと。

 

「怒ってはござらんよ」

 

そう言うと、ミナカはホッとした表情を浮かべた。赤と青のそのオッドアイに安堵の色が浮かび上がり、まるで呼吸する事を今まで忘れていたかのように咳込んで。

 

「あ、ありがとうございますお兄様! いやぁ、これで胸のつかえがとれました!」

「そうでござるな」

「ワガハイも辛い立場だったんですよ、本当……借金も再生数も、本当この数週間問題が山積みで! いやぁ、少し疲れちゃいましたね? この十億、それに今日稼いだ額も合わせればプチ贅沢しても許されると思うんですよ!」

「そうでござるな」

「お兄様、ワガハイ達ちょっと骨休めで休暇に行きましょう! そうだ、今の時期なら惑星カートゥがいいですよ! 風光明媚な場所って評判で――」

 

次にレオパルドンが思い浮かんだのは、ある映画の一シーン。火山の惑星で兄弟同然の師と弟子が決別する瞬間。

――拙者がアニーなら、ミナカ殿はオビでござる。生きるも死ぬも一緒でござるよ。

レオパルドンはアニーであった。

 

「…………いや、もう終わりでござるよ」

 

終わりする事にした。ただ、レオパルドンがしたのは爆弾を起動したのではなく、関係を終わりにさせる言葉を口にした。

数瞬、ミナカは呆けたような顔を浮かべた後。少しだけ唇を震わせて。

 

「ど、どういう事ですかお兄様……?」

「ミナカ殿とは、もう終わりでござる」

「そんな、でも今怒ってないって……」

「怒ってはいないでござる……でも、もう無理でござるよ」

 

ぽつり、ぽつりと気づくと地面は湿り気を帯びて来た。

降り注ぐ雨粒は、徐々に大粒に。

――雨が降る。

 

「拙者、楽しくない嘘を吐く人は嫌いなのでござるよ……これを笑い飛ばせるほど、拙者は人間が出来ていないでござる」

「あ、いや……そんな……」

 

瞬く間にミナカの顔が再び青ざめていく。心を読めてしまったのだろう、自分が何を考えているか理解してしまったのだろう。取り繕う間を与えず、レオパルドンは別れの言葉を切り出してく事にした。

 

「今まで世話になったでござる、ミナカ殿」

「そんな、ちょっと待って下さいよ……」

「右も左も分からない拙者を助けてくれた事は感謝してるでござる、年下なのに凄まじい行動力は本当に尊敬してるでござる」

「ま、待ってください!」

「あの時、キャストリル殿から配信権をもぎ取った時、この人の夢の為に力を貸そうと……あの時は本当にそう思ったでござる」

「――待って! 待って、お願い!」

 

その顔に浮かぶのは果たして本当の涙なのか、それともただの水なのか。レオパルドンにはもう分からなかった。

レオパルドンの悲しみも、ミナカの叫びも、激しい雨が飲み込んでいく。

 

「もう無理だ……」

 

ばしゃん、と水を打つ音。ミナカがその場に膝を落とし、まるで這うような態勢を取った。

 

「わたし、まだ使い道がある! 何でもする、今度は何も隠さない! ほら、ね? ね?」

 

泥だらけの右手で涙を拭う。偽物の涙を模ったフェイクタトゥーに泥が着いた。

そうして、這うように右足に縋りつく。

 

「ミナカ殿…………」

「――味方って言ったじゃん! いつだって、ミナカ殿の味方だって!」

 

ミナカが一度、その顔を右足に付ける。

 

「一位を目指してみたいって、拙者も戦ってみたくなったって!」

「いいセリフでござろう? 拙者の好きな作品のセリフでござるよ……相棒だから言ったでござる」

「もう一度、もう一度言ってよ! お願い、お願いだから!」

「ミナカ殿にはわからんでござろう……」

 

子供が泣いていた。

サンドドラゴンに襲われたあの時と同じように。

けれど、もうミナカの為に何かをしてあげたいとはレオパルドンには思えなかった。

 

「……アンタが憎い」

 

あの映画の中のセリフを引用する。

きっと、この女に共感はされないだろうな。そういう諦めの意味も込めて。

その赤と青の瞳が一度大きく見開かれた後、滲むように絞られる。瞳に湛えるのは諦めの光だ。

 

「……じゃあ、どうすれば良かったの? これ、何が正解だったの?」

 

呻くような問いかけだった。

確かに、今は一周回って冷静でいられているが、取り乱さなかったと言えば嘘になるだろう。

一瞬、彼女に手と声をかけようとした。そして右手を上げた瞬間。

 

「ひっ」

 

恐怖で引き攣った声がミナカから上がった。両腕を顔の前に上げて、その際つんのめったように尻もちをついた。

 

「あ、いや、今のはその……」

 

直後、自分が何を漏らしたのか理解したのだろう。歯切れの悪い戸惑いが生まれる。

……それが決定打だった。

最初からミナカにとって自分は、都合の良い狂ったアンドロイドにしか過ぎなかったのだろう。最初から、絆という物は存在しなかったのだ。

そう思った。

 

「今まで怖がらせてしまって、申し訳ないでござる。拙者も残念でござるよ、ミナカ殿……本当に」

 

縋るその手を一歩後ろに下がって振り払う。

 

「退職金代わりにマーベラーはいただいていくでござる。どうやらレーゾスに予備の遺跡があるようで、そこに行けば拙者の目的は達成でござる」

「違うの、今のは本当に……」

 

最後に響く彼女の声は、すすり泣くように枯れた物だった。

 

「さよならでござる、ミナカ殿」

 

それが別れの言葉だった。縋るミナカに幾許かの慚愧を覚えながら、レオパルドンは後ろを振り向いてミナカに背を向ける。

鼻を啜る音が一つ。

 

 

――雨が、降る。

 

 

 




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