死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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22話2 貴様のようなヤツはクズだ! 生きてちゃいけないヤツなんだ!

 

 

――猛雨の中、行ってしまったマーベラーをミナカはただ見送る。

 

遠い空に輝くイオンスラスターの青い光は、やがて龍の巣のような分厚い灰色の雲に呑み込まれる。

こんな別れ方をしたかった訳じゃない。送り出してあげなきゃいけない、初めてそう思ったのに。

 

「……わたし」

 

全て正直に言わなきゃいけないと思った。ここで嘘を吐いても、信頼関係にヒビが入るだけだと思ったから。

それでもレオパルドンは本気で怒っていて、年上のいつも優しい彼の怒りに、素の自分ではとても耐え切れないと思った。

だから、喉の奥で”わたし”が一度ひりついて、ワガハイを使った。

 

「……ワガハイ」

 

スマホには鬼のように通知が鳴り響いている。黒いリボン――ニューロsynCに触れて、瞳のモニターに反映させると。

 

”は? こいつマジでクズじゃね?”

”今見たけどクズ過ぎる”

”こいつ干されるだろうな”

 

配信画面では今までの一部始終を見ていた視聴者が、この雨に負けない程激しいコメントの雨を降らせていた。

……悪名は無名に勝る。

……悪名は、無名に勝るとはいえ。

気付くと、右の拳を握り締めていた。手の平に爪が食い込む程に。

 

「いいですね、丁度いいですよ。ワガハイ最近ぬるいと思ってたんです……お兄様がいると、人生が生ぬるくてしょうがない」

 

必要なのはわたしではなく、ワガハイ。

背後で何かが落ちる音が次々と響く。一度上を見上げた後、周囲に首を振ると次々とオルムステッド家のパワーアーマーが白いパラシュートで円を囲むように着地していく。

やがて、ミナカの正面に金の装飾が施された白亜の宇宙船が静かに着地した。雨で湿り気を帯びたピンクの髪が、重たく揺れる。

彼女の真正面。船体左の壁が開閉し、中から翡翠の長髪を靡かせてキャストリルが家令の老紳士を連れて現れた。顔は数時間前に見たのと同様、扇子で隠していて表情を伺い知る事は出来ない。

 

「お嬢様、傘を」

「不要よ」

 

差し出されるように展開したスロープの上を、キャストリルは同じ雨に打たれながら静かに歩んでいく。

その髪、その顔、その白いドレスは即座に雨に濡れていった。

キャストリルは、ミナカの前――およそ一メートル程の所で止まった。

 

「………………丁度いい所に来ましたね」

 

ミナカはニューロsynCを弄ると、キャストリルに当てて操作した。借金をきっちりと返済すると、防御衛星から一度鈴の音が鳴る。

 

”借金は払うのか”

”あ、払うんだ”

 

それに対し、キャストリルは眉一つ変えなかった。

 

「きっちり返して貰ったわ、ご苦労だったわね」

「………………それだけですか」

「これでレオパルドンは自由よ、私も最低限は回収出来たわ。損をしたのは貴方だけ」

「………………他には」

「貴方が欲しい言葉の持ち合わせなんて無いわよ」

 

冷たい雨に打たれながら、キャストリルはただミナカの事を見据えた。ミナカにはそれが無言の責めに思えた。

その扇子に隠した口元は、果たして何が浮かんでいるのだろうか。

キャストリルは一度、扇子を閉じる。それはまるでスイッチの入り切りのように。

 

「愚かね、こんな事ならレーゾスの仕事なんて蹴れば良かったじゃない……」

「約束、しましたから……」

「それ、もしかして優しさのつもり?」

 

そこでミナカは再度配信のコメント欄を見る。

 

”なんて言うんだよ?”

”何言っても言い訳にしかならんだろ、この状況”

 

再生数は、今や過去最高を記録していた。そうだ、今この状況は最高に面白い状況だ。

この世は命を賭けた分だけ面白い物が出来上がるのだ。

こうなったらとことんやる。

どうせ、自殺なんて選ぶ訳ないんだから。

……ミナカは雨水を吸ったピンクと黒のメッシュの前髪を、泥のべったり付いた右手で掻き分ける。

 

クズを演じる上で大事なのは、堂々としている事。ここで下手に好感を持たせる事が一番の悪手だ。

身も心もクズに落ちる。

 

「まさか、ワガハイはロクでなしのクズですよ? 打算込みに決まってるじゃないですか?」

 

クズを演じる言葉は祈りだった。最後に残った数字という神だけが、ミナカを救ってくれる。

――わたしは鬼だ。

 

「いやー、しかしお兄様がここでドロップアウトするとは予想外でした! まぁ、電子麻薬の綱渡りは結構ポンポンにペインですからね! 渡りに船と言ったところですよ!」

 

――わたしは魔女だ。

 

「ですが、結果は上々! ワガハイのチャンネルですが、お兄様人気に依存していましたからね! ここでデカいインパクトのある一発をぶっ放した事により、もう視聴者様はワガハイから目を離せない!

 何をしても当たる状況なんですよ!」

 

――わたしは悪魔だ。

――わたしは…

 

 

――――わたしはクズだ。

 

「これから装備を整えて、華々しくダンジョンを攻めるんです! なに、しばらくは悪評が立つでしょうが、マッサージで言う所の好転反応ってヤツですよ!

 それから、それから……」

 

SNSは荒れている。誹謗中傷、罵詈雑言がひっきりなしにミナカのスマホに入ってくる。

内心を、頬の内側を噛んで押し殺す。血の味がした。詰まりそうになる喉を堪えて、無理やり笑顔に書き換える。

ただ、キャストリルだけが静かにミナカの言う事を聞いていた。

 

「バルディナ、泣いているの?」

「笑ってるんですよ、嬉しくて……こんなにも沢山人が……数字が……」

「そうね」

 

ミナカの姿を見て、目を逸らすようにキャストリルは一瞬両目を瞑る。

再度見開いた時、彼女は背後に目線を映す。自分が乗って来た船にミナカの視線を誘導すると、右の親指で指さし。

 

「乗ってく? 好きな所に送るわよ」

「やめてくださいよ、同情なんて。クズが濁るじゃないですか」

「優良債権者向けのサービスよ。格安にしてあげるわ、それ以上はビタ一文まけないから」

 

配信画面にはキャストリルを褒め称えるコメントが溢れていく。白字で”銭の亡者vs銭の勝者”や”金とんのかい”、果ては”こんなヤツここに置いてこうぜ?”まで。

膨れ上がった再生数を見てミナカが思った事はただ一つ。

 

 

「はい、という訳で今回は惑星レーゾスのダンジョンを攻略し、お兄様と別れる事になりましたー。是非高評価とチャンネル登録よろしくお願いしますー」

 

 

ここが切り時だ、である。

後を引かせるぐらいが、また次も見てくれる。

ドローンから取り出したカメラを切ると、置いていた岩の上から右手で取り、ジャケットの中に入れる。

向かい合ったキャストリルは一度上を見上げる。レオパルドンが消え去った方向。

その顔に激しい雨が流れると、ぽつりと呟いた。

 

「少し、冷えたわね」

「……えぇ」

 

対しミナカは右手で一度目頭を拭う。右頬に張り付いた水色のフェイクタトゥーを、地面に払うように投げ捨てた。

雨粒の他、何かも混じっていたかもしれない。

 

 

◆◇◆◇

 

 

【大炎上】ミナカのぶっっっちぎりダンジョン配信part1954【株価底値】

 

 

1675:落ちた名無し視聴者

配信再開したら大草原不可避w

 

1676:落ちた名無し視聴者

凄かった、とにかく凄いものを見た

 

分厚すぎるだろ、あの神経

 

1678:落ちた名無し視聴者

この女もう終わりだろw何寝言ほざいてんだw

 

 




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