死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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23話 ある親子の死

 

 

――レオパルドンとミナカの決別から一か月後。

 

 

惑星コドルの初冬の夜更けは老いた身には年々こたえてくるようになった。

 

鬱蒼とした森の中、この星に来る時に作ったテント。夏は涼しい北、冬は暖かい南で過ごす為のそれの中で火を灯したそこで、黒いローブを身にまとい、白い髪を頭の後ろでまとめた百七十センチ程の身の丈の老人――カプランは目の前のベッドで眠る娘をじっと見つめていた。

右手には茶色い使い込まれた背丈と同じ程の木の杖――位相転換杖が握られている。

 

病でやつれた頬、それでも丁寧に介護された姿はその娘がどれほど愛されていたかが解る。

……少し前に舌の筋肉が衰え、もう言葉も話せなくなった。今は意識すらない。

 

「母さんと出会ったのは、春の桜が咲き誇る季節だった」

 

娘の呼吸は既に死戦期呼吸を迎えていた。胸は布団を持ち上げられない程浅く、無呼吸のタイミングが徐々に紛れていく。

末期だった。死を迎える直前の光景である。

 

「お前が生まれたのと同じ季節だ。今度の春は東で過ごそうか、ここの星に来てから十数年……行った事がなかったな」

 

そこで彼は左手を位相転換杖に伸ばす……伸ばして、数拍して再び下げた。

そうして娘の最後の呼吸が終わる。

 

「母さんと共に待っていてくれ……父さんもすぐ行く」

 

彼女の顔を撫でると、カプランは娘が凍えないように毛布を一枚かけた。そうして机の上に置いていた黒いスマホを手に取る。

――テントに突き刺す光、数キロ先にある東の丘陵地帯から発せられるそこにカプランは向かう。

スマホの中には、かつて友と一緒に翻訳にいそしんだラクトゥー年代記のPDFファイルが入っていた。

 

窓の外ではこの土地に、初雪が降り始める。

 

 

――――。

――。

 

 

東の空に輝く赤い光は、星ではないとヴァレンは見立てていた。

 

「人工衛星……古い型だが、よく手入れされてると見た」

 

……キナイの仕事は見事な物で、僅かな手がかりで十数年姿をくらましていたカプランを見つけ出す事が出来た。

木々を掻き分け現れた旧友。

ヴァレンにとって、十数年ぶりに再会したカプランは記憶より遥かに老けていた。

かつてまだ黒かった髪はすっかり白く染まり、筋肉も半分以上落ちていた。顔のしわは年齢だけじゃなく、苦労も刻んでいるに違いない。

 

 

〈■■■■■■〉

〈繧ォプ繝ク繝ソ縺ッ奥縺輔繧薙縺ョ病繧定治縺励縺溘縺九縺」縺溘縺代縺ゥ、娘繧定代償縺ォ出来縺ェ縺九縺」縺溘繧薙縺繝ト繧繝ト〉

 

 

視界に表示されるカプランを示すHUDにノイズや文字化け、欠落が起こる。

だが、内容は察しが付く。衛星による監視ログを使い、疑似的な配信状態にするつもりだ。……もし実際の配信状態にすれば、この星を荒らされる。それを忌避しての事に違いない。

左手に握った重たい花束が、僅かに軋んだ。

 

「お久しぶりです、カプラン」

「久しいな、ヴァレン」

 

カプランの黒いローブが風にはためく。カプランは自分の懐からスマホを取り出すと、地面に放り投げ――

 

「これが貴様の求めた物だ。翻訳してある、それを持ったらこの星から去れ」

「……何故です」

「儂にはもう不要だ。欲しいのならくれてやる、だから去れ――二度と来るな」

 

くるりと後ろを振り返り立ち去ろうとするカプラン。その後ろ姿に、ヴァレンは聞こえるように呟く。言葉には仄かに悪意が香っていた。

 

「ご息女はお元気でしたか? 最後にお会いした時は、確か学校に入られる前だったかと」

 

ソーサラーは人の悪意、炎上を力に変える。少し悪意に当てられてしまったらしい。

 

「去れ」

「奥方を遺伝病で亡くされてから、男手一つで育てられたのです。さぞかし、ご立派になられた事でしょう」

 

風切り音すらしない。

代わりに周囲が一度炎で瞬く。

……ヴァレンの首元には赤い炎をまとった刃が正面から突きつけられていた。刃を辿るとその先には右手で位相転換杖を抜き放ったカプランがいる。周囲の木々が円状に燃えていた。

移動したのではない。ショートカットバグを使ったのだ。

 

ウィザードが同期と補正で現実を可逆的に改変するのに対し、ソーサラーはバグとノイズで現実を不可逆的に破壊する。

周囲の木々が燃えているのは代償だ。ショートカットバグにより距離が焼失したのだろう。

 

「奥方は神の血族。ラクトゥーにゆかりの支流から来られた方と聞いております……是非お会いしたい」

「あの子には指一本触らせはせん」

「貴方も老いましたね。その言葉だけで、貴方が何かを掴んだか察せられますよ。ソーサラー、カプラン」

 

それを掻き消すのはただ一つ――花束である。

左手の花束は既に無い。頭上に放り投げたからだ。

空中で逆さになると、そこから色とりどりの花が――そして灰色の右手義手=爪から肘にかけてが溢れ出す。

 

「なに!?」

 

ヴァレンは左手でイドロダイトの短剣を鞘から抜くと、カプランの右腕を切りつける。

刹那、カプランの腕が生身から灰色の義手にすり替わった。

ソーサラーの力は途端消え失せる。刃からは炎が消え……異能の力は機械に弱い。

同時にヴァレンは位相転換杖を右手の中で上に滑らせた。

 

「――」

 

ヴァレンから鍔鳴りの音が鳴る。

……カプランの口から一筋、赤い血が流れる。左胸には僅か数ミリの穴が穿たれていた。

ヴァレンが握った青い光の刃は、回転しながら落下する杖半分に再び収納されて消える。

命脈を断つにはそれで十分過ぎた。カプランが両膝を地面に着く。位相転換杖を杖にして、何とか地面に倒れ伏さなかったが、それも長くは持たないだろう。

 

「残念です、貴方ほどの方がこのような粗末な策にかかるとは」

 

カプランは血を吐きながら義手に変わった自分の腕をしばし見つめる。

 

「……リプロウェポンか」

「帝国宝物庫から拝借いたしました。もっとも相応に高く付きましたが……貴方を相手にするなら手段を選ぶ気はない」

 

そこでヴァレンは虚空から青い光の板を抜き取ると、右手で取り出した自分のスマホに差し込む。

目線を手元の板に移すと、そこにはカプランが翻訳したというラクトゥー年代記が開かれていた。

 

「何故ですか? 何故、貴方はこれを翻訳して姿をくらましたのです……」

「……貴様には、分からんよヴァレン」

「説明してください、貴方は何を知ってしまったのですか」

「……何故、古代の民は宇宙すら書き換える程の演算機を封じたと思う?」

 

ゆっくりと、杖を握り締めてカプランは立ち上がる。闇の中、彼の青い瞳がヴァレンを確と掴んで離さない。

対し、ヴァレンはその姿から視線を逸らす事をしなかった。

 

「お前の野望は、全ての者に異能の力を与える……その願いも、叶えるなら高く付くと思え」

「何故です。貴方は、奥方の命を救いたかったのでしょう」

「儂には、出来なかった」

 

吐き出すようにそう言うと、カプランの瞳から涙が一筋流れる。

 

「出来なかった、出来なかったのだよヴァレン……何もかもを犠牲にした、それでも。それでもあの子だけは――」

 

くるり、とカプランがその視線を背後に向ける。そこでソーサラー・カプランは息絶えた。

初冬の冷えた空気の中、ちらほらと雪が降り始める。

 

「友よ……私には、出来る」

 

そう思いながら彼はラクトゥー年代記。その最も知りたかった一文を探り当てる。

それはラクトゥーの聖域、その封印を突破する方法が載っていた。そして遺跡の力を手に入れる方法も。

……丁度、読んだ時。彼のスマホに短いメッセージが入る通知音。

 

送って来たのはキナイ・ミスリル。

仕事は速い。カプランの捜索と共に命じたもう一つの仕事も終わらせていた。

 

ピンク色の髪と自分の髪は、血縁関係であると……そう記されていた。

 

「因果とは、尾を食む蛇の如きものなれば……とは言え……」

 

雪は無情に降り続ける……ヴァレンの体を震わせるのは冬の冷たさか、それとも別の何かか。

それでも彼は命じる。

キナイに、ミナカ・アラギを確保せよという命令を。迷いはあったが、躊躇う事はなかった。

 

「――」

 

ヴァレンの口から血が溢れる。赤黒い血は内臓の幾つかの腫瘍から来ている物だ。いよいよ命が短くなって来ているらしい。

 

――初雪に混じり、赤い燐光が彼の杖から昇り始める。

 

 

◆◇◆◇

 

 

――三日後、第十三方面オルムステッド家旗艦『フィアン・ルー』にて。

 

 

「お嬢様、何かお悩みですか?」

 

人工重力の効いた執務室の中、キャストリル・クォスティ・オルムステッドはたった今入った報告に頭を抱えていた。勿論貴族の作法として鍛え上げた自慢の分厚い面の皮で、臆面にも出す事はないが。

傍らに控えたバルタザールが話しかけて来たのに対し、彼女は人差し指を加えて逡巡した後に答える。

 

「バルタザール、この報告書は読んでいて?」

「いえ、ドヴェル=スタイン伯爵家の件でございますよね?」

「長男は見事に責任を取らされ蟄居。我が家には莫大な慰謝料が入った訳だけど、キナイの足跡を追って辿り着いたのが……ヴァレン・スローンよ」

「なんと」

 

そこで白磁に注がれた紅茶をキャストリルは一口啜る。タンニンが人生の無常さを表す、そんな味だった。

 

「それだけならただ単なる不正で終わったけど、ここからが本番……ヴァレンには帝国宝物庫での窃盗容疑がかけられているわ」

「剣呑な話ですな……それで盗まれたのは?」

「交換という事象を司るリプロウェポン……手下のアンドロイドのログを抜いて発覚したわ。という訳で先程密やかな叛意ありという訳で、我が家に極秘の討伐命令が出たの」

 

ティーカップを置くと彼女は一度嘆息する。その内心を汲むかのように、再び紅茶がカップに注がれた。

 

「しかし、いささか道理に合いませぬな。それはギルドや近衛の役目では? それに極秘とは……」

「ヴァレンは腐ってもギルドの職員よ。毒蛇が何匹か仕込まれてもおかしくはない、ましてやキナイと組んでいたら公にするのは悪手……そして、今回直接の被害者である我が家の私に討伐せよというのが陛下のご厚情」

 

そこでキャストリルが目を移すのはレーゾスの現在を簡潔にまとめたレポート。白いA4用紙三枚には彼女が見たくない物が赤裸々に書かれている。

一枚目に書かれているのは、残存兵力数。キャストリルが動かせる駒の数。

 

「正直、私に自由に動かせる軍隊が少ない。現在再編の真っ最中だけど、人手が足りないわ……一応アンドロイド兵を何ルートかで手配した訳だけど」

 

キャストリルが自分の軍隊を再編しようにも、依然のレーゾスのメタルワーム騒動で駐屯軍は少々損耗している。負荷はかけられない。

という訳で手配したアンドロイド兵なのだが――そこで二枚目。ご丁寧にもわざわざ金のかかるタイプのホログラムペーパーを使った手紙から、青白い光が浮かび上がる。

再現されるのはギリクスタン兄。

 

 

《親愛なる妹、キャストリルへ……お前が陛下の温情篤く、叛徒ヴァレン・スローン討伐の命を受けた事を血族として誇りに思う》

 

金の髪をオールバックにした偉丈夫は、無駄に高い演技力で。いけしゃあしゃあと、一方的に自分の事だけ話す。

 

《しかし、私も丁度辺境での逆賊討伐に入った。故にお前が手配したアンドロイド兵団を、こちらに併合させてもらった……お前の足枷となって申し訳ない》

 

申し訳ないなら、そもそもやるな……という言葉をキャストリルはぐっと堪える。

 

《せめてもの詫びとして、我が祖父の銀行グループを通して賠償金と兵団の再手配を執り行った。お前が陛下の臣として励み、オルムステッド家を栄誉で輝かせる事を願う》

 

そこでホログラムペーパーは終わる。これだけで一般帝国臣民数か月分の生活費となるだろう。

 

 

「親愛なる妹へ……なんて面の皮がいささか分厚すぎませんこと、ギリク兄様」

 

――先程入った報告によるとギリクスタンが緊急の遠征の為に横流しされたらしい。

このままでは機先を失してしまう……兵は神速を最も尊ぶ物だ。

 

「お嬢様、失礼ながらこのままでは陛下の命に支障が出ると思われます。配信冒険者をお雇いになられた方がよろしいのではないでしょうか?」

「そうね……」

 

レーゾスの残存兵力。ヴァレン・スローン討伐命令。横流しされたアンドロイド兵団。

一先ず目先の問題を解決する事にする。今一番は、ラクトゥーの動向が一切掴めなかった事だ。

今必要なのは、信頼のおける者だ。

 

そこでキャストリルは気分転換に配信を見る。お気に入りに入れていたチャンネルの一つだ。

画面に映るのは目のクマが深く刻まれ、ピンク色のジャージを羽織ったその姿。

 

《つまり自傷行為オナニーとは心を代償にするオナニーなんです。ワガハイ、これを毎日やる事によって自己を啓発し――》

 

チャンネル名はミナカのぶっっっちぎりダンジョン配信。

再生数は十五万。左肩下がりで順調に再生数と登録者数、あのレーゾスでの一件以降その全てを落として行ってる。

最近はもっぱら惑星コーグに引きこもり、変な自分語りで一日を無駄に費やしていた。

 

「……」

 

現状、キャストリルが唯一自由に使える駒がモニターには映っていた。

右手人差し指を唇に当てるのは、彼女なりの躊躇いの表れだ。

しかし、信頼はおける。

 

――キャストリルはその金の瞳を三枚目に移す。

 

それはヴァレンが今求めている物。これを出せば、彼女が裏切る事だけはありえない。

 

「暇そうね、バルディナ」

 

眉一つ変えず、キャストリルはぽつりと呟く。

…………オルムステッド家の家訓は一つ、『立ってる者は親でも使え』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んで合いそうでしたら、お気に入り・しおりに入れていただけると更新を追いやすいです。
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