死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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24話1 配信敗残兵☆ミナカちゃん

 

 

――レオパルドンとの決別から一か月が過ぎた。

 

 

あれからというもの、ミナカは炎上の的になっていた。一か月経っても非道さをこすられ続け、登録者数は左肩下がりで落ちていく一方。

メンバーシップ登録者数はなんと脅威のゼロ。

そんな彼女は現在――

 

「自傷行為オナニーの一番良い点はやはり怒りや恥辱を忘れない事ですね。という訳で今日は視聴者様にワガハイのズリネタを公開……」

”面白くないからやめて”

”不快”

 

薄暗い四畳半の部屋の中、ミナカはベッドの上で自分語りをしている。口調こそ丁寧だが、レオパルドンといた時のような覇気は消え失せていた。

 

 

〈VIEWERS:8079622/Au REACTION LEVEL=LOW〉

 

 

あれだけいた視聴者はもう半数以上減っていた。これから貯金と合わせてもっと減る事は容易に予測できる。

ミナカはもう何もかもが億劫になっていた。

……もうこれでいいかもしれないと思った。

……まだキナイから振り込まれた金が四億あるし。

そんな浮ついた気持ちで、謝罪動画から始まった自分語り動画を上げている訳だが、そんなもの視聴者が見たい訳がない。それは解っているが、もう止める気も無かった。

 

”お前さ、本当このままでいいの?”

”格闘技の教室より面白くないぞクズ”

 

ここまで来ると憐憫のコメントが入り込んで来る。確かにミナカにも思う所があった。

 

「そうですね。確かによくないですよね…………そうですね、んじゃいっそマジモンのオナニー配信でもしますか」

 

どうせならとことんクズで行こう。そう思うと立ち上がって段ボール箱から、酒もタバコもやらないミナカが集めている唯一の趣味。電マコレクションの一つ、『桃色暗黒真竜の夢』を手に取る。使ったらどこかの星に名を残せるという噂の電マだ。

 

「もうキメるしかありません。そうこの電マでね……」

”やめろおおおおおお!”

”いやぁああああ!”

”マジかよ……(絶句)”

「天井の染み数えてたら終わりますよ、視聴者様」

 

そうして泣き叫ぶようなコメントが飛び交う中、いざミナカがショーツの紐に指をかけたその時。

……地面が浮いたかと思うと、ミナカは顔面から思いっきり右の壁に突っ伏した。両足はエビぞりのように中を向く。

今まで立っていた床がいつの間にか壁になっていた。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”! 超いてぇです! ――何するんですかパイセン!?」

 

鼻から漏れる赤黒い血を抑えながら、ミナカは部屋の中で叫ぶ。

その時、ミナカの部屋のスピーカーからぶつっという音が鳴る。

 

《何公共の電波使ってシコろうとしてるんだコーハイ! やっていい事と悪い事があるだろ!》

「いいでしょう、視聴者様だって大喜びですよ!」

《よくない! 全然よくない!》

「なんでですか!?」

《ここは、アタイの家だからだ! 人の家で勝手にシコるな! ――おら、姿勢制御スラスター折檻のおかわりだコラ!》

「ぶべらぁああああああ!」

 

 

――――。

――。

 

 

「離して下さいパイセン!」

「ほら、コーハイ! お友達が来てるんだからシャンとしろ!」

 

マジモンのオナニー配信はそんな感じで潰れ、ミナカはパイセンに背中を羽交い絞めにされながら部屋から引きずり出された後、廃戦艦城の艦長室に連れ込まれた。

向かって右にスライドするタイプの銀色の自動ドアが開くと、そこには翡翠色の長髪に金の瞳の貴族女がいた。身に纏う薄紫のドレスは飴色の壁紙と相まって目に眩しい。

向かって左側には壁一面のモニター。

……久方ぶりに会うキャストリルが、黒檀のテーブルと黒革のソファに腰掛けながら紙コップで紅茶を啜っている。

 

「久しぶりね、バルディナ」

 

金の瞳が右を向くとミナカはと言えば。

 

「パイセン」

「なんだ、コーハイ」

「自分、オナニーに戻っていいですか?」

「ダメに決まってんだろ」

 

首元を掴まれるとミナカは無理やりソファに座らせられる。

 

「ほら、折角のご指名案件なんだからちゃんと話し合いな!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! パイセンは!?」

「アタイはただのメカニックだぞ! 配信冒険者ならちゃんとクライアントと向き合うの!」

 

そう言い残すとパイセンは後ろでまとめた赤い長髪を揺らしながら部屋から去る。

 

「暇そうねバルディナ」

「……何しに来たんですか? ワガハイ、別に暇でも何でも無いんですが。今日だって自傷行為オナニーに関して一席ぶってやったんです」

「自分が面白い物を作り上げたと思い込む輩ほど滑稽なものはなくてよ、バルディナ?」

 

自然と歯噛みするミナカに対し、久しぶりにあったキャストリルは容赦なく毒を浴びせる。

 

「貴方を嬲っても時間の無駄だから単刀直入に言うわね。仕事の話を持ってきたの」

 

そこでミナカは一瞬目を丸くした後、すぐに嘲笑うような顔を浮かべる。

 

「生憎ですが、ワガハイはもう配信冒険者は廃業なんですよ」

「じゃあ、復帰してちょうだい。お金は出すわ」

「ワガハイはこの星でオナニーを求道し、貯金をちょっとずつ崩しながら、飼いならされた幸せドッグとして暮らすんですよ!?」

「それ取り止めね。はい、とりあえず今から具体的な依頼内容を話すんだけど」

「聞けよ、人の話をよ!」

 

紙コップの紅茶を口に運びながら、キャストリルはミナカを確と見定める。

何故今頃になってこいつはいきなりやって来たのか。でももう構わない、思いのたけをぶつけようと思った。

 

「わたしはもう終わったんだ! お兄様はもう何処に行ったかわかんないし、視聴者は漏れなく全員敵! この廃戦艦城にいるのだって、住んでたコロニーに剃刀レター無言電話に無言ファックス、果てには数キロ先の衛星すら覆う程の大量の落書きで覆いつくされたから!」

 

再起不可能レベルまでミナカは炎上した。頼れる伝手は、イメージが悪くなるからという事で全滅。コロニーの管理人からは追い出された。挙句の果てにはネットニュースの記者に追いかけ回され、結果辿り着いたのがパイセンの元だった。

ネットのスレは今も光子ミサイルを百発ぶちこんだ街より炎上している。

レオパルドンがどうなったかは知らない。それはもうミナカに関係のない話だから。

 

そして何より――その理由を思い浮かんだところで、ミナカは恥に耐え切れず閉口してしまう。

 

「はい、聞くだけ聞いた……そろそろ仕事の話に戻るわよ」

「これ以上何しろって言うの!?」

 

そこでキャストリルは紅茶の入った紙コップを机の上に置く。

そして机の上に置かれた黒いリモコンを手に取ると、キャストリルからしたら背面のモニターに向けた。

映るのは、ピンク色の三メートルのパワードスーツ。

ドラム缶を思わせる円筒状の胴体に四肢を付けたそれ。顔はなく、代わりに肩より高い位置にはターレット式三連レンズが嵌っている。

 

「貴方が買ったパワードスーツ、良いチョイスね。信頼で堅実的な仕事ぶりが伺える、メカニックの腕もいい……自分語りに走る前、思ったより堅実な動きしていたじゃない。アレ何時まで置物にするつもり?」

「……やってみて、初めて解るお兄様の凄さですよ」

 

最初は、パワードスーツを手に入れて堅実なダンジョン攻略動画を上げていた。罵倒も嘲りも耐えられた。

耐えられなかったのは、現実である。

一億五千八十三万位から配信冒険者ランキングが上がらなかったのだ。

 

「どれだけ必死に戦っても、ランキングが一億五千万から上がらなかった……一位になれないなら、もういっそ廃業した方がいいじゃない」

「だから?」

「一位になれないんですよ!? 一度はトップまで上り詰めたのに!」

「……どうやら、貴方には教育が必要なようね」

 

嘆息一つ。キャストリルはソファの上から立ち上がりミナカの前までやって来る。

自分より頭一つ小さいキャストリルが前に来た時、ミナカは思わず声が詰まった。

刹那が手が伸びる。キャストリルは右手を上げるように伸ばし、ミナカの両頬を掴んでいた。

 

「まずはその傲慢を改めなさい。高々一か月で根を上げるだなんて、傲慢もいいとこ。第二に絶望を吐くなら相手を選ぶ事ね、首位から陥落しただなんて……潰れた王朝の王女の前では慎む事よ」

 

そして右手をミナカの頬から離すと、懐から取り出した扇子を取り出すと顔にかざす。

 

「貴方の絶望なんて知らない……けれど貴方には頼みたい仕事があるからここに来た。おわかりバルディナ? 解ったならとっとと絶望から顔を上げて」

「……一体なんなんですか、ワガハイつまらない仕事ならオナニー語りと自己憐憫に戻りますよ」

「必要経費は出す。貴方にして欲しいのはただ一つ、叛徒ヴァレン・スローンの監視よ」

 

キャストリルが提示した仕事内容はこうだ。

ヴァレン・スローンは現在、帝国宝物庫からの盗難事件により叛徒の容疑がかけられている。

そして内偵調査によりヴァレンはアンドロイドからなる一大勢力を惑星ラクトゥーに築いており、いずれ決起する事が予想されている。

ミナカが行うのは、惑星ラクトゥー周辺での監視だ。何か問題があれば報告する、ただそれだけの簡単な仕事。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! これ偵察なら配信とかしちゃダメですよね!? 金以外にワガハイになんの得があるんですか!?」

「まず第一に戦闘と接近は禁止。即時撤退が原則……だから配信戦闘の必要はないわ。第二に貴方にはお金での報酬の代わりに、皇帝陛下印の感謝状と軍トップから最高位の勲章が授与されるわ」

 

その時ミナカは一瞬心が揺れた。最高位の勲章……それが意味する所を知りたくて、気づくと自然と深堀した。

 

「そ、それって赤ダイヤモンドの盾ですかね……配信冒険者の最高栄誉の?」

「残念だけど赤ダイヤモンドの盾では無いわね。悪いけど、軍人と配信冒険者の褒章レートは違うから……そうね二段落ちるゴールドの盾ぐらいの勲章かしら」

「なんだ、盾じゃないのか……」

「けれど、イメージは格段と良くなるわよ。何せ端から見たら無報酬で自分の身をかえりみず、帝国の為に貢献した配信冒険者になるんだから」

 

うっ……とミナカは言葉に詰まった。確かにこの稼業でイメージは非常に重要だ。

しかし、ここまでうまい話。何かが無い訳が無い。

 

「勿論、貴方にも苦労はしてもらうわ。まず人員手配と艦船に関しては貴方にやってもらう。期限は三日よ」

「はッ!? 三日!? 正気ですか!?」

「うまい話なんてある訳無いでしょう。かつ、ここからラクトゥーは八十パーセク。監視されてると想定してワープゲートの使用はNG、……必然的にチャーターするのは大型の艦船。最低でも駆逐艦クラスの軍艦になるわね」

「嘘でしょ!? 三日で軍艦なんてチャーター出来る訳ないじゃないですか!」

「更に人員調達でギルドを使うルートもNG。ヴァレンの事を考えたら極秘裏にね」

「こういう時のギルドなのに!?」

「私、貴方の為に軍トップの軍務尚書動かしたのよ? これぐらい苦労の数にも入らないわ」

 

その言葉に思ったのは一つ。

というか、何故自分に?であった。

この女はレオパルドンが欲しかった女の筈だが。……視線は自然と疑う物となっていたらしく、キャストリルはそれを察したのか咳払いを一つして。

 

「貴方を選んだ理由は二つ。ヴァレン・スローンはレオパルドンを狙ってる可能性があるわ」

「どういう意味です?」

「帝国宝物庫から盗まれたのは一つ。国宝指定のリプロウェポン……効果は肉体や精神を交換する力を持つ代物」

 

そう言うと、キャストリルはリモコンを左のモニターに向ける。映るのは壁画だ。壁画に描かれたレオパルドンに似た十二体の鎧。

 

「これは惑星ヴァートゥの神聖不可侵の大聖堂の壁画。陛下との協定に当たり、大司教から特別に公開された物――神話の神々の似姿よ」

「突飛な情報がワッと来て、脳が……お兄様は神様なんです?」

「神の鎧ではあるでしょうね……そして次にヴァレンの肉体の病状がこれ」

 

画面に映るのは幾つかの黒と白のレントゲン写真。そして電子カルテの数々。

 

「内臓関係はほぼ全て。異能を使う代償で、四十代後半でこれとは……百歳の我が家のおじい様でももっと健康的よ」

「これだけでお兄様の体が欲しいっていうのは、結びつき弱くないですか?」

「惑星ラクトゥーには神の力が眠っている、ヴァレン達の目的はそれよ。けれど、力を振るうにはヴァレンの体はもたない……総イドロダイトの、同じく神の鎧に縋るのは理屈として合ってるわ」

 

そこでキャストリルは人差し指を立てる。

 

「幸運だったのはヴァレンの病状が悪化したからこれが発覚したのと、キナイが別件で動きを止められている事ね……遺伝子研究所に何の用があったのか」

「それで結局一体全体、何でワガハイにこれを言ったんですか?」

「貴方が使える駒だからよ? それ以外何かあって?」

 

そこでキャストリルは扇子で顔を覆う。

 

「貴方が最低のクズだろうが何だろうが構わないわ。私にとって重要なのは、オルムステッドの名にかけこの討伐命令を完遂する事。……立ってる者なら親でも働かせる、使える駒は全て使う、それが我が家の家訓なの」

 

キャストリルはミナカをバカにしなかった。ただありのままの事実を述べ続ける。

 

「それにもう一つは……」

 

そこで彼女は不意に口をつぐむ。奇妙な間が開いた。

 

「もう一つは……何ですか? 急に黙らないで下さいよ」

「やめたわ」

「はい!?」

「今ここで言うのを止めたの。だって、楽しみは次の機会に持ち越した方がいいじゃない……この仕事を完遂出来たら教えて上げる」

「ワガハイ、まだ引き受けるなんて一言も……」

「やるわよ」

「なんでそんな事言えるんですか!?」

 

そこでキャストリルは扇子をぴしゃりと仕舞い込むと、嫣然とミナカに笑いかけ。

 

「……だって貴方、レオパルドンとの約束は守るでしょ?」

 

その瞳は、その言葉は、あまりにもミナカの心を見透かしているかのように――

だからミナカはこう返す事にした。

 

「キャストリル……いえ、ロイヤルファッキンビッチ」

「なにかしら?」

 

取り出すのはピンクのスマートフォン。ひび割れた画面に映るのは、アプリを立ち上げ速攻で作成した契約書。

 

「名義はワガハイ、保険は共同名義、作業納期は今から七十二時間後。各違反へのペナルティは報酬相殺……以降は確認して下さい。――ご理解いただけたらサインを」

「……調子出てきたじゃない」

 

 

――――。

――。

 

 

パイセンの元にミナカがやって来たのは、オルムステッド家の令嬢が帰った直後だった。

レオパルドンが一か月の沈黙を破り、配信している姿がパイセンが机の上に置いた青いレザーカバーのタブレットに映る。

 

《みんなの事を思えば、こんな形で終わって本当に申し訳ないと思うでござる……けれど、拙者にはあれは許せなかった》

「コーハイ、これは……」

「……パイセン、大至急で戦艦って都合できますか?」

 

ミナカは一度唇を噛んだ後、短くそう言う。

その言葉には確かな意思が籠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。

第24話から、次章の火種が本格的に動き始めます。
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