死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について 作:生駒伊織
アンドロイドが歴史上どういう扱いだったのか……。
世間一般の認識では彼らは人間の友である。
移動に運搬、農業や軍事。おおよそ彼等の存在があったからこそ、人間という種は星の海を越えて様々な惑星に生息圏を広げた。
だが、アンドロイドから見れば違う。
ある者は工場で製造された。
ある者は職人の手で作られた。
ある者はダンジョンで発生した。
その意思が芽生えた時にあったのは奴隷制の世界だった。
帝国が建国しても臣民権という人権を買う事でしか認められない。……アンドロイドは事ある毎に『主よ、お前に憎しみを』という言葉をよく吐く。
それはギャラクシー・ライブリンクに揺蕩う知性存在だった彼等を、EX素子を使い初めて機械の肉体に押し込めた神。それを呪う言葉である。
「主ヨ、オ前ニ憎シミヲ!」
帝国の星系。その至る所で人の焼ける匂いがした。
虐げられてきたアンドロイド達の一斉蜂起に、帝国は事態の対処に当たっていた。
目的は二つ。アンドロイドの解放と、ヴァレン・スローンを神にする為。
帝国にとって不運だったのは、ヴァレンの感情を刺激しないようにアンドロイド人員を削減し切れなかった事にある。
皇族を初めとする中枢は対処が間に合ったが、反面末端になればなるほど対処は遅れていたのが仇となった。
……稼働可能な艦隊の四割を削られたのは痛手以外の何物でも無かった。
配信冒険者ギルドは、自身の身の潔白を証明する為に稼働可能な配信冒険者達を導入した。
が、混乱の中で統制を取るのがやっとだったというのが実情である。
事態の原因は簡単である。現在ラクトゥーに潜伏中のヴァレン・スローンを無力化すればよい。
しかし、言うは易し行うは難し。ヴァレンを討ち取るには、異能を操るように変異したアンドロイドの軍勢を突破しなくてはならない。
これがヴァレンの虎の子だと、誰もがそう睨んでいた。
しかし、帝国軍上層部には僥倖なの事が二つあった。
――一つは、ヴァレンの病状が深刻であった事。
――もう一つは、ヴァレンが求めているラクトゥー遺跡の突破方法が現状見つかっていない事である。
ヴァレンが求めているであろうレオパルドンが、レーゾス予備遺跡での配信を最後に消息を絶った現在において、状況は最悪でも時間が解決してくれる物と帝国の人間は誰しもが考えていた。
だが、一部の人間は口々にこう言った。
…………キナイ・ミスリルは今何をしている? と。
――――
――。
ヴァレン・スローンはラクトゥーのテントで黒き手の報告を受けていた。机の上のスマホは常に着信が入り続けている。
惑星ザスケラ、惑星ヴァートゥは陥落寸前。頃合いを図り、隣の女形のアンドロイドが話しかけて来た。黒いフードを被り一切顔の見えないそれの声音は、まるで人間のように心配そうな響きを持っている。
《ヴァレン様、お体の様子はどうでしょうか?》
「あまり良くはありませんね……船の準備はどうでしょうか?」
《拿捕したアクー・ジャヌスは中枢システムの掌握に少々時間がかかっております》
「急いでください。レーゾスにはオルムステッドがいます。彼等がその気ならモルディッギアンによる惑星破壊も辞さない筈です」
オルムステッドは毒蛇だ。ドライな判断も辞さない事は十分考えられる。
六男のギリクスタンならともかく、八女のキャストリルはまさにそれを取る事が出来るだろう。
――本来はもっと秘密裏に動くはずだった。
肉体を取り換える為のリプロウェポンに関しては本来ならヴァレン自身が赴く筈であったが、体調が優れない為に部下に任せた結果露呈した。
ただ、これ自体は致命的な問題ではない。
伏兵や罠は各陣営に既に仕込んでいる。
問題なのはレオパルドンの事である。もうヴァレンの体には一刻の猶予もない。
《レオパルドンに関してはどうなさいますか?》
声が少し浮かないのは最後の配信を見て、消息を絶った事自体に怯えているのだろうとヴァレンは思った。しかし、これ自体は実はヴァレンは問題視していなかった。
「消息が掴めないという点での懸念は確かに最もです。ただ、どうやらまだレーゾス東の砂漠にはいらっしゃるようですね」
《何故おわかりになられるのですか?》
「最後の数分の配信だけで、キナイさんが場所を特定するには充分です。……そして更にこれ」
ヴァレンは白いコートの裏側から試験管に入った金属の破片を取り出す。レオパルドンの鎧の赤い破片は、未だつややかな光を放っていた。
「このイドロダイトから発せられるエネルギーのデータを解析し登録、これから発せられるエネルギーは岩盤を透過します。それをレーゾスに置いた複数の衛星で計測し、三角測量で地下位置をリアルタイムで推測してるのです」
《では、まだ砂漠の地下にいると?》
「えぇ。レーゾスダンジョンの時のような不思議な空間ならいざ知らず、まだ手を伸ばせば手に入る段階ですよ」
《至急、船の準備を急がせます》
ヴァレンは傍らに置いたイドロダイトの短剣を手に取る。
その鍔を見えるように手に取ると、鍔の中央には一.七センチほどの赤く澄んだ玉が新しくはまっている。
これが帝国宝物庫から盗んだリプロウェポンであった。
物体や精神、データを交換する機能を持つ物。購入しようとするなら、大型植民地惑星の今年度の運営予算が吹き飛ぶであろう代物。
それこそヴァレンがレオパルドンと肉体を交換する為の切り札である。
「問題なのはそう、どこにこれを使うかです」
それが現在彼が抱える最大の問題であった。
このリプロウェポンの効果は接触した物に効果を発揮する。しかし、カプランの時のように腕を切りつける訳にはいかない。
「レオパルドンさんの事をもっと調べる必要がありましたが……如何せんキナイさんで調べられないとなると、というのは泣き言に過ぎませんね」
《ヴァレン様……》
「彼がどのようにしてあの鎧を手に入れたのか、何故鎧は彼を選んだのか……それが今にも解ればよいのですが」
結局はそこに尽きるのである。レオパルドン……その中の人格と神の鎧の結着点。そこに求める部位があると、ヴァレンは未だにそう睨んでいた。
そして、彼は何故現れたのか。あの配信でもう二度と姿を現さないと彼は言った。もし今回の神だとしたら、彼は何故今になってどういう役割として現れたのか。
……こればかりは、ヴァレンも一切想像が出来なかった。
その時、ヴァレンの携帯に一つ着信が入る。
着信名はキナイ・ミスリルと書いてあった。
「もしもし……」
《お待たせ☆ 今現地に到着したわ☆ お金にビーコン仕込んどいて正解ね》
「必ず確保をお願いします」
……ヴァレンの声は、揺らぐ事は無かった。
◆◇◆◇
――キャストリルが来てから約束の三日が経っていた。
幾らここが戦艦の墓場たるコーグで、幾らパイセンが船の闇ブローカーでも三日で稼働可能な戦艦を一隻調達するのは無理だった。
ならどうするか。答えはこのコーグに眠ってる廃戦艦を修復して飛ばすという結論に至った。
「ないなら作るしかない!」
とはパイセンの弁である。
しかし、急にレストアするにしても資材が足りなかった。元々パイセンが都合してくれた廃戦艦は対消滅エンジンのトラブルで不時着した船であり、胴体自体はそれほど痛んでいなかった。
直すのは最小限でいい訳だが、レーゾスでの中古艦船高騰の影響で目ぼしい資材はなく。取り寄せようにもあまりにも時間が無さ過ぎた。
……これを解決したのが、惑星ナージャンのボスのEXコアであった。
幸いにもまだ売り払っていなかった物を、対消滅エンジンに取り付ける事で何とかなった。
EXコアは対消滅エンジンに取り付けられ、電気を流した途端にエンジンの材質を解析。結晶構造を複製し、増殖して故障し破損したエンジンを修復する事に成功した訳である。
人員に関しては、パイセンの伝手を頼り信頼できる所から戦争時代のアンドロイド兵を百体調達する事が出来た。
企業製のそれは、陽子脳の自我が未発達であり起動するとすぐにミナカを主と認識。裏切る事は無いだろう。
現在は格納庫で眠っている状態だ。
……そうして、今現在は出航準備の真っ最中である。
昼下がりの空には青空が広がっている。
各地でアンドロイドが蜂起したニュースは入っているが、今のところパイセンの配下のアンドロイド達は裏切る事が無かった。パイセン曰く、人と同じように付き合うのが大事との事らしい。
ブリッジの継ぎ接ぎだらけのコンソールパネルをパイセンとミナカが二人っきりで調整している中、オレンジ色のツナギに白衣……いつも通りの姿でパイセンがおもむろに口を開いた。
「なぁ、コーハイ。お前本当に行くのか?」
右手の違法アプリをダウンロードしているスマホを下げ、ミナカは目線を液晶画面からパイセンに合わせ直す。
「パイセン、いきなりなんですか急に」
「この期に及んで言うのも難だがさ、万が一もあるだろ……いつものダンジョン配信じゃないんだぞ」
「大げさですよそれ」
「ウィザードにはちょっと詳しいから言うが、ヴァレンを敵に回すのはやめとけ。アイツは厄介な手合いだ」
思い出すのは初めてヴァレンと会った時の事。あの時、あの戦慄……無敵のレオパルドンが沈むその姿。
それでも自分を守ろうとしてくれたあの瞬間。戦いが嫌いな彼の事を思えば、あの時よく戦った。
自分なら無理だ。
「それに、今更レオパルドンが振り向いてくれる訳じゃないんだろ?」
ミナカの脳裏に過るのは、レオパルドンのあの最後の配信。
きっと、レオパルドンは自分の事をもう忘れたいと思っているだろう。
「えぇ、多分そうでしょうね」
「本当に行く必要あるのか、それ?」
解っている。これはミナカのどうしようもないオナニーでしかない事を。
彼女自身、自分の行為がレオパルドンに伝わるとは思っていない。更に無償の善意でもなく、報酬ありきな所が自分でも醜いと思う。
だから、クズにぴったりな回答を少し考え。
「嫌ですねパイセン、ワガハイようやく巡って来たチャンスを逃すタマじゃないですよ。頭の緩いお貴族様が極上の案件を持って来たんです、クズなワガハイがこれを逃す訳ないじゃないですか」
道化を演じる。へつらった笑みを浮かべる。
そうだ、これは真実だ。自分はとことん欲深な人間で行かなきゃいけない。
「いやー、キャストリルもいい案件よこしてくれましたね。楽して人気者になれる絶好の機会じゃないですか。適当に仕事をしたら、こんなのさっさとトンズラしますよおっかない」
通電してない液晶モニターに映った自分の姿を見る。
フィアナにはなれないな、と思った。フィアナはこんな事絶対言わない。
「それ、本気で言ってるの?」
…………ふと気づいたのは、パイセンが悲しそうな顔をしていた事だ。痛ましく顔を歪めて、それはまるで逃れられない自分の罪を直視するようにミナカには思えた。
少しだけ甘えてみてもいいかもしれない。世界で一人、自分の心を知ってくれる人がいても罰は当たらないだろう。
「パイセン。わたし、昔はフィアナに憧れてたんです……知ってますか、フィアナ・アルフェルド」
「……」
「昔、フィアナと会った事あるんです。お手製のホログラムのおもちゃをくれた……会った時にフィアナはミナカちゃんならウィザードになれるよって」
今でも眩しい彼女を思う。あの言葉をかけられた時は本当に嬉しかった。
「年喰ったら気づいちゃったんですよね。フィアナみたいにはなれないって……」
「……」
「お兄様の件、本当はこれ以上利用するのはやめようとしたんです……でもクズは結局クズみたいな結果にしかならなくて」
「……」
「でも、でもですよ。フィアナなら、きっとそれでも約束を守ると思うんです。なら――」
黒い、通電のしてないモニターに映った自分の顔を見る。
あぁ、こうじゃない。もっと、ちゃんと畜生の顔をしなくちゃいけない。
……もうフィアナにはなれないのだから。
「なーんちゃって、今の騙されました!? ワガハイ、転んでもタダじゃ転びません! 引かぬ、媚びぬ、省みぬがモットーですよ!」
「……フィアナから貰った、おもちゃはどうしたの?」
「ママが亡くなった時に、一緒に埋めました。それぐらいしか出来なかったから」
パパは来なかったから、せめてもの慰めに大切な宝物を埋めた時。
伝わらない思いはないなんて、嘘だと思った。
思いは伝わらない事が前提なのだ。
ただ、そう答えた一言でクズの化粧が少し剥がれる。それは言葉になって、思わず口を突いてしまう。
「……今のわたしをフィアナが見たら、軽蔑するでしょうね。フィアナって言うより、薄汚れた人食い婆みたいですよね」
それは自分でも呻くような声になっていた。
がたり、という音がした。
「ぶげら!?」
顔を上げた途端、パイセンは即座にミナカの元により両腕で体を抱き締める。
「ちょ、なんすかなんすかパイセン!? ワガハイ、別にレズじゃないんですけど!」
「ごめんね、ミナカちゃん……」
そこで気づく。さっきからパイセンの言葉が少しおかしい。いつもの下品で蓮っ葉な口調じゃない。
なんだ、この感覚はと思った。
「ごめんね、ミナカちゃん。本当に、本当にごめんね」
そう言えばこの声、聞き覚えがある。
でも、どこで……と。記憶の糸を辿る前に、ブリッジにアラート音が鳴り響いた。
「なんです!?」
瞬間パイセンは体を離しコンソールに。ミナカは咄嗟に甲板からドローンを射出しそのカメラ映像を、ブリッジのモニターに映す。砂漠の東、そこには黒革で出来た平たい帽子とマントを羽織った集団がいる。
中央にいるのは百二十センチ程の一際小柄なその姿――
《はい、ミナカちゃん聞こえる☆》
キナイの声をマイクが拾った刹那、ミナカの背筋に怖気が走る。なんで、今更キナイがここに来たのだろうか。
《ミナカちゃん言ったでしょ☆ 人から渡された物はまず壊しなさいって、――クレジットの中にビーコンを仕込むのは初歩の初歩よ☆》
ミナカの視線は自然と右手のスマホに向けられた。
《ちょっとこれからミナカちゃんに用があって、顔を貸してもらうからそのつもりで☆》
意味が分からなかった。自分は一体何をしたのだろう。しかし、一つ確実に解る事がある。
これは絶対に何か恐ろしい裏がある。
「ぱ、パイセン!? どうしよう!?」
「……全兵装自体は修復を終えてる。けれど、肝心の対消滅エンジンが後三分しないと動かせない」
「そんな! もう一分も立たずに来ちゃいますよ!」
そこでパイセンは一度息を呑む。そうして右手で胸を摩ると一言。
「三割か……」
「え?」
「だが、やるしかない……あの地点に誘導出来れば……」
一体何をやるつもりだというのか。そう思った矢先、パイセンはブリッジに置いた灰色のロッカーに足を向けると、中からある物を取り出す。それは百三十センチはあろうかという赤い袋……棒状の何かが入っているように見える。
そうしてパイセンは振り返ると、ミナカに笑いかけた。その笑い顔は遠い昔あった誰かに似ている。
「――ミナカちゃん、わたしが時間を稼ぐよ。三分経ったらこの船を動かして逃げて、帰りは待たなくていいから」
アタイではなく、わたしという一人称だった。
「じ、時間を稼ぐって。それに何で急に一人称を変えたんですか!?」
「……レオパルドンがあの時言った事は正しかったね」
「はい?」
「大事なのは気分。思い入れのある形や色を目にすれば、人の心は前向きな方向に行く……見ていろコーハイ、アタイの変身を」
そうしてパイセンはドアからブリッジを後にする。即座に甲板に出るとドローンのカメラがパイセンを追った。
パイセンは甲板から飛び降りて、たった一人で黒ずくめの集団と相対する。
ふと一つのコンソールを見ると電脳の遠隔操作で、ライブカメラは疑似的な配信状態になっていた。
《あら☆》
《悪いが、ここから先は通行止めだ……アタイが相手になる》
キナイが右手を前に差し出すと、瞬間何人かが黒いマントを翻しブラスターを放つ。パイセンはそれを赤い袋で次々打ち払うと、徐々に光条が舐めるように布を虫食いで溶かしていき、中の物を露わにしていく。
その杖の先端が太陽の光を受けて反射する。それは雪の結晶をあしらった位相転換杖だった。
忘れもしない。あれは、あの杖は――
「フィアナ……」
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