死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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25話2 空へ…

 

カメラの中でパイセンが髪を後ろでまとめているゴムを外す。途端髪は赤から緑色に変わった。

ウィザード、フィアナ・アルフェルドがそこにいる。

 

――――。

――。

 

 

三割だ。

パイセン=フィアナ・アルフェルドはそう思いながら位相転換杖を握り締める。目の前には悍ましいキナイ・ミスリルがいるが、やるしか無かった。

ごくり、と彼女の意思を反映して喉が鳴る。

砂を孕んだ風が一陣舞い、キナイのマントとフィアナの髪をさらう。

 

「フィアナ・アルフェルド☆ まさか生きていたとは……って驚いてあげた方がいいかしら☆」

「好きにすればいいじゃない――わたし、久々に全力で煌めきます!」

 

レストアした戦艦のカメラにローカルで接続する。

一度正面のキナイ。その向こう、遥か二十メートルを見た。すっかり赤く錆び付いた小岩ほどの大きさの鉄の三角錐ある。

 

「一つ質問なんだけど、…………貴方結構いい年齢よね? そのぶりっ子なキャラ付け恥ずかしくないの?」

「うるせー! こっちだって当時からキツかったわ! でもしょうがないだろ、大人の事情でやらされたヤツでも、今でも好きな子がいるんだから!」

 

刹那、キナイの部下が黒いマントを翻し五体殺到する――

二体は宙、三体は地。彼女は半歩足を前に出すと、杖を右に回転し一体ずつ杖を頭に叩き込んでいく。……叩き落とされた部下達は途端姿勢を崩し、突っ伏すように砂漠の砂に突っ込んだ。

キナイの金の義眼が一度収縮する。そうしてつまらない物を見せられたように短く呟いた。

 

「こいつ等結構カリカリにチューンナップして、高価な神経加速剤を大量に打った筈なんだけどな☆」

「だから、少し頭を小突くだけで気を失う」

 

キナイが口元を吊り上げると、部下達は次々とフィアナに殺到する。八割は防ぐ事が出来た、しかし残りの二割は――

 

「はい、最低限の仕事はさせてね☆」

 

直後、フィアナの顔――右が爆ぜた。紙一重で回避したが、隙を突かれ二割が艦に向かう。

 

「既製品のセンサーじゃ知覚出来ない速度に反応……その体、普通じゃないわね☆」

 

その時、キナイがフィアナの間合いに音もなく滑り込む。黒いマントと髪を翻し、両手は掌打の形を取っていた。

咄嗟にフィアナは右足を前に滑らせた。

位相転換杖の杖先を右手で握り締めると、青い光が走る。

 

「この輝く青い刃☆」

 

振り下ろした刃はキナイが上に上げた右手に阻まれる。手と刃の間には、直径七十二ミリ程の空間が開いており、ゴムのような弾力で刃が一歩も動かない。

まるで見えないボールがあるように。

一拍置いて爆ぜるとフィアナは再び背後に下がって距離を取り、即座に刃を収め元の杖に戻す。

 

「驚いた☆ それウィザードの異能を使えるのね☆」

「人体を可能な限り再現してる、貴方に吹き飛ばされてからというものね」

 

ウィザードの能力を使える義体。本来なら機械を拒む異能の力であるが、生の肉体にある器官を全てバイオ部品で再現する事でその法外を可能にした。

故に、こうして肉体や反射神経の強化。位相転換杖の基本兵装を使う事が出来る。

――出力としては最盛期の三割。

しかも戦艦のカメラを使った疑似配信状態下。感情エネルギーによるバフは期待できない。

……レオパルドンが積んだ惑星ラージャンのコアを加工すれば話は別だったろうが、今となっては無い物ねだりだ。

 

「なら、わたしのボディとどっちが強いか勝負しましょう☆」

 

そういうとキナイ・ミスリルの姿が破裂音と共に搔き消えた。

刹那、左横に現れるとキナイは左手が払うように振り破裂――爆発する。

 

「ッ」

 

位相転換杖を振って赤い壁――ファイアウォールを顕現して防ぐが、それで威力を相殺させるのが精いっぱいだった。

黒いマントと平たい帽子が風を切り、自分より遥かに小柄が故に捉えづらいキナイの猛攻をパイセンは何とか凌ぐ。

右手で拳を出されると爆発。左足で踏み込まれると爆発。右足で蹴られると爆発。

 

――しかし、種は割れていた。

 

三十回目の障壁が爆ぜた直後、フィアナは虎穴に入る。正面に出て、互い違いに跳躍し虚爆掌をあえて喰らう。

そのまま交錯し滑空する中、フィアナは杖を鞭のように伸ばすと倒れ伏したキナイの部下の腕に絡めて力を流し込み、義肢の制御系を掌握してブラスターの引鉄を引かせた。

……虚爆掌を使った直後、宙を滑空するキナイはそれを回避出来ない。

五メートル先、赤い光がキナイを即座に埋め尽くす。

やったか、と思った。

 

「あは☆ やるぅ☆」

 

背後を振り返ると、炎が舐めるようにキナイのマントと帽子を溶かす。晴天の下、その体が露わになった。

キナイ・ミスリルの体は一言で言えば異形。黒いフレームにクリアパープルの人工筋肉が付いている。一際目を引くのは両鎖骨の中間に、直径五十センチほどの二対の穴――高速回転するジャイロリングがある事。

頭頂部と尾てい骨には獣じみた耳と尻尾が付いており、さながらそれはセクサロイドのようだ。

 

キナイはフィアナに見せびらかすように両腕を広げる。

両手の指先と手の平にはそれぞれ小さな穴が開いていた。

 

「やっぱり、それが虚爆掌の正体」

 

レオパルドンのアナライズガンに入っていた解析データ。そこにはこう記されていた。

爆発地点には高濃度の残留酸素が検出されたと。

虚爆掌の正体は酸素爆発だ。

 

「この体も中々でしょう☆ 体術を阻害する事なく、酸素がある限り無限に戦う事が出来る☆」

 

キナイの両手から先、十メートルの距離が互いに爆発した。耳を突くような音と共に、彼女はにじり寄る。

 

「しかも、自分で言うのもなんだけど☆ 結構かわいい☆」

「……薄汚れた人食い婆とは、まさに貴方の事だよキナイ」

 

パイセンは時計を見る。ミナカが飛び立つまで後一分。

左腕を半壊して、それでようやく皮一枚を剥いだ。正直同じ人間とは思えない。

再現した肉体感覚が怖気を全身に走らせる。

そこでにたりとキナイが笑った。まるで心を見透かしたかのように。

 

「どうして今まで隠れていたのかしら☆」

「……」

「昔の貴方は正義感に溢れ、何度でも立ち上がる諦めない人だったのに☆ よく聞くわよ、貴方に憧れて配信冒険者になったって人☆ ……待って、当てるから☆ そうね……仲間が死んだから?」

「……」

「生身の体を失ったから?」

 

時間が欲しい。とにかく――フィアナがそう思った矢先だ。

 

「いえ、どれも違うわ☆ 正解は……わたしが怖かったからよね☆」

 

その言葉に、残った右手が軋んだ。

 

「あれだけ可愛がってた後輩ちゃんの仇を取らなかったのは何故か☆ 型落ちの部品でウィザードの異能を繰れるボディを作れたのに、どうしてわたしに立ち向かわなかったのか☆ そう考えればつじつまが合う」

「……」

「ねぇ、フィアナ……もし貴方さえよければ引いて上げてもいいわ☆ わたしビジネスウーマンなの、クライアントとの契約を守れればそれはそれで☆」

 

まるで悪魔のようにキナイ・ミスリルは誘惑する言葉を放つ。

縋りたいという気持ちが無い訳では無かった。恐ろしい化け物のようなこの女が、自分の前からいなくなってくれるなんて願ってもない。

……声は自然と漏れた。

 

「ごめんね、ミナカちゃん」

 

そうして、フィアナは再度正面のキナイに向けてかけた。虚を突かれたキナイは一瞬反応が遅れる。

無表情のまま、キナイの右手が再び抜き払われた位相転換杖に断たれ、宙を舞う。

 

「ごめん、ミナカちゃん。あの時、わたしがこいつを討ってれば……こんな事にならなかったよね」

 

フィアナはその、ミナカ・アラギという少女の事を覚えていた。

赤と青の珍しいオッドアイだったというのと、そしてボロボロにいじめられていたからだ。

仮にも人気稼業だ。子供の泣き顔をそのままになんて出来る訳がない。だから、その場の部品で作ったおもちゃを上げて、ウィザードになりたいという夢を応援した。

 

 

そうして何もかも失った後、再び彼女と会った。

 

 

ウィザードになりたいという夢を持った少女は、すっかり現実的で効率的で成果主義者に様変わりしていた。

一体彼女の身に何があったのか、最初はわからなかった。しかし、キナイが関わっていたのなら納得出来た。

……ミナカがああなってしまった原因の一つが、自分であると思い至ってしまった。

もし、あの時キナイを討っていれば。

もし、無事生還していれば。

もし、砂の惑星に戻ってミナカを拾っていれば。

ミナカの人生は今よりも良くなったに違いない。ウィザードになれなかったとしても、新しい夢を追えていたかもしれない。彼女にはそれだけの能力があった。

 

自分がフィアナという名を捨て、この星で退廃的な生活を送っている中、一人の少女が道を誤ってしまった。この罪到底贖える物ではないだろう。

だから――

 

「お前はここで討つよキナイ。命に代えても……何もなくなってしまったけど、ミナカちゃんだけはッ」

 

残った右手で握り締めた刃が熱い。今目の前にいるのはミナカの呪いそのものだ。自分しか払う事は出来ないだろう。

対し、キナイは咄嗟に左手の手のひらを向ける。刹那、フィアナは脊髄反射的に背後に退避した。

しかし、虚爆掌は何時までも放たれなかった。代わりにキナイは自分の斬られた右腕の断面を左手の人差し指でなぞり、漏れるオイルを下唇に運ぶ。

 

「いい演出ね、ぞくぞくしちゃう☆」

 

そうしてオイルを舌なめずりし。

 

「人の思い、綺麗な感情、果たさなきゃいけない事……それを今からとりかえしのつかない形に変える。あぁ、たまんない☆」

 

彼我の距離は十メートル。相手が一番厄介なのは空気を爆発させ、不規則な軌道を取る事。

自分が使えるのは位相転換杖の武装と、僅かな身体強化だけ。何とかこの刃を当てなきゃいけない。

――だが切り札はある。

キナイの背後にある、あの赤錆の浮いた三角錐だ。

 

「……ッ」

 

意図せず膝が落ちる。どうやら人工筋肉の出力が落ちてるらしい。人体を限りなく再現した義体であるが故、左腕を取られたのが痛かった。

刹那再びキナイが消える。途端周囲が虚爆掌で爆ぜた。右足の半分が持っていかれる。

左目も落ちた。

その時、背後から声がした。

 

「――貴方はもう一回同じやり方で殺してあげる。ミナカちゃんの心に永久に残るようにね☆」

 

その時フィアナは位相転換杖を正面に伸ばし、力を流し込む。

瞬間砂に埋もれていた巨体が反対側からガスを噴出させてキナイとフィアナを覆う。それはコーグでおなじみの廃戦艦だった。

フィアナはもう一度流し込むと姿勢制御スラスターのガスが彼女達を包んだ。

 

「やるじゃない☆」

 

虚爆掌は空気を吸い、内部で圧縮して爆発させる。ならば弱点は一つ、安定した吸気流が断たれる事だ。

背中で爆ぜる筈だった空気は掻き消えるのを感じる中、パイセンは位相転換杖を右手一個分だけ引き抜くと、小刀ほどの青白い刃を作る。

そうして振り返り、無表情のキナイの胸に突き立てた。

 

――最後にフィアナが見たのは、コーグを飛び立とうとするミナカの乗った戦艦。

 

「大丈夫」

 

電脳の通信モードを使い、ミナカに言葉を残す。

 

「ミナカちゃんならやれる。なれるよ、絶対」

 

あの日あの時と同じ言葉なのは、彼女にそれでも再起して欲しかったから。

彼女は歪んでいるかもしれない、欲深いかもしれない。それでも誰かの為に行動できる子なのだ。その良さをフィアナは知っている。

 

もう足も腕も動かない。

 

……そうしてガスの切れた船体が、彼女を砂と共に覆う。

 

 

 

 

 

 




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