死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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3話 ふぉかぬぽう

〈ALERT!/COMMUNICATION STATUS:UNSTABLE〉

〈…〉

 

〈CHANNEL№21-567898:RE CONNECTED〉

〈WARNING!:POSSIBILITY OF SERIOUS COMMUNICATION DISRUPTIONS〉

 

〈PROCEED or PLAYBACK?〉

 

 

 

煌々と炎が周囲を照らし、闇が晴れる。

熱で空気が揺らいだ。

ドローンの光が揺れて、彼女の顔を照らすとミナカの赤と青の瞳に推量の光が走る。

 

鳴りやまないスパチャ。百万視聴者から降り注ぐ電子マネーの嵐、スマホから立て続けに鳴る決済音。配信画面隅に表示されるクレジットはもう十年遊んで暮らせる程になっていた。

数メートル先、赤く焦がす炎から瓦礫をまたいでゆっくりと現れた彼を見ると、目つきは自然と鋭みを帯びた。

――痛みで眉が引きつり、少し呼吸が乱れる。

直後、彼女は出来る限りの笑みを浮かべて近寄る。先程捻った右足はまだ痛むのか、引きずり気味に。

 

「あのー、お兄様……お兄様でいんですよね?」

 

両手は自然ともみ手を作っている。媚びへつらった笑みとともに、ドローンが彼の姿を映した。

 

”お、早速すり寄りか?”

”恐ろしく速い保身、俺じゃなけりゃ見逃しちゃうね”

 

画面越しにその様なコメントが幾つか流れ、そして音の速さで配信者権限でアカウントごと消された。

 

「いやー、お兄様お強いですね! ワガハイ、あまりの強さにびっくりしちゃいましたよ……」

 

即座におべっかで舌を回す。対し赤い巨体は震える自分の両手を見つめていた、それはまるで自分の手が信じられないものを手にしたかの様に。そうしてゆっくりと握り拳を二つ作ると、白い顔はミナカの方に向く。

何かを言いたげな、躊躇う様な沈黙が流れた。

 

「あ、あのー……言葉、通じてますよね」

 

戸惑う様なミナカの言葉が虚しく宙を切った。その時――

 

”おい、なんか駐屯惑星のギルド部隊が出たっぽいぞ?”

”マジ?”

”丁度通りがかった貨物船の運ちゃんが、船出るの見たってさ”

”ワイの兄貴、配信冒険者だがギルドに捕まって、矯正局送りにされた事がある。半年後には別人みたいになってた”

”鉱山で働かされるってのも聞いた事あるぞ”

”実験体じゃなかったっけ?”

 

ミナカは反射的に画面を見やると、そんなコメントが画面に流れていた。そこで、ミナカの目の中に映った画面が凍る。

 

「あ、あれ画面が急に固まって……?」

 

画面に白い点が円を描くように、そして一拍の静寂を挟んで黒。

配信画面が固まり……その刹那暗転する。次いでミナカはスマホを取り出し適当にSNSを開いてみると、SNSの通知欄に公式からのメッセージで配信システム自体が落ちたというのが告知されていた。

復旧にはしばらく時間がかかる様だ。そこで暗転した配信画面に、新たな白文字でメッセージが表示される。

 

 

〈WARNING!:SERIOUS COMMUNICATION FAILURE〉

〈RE TRYING⇒ERROR〉

 

〈LIVE STREAM ⇒ ARCHIVE:CONNECTED〉

 

 

接続エラーの為、ライブ配信から録画に切り替わった事のメッセージが浮かぶ。

そして二つ目の異変。

 

「ンアッー!?」

 

地響きが鳴る。パラパラと天井から欠片が落ちて行き、やがて鉄骨が床に突き刺さる。

光が瞬く。

粉塵で咳き込み、轟音で思わず耳鳴りを覚えた。

先程の戦いの影響で、ダメージが蓄積し限界を超えたらしい。明らかにこの空間はもちそうにない。瓦礫が軍用機に降り注ぐ度、動力炉に残った燃料に引火し爆ぜる。

ミナカの胸が一度跳ねた。

 

「ちょ、嘘! 痛……」

 

逃げようとすると、ミナカは痛みに悶えた。ジャケットの内側から十五センチ程の銀色のカプセルを取り出す。まるでボールペンの様に上のボタンを押すと、彼女は痛む足にそれを突き指した。

膝が一度揺れ、ミナカの視界に黄色い文字が浮かび上がる。

 

 

〈MED-NANO:ACTIVE〉

〈ESTIMATED EFFECT DURATION: 5 MIN〉

 

 

UIの表示は医療用ナノマシンが投与された事と、それが効くまでには五分かかる事。

 

「ンアッー!? 五分!? 今五分って言いました!? 一分だって待ってられないのに!?」

 

ミナカは画面に表示された数字を見ると、顔は自然と引きつる。こんなカメラの回ってない所で死ぬなんて、死んでも嫌だ。

視線は思わず、彼の方を向く。

その時だ。

 

「………………フォカヌポウ」

 

反響が金属の壁を這う。

奇妙な声が一度響いた。ふとミナカが瞳の表記から声のする方に目を向けると、そこにいた赤い彼が、何やら奇妙な声を上げていた。

 

「んんんんんん! これは、アクション映画でお決まりのピンチの連続展開でござるな! いやいや、拙者オタクではござらんがなろう小説は嗜む身。心が躍る展開でござる!」

「ア”――――――!? 喋ったああああああ!?」

「オウフ! これは見捨ててはおけぬ状況でござるな、もしよろしければ背中に。その代わり是非とも出口までの道案内をお願いしたく!」

 

低い声。

赤い彼が話しかけたかと思うと、天井とミナカの足を見比べるとその場にしゃがんで背中を貸す素振りを見せた。

それに対しミナカと言えば、荒れる息で相手の様子を計る。広い背中に心が揺れ、そして猜疑が身を竦めさせた。

が、直後一際大きな瓦礫が落ちる。

瓦礫はこの施設のコンソールの一つだった。液晶にはご丁寧に『自爆まで後01:00』と書いてある。

 

「ンアッー!? 無駄に行き届いた死への表示!」

「んんん! これはまずい状況ですぞ!」

 

瞬間、ミナカはその背中に飛び乗った。足を振り上げた時、一度右足が痛む。

 

「お約束します! 真っ直ぐ! ひたすら真っ直ぐ行ってください!」

「まるで野獣の様な叫びでござるな! 明日を向かってダッシュでござる!」

 

彼の背筋が小刻みに振動する。叫びながらしがみつくミナカと、赤い巨体が疾駆する。同時に白と黒の球体型ドローン二つが後を追った。

徐々に瓦礫が崩れ、隔壁や壁が壊れ出口が見える。暮れていく空が迷宮に差し込む。遥かその先にはグレーがかった白の貨物用宇宙船。

距離は二百メートル。直線上には次々と落ちていく鉄骨や配線、コンクリート片にまみれた廊下を彼等は駆ける。

 

「目標はあの宇宙船! ンアーッ、後ろが崩れてるぅぅぅぅぅ!」

 

ミナカが右手で指さすのは東。夕日が差す方と真逆。

粉塵が流れが変わる。

瓦礫が幾重にも降り注ぐ中、落ちていくコンクリート片を掻い潜り赤い彼はミナカを背負いながら駆けた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

一方その頃、配信システム緊急停止の衝撃はまるで稲妻の様にネットワークを通し駆け巡っていた。

 

 

【放送】ミナカのぶっっっちぎりダンジョン配信part94【事故】

 

 

 

376:名無し視聴者@ギャラクシー・ライブリンク緊急メンテ中

さっきまでスレの無かった女が、もう94スレ目かよw

 

 

377:名無し視聴者@ギャラクシー・ライブリンク緊急メンテ中

あの赤い奴は一体何だ?

 

 

378:名無し視聴者@ギャラクシー・ライブリンク緊急メンテ中

知らねぇw

 

 

379:名無し視聴者@ギャラクシー・ライブリンク緊急メンテ中

あの白いエネルギーは一体なんだ? あんなん見た事ないわ

 

 

380:名無し視聴者@ギャラクシー・ライブリンク緊急メンテ中

それに最後、なんか話してたけど聞き取れた奴おりゅ? 字幕バグってたから、わからんかったんよね

 

 

381:名無し視聴者@ギャラクシー・ライブリンク緊急メンテ中

一回目は「なんでござるかこれ、まるでSFではござらぬか……」で二回目は「カラーリング(以下略)」だったな

 

 

382:名無し視聴者@ギャラクシー・ライブリンク緊急メンテ中

大学の古代語の授業で、その単語聞いた事ある気がする。確か3万年前の古文書で見た

 

 

383:名無し視聴者@ギャラクシー・ライブリンク緊急メンテ中

つまり、あいつ古代人って事?

 

 

◆◇◆◇

 

 

「まるで特撮セットめいたデザインの世界観でござるな! いやいや、拙者特撮デザインは一美術ファンとして好んでおりますれば……」

「と、特撮? ってああああああああああ! 出口、出口ですよお兄様ぁああああああああ!」

 

全力疾走で駆け抜ける彼は、ぽつりと呟くもそれはミナカの声にかき消される。

その進行方向上、光が満ちるそこを抜けると迎えるのは荒れ果てた廃墟に沈み行く三つの太陽。橙と煤の層が空を縞にし、崩れ落ちる金属とコンクリートの反響が遅れて二人の体に帰ってきた。……彼とミナカが出た直後、兵器工場の廃屋は途端地響きと共に崩れ落ちていた。

温い風が一度流れ、砂塵をさらい巻き上げる。

なんとか命を繋いだ。先程まで命の危機にバクバク言っていた心臓がおさまっていくにつれ、何かを感じる心の余裕という物が生まれる。

ミナカには、視界が一段引いて見えた。

ちょっと離れた所に乗ってきた宇宙船が目に入る。今より更に東側、直線上百メートル先のタンクやフェンスの残骸の切れ目と赤い岩が並ぶその先に、宇宙船は変わらず存在していた。

 

砂塵を抱いた温い風が、なんとも心地よいとミナカはそう思った。

そして、その赤と青の瞳を彼に向ける。

 

三連星の太陽が彼の体を更に赤く染める。

……赤い彼は、あれだけの死闘を繰り広げたというのにミナカには何処か所在なさげに見えた。まるで太陽が一つの所から来たかの様に、緑の目の焦点は三つの太陽に合わさっている。

両肩は僅かに上がったまま固まっていた。

 

「まるで、映画が如き光景! 拙者、プロット的にこうして一目で『ここではない場所』を伝える描写は好きでござる!」

 

言葉は何処か虚ろ。なろう小説? ……何を言っているかはよく分からないが、ミナカは彼の視線の揺れを見て、これはチャンスだと直感でそう思った。

緩む口元を手で隠す。人は、こういう時につけこみやすい。

 

「ありがとうございます赤い人!」

 

黒い頭がそれで振り向く。まずは何がなんでも感謝だ。今なら「あの時は余裕がなかったしね」で初動を失した事の回収が取れる。

大事なのは会話のイニシアチブを絶対に取らせない事。

 

「貴方がいなければワガハイ、とっっっっっっくの昔に死んでおりました! 本当に、本当にありがとうございます!」

 

顎を少し引いて、視線は真っすぐ。足は半歩詰めた。

媚びへつらうのは得意だ。伊達にありがとうとごめんなさいの言葉だけで生きてきた訳じゃない。押し付けた仕事を片してくれた時は「ありがとう」、女子トイレに連れていかれてボコられた時は「ごめんなさい」が大原則。見ろ、相手は虚を突かれて今の言葉を飲み込めていない。

ここで更に自己紹介――母音を若干伸ばし甘く響かせて、男心をくすぐらせる。師匠から直伝の媚の売り方だ。

 

「申し遅れました! ワガハイ、『ミナカのぶっっっちぎりダンジョン配信』ってチャンネルで配信冒険者をやっております、ミナカ・アラギと申します! お兄様のお名前は!?」

「オウフ! ストレートな自己紹介キタコレですな。おっとっと、拙者『キタコレ』などとついインターネット老人会のネット用語が。はじめまして拙者は■■■と申しまして、YouTubeではSF考察チャンネル主を少々。以後お見知りおきを」

 

何かを測る一拍の間。

スピーカーからはノイズ混じりで名前は聞き取れず、ミナカには名が潰れて聞こえた。無音の中を風だけが滑る。どうやら人間ではあるらしい。

声の抑揚や感情の籠り具合は、まず間違いなくアンドロイドには出せないそれだ。

その時、耳をつんざく地響きの様な鳴き声が響く。ミナカと彼が同時に胸骨まで震わせる音のする方へ振り向くと、遥か西の地平線の彼方に恐らく体長数十メートルに達する様な長大な生き物が太陽を背にシルエットとなって映る。

 

「あ、あれは……?」

「あんなの、何処にでもいるサンドドラゴンじゃないですか珍しくもない……今は産卵時期ですし、ほら全体的にパンパン」

「ど、ドラゴン! オウフ、これはSFと書いてサイエンス・ファンタジーの分類に入る展開では? 考察しがいがありますぞ!」

 

サンドドラゴン。ミナカの常識では結構な星で見かける蛇型の巨大生物で、この惑星ジャ=クーでもかなり生息している。正直そこらの子供でも見た事あるのだが、赤い彼は信じられない物を見る様に、サンドドラゴンが近くを飛んでいた翼竜にかぶりつく所を見つめていた。

しばし目にした後、再びミナカを見ると右手を上げた。

 

「申し訳ありません、いきなりですが…………地球という名前の星を聞いた事はないでしょうか?」

 

――その時竜の鳴き声が、雷鳴の様に響く。

竜の顔がくるりと振り向いた。そして砂礫をこまめに潜りながら少しずつこちらに向かってくる。

 

「ミナカ殿、何故だかサンドドラゴンがこちらに向かってくるのですが?」

 

ちなみにサンドドラゴンの生態としてよく知られるのは、砂の中に住んでるのに目が良く、光っている物が好きで、赤い物を見ると興奮状態に陥る。

この場にその全てが揃っていた。

 

「ア”――――――! 詳しい話は後! 逃げますよお兄様! あのクソでかい蛇の晩飯にならない運命に向かって!」

「蛇でござるか! 拙者、自分のチャンネルで架空の生物を実際の生物に基づき考察した事があるでござる……おっとっと、これでは拙者オタクではござらぬか!」

 

無機質なグレーがかった白い肌。全長は二十メートル程で、形は細長い胴体にオレンジ色の貨物用の球体カーゴが両脇にそれぞれ二個付いている。後部には四基の円筒型エンジン。一番前は角を丸くした三角形型のコクピットがあり、鳥類の鶏冠の様に見えた。

三つの太陽が沈む夕焼けに照らされても、その鉄の肌は光沢を放つ事はない。

ミナカの買ったばかりの中古宇宙船である。本当は可愛く塗り直したかったが金が足りなかった。

頭の黒いリボンを撫でると、コクピットの横から二メートル程の機密ドアが上に開く。

そして十九度ほどスロープが出るのと先にミナカ、後に彼がなだれ込む。ミナカは膝に衝撃が刺さり、一度船外作業用ワイヤーの束に右足をぶつけた。

彼は乗り上げた際によろめき、その際に右手が近くにあったベルトに絡み、態勢を崩した結果。半拍遅れ縫い目が裂ける音と共に、重量が一気に乗り引きちぎってしまった。

 

赤い警告灯がくるくると回転する。

どことなく油臭い機内には何かが入った箱が転がっており、その中をミナカは血相を変えて駆けると操縦席に座り機器を操作する。

右手にかけたレバーを引くと、少しの抵抗があった。

 

「火入れて、機体制御! あぁ、こんなんならケチって百年前の軍用型落ちじゃなくて、五十年前の軍用型落ちにしとけば良かった!」

 

ふわり、と機体が浮かび上がる感覚。

そうして六つの着陸脚を格納しようとした時だ。

サンドドラゴンが地中から飛び出たかと思うと、一度弧を描き――宇宙船の胴に絡む。

 

「絡めとられた! クソクソクソ! あー! もうちょ、発煙筒邪魔!」

 

衝撃から、彼女の頭上にあったダッシュボードの蓋が開いて物がなだれ落ちる。

その中の一つ。からからと音を立てて、古びて黄色みがかったグレーの筒が明後日に放り投げられた。

みしり、という音を何百倍にしたかの様な響き。ミナカは操縦桿を握りエンジンを蒸かすが、サンドドラゴンの力が強く、一向に飛び立つ事が出来ない。

中の積載物を次々パージする。

食料品のコンテナ……もったいないが背に腹は代えられない。

空のコンテナ……涙を飲んで落とす。

コンテナを積む為の作業用パワードスーツ……。

 

「これは駄目! これだけは……!」

 

それだけは駄目だった。折角買ったばかりで、ミナカには捨てられなかった。

少しずつ少しずつ、宇宙船が締め上げられていく。壁に付けた機材が歪み、破片が床を転がる。

思わずミナカは絶叫した。

 

「こんな所で宇宙船なんて捨てたら、救助に幾らかかるか……冗談じゃないです! 配信者三原則その一、損はしない!」

「この船に武器は無いのでござるか?」

「イオン砲の銃座があります! 使った事ありま……せんよね多分! ここで操縦桿握ってて下さい!」

 

言うや否や、ミナカは少し離れた所にある梯子を昇る。そうして銃座のハンドルを握ると、そのまま無我夢中でボタンを押す。

弾ける緑の光。少しばかりサンドドラゴンが苦悶の呻き声を上げる。しかし、船体が軋む音は未だ鳴り止まない。軍用船の機銃とは言え百年前の代物だからか、威力は経年劣化で落ちてるらしい。

機銃の音と船が締め上げられる音、エンジンが最大出力で蒸かされる音、そしてミナカの絶叫。

やがて根を上げたのは機銃の方だった。砲身が焼け付き、弾が止まる。

 

「ア”――――――! 止まんなー!」

 

機銃が止まった瞬間、船首側を上。エンジンを下に、船体が斜めに傾いだ。

艦内スピーカーが割れる様に、新たなアラートを響かせた。天井からは残響が、まるで木霊のように遅れて返る。

 

《警告、イオンエンジン過負荷上昇。イオンエンジン過負荷上昇、三十秒以内に離陸して下さい》

 

嫌な予感がする。男の合成音声は、その後決定的な事を告げた。

 

《三十秒以内に離陸しない場合、クールダウンの為緊急停止します》

 

次いで、女の合成音声が響いた。

 

《警告、緊急ハッチ変形。今すぐ確認して下さい》

 

本当に、金をケチらず五十年前の型落ちにしとけば良かった。そうすればこんな事も無かっただろう、と後悔で再び涙が浮かぶ。それでも涙をジャケットの右袖で拭う。

 

「冗談じゃない、こんな数字も何もない所で死んでたまるもんか! まだ配信冒険者ランキングで一位になってない!」

 

そこで彼女は右手の指を交差すると、”おまじない”を試す。

もう最後に縋るのはそれしかない。しかし、あの時とは違い機械はピクリとも動かない。指先が冷たくなり、喉が掠れる。鼓動が耳の内側で鳴り響く。

 

「こんな、こんな一再生にもならない死に方やだ……死にたくない、助けてパパぁ」

 

そこで一度鼻を啜り、銃座の窓ガラスに映る自分の姿が映る。涙と鼻水でベトベトになった、人に見せられない顔をしていた。

幼い子どもの様に。しかし、状況は……運命が彼女を切り捨てるように思えた。

 

「……最期の最期に思い浮かぶのが、数字でもお金でもなくパパか……」

 

その時である。

彼女の銃座の前を赤い彼が横切る。

それを見て、ミナカは固まった。ふとコクピットを見ると、そこには千切れたベルトで操縦桿が固定されている。

銃座の窓越しに彼は四つん這いの形になりながら、船外作業用のワイヤーを命綱代わりにして船上を行く。

 

「……」

 

機銃席のミナカに気が付くと、彼は一拍の躊躇いの後に右手の親指を立ててサムズアップをした。

ミナカはあまりの衝撃に呆けた様に見つめる。しかし、直に正気に戻った。

 

「なにしてんの!?」

 

何故外に出てるのか。何を思って出ていったのか、そして何よりも。

 

「カメラ回ってないじゃん!」

 

聞こえる筈のない叫びが銃座に木霊する。……彼女のお供の二つのカメラは船内に残されたままだ。

 

 

◆◇◆◇

 

 

そんなミナカをよそに、彼は甲板の上を黙々と進んでいく。その白いヘルメットのバイザーに映すのはただ一点。

 

「結構、テンションの上がる光景でござるが……いやはや」

 

そこで彼は一度右手を見る。白いエネルギーは薄っすらとも漂ってない。

 

「……どうやら、あの力は視聴者が見ている時しか使えぬようでござるが」

 

それどころか、震えを帯びていた。しかし、それを押し殺す様に拳を握りしめる。

 

「でもまぁ、父親を呼ぶ子がいたら………………やるしかないでござるよピーターのように」

 

サンドドラゴンがぐるりと胴を回し、甲板橋から赤い彼の前に現れる。十メートル程上に付いた頭を上げ、丁度中頃まで来た彼を威嚇する様は、まさしく蛇のそれだ。

轟音を立てて唸ると、弾みに口から先程の翼竜の物らしき肉や骨の欠片が飛んでくる。

勢いは強く船の装甲を僅かばかりに凹まし、甲板を外した幾つかは鋭い音と土煙を立てて、まるで銃弾の様に地面に突き刺さった。

勿論彼にも直撃するが、傷一つない。

 

「貴公、蛇なのでござろう? ならば蛇の特徴や弱点も兼ね備えてる筈――これは効くでござるな?」

 

彼が取り出したのは劣化した発煙筒。使い方は、注意書きに解説図付きで書いてあった。

蓋をねじ回しに開けば、それで黄色い煙が出た。

力いっぱい、彼はそれを放り投げる。そうして上がるのは悲鳴の様なサンドドラゴンの叫び。生理的な反応から竜は咄嗟に力が抜けた。

鼻を突く刺激臭に、竜が目を細める。

 

「蛇は強い匂いに弱い! ドラゴンの生態考察動画、再生数は低かったが役には立ったでござるな……そして酷い匂いでござる」

 

劣化した発煙筒の異臭は、サンドドラゴンと彼の鼻に突き刺さる。

その僅かな隙から、ミナカ達の船は即座に脱出。

 

「…………この世界には詳しくはないでござるが、こういう時に使ってみたかった言葉が一つ」

 

四本のエンジンが炎と爆音を立て、急速に遠ざかっていく砂漠の竜。雲海に船首が突っ込む寸前にワイヤーに吊られながら彼は引きつりそうになる声でそのセリフを吐いた。

先程発煙筒を投げた右腕には、再び震えが走り――それを無理やりガッツポーズにして押し殺す。

 

「”GET AWAY FROM HER,  YOU BITCH!”」

 

夕焼けが徐々に青く染まり、やがて黒がにじみはじめる。

一拍遅れ、彼は気圧で耳が詰まる感覚が走った。

風切り音は、高い音に変わり――宙が見えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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