死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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26話2 鉄のララバイ

 

 

《マムバンザイ!》

《マムニ栄光アレ!》

 

ミナカの視界の内、艦内を映したライブカメラから拾われる映像には細見のアンドロイド達が次々に赤く熱された銃剣を付けたブラスターを手に、ヴァレンに突っ込んで行っては傍らの黒ローブの女に破壊されていく。

薄暗い、棺桶のような座席の中。ミナカの歯の根は自然と震えた。

 

「……にたくない、死にたくないよ」

 

恐れを知らない戦士のように振舞っても、人間根本の部分が変わる訳ではない。

結局は十代後半の小娘が背伸びしているに過ぎないのだというのが、配信を中断し一人になった時に良く分かる。

そこで、自分の姿がモニターの反射で映るのを見る。

赤と青の瞳からは涙が溢れ、鼻水まで垂らしていた。なんてみっともない姿だと思った。

 

「いけませんね、これは……」

 

そうして最後の仕掛けを準備する。爆弾を仕掛けさせたのは二つ。

対消滅エンジンと、艦橋だ。

ヴァレンが艦橋に足を踏み入れた瞬間、自分諸共爆破するつもりだ。

少し小競り合いをし、撮れ高を稼いでから爆破。動画配信者として素晴らしい死に方ではないだろうか。

 

……そう思い込もうとして、配信冒険者ランキングを見る。

……順位はトップ10まで上がっていた。

 

「ようやくここまで回復しましたか。人間死ぬ気でやれば、何とかなるものですね」

 

人の一生は、何を残したかで決まると誰かが言った。自分の命がここで終わってもいい、構わない。

 

「お兄様は、もう地球に帰った頃合いでしょうか」

 

そう呟いた瞬間、モニターの中で最後の一兵が爆ぜる。

ミナカは即効で配信を再開する。同時に暖気していたパワードスーツを起動。

 

――全十二台の艦橋カメラ。そして一台の球体型カメラドローンによって配信画面に、ピンク色の三メートルのパワードスーツが入り込む。

 

――シルエットはシンプルだ。ドラム缶に両手足が生えたそれの装備は、室内戦に特化したチューンを施している。

両肩には三連装の煙幕。右手には片手でも扱えるショットガン、両腰には丸いポッド型の対人機銃を二対。左手は三本の鉄の爪――上に二本、舌に一本。

中央の扉が開くと、正面には右に位相転換杖を握ったヴァレン。少し下がって黒ローブの女が付き従っていた。それ以外はいない。

 

《ヴァレン様!》

「……」

 

左腕の鉄の爪が開くと、手の平に当たる部位からワイヤーがアンカーを付けたワイヤーが電磁場で射出される。

アンカーが部屋の左隅に突き刺さると同時。左に全速力で下のローラーを回転。コンソールを弾き飛ばしながら、両腰の対人機銃を放つ。

 

「お待たせいたしました、いえお待たせし過ぎたかもしれません! どうぞご覧になって下さい視聴者様! これがパンピーが異能者に戦う瞬間だ!」

 

電子部品や破片が舞う中、ミナカは右のショットガンを放つ。コメント欄はと言えば――

 

”やったか!?”

”勝ったか!?”

 

濛々と茶色い煙が立ち込める中、お約束通りのコメントが湧き上がる。

しかし、ミナカが放ったそれら全ての弾丸はヴァレンが張った赤いデータの壁一枚に全て阻まれていた。

 

「……やってやる、戦ってやる! この命続く間は、何度でも!」

 

ミナカのスマホに立て続けに課金を告げるベル音が鳴り響き、白文字がミナカの視界に表示される。

 

 

〈+Cr:3,214,000/Statistics Emotions:Kill⇒BLASTER UPDATE〉

〈+Cr:1,593,000/Statistics Emotions:Excite⇒LEG AGILE UPDATE〉

〈+Cr:5,118,000/Statistics Emotions:Curiosity⇒CAMERA UPDATE〉

 

……。

…。

 

 

ミナカのパワードスーツに対し、次々に高額なスパチャが飛びパワードスーツが強化される。

そうして次の行動に移ろうとした時だ。

 

《ヴァレン様、ここは私がやりましょうか?》

「えぇ、お願いします」

 

ヴァレンの前に黒ローブの女が出る。熱風にローブの端が焦げる中、女は無手。構える事すらせず、両腕を縦に伸ばしたままだ。

ミナカは躊躇わずパワードスーツのショットガンを向ける。

 

「え?」

 

しかし引鉄を引くボタンを押そうとした直前、コクピット正面のモニターから黒いローブの袖――白い右手が生えていた。

右手は既にミナカのジャケットの首元に絡んでおり、そのままミナカはパワードスーツから引きずり出される。地べたを一度転がり、仰ぎ見るとそこにはヴァレンの姿がある。

 

《ヴァレン様、終了しました》

 

振り返ると黒ローブの女はいつの間にミナカの背後に立ち、恭しくヴァレンに対して一礼している。

一体何が起こったのか、一拍遅れて察しは付いた。量子フェージングでコクピットから引きずり出されたのだ。

 

”嘘だろ!?”

”やべーぞ、クズ! 逃げろ!”

”あれ、なんか音が?”

 

一瞬だけコメント欄が目に入ると、視聴者コメントも戦慄した物が流れていた。

 

「――」

 

ミナカは激情に駆られながら、背中に差していたハルハルのムラマサを右手で抜く。しかし、ヴァレンは僅かに体を揺らすだけで振り下ろそうとしたミナカの脚をさばき、再び彼女を地面に転がした。

 

「きゃあ!」

 

ノイズと音割れが入った声がギャラクシー・ライブリンクに響く。

ムラマサが明後日の方向に行く中、ヴァレンは表情を一切変えていない。

……その無表情だけでミナカの心を手折るには充分だった。

 

自然と息が引き攣る。

サンドドラゴンに襲われ、間一髪喰われかけた時ですらここまでの絶望ではなかった。

自分は、この男に勝つ事など出来ないだろう。

 

 

〈■■■■■〉

 

 

視界の、瞳の中の表示は急速に文字化けや欠落が多くなっていく。回線状態が悪いのだろうと思った。視聴者のコメントはもう先程から流れてこない。

自分は誰にも見届けられないまま死ぬ。

それでも彼女はやるしか無かった。

 

「わたしだけの力で、お前を倒さないと! お兄様が安心して……地球に帰れないんだ!」

 

……最後に発した覚悟の声すら、マイクで音割れして酷い物だった。

恐怖から来る涙で目がにじむも、怯えも諦めも押し殺しミナカは最後の切り札を切る。

頭上の黒いリボンを右手で触れ、この艦橋に仕掛けた爆弾を起動した。

 

 

◆◇◆◇

 

 

ウィザードとは理性の守護者である。ソーサラーとは感情の破壊者である。

ウィザードがソーサラーに堕ちる時、強い感情の引力が引鉄になるという。

 

 

ヴァレンの左手には青く光る、厚みの無い板があった。無我夢中、もがくように手にした人差し指と中指の隙間に挟まれたそれは、途端霧散する。

 

「ウィザードの基礎中の基礎です」

 

荒れる激情を無表情で押し殺す。

ミナカ・アラギが傷つく姿を見るのは心が痛んだ。しかし、けして心を許してはいけなかった。

……彼女を救った理由はただ一つ、戦略的に重要な存在であるからだ。

 

「これが患部です。私の力により、この艦に仕掛けられた爆弾のコードを実体化させて抜き取りました……対消滅エンジンを爆破するなら、ここにも仕掛けるのが定石です」

 

彼女の最後の希望を、異能の力で潰す。

ミナカが左右に赤と青の目を走らす様子を見て、足掻き続ける者が故の悲しい性であると察した。

 

「何もありません、もう取れる手段は尽くしてしまったのです」

「……それで諦められるとでも」

「気持ちはわかります。痛いほどに」

 

背後の女に目で命令し、ミナカを地面に押さえつける。

……ミナカが後ろ振り向き確認する間、ヴァレンは位相転換杖をその場に立てたまま置くと、懐から銀色に輝く短剣を取り出す。

嘘だと願っていた。今から行う事が外れて欲しいと。

 

風切り音と熱い感触。

 

ミナカの頬に一筋赤い線が走り、血が垂れ始める。手にした刃が彼女の血を吸うと、刀身は七色に輝く。

久々に血族の血を吸った事に、遺跡が呼応していた。

その時思い出すのはソーサラー・カプランの事。

 

「……私には出来る、出来るのだ友よ」

 

七色に輝く刀身を見て、ヴァレンはぽつりとうめくように呟く。

しかし、ヴァレンは耳にしてしまった。ミナカがぽつりと、掠れるような声で呟いたその言葉を。

 

……死にたくない、と。

 

その彼女が自分に言い聞かせる言葉が、ヴァレンの理性が感情で焼き切れる最後の一線であった。

――強い感情の炎が、理性ごとヴァレンを炙る。

ヴァレンが先ほど立てた位相転換杖に赤い光が渦を巻くように発生し絡み、自分の瞳に映る情報、表示は欠落。抜け落ち変異。

 

 

〈ヴ繧。繝サ繝ソ縺ッ縺薙繧後縺九繧峨繝￱繝₩繧ォ繧定殺縺吶繧繝ト繝テ〉

 

 

ミナカを示す表示が文字化けするのを見て、ヴァレンは自らが理性を保ちながらソーサラーに変わっていくのを実感した。

……その時。教典に語られるウィザードとソーサラーの祖は、その二つの関係性について”ジェーダとシースみたいだ”という謎の言葉で笑ったという逸話をヴァレンは思い出す。

皮肉な物だと思う。自分はこれから行う事を感情では嫌がっているのに、理性ではそうしなくてはならないと思っているのだから。

 

 

ウィザードが堕ちるその姿、ヴァレンがソーサラーに変わった瞬間。ミナカは意識を失っていた。

 

「久しぶりですね」

 

……両手で抱き抱えたその体、その重さは、彼の心をただただ酷くかきむしる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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