死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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27話 夢の鍵+??????

 

 

【観測者の深層心理読み取り開始】

 

【因果律構成に欠損を認める。補填の為に惑星ラクトゥーへの制限解除を求める】

 

【アカシックレコード限定励起⇒制限解除】

 

 

◆◇◆◇

 

 

――わたし、ミナカ・アラギ! どこにでもいる普通の女の子!

 

 

優しいパパとちょっとおっかないママに育てられた、極普通の女の子!

学校で得意なの授業は技術と数学で、苦手なのは体育! いつかフィアナみたいなウィザードになれたらいいな!

 

「貴方、そういう所直した方がいいわよ」

 

こいつは本当に嫌いだけどなんでかつるんでるキャストリル! チクチク嫌な事を言ってくるけど、妙に考え方は合うんだよね不思議!

住んでるところは、何てことない普通の惑星。都会には憧れるけど、少し怖いな……わたし宇宙船の操縦とかできるのかな?

 

 

――わたしは幸せだ。

――わたしは幸せなんだ。

 

 

わたし幸せなの! 友達もいて、皆優しくて、パパもいて、ママもフィアナも生きていて!

お金なんていらない、一位なんてなれなくて構わない。ただ皆がいてくれればそれでいいの!

 

だって、幸せってそういう事でしょ!

 

 

――――。

――。

 

 

――そこで都合の良い夢からミナカは醒めた。

 

 

「あり得ませんね、ワガハイがキャストリルと友達とか……リアリティが無さ過ぎて興醒めです」

 

自分の深層心理から来た物とは思えない夢に、一人ごちる。

そこに白文字。

 

”のんきにしとる場合かー!”

”周囲見て!”

”逃げるんだよぉぉぉぉ!”

 

視界の裏にコメントが流れるのと、その声がかかるのは同時だった。

 

「目が覚めましたか」

「ひっ!」

 

胡乱な意識がヴァレンの顔で即座に引き戻される。効果としては冷水の百倍はあったと思った。

目が覚めたのはよりにもよってヴァレンの腕の中だった。周囲には霧が深く立ち込めていて何も見通せない。

背後には黒いローブを纏った百八十センチ程のアンドロイドが、ヴァレンのその黒く変色した位相転換杖を両手に持ちながら静かに従っている。

 

暴れようにも体は指一本動かす事は出来なかった。ただグレーのドローンだけが自動モードでミナカの事を撃ち落とされもせず追尾し続けている。

 

「ウィザードの基礎中の基礎、力を流し込み神経中枢を掌握しました……」

「こ、ここは何処なんですか?」

「惑星ラクトゥーの聖域ですよ」

 

ヴァレンのその一歩が刻まれると、霧が晴れていく。

辿り着いたその先は、三つの割れた巨大なリングが天を仰ぐ形で突き刺さっている。地面には青く澄んだ池に囲まれた石碑が、ひっそりと佇んでいた。

 

「……なにこれ?」

「これは貴方の祖先が築き上げた物です……ここに宇宙全てを相変換出来る演算機が眠っているのです」

 

ミナカは見上げるようにヴァレンの顔を見る。しかし、ヴァレンはミナカにけして視線を合わさない。

 

「貴方の母方には、遠い昔ウィザードとソーサラーの祖になった神の血が流れています……たとえウィザード適正値がゼロでも、それは変わりありません」

 

ヴァレンはそう言うと、まるで壊れ物を扱うように地面に彼女の体を置いた。

そして彼は右手で白いコートの裏側からそのイドロダイトの短剣を取り出す。先程ミナカの左頬に傷を付けた物は、今は革の鞘に納められている。

 

「何するつもりなんですか……?」

「ソーサラー・カプランの奥方の血縁も、同じく神の血を引いておりました……その娘も」

 

何かがおかしい。そう思った。

背筋には連続して戦慄が走っていく。

こいつは何でいきなり血の話をしているのだ?

 

「カプランが所有していた、この惑星の栄枯盛衰を刻んだ年代記には、この聖域の封印の解き方も載っておりました……その血と魂を贄とし、このイドロダイトの短剣に捧げれば開くと」

 

彼はそこで目線を空に移す。

 

「叶うなら、彼の神の鎧を手に入れられれば良かったのですが……もう叶う事はないでしょう。しかし、ここで止まる訳には行きません。たとえ、この命に代えても我が宿願は果たさせていただきます」

 

鞘から短剣が再び引き抜かれる。その刃は七色のプリズムを放つように輝いていた。

……どう考えてもミナカが殺される展開が見えている。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。血は別にいいんですけど、魂ってそんな」

「……」

「そこの人、そこの人もおかしいと思わないんですか!? この人与太話を信じてワガハイを殺そうとしてるんですよ!?」

 

フードのアンドロイドは何も言わなかった。ヴァレンが「席を外していただけますか?」と言うと、ヴァレンに位相転換杖を差し出した後、一礼して霧の向こうに去っていく。

彼が杖を持つと、先端には赤い燐光が渦を巻くように発せられる。視界の端に映るヴァレンを示す表示は文字化けや欠落が含まれている――ソーサラーの証だ。

自然と歯の根が震え始めた。恐怖が毒のように回っていく。

 

「冗談です、よね!? いや、わかりましたご協力しましょう! ワガハイ、血は幾らでも提供します!」

「……」

「欲しいなら何でも差し上げます! だから命、命だけは!」

 

そこでミナカは気づく。

この人は本気だと。本気で殺しにかかってくるのだと。

理解した瞬間、言葉は喉を突いていた。

 

「助けてパパぁぁあああ!」

 

その時、息が漏れたのはミナカでは無かった。

 

「貴方が生まれたのは、惑星シャザの丘にある病院でした」

「はい……?」

「病院には桃色の花を付けるコカゲユラシが植えられていました。私の妻はその花が好きで、生まれる子はその花にあやかって名前を付けようとよく言っていたものです」

 

何故、こいつはママしか知らない話をしている?

そこで思い至った想像に、即座にかぶりを振った。

いや、まさか。

そんな筈はない。

 

「コカゲユラシを人の名にするのははばかられました。故に、とある地方での別名を取ったのです………………ミナカと」

 

ヴァレンがその瞳に左手をやる。コンタクトを外したその瞳の色は右目が青で、左目が黄。

 

「我が家の遺伝で、子供はオッドアイを発症する事が多い」

「嘘……」

「お前が生まれた時、私は初めて仕事を抜け出して病院に駆け付けた」

「そんなの嘘」

「一目見て解った。あれが私の子だと」

「嘘だ」

「貴方のママの名はユリカ。かつてウィザードの祖が残した血族の流れを汲む名家の生まれ」

 

喉が鳴る。

心臓が早鐘を打つ。

……そうして、ミナカが一番言われたくない事をヴァレンは口にする。

 

「貴方のパパは、この私です」

 

そうしてヴァレンは位相転換杖から手を外し、跪く形でミナカの首に左手を添える。

 

「お前を、愛していた」

「パパ……わ、わたし、頑張ったの」

「お前の母さんも愛していた」

「パパに見つけて欲しくて……ママのお墓に連れてきたくて」

「だけど、お前にはウィザードの素質が無かった」

「パパ……」

「お前が悪いんじゃない、お前を作ったパパが悪いんだ。お前の出来の悪さは、全てパパの過ちなんだ」

 

左手に籠る力が強くなる。その目、血を分けた黄と青に涙と苦渋が浮かぶ。

そうしてヴァレンはコンタクトを再び付け、右手に持った短剣。その鋭く尖った切っ先をミナカの心臓の位置に当てた。左胸からはヴァレンのスマホが、内ポケットから垣間見える。

 

「お前が苦労しない世界を作りたかった! 出来が悪くてもいい、胸を張って生きられる社会にしたかった! けれど、お前が……お前が鍵なんだ……」

「お願いお願い、やめてパパ!」

 

ヴァレンは一度息を吸う。

 

「お前は、パパの子じゃない。橋の下から拾ってきた子供なんだ」

 

ミナカは察した。もうこれで終わりなんだと。

自分はここで死ぬのだろうと。

それなら、最後に二つだけやりたい事があった。

 

「じゃ、じゃあパパ十七回分のお誕生日プレゼントが欲しい! 時間! そう時間が欲しいの!」

「何の時間ですか?」

「視聴者様に最後のご挨拶を! とりあえず苦しいから左手を離して!」

「いいでしょう」

 

ヴァレンが首から手を離すと、ミナカは自分の周囲を飛び交うグレーのドローンのカメラに視線を向ける。そして出来る限りの笑顔を浮かべた。

 

「いやぁー、楽しいお時間でしたが今回はこのような結果になってしまいました! 今までご声援ありがとうございました、感謝に堪えません! ワガハイの命はここで尽きる事となりました!」

 

そこでコメント欄に目を向けると。

 

”笑って言う事かよ……笑えねぇよバカ!”

”そんな事言うなよ、諦めるなよ”

 

ミナカの挨拶を惜しむ声が白文字となって幾つも流れていく。いい事をしようとしたら、見てくれる人は見てくれるのだろう。

 

「このチャンネルは今回で最終回となります! 視聴者様におかれましては、どうかいつまでもお元気で!」

 

そこでふと、配信冒険者ランキングを見る。

ミナカのぶっっっちぎりダンジョン配信は、ランキング二位だった。

最後の最後で、数字という神すら彼女を救ってくれる事は無かった。

 

「…………そんなに甘くはないか」

 

思えば、自分の人生は何だったのだろうと思う。何かを残せたのだろうか。

翻弄されるだけ翻弄され、最後に手に入ったのは身の破滅だけ。しかし、思い返せば当然のことかもしれない。

 

今まで綺麗な生き方をしてきたとは言えない。何人かを踏み台にしてきたのだ、とうとう自分の番が来たという事なのだろう。

……ヴァレンが再び首に左手を添える。

 

「あぁ、待ってパパ!」

「今度は何ですか?」

「娘ボーナス! 娘ボーナス! 最後に、最後にもう一言だけ!」

「いいでしょう」

 

最後にミナカは流し目で右にあるドローンに目を向ける。涙が一筋頬を伝った。

ここに天命は尽きた。けれど、どうか彼だけは無事元の世界に帰って欲しい。

そう願いを込めて。

 

「さよなら、お兄様」

 

顔を右から左に向けるのは死に顔を見せたくなかったから。

イドロダイトの短剣がミナカの胸に突き刺さり、彼女の体から急速に熱が奪われていく。

 

ヴァレンが刃を引き抜くと、糸を引く赤黒い血が途端溢れて血の池を作っていった。

 

……ミナカ・アラギが動く事は、二度と無かった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

【観測者に警告】

【現在アカシックレコードに異常が発生。アストラル光中継網へのフォールバック不全を確認】

 

 

【第三者叙述機能に支障を来す恐れがあります】

【このテキストは貴方の意識を拾い生成されたテキストです、貴方の使った言語・貴方の過ごした時代・貴方の生きた文化圏を反映しております】

 

【このテキストは、アカシックレコードに保存された複数の可能性記録を参照し、観測時点の現在として再構成しています】

 

 

 

 

【アカシックレコードの異常原因判明:現在、当該世界のブレーンが異常を来しています。観測世界拡大中…】

 

 

 

 

 

【警告! 貴方は世界線分岐点です!】

【これから観測行為を継続する場合、世界線が大幅に変動します。当該世界の物理法則・因果律秩序を求めるならば、早急に観測を止めて下さい!】

 

 

 

【貴方が観測する場合の変動率を予測計算・算出します】

 

【演算終了群:候補1から候補167874623596379までをリストアップ】

 

 

 

【候補1:0.000000% ⇒ 28.763458%】

 

【候補2:0.000000% ⇒ 5.113707%】

 

【候補3:0.000000% ⇒ 10.67623%】

 

【候補4:0.000000% ⇒ -8.563213%】

 

【候補5:0.000000% ⇒ 0.003763%】

 

【候補6:0.000000% ⇒ 86.749342%】

 

 

――――。

――。

 

 

【候補【エラー】:0.000000% ⇒ 1.048596%】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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