死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで 作:生駒伊織
そこでレオパルドンは部屋を抜け、駆け出す。一直線で階段を駆け上がり、背後を振り返る事は無かった。
その時光が自分を包むのを感じる。瞬きする前の一瞬間、風景は階段からすり替わって満天の星空が浮かぶ地上だった。
地上に上がると、途端予備遺跡から光が溢れる。眩い光は天に昇り、満天の星空に向かって散らばっていく。先程入った遺跡の形は跡形もなく消えていた。
それでいいとレオパルドンは思った。願わくば光だけでも重力の膜を突破し、地球に戻っていて欲しいと。
――名前は在り方を規定する時がある。
――レオパルドン、その名を持つ彼がこの後取った行動は奇しくも彼が愛した者と同じであった。
「マーベラー!」
掠れた叫びに鉄の愛機、マーベラーは甲高いエンジン音で呼応した。
◆◇◆◇
第28話:チェンジ、レオパルドン
◆◇◆◇
――レオパルドンは掛け声と共に開閉したマーベラーの昇降口、そのスロープを駆け上がる。
そうしてまず行ったのはフィールド・モジュレーターに淹れたコーヒーをまず回収する事だった。彼の前に差し出したマグカップを手に取ると一言。
「相棒、すまないでござるが引退はキャンセルでござる。このコーヒーは拙者が気付けにいただくでござるよ」
それに対し、フィールド・モジュレーターは駆動音を一つ立てる。レオパルドンにはそれが苦笑いと共の了承に思えた。
……レオパルドンはマーベラーのコクピット、その操縦席に乗る。右脇のホルダーにマグカップを置くと、ネットリンクを開いてマーベラー中枢に接続。途端機体後方のバーニアに火が灯る。
ネットで惑星ラクトゥーの座標を検索するも正確な座標は表示されなかったので、最寄りの座標を検索して入力。機体は一先ずその座標に向け、自動運転で向かっていた。
同時にドローンの起動、配信を開いた。即座に視界には白文字が走る。
〈GALAXY LIVE LINK:CONNECTED〉
〈REC:LIVE / ALL SYSTEMS:NORMAL〉
いつものメッセージが流れ始めた。どうやら配信状態は良好らしい。
”レオパルドン!?”
”どうしたんだ!? 三日ぶりだぞ!?”
「ファ!? 三日でござるか!?」
どうやらレオパルドンが地下にいる間、地上では三日経っていたらしい。
カレンダーを見ると確かに三日経っていた。
徐々に離れていく地表。それと共にコメントが幾つも付き始めた。そんな視聴者に対し、レオパルドンは気を取り直して話しかける。
「皆、こんばんは! レオパルドンでござる、先程は最終回『さよなら、レオパルドン』をご覧いただきありがとうでござる! 今回は新しいご報告があって配信を始めたでござる!」
”ご報告? 何のだよ?”
「今から新番組が始まるでござる! 題して、『帰ってきたレオパルドンRX』!」
”帰ってきたレオパルドン!?”
「皆にはこれから新番組の新企画に付き合ってもらうでござる! つまりは、ラクトゥーに行ってミナカ殿を救ってみたでござる!」
困惑するコメント欄にレオパルドンは駄目押しで頼み込む。
「お願いでござる。どうか視聴者の皆には、力を貸して欲しいのでござる」
そこにコメント――高額の金額が添えられた赤いスパチャが表示された。
”あんな奴、助ける必要あるのかよ。今のラクトゥー行くなんて、死にに行くようなものだぞ?”
その問いに対し、レオパルドンは答えの持ち合わせがあった。右脇に置いたマグカップを手に取ると、ヘルメットの口の部分に付けて傾ける。
すっかり冷めた黒い液体は、彼の胸を伝い床に流れ落ちた。
”あぁ、こぼれちゃったよ”
”何今の!?”
「まずいもんでござるな……自分で入れたコーヒーは」
”味分かるの!?”
「わかる訳ないでござるか、拙者この中空洞でござるよ?」
”なら何でやったんだよ!?”
「これがミナカ殿を助けに行く理由でござる! ミナカ殿には必ずコーヒーを入れていただくでござるよ!」
そこでレオパルドンが言うと、次々に課金音を知らせるベルが鳴り響いた。
”アタイ、そういうノリ嫌いでなくてよ……”
”しゃあねぇな、付き合ってやるよ”
”家燃えたが、お前に付き合ってやる”
レオパルドンのその声にこたえる物は徐々に増えていく。百万、二百万と連鎖は止まらない。
高評価もチャンネル登録もスパチャも、次々と指数関数的に増えていく。
「皆……ありがとうでござる」
数万クレジットのスパチャが投げ込まれた。添えられたメッセージはただ一つ、”そう言えば、次に会う時正体を教えてくれるって言ったな?”と。
答えない訳には行かなかった。しかし、キャラクター性は守らなくてはいけない。
「拙者の正体は、再出発した配信冒険者でござる! って言う事で今日はどうか一つ!」
レオパルドンの声に批判は無かった。コメントに流れて来るのはどこか満ち足りた空気。そうして決定的なコメントが流れる。
”今日のところは、それで勘弁してやるよw”
「ありがとうでござる、皆!」
”相手はヴァレン・スローンだろ、配信停止のヤツの対応方法は考えたのか?”
ヴァレン・スローン。
その名を聞いた瞬間、脊髄反射で思い返すのはあの瞬間。
『試合にも勝負にも勝ったのは貴方でした、ただ私に勝てなかっただけで』
自分はあの化け物と戦って勝てるのだろうかと、そう思った。
「一応チャージアップという非配信下でもエネルギー付与使える機能はあるでござるが……」
”ほぼ無策かよ!?”
途端、配信のコメント欄ではどよめきが広がった。正直ここに来てレオパルドンは殆ど着の身着のままでやって来た事に気付く。
「どうしようでござる……拙者、特に何も考えてなかったでござるよ」
”このおバカさんが!”
”アホめ、今ラクトゥー。バリアで封鎖されてるぞ”
「だって、拙者地上出たら何か三日経ってたんでござるよ! プランなんてBしかないでござる、つまりある訳がない!」
一つの赤スパが飛ぶ。内容はたった一言。
”しゃあねぇ、配信停止とバリアの対応プログラムは俺が組む……”
「なんかやってたでござるか?」
”帝都惑星の大学で異能マトリクスの教鞭を執ってる、非常勤だがな”
「おお、帝都惑星……帝都、あったんでござるな」
”驚くのそこかよ!?”
その声に次々と声が上がった。
”二十四歳、帝都大学の学生です。多分先生の授業受けてます()……手伝います”
”五十一歳、帝都大学の教授です。多分先生の考査しています()……手伝います”
”空いてる奴等にも空いてない奴等にも声をかけろ! ラクトゥー着くまでに終わらせるぞ”
いつの間にか帝都大学の非常勤講師を中心としたプログラミングチームが組まれていた。対応プログラムが完成したら報告してくれるという。
コメントは次々連鎖していき、止まる事を知らない。
”そう言えば、フィールド・モジュレーターはどうなんだ?”
「レーゾスのダンジョンのままでござる」
そこでレオパルドンはカーゴ内のカメラを表示し、改造コンテナに格納されていた無二の相棒フィールド・モジュレーターの姿を配信画面に表示する。
白い正方形の小窓にその姿は即座に映った。
”ボドボドじゃないか()”
”お前これで行こうとしたの!?”
”もっと大切にしてやれやw”
「この中に魔法使える方はいるでござろうか……」
”未だに電子麻薬をキメてらっしゃる?”
第二の問題はフィールド・モジュレーターの修理だった。いつもはミナカが修理してくれていたのだが、喧嘩別れとなってからは放置していた。人工筋肉は千切れたまま、装甲はひび割れ、顔から股間にかけてはアルドの刻んだ断裂で、内部にレオパルドンが入ったら隙間から見える仕様となっている。
「いつもはミナカ殿がやってくれてたでござる……」
”ダメ人間の発言だぞそれ”
「ぐ、でも正直否定できないでござる」
”とりあえずよ、アイツの事だ修復用の資材を買い込んでない訳がない。倉庫のリストあるから見せてくれ”
そこでレオパルドンはネットリンクでマーベラーの中枢を探り、資材リストというタイトルのファイルを見つける。
アップすると少し間を置いてコメントが流れた。
”クリアファイバー樹脂にナノマシンを入れて修復はどうだ? ちな、ワイ本職はパワードスーツ鍛冶”
”ワイ企業付き。人工筋肉修復は任せろ”
”問題はどうやって修復するかだが、……流石クズだ。アイツ修復用ドローンを一セット買い込んでやがる”
”レオパルドン、ドローンのチャンネル開いてーな”
そこでレオパルドンの頭に素朴な疑問が一つ思い浮かんだ。
「そう言えば、これは拙者が悪いんでござるが。……今アンドロイドの反乱真っ最中なら、ハッキングとかクラッキング問題って大丈夫なんでござろうか?」
不気味な間が数拍空く。一瞬レオパルドンに戦慄が走った。
”ワイ将、一般ハッカー。それは無いと言える模様”
”一般ハッカー、君の意見を聞こう!”
”アンドロイドの陽子脳に紐づけられたIPアドレスは容易に特定可能。で、さっきからギルドがギャラクシー・ライブリンクから締め出しまくってる”
「つまり、どういう事でござるか?」
”ここで発言してる奴にアンドロイドはいない。ただ凄いアナログな方法で、人を脅して閲覧したり、人に命令してハッキングやクラッキングは可能”
「……それ聞くと、ちょっと怖いでござるな」
つまり、今敵のクラッカーやハッカーが間接的にいるかもしれない中でドローンのチャンネルを公開しようとする。
しかし、レオパルドンとしては出来れば職人のサポートは受けたかった。
”軍の情報を抜いて、現在アンドロイドに占領されてる惑星を特定。その星からのアクセスを遮断するのはどうだ?”
”わかった、やってみよう。レオパルドン、職人共十分くれ……有志を集めて当たって来る”
「しかし、貴公等は……」
”お前に俺達の人生を賭けてやる。お前が勝てば官軍だ、皇帝印の恩赦を期待するぜ”
”感謝しろよ? ……って、なんじゃこりゃああああ!”
「どうしたでござるか?」
”お前、この自動運転の座標!? 銀河の外れの小惑星帯に突っ込む座標だぞ!? こんな突っ込んだらマーベラーでもお陀仏だ!”
「マジでござるか……!?」
”操縦桿貸せ! 俺が動かす!”
「しかし……」
そこでコメント欄に表示されるのは一つのリンク。それを開くと、中から現れるのは電子身分証明書のデータ。
”そいつは俺の素顔だ。これで信用しろ、何だったら従軍経歴も載せるか?”
「貴公……」
レオパルドンの行動は速かった。ネットリンク機能で中枢を、電子身分証明書を載せた男と繋げる。その時ライブカメラで彼の姿をレオパルドンは見た。
七十歳にはなろうかという白髪の老人であった。おそらくは自宅で配信を見ていた。背後の棚には軍人だった頃の勲章やトロフィー、宇宙船を模ったモニュメントが並んでいる。
”安心しろ、レオパルドン! お前を必ず、ラクトゥーに連れていく!”
”退役軍人会に片っ端から連絡しろ! ラクトゥーに出せる船で援護に行くぞ!”
”レオパルドン、お前はヴァレンと戦う事だけ考えろ!”
そこでレオパルドンは奇妙な違和感に気付く。何もかも妙に上手く行っていた。
こんなに人が動いてくれるものなのだろうか? いささか話が出来すぎていやしないか。
……その疑問は、途端マーベラーの周囲に浮かぶ赤や青、黒や黄やピンクの爆発で吹き飛ぶ。
”なんだ、これ爆撃か!?”
”軍事衛星ハッキングしたんだが、敵影なし”
”イドロダイトエネルギーが感情エネルギーにより漏れ、それが船を伝達して小惑星やデブリに引火爆発したんだろ……つまりレオパルドンが悪い”
「拙者のログには何も残っておらんでござる……」
”貴様ぁ!”
――彼が好きな作品の一つ、その作中に出て来る言葉風に語るならこの時起こった事は一つ。
――不思議な事が起こった、である。
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