死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで 作:生駒伊織
――貴方はきっとこれをフィクションだと思って読んでいるだろう。
この小説は配信である。
しかも既に終わったアーカイブではない。今まさに行われているライブ配信なのだ。
レオパルドンが帰還を拒否した際、レーゾス予備遺跡が変換された光。それが穿った世界を覆う高次元の膜――ブレーンに空いた僅か数十ミクロンにも満たない極小の穴。そこから偶然漏れ出た情報が、この小説の正体だ。
ここで重要なのは、この小説の元となった情報はエネルギーとして作用してない事にある。
これは力ではなく、物事の起こりやすさ――確率への干渉としてのみ作用している。
では、人間が何故この情報を受け取る事が出来るのか。
それはこの配信が宇宙に拡散され、高次元の膜の穴は本来重力しか通らない……この世界の科学者達が提唱したブレーンワールド仮説ではそう定義されている。
だが、ここでは別の可能性を仮定しよう。重力以外にも通る物が一つある。
この配信は確率への干渉だ。
レオパルドンも貴方も含め存在する高次元へ干渉し、重力と同じ作用をもって、膜の穴から通った情報は確率分布の歪みとなって静かに広がっていく。
人の脳は、この歪みを無視できない。
例えば壁の染みを見つけたら、顔としてパターンを見出す事があるだろう。
脳とは、言わば意味を見出す事に特化した器官だ。
この物語は脳から発生した物ではない、無意識に受け取った情報を復元したに過ぎないのだ。
無限に生成される並行世界に、この配信は拡散されている。
ある所ではこれは動画作品かもしれない。
ある所ではこれは漫画作品かもしれない。
高次元の膜から漏れるこの配信は、無限の並行世界において様々なメディアで展開されるだろう。
……時にこれが配信というなら、終わりまで書かれた小説という形式に貴方は矛盾を感じるかもしれない。
しかし、これは紛れもないライブ配信なのだ。
貴方は過去を読んでいるつもりかもしれないが、実際には貴方が観測する事により現在が確定している。
過去も未来も現在も等価なアカシックレコードで再構成され保存されたこの物語は、貴方が観測する事により今として展開が確定し、変動する世界線の上に文章として生成されているのだ。
貴方は世界線分岐点だ。
貴方の意思でこの物語は展開を変えている。
それを決めるのはただ一つ。
スパチャである。
貴方が小説投稿サイトのプラットホームのボタンを押す度、紙のページをめくる度、文章を追って脳で処理する度に因果律は僅かに変動する。
あらゆる情報に質量があるとするなら、人の感情にも重力があると仮定しよう。
ならば、観測はスパチャなのである。
僅かな瞬き、僅かな意思。それはあらゆる時間軸においてレオパルドンの行為に、ほんの少しの活力を与える。
それは例えばレオパルドンが騙る正体説が、この世界の歴史と符号するなどの補正に始まり、果てにはレオパルドンビデオシグナルやミナカを助けに行く時に賛同者が集まるなど様々だ。
この宇宙において、この時空において、貴方も無力ではない。
ここまで読んで合いそうでしたら、お気に入り・しおりに入れていただけると更新を追いやすいです。