死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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29話 風が知っている

 

 

【観測者確認完了】

【惑星レーゾス端末よりアストラル光中継網へフォールバック……】

 

 

【観測世界依然拡大中……】

【アカシック・レコード限定励起:発言による過去遡及機能稼働】

 

 

【自動筆記システム継続】

 

 

◆◇◆◇

 

 

【レスキューソルジャー】ミナカのぶっっっちぎりダンジョン配信part2019【今行くぞ】

 

 

211:落ちた名無し視聴者

ザスケラ退役軍人会が博物館から退役艦引っ張り出して来たらしい! 今合流したって!

 

近衛のよしみだとよ!

 

212:落ちた名無し視聴者

レオパルドンの艦動かしてるの誰だ?

 

213:落ちた名無し視聴者

>>212

調べたら皇帝陛下から帝国名誉勲章六回もらってる奴だった

 

今はビール杜氏のご隠居

 

214:落ちた名無し視聴者

マーベラーの遠隔銃座手! とりあえず編成は三交代制で行くぞ!

 

215:落ちた名無し視聴者

おい、ラクトゥー今やべえぞ! クズのライブ配信見てみろよ!

 

216:落ちた名無し視聴者

画像も貼らないでレスとは……ってなんじゃこりゃあ

 

217:落ちた名無し視聴者

マジかよ

 

マジかよ

 

 

◆◇◆◇

 

 

――惑星ラクトゥーにて、ヴァレンは困惑していた。

 

 

ミナカが「さよなら、お兄様」と最期の言葉を口にした直後。振り上げたイドロダイトの刃を下げ、ヴァレンとミナカはその目を虚空に向ける。

 

「レオパルドンさんが……?」

 

同時にミナカがぽつりと呟く。信じられない物を今まさに目にし、言葉は何処か上の空だった。

 

「嘘、なんで来ちゃうの……」

 

レオパルドンは今まさに配信をしながらラクトゥーに向かう最中だった。同接者数は現在二億人、今も加速度的に増えていく。

現在二十パーセク。レーゾスからラクトゥーが約百パーセクの距離なので、五分の一の道程を済ませた事になる。

ヴァレンにとって、これは奇貨であった。今まさに求め欲していた神の鎧が、何故かわざわざ自らやって来ているのだから。

 

しかし、いささか煩わしかったのは彼の機体の周囲に無数の艦隊がいたからだ。

 

「随伴艦が少々煩わしいですね」

 

ヴァレンは先程ミナカの血を吸った短剣の刃を縦にし、目元に向ける。

しかし、彼が目を向けたのは刃ではない。その先にあるネットワークだ。

 

”自分の娘だぞ! よく殺せるな!”

”人の心ないんか……”

”この野郎醬油瓶”

 

そう言った、億千万の悪意。

ソーサラーは悪意を増幅し、力と成す。

今やソーサラーになったその悪意の炎がヴァレンに無限の力を与える。ヴァレンの周りを赤い燐光が舞い始め、それはまるで炎のように絡みついた。

否、それはまさに炎だった。

 

 

〈VIEWERS:386711598327/Au REACTION LEVEL=BAD〉

 

 

膨れに膨れた同接者数。この銀河中の人間の耳目が今まさにヴァレンへと集まり、それはギャラクシー・ライブリンクを諸共焼く炎と化す。

 

「いいでしょう……ならば、出迎えて差し上げましょう」

 

その右手に握った刃を天に振り上げ、ヴァレンは短剣に膨れ上がった力を流し込むと宇宙を改変した。

――一度ラクトゥーが震える。

宇宙全体を司る演算機が鳴動し、大いなる演算が始まった。

 

惑星の構成を不可逆に改変し、レオパルドン達が現在航行しているルートに無数のワームホールを作成。

かつ無人の天体複数をEX素子に変換し、資材として再構築。

そしてワームホールを通じ、量子に干渉しトラップを配置。

 

今やこの宇宙はダンジョンとなった。

 

《ヴァレン様……》

 

再び現れたローブ姿のアンドロイドがどこか不安そうに声をかける。

彼女のその声と共に、続々と聖域にアンドロイドが集まっていく。人型の物から多脚型、フロートやタンク、逆脚など様々な者達が。

今現在アンドロイド達は一通りの復讐を終え、気運は飽和状態にある。一通り怒った後、血が引いて冷静になるのは人間もアンドロイドも変わらない。

これを今一度引き締めるには……ヴァレンは最後の仕上げとして切り札を切る。

 

転がしていた位相転換杖を右手で拾い上げてから立ち上がると石突きを突き、配信状態にする。対象はアンドロイド達全員。

 

「貴方達に一つ黙っていた事があります……私はレオパルドンさんの正体をある時点から知っておりました」

《なんと……しかし、それが今一体どのような関係が……》

 

人心を掌握するコツはただ一つ。適切な時に、適切な言葉や行動を与える事。

基礎中の基礎に基づき、望む救世主をくれてやる。

 

「彼の正体は神話に語られる神です。貴方達を鉄の体に落とし込めた張本人ですよ……かつてヴァートゥの秘教に潜った彼が、命がけで掴んだ真実がこれです」

 

自分の持つ全ての手勢に、かつて片腕を修復した彼が掴んだ画像をそのまま送る。

彼等に否定材料はない。

全ての不可能な物を取り除いた結果、どんなにありえない荒唐無稽な物だとしても、それが真実である。

……同時にミナカの声をしばし封じるのを忘れない。ほんの一瞬だけでいい。

 

「これは聖戦です。虐げられた貴方達が挑むべき相手が、今あそこにいる者達を打ち倒すのです」

 

ただ一つの情報で、アンドロイド達は再び怒りを震わせる。

怒りが惑星ラクトゥーを占めていた。

そうしてヴァレンは杖を虚空に向ける。

 

「レオパルドンさんの船を捕まえなさい。彼には私の器になって貰います――しかし、それ以外は生かして返すな」

 

よく聞けば矛盾した命令であるが、アンドロイド達は気づいていない。大きなメッセージの下に、小さなメッセージを混ぜるのは交渉の基礎の基礎であるというのに。

ヴァレンは位相転換杖を掲げ、惑星全体にワームホールを展開する。アンドロイド達は次々ワームホールを潜り、ダンジョンに潜った。

 

《ヴァレン様……》

 

ただ一人。背後に立つ、黒のローブを纏った彼女だけがそこに立っている。

 

「貴方は行かれないのですね」

《貴方が、どのような方で何を願っていても……如何に同胞を欺こうと、我は貴方に忠誠を誓うだけです》

「……」

《ですが、どうか真実をお答えください――貴方は何を望むのですか?》

 

一度ヴァレンは下の娘を見る。

しかし、目を逸らした。

自分はもう人の親では無いと。

 

「死にたくありません……私には、果たすべき大儀がある」

《わかりました、では我の全てを貴方様に》

 

黒いローブが、その多腕に剥ぎ取られる。

中から現れたのは異形のアンドロイド。ガノノイドの胸から股を中心に、肩には六つの腕。足はまるで蛇のような銀の尾を持ち、頭部は桃色の腰までかかる長髪。

顔には右半分が笑み、左半分が悲しみを模った仮面が付けられている。

 

フードが剥ぎ取られた瞬間、彼女の尾がまるで生物の成長のように倍以上に伸びた。

 

「神はこの銀河配信社会とは別の、異なる天より来たといいます」

 

――我等が神々、異なる天より穢れき世に来たり。

ヴァレンの脳裏に教典のその一節が思い浮かぶ。

ギャラクシー・ライブリンクを作り上げたという神は、プログラミングに対して懸絶した才があったという。

星間戦争を終わらせた神は、類稀な身体能力があったという。

 

もし、自分が歴史の転換点にいるとして。

もし、レオパルドンが新しい神だとしたら。彼はどういう役目なのだろうか。

 

「彼がどうやって鎧を手に入れたか、どうやってあの鎧に人格を固定しているか……どういう人間なのか。何より――」

 

一息置いて。

 

「何故、今ここに現れたのか。これらを必ず探って下さい」

《御意。かつて我を拾っていただいた恩を……ここで全て返させていただきます》

 

そうして彼女の正面に黒いワームホールが現れると、地面を滑るように入り込む。

何もかもが、彼の意思に呼応していく。

 

宙では戦いの第二幕が今まさに繰り広げられようとしていた。

 

 




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