死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで 作:生駒伊織
――マーベラーの船窓、そこに映る宇宙がダンジョンと化したのは丁度この時である。
EX素子が宇宙空間に広がり、グレーの円形のトンネルがマーベラーを包み込む。ミナカのドローンが届ける配信モニターには、ヴァレンがまさにラクトゥーで短剣を掲げる姿が映し出されていた。
「こ、これは!?」
レオパルドンが思わず素の声を上げると、コメント欄からは空かさず分析するコメント群がスパチャで上がった。
”短剣を使い、ソーサラーと化した事によるエネルギーを注ぎ込んでEX素子を使ってダンジョンを形成か”
”おい非常勤講師チームはどうした? これどれくらいの長さだ?”
”↑ラクトゥーがゴールで現在四十パーセク。おそらく宇宙建造物の新記録を大幅に更新した”
流石のコメント欄もこの件は想定はしていなかったらしい。
「つまり、これを例えるならダイソンスフィアの規模でやるフライトシミュレーターゲームお得意のトンネルと……?」
”やめろ、情報を増やすな”
”せめてダイソンスフィアを説明しろ”
「ダイソンスフィアっていうのは、太陽を中心に無数の人工惑星で星系一帯を覆うアイディアでござる」
”なるほどな”
”そういう事か。ちなみにそこの曲がり角、気を付けろ多分ブラックホールが仕掛けられてる”
突如発生したグレーの迷宮をマーベラーと背後に引き連れた艦隊は、まるで曲芸飛行のように飛んでいく。
現在レオパルドンが乗るマーベラーを先頭にし、三十機もの船が背後に付いていた。
オープンチャンネルにした無線がマーベラーのコクピットの中を無尽蔵に飛び交う。
《宇宙をダンジョンだと!?》
《ヴァレンの野郎、マジイカれてやがるな!》
そこでモニターの中のヴァレンがある事を口にする。
《貴方達に一つ黙っていた事があります……私はレオパルドンさんの正体をある時点から知っておりました》
《なんと……しかし、それが今一体どのような関係が……》
《彼の正体は神話に語られる神です。貴方達を鉄の体に落とし込めた張本人ですよ……かつてヴァートゥの秘教に潜った彼が、命がけで掴んだ真実がこれです》
いきなり何を言いだしたのかとレオパルドンは思ったその時、一機のパイロットが呟いた。
《おい、何だあの黒いシミ》
チューブの中のように楕円を描く屋根の上、レオパルドンが船窓のモニターを見るとマーベラーの春か数十メートル頭上にはカビのような黒いシミが幾つも浮かんでいた。
”ちょい待ってーな、確認するー”
何名かが遠隔でドローンやカメラで調査をしたらしい。コメント欄には次々とそういう旨の言葉が流れ始めた。
”EX素子反応……”
”重力歪みを検出……これ、まさか”
もったいぶったようなコメントが流れる中、無線で誰かが呟いた。
《あれ、ワームホールじゃないか?》
途端、天井の無数のワームホールからアンドロイド達が溢れ出した。
黒い大小様々なワームホール、最小は直径三メートル。最大で直径三十メートルの穴から人間型のオーソドックスな物から、巨人のような十数メートルの物。果てには非人間型のタコのような物まで。
それらが一斉にレオパルドン達に襲い掛かる。
《主ヨ、オ前ニ憎シミヲ!》
オープンチャンネルを通して響くその声は怒りと悲しみに満ちていた。
◆◇◆◇
【もっと】ミナカのぶっっっちぎりダンジョン配信part2026【早く】
591:落ちた名無し視聴者
なんなんだよ、こいつら!
592:落ちた名無し視聴者
機銃班、何やってんだ! じい様方が落ちる寸前だぞ!
593:落ちた名無し視聴者
神を出せって何だ? なんかアンドロイド達が叫んでるが?
594:落ちた名無し視聴者
もしかして、レオパルドンを神話の神と思ってる説
595:落ちた名無し視聴者
は、マジで?
596:落ちた名無し視聴者
>>594
ザスケラの近衛じゃないんか! 騙された!
597:落ちた名無し視聴者
その説、あながち捨てた物じゃないぞ。神話に語られるアンドロイドの神はサ=ポロという土地から来たという逸話が実はあってだな
598:落ちた名無し視聴者
>>597
学会員は専用スレにかえれ! 今皆立て込んでるんだよ!
599:落ちた名無し視聴者
このスレバカ共しかいないのか?
大の大人が雁首揃えて恥ずかしくなのかよ?
600:落ちた名無し視聴者
>>599
なんなんだお前!? 上から失礼しますの人か!?
下の人達今忙しいから後にしてくれる!?
601:落ちた名無し視聴者
>>600
お前ら全員スレ違いだ
統合スレ作ったから、今からそこに合流するぞ
【神秘の】惑星ラクトゥー対策統合スレPart1【ボディ】
後、現地の奴等ガイドビーコンを出せ。場所特定して今行く
602:落ちた名無し視聴者
>>601
統合って、何との統合スレなんだよ?
◆◇◆◇
――ラクトゥーへの進行方向上、現れたアンドロイドの大軍に対しレオパルドン達は対処に追われていた。
《主ヨ、オ前ニ憎シミヲ!》
《レオパルドン! 貴様サエイナケレバ!》
《レオパルドン、神ヨ! 貴様ガ諸悪ノ根源ダ!》
アンドロイド達は人型も、非人型も皆一様に同じ事を口にしていた。
どうやらレオパルドンを神話に語られる神と思い込んでいると思しかった。怒り狂ったアンドロイド達は機銃や光子魚雷をものともせず、ラクトゥー艦隊へ突撃していく。
――何故こうなってしまったのか。心当たりはある、謎売りの弊害だ。
《なぁ、レオパルドン! お前って神話の神なの!?》
「いや拙者は……」
《でもヴァレンがお前の事を神だってさっき言ってたろ!》
こういう時、どう答えればよいのだろうか。その時率直に思ったのはそれである。
確かにこれは神話の鎧ではある。しかし、レオパルドン自身は本人ではない……という事を頭に血が上ったアンドロイド達が聞く訳がない。
しかも質が悪いのは今のレオパルドンにこれを否定する証拠が一切ない事が上げられる。
《クソ、ザスケラのじい様方持ちこたえられるか!?》
《こちとら近衛だって聞いたから来たんじゃ!》
《近衛同士の絆は血より濃いからのう! でも神なら他人だ!》
ここに来てヴァレンのいやらしい手段にはまってしまった。
今まで吐いてきた正体説ムーブメントに乗った人間も大勢いる中、下手に口にすれば味方の士気崩壊の可能性すらありえた。
《貴様ガ、貴様サエイナケレバ!》
船窓のモニターの中、そう叫ぶアンドロイドに見覚えがあった。
それはコーグで見かけた奴隷のアンドロイドである。
――レオパルドンの視界の端、船窓のモニターに幾つものガイドビーコンの緑の光が浮かび上がるのが映った。
「い、今のは一体何でござるか?」
わざわざ口にしたのは話題を逸らす為と、純粋に何かに縋りたかったからだ。こういう所が自分の汚い所だなとレオパルドンは内心で自嘲する。
……ガイドビーコンがわらに見えたそこで、青い光が再びダンジョンの中で瞬く。
レオパルドンの前に現れたのは、様々な形式の戦艦だった。
《その分裂、俺達が預かった――なら俺がお前達には出来ない事をしてやる、レオパルドン。お前は先に行け》
「き、貴公等は?」
《アンチスレから来た》
スピーカーを通して響く男の声音で、思い出すのは惑星レーゾスの時。ミナカの意思に応える為に彼等のスレを見た事。
自分を忌々しげに思ってる彼等が、どうしてここに来たのだろうか。
《ここにいる全員、お前の事が嫌いだ。特に引っ張るだけ引っ張って、解かせる気のない謎解きは見るに堪えない》
「……まぁ、それが芸ごとの定めでござるな」
《だが、今ここでヴァレン・スローンを討てるのは何処の誰だか知らないがお前だけだ。世界を救ってこい、今まで吐いてきた嘘が全部本物だって言うのならな》
「……貴公等」
レオパルドンは言葉に詰まった。その隙間を埋めるのは自分に付き従ってくれていた視聴者達である。
《初めてアンチスレの人間と意見が合うとはな……レオパルドン、こいつらの言う通りだ》
《アンチスレの人間に言われたらおしまいだな》
無い筈の奥歯を噛みしめ、レオパルドンはドローンの前で一礼する。
ここにいる全ての皆に向けての物だった。
「運転手殿、駆けて欲しいでござる」
応答は無線ではなく、白文字のコメントで返って来た。
”あいよ”
応答の後、マーベラーが再び加速する。爆ぜるような音と共に。
この場にいる誰もが自分のワガママの為に動いてくれた。自分は彼らの為にも答えなくてはならない、……気づくと手の平は自然と握り締められていた。
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