死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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30話2 今必殺の――

 

 

【神秘の】惑星ラクトゥー対策統合スレPart1【ボディ】

 

 

678:名無しの視聴者

何故だ、何故アンチスレの奴等が……?

 

679:名無しの視聴者

>>678

俺達はレオパルドンのアンチだが、別に世界のアンチって訳じゃない

 

アンチのアンチは、味方だ

 

680:名無しの視聴者

>>678

この銀河の一大事だ。お前等と背中を合わせて戦うのも悪くない

 

681:名無しの視聴者

>>678

お前達を否定するの俺達だ

 

682:名無しの視聴者

お前等……

 

683:名無しの視聴者

世界の命運、この配信の結末を見ようぜ

 

見守ろう、アイツが何をするのかをよ

 

684:名無しの視聴者

>>683

見た後は批判するんだろ?

 

685:名無しの視聴者

>>684

当然。エアプは趣味じゃないんだ

 

 

◆◇◆◇

 

 

――うねるようなダンジョンの中をマーベラーは駆ける。

 

 

レオパルドンはマーベラーのコクピットに座りながら配信画面で様々な報告を受けていた。彼の前では運転権を遠隔で預けた結果、操縦桿が一人でに動いている。

 

”クリアファイバー樹脂は乾燥した、ナノマシン入れたら紫外線硬化がはやいはやいw”

”こっちはようやく配信抜きのプログラムが出来上がりそうだ”

”アンチスレの奴等が健闘してくれてる……”

 

そして肝心のレオパルドンは一言、こう漏らした。

 

「皆が優秀過ぎて、拙者……正直ちょっと肩身が非常に狭いでござる」

”気にすんな!”

”これからお前がやるんだよ!”

 

全員がレオパルドンがミナカを助けに行く、その為に尽くしてくれていた。その事に改めて感謝の思いを湧き立たせる。

同時に考えるのはどうやったらあのヴァレンに勝てるか、という事だ。

今までの事をまとめたあのテキストを読むと、とてもじゃないが説得なんて出来そうにない。

命。生き残りたいという力は、レオパルドンにとってこの二か月で物凄く共感出来たからだ。

 

「あの御仁の生きようとする願い、全てを犠牲にして叶えようとする野望……けして簡単に踏みにじっていい物ではないでござるが」

 

生きようとする力。それを相手にする時、思い浮かぶのはアルドの姿。

未だに思い浮かぶ彼の最期に、自然と喉が鳴った。

不殺、というものの難しさを思い知る。

 

――空気が変わったのはその時だ。

奇妙な事に肌が泡立つ感覚が走る。咄嗟にレオパルドンは左の奥歯のスイッチを幻覚の舌で押していた。

 

「レオパルドンビデオシグナル!」

 

停滞世界で思わず言葉が漏れる。

右前に体を、転げるように出す。そうして丁度体を前転で一回りした時、レオパルドンビデオシグナルが切れた。

 

《……レオパルドンビデオシグナル》

 

そこにいたのはまるでラミアを思わせるアンドロイドだった。蛇のような下半身に人間の女の頭と胴。肩に生えた六本の腕の右の一本は、先程までレオパルドンが座っていた座席を貫通し、白い指を覗かせていた。

右の指を引き抜くと、それは顔にはめられた喜びと悲しみの仮面の前に持ってくる。

蛇が頭を立てるような姿勢、胴が立つ。身長の彼我はレオパルドンが二メートル、ラミアが三メートルと言ったところか。

 

《EX素子が直前で反発した……それが神の奇跡とでも言うのか》

「……貴公は?」

《ヴァレン様の命よりここに来た》

 

ふと目に入った座席には先ほどまで指が入っていたというのに、傷一つ付いていない。量子フェージングだとレオパルドンは即座に判断した。

ならば、目の前にいるのはあのテキストにいた黒いローブ羽織った女アンドロイドだとも。

 

《ヴァレン様の命により、お前とその鎧を繋ぎ止める部位を突き止めに来た――貴様の正体暴かせてもらうぞ》

 

女アンドロイドは右手を鞘から刀を抜き放つように振ると、自分の体中から格納されていたゴルフボールほどの球体型ドローンを出す。

数はざっと二十ほど。そうして彼女はその六本の腕を、まるで抱きしめる直前かのように広げる。

 

”おいやべーぞ!”

”ヴァレンの副官かよ”

 

コメント欄とレオパルドンは同じ気持ちだった。ここはマーベラーのコクピット、頼れる相棒のフィールド・モジュレーターは現在メンテナンス中。

周囲には戦闘で巻き込んではいけない計器がずらりと並び、レオパルドンの手の中にあるのはただ一つ――右の腰に吊り下げたアナライズガンだけだ。

一歩間違えれば、ダイナマイトを入れた電子レンジのような事になってもおかしくはない。

 

覚悟を決める。勝負は、一撃で着けるしかない。

……彼女を、この場で一撃で殺める。

 

思い出すのは先程、停滞世界で彼女が自分の言葉を反復復唱した事。

そしてかつて地球で、とある作品に登場したキャラが喋る小声を音量を上げて聞き取ろうとした時の事。

 

戦略を組み立てていったそこで、レオパルドンは構えを取った。両腕を顔の前、腰を少し落とし、右足を前。左足を対角になるように半歩後ろに。

……それは奇しくもヴァレンがレオパルドンに教えた構えであった。戦闘を重ねた今になってこの構えの意味が良く解る、これは防御と共にカウンターを取るのに適した構えだ。

 

後重要なのは、時間だ。

 

「拙者の正体が気になるようでござるな」

《……》

「少しおしゃべりするでござる」

 

少し空気が変わった。どうやら食いついたらしい。

向こうはこの鎧、神の鎧を手に入れた経緯――自分がどうしてこの世界に現れたのかを気にし恐れている。

 

《貴様、何者だ……?》

「拙者の正体は――」

《虚偽は良い。お前の喋る言葉は全て嘘だ……立証できない事柄があまりにも多い》

 

にべもなく切り捨てられる。そうして冷たい声音と共に、女はレオパルドンに尋ねた。

 

《貴様の正体を知る為、様々な手段を使って調べ上げた。だが、お前がこの世の人間であるという証拠は何一つ存在しなかった》

「……」

《この世の者ではない事は理解出来る……ならば、何故今ここに来た? お前は何の為に戦うのだ?》

 

肌が泡立つ感覚が再び走る。

――そこで三十秒経った。

レオパルドンビデオシグナルが回復した直後、とある設定をし右のホルスターからアナライズガンを抜き放つ。

 

《今更そんな玩具、何の役に立つ!》

 

彼女に向けた瞬間超音波と共に、レオパルドンは再び左奥歯のスイッチを舌で押した。

 

真正面から向かってくる女アンドロイド。レオパルドンはその進行方向上、床に柔化のエネルギーを付与した。

途端コクピットの床は沈み込み、女の体は一段レオパルドンの視界から下がる。

その時女アンドロイドが一瞬背後に胴を引く。どうやらこの刹那の中でレオパルドンがやろうとした事を理解したらしい。そこでレオパルドンは最後の切り札を切った。

切り札は言葉だ。

 

「拙者の本名は、神谷智也」

 

次いで

 

「拙者、地球は日本。北海道東さっぽろ市で働く会社員で、ゲロッパうどんの名前でSF系作品を考察するYoutuberでござった。登録者数は一万人、兼業にしては結構頑張ってた方でござるよ」

 

次いで。

 

「拙者がこの世界に来たのは惑星レーゾスの崩壊を防ぐ為。発想力と知識を買われて連れてこられた……本来なら、レーゾスの崩壊を防いだ時点で拙者は帰還する予定だったでござる」

 

その言葉で彼女の動きが一瞬止まる。人間と違い可聴域を超える時間の隙間の中で発せられた言葉も、アンドロイドであるなら理解出来たのだろう。

先程停滞世界で漏れた言葉を彼女は咄嗟に反復復唱したから、伝わる事自体は間違いないと思った。レオパルドンビデオシグナルの名前は、あのアルドですら聞こえていなかったのだから。

 

後は念の為の保険で、彼女に絶対に伝わるようにアナライズガンに自分のマイクを接続。音声変調に変換し、パラメトリックスピーカーと同じ原理……特定の一点でだけ音声として聞こえるようにした。

 

レオパルドンの左拳が丁度胸の位置。女の右手は本来の軌道を逸れ、レオパルドンの首の左を掠め始めた。

そこで世界は一瞬にして元に戻る。

 

《……》

「……」

《……ヴァレン、様》

 

彼女の体を抱きしめる形で決着は着いた。彼女の攻撃は逸れ、レオパルドンの拳は彼女の心臓を砕いていた。

それでも機能停止……死なないのは、彼女がアンドロイドであるが故か。

一つの意識体、知性ある物を潰した感触はアルドの時と似ている。レオパルドンは彼女の事も背負うと決めた。

からん、という音がした。彼女の顔から仮面が一人でに外れ、素顔が現れる。その顔は、殆ど人間と変わらないが右半分は焼けただれて内部の顔が覗いていた。

 

《……やり、ました》

「……何?」

 

彼女がそう言った瞬間、もたれかかった体がずり落ちる。何か重たい物が落ちる音が、レオパルドンの中でした。

床に倒れた彼女の体を見ると、左側、一番下の腕が手首から先が消失している。

この女、何をやった――そう思いレオパルドンが自らの鎧の内部を開くと、そこには女の手首と球体型のドローンカメラが一つ。

 

「……ただでは死なぬでござるか、お見事でござる」

 

よくフィクションでは強敵に対し敬意を抱くというシーンがある。まさに今のレオパルドンはその気持ちであった。言葉には少しの嘘偽りもない。

どうやら自分の内部構造、精神核のその位置を知られたらしい。

しかし、止まる訳には行かなかった。やがてマーベラーの船窓には淡い赤に染まった青い星、ラクトゥーが見えて来る。

 

”レオパルドン! 出来たぞ、対異能用のプログラムだ!”

 

その白文字コメントが表示される。大学チームからの者だった。

右手に握ったアナライズガンを、手の中で一回転――ガンスピンさせてからホルスターに収めると、レオパルドンは率直に尋ねた。

 

「ありがとうでござる。それでどう使えばいいでござるか?」

”解凍してお前自身にダウンロードしろ。さっきの爆発の応用だ。姿勢制御スラスターのガスにイドロダイトのエネルギーが付与され、バリアを攪拌し突破する”

「なるほど、つまりエネルギーの塊になって突破するって事でござるな」

 

たった今また一人を殺めた事に重たい感触が走る。しかし、無理やりにでも切り替えなくてはならない。

 

「このプログラムに何か名前は付いているでござるか?」

”いや、付いていないが?”

「なら、折角でござる。名前を付けたいでござる、叫べる名前を……」

”いいぞ!”

 

そこで思い出すのは、一つのフレーズ。十九秒間に十四回も爆発するとある作品のオープニング。

ダウンロードすると、途端正面の船窓に変化が起きる。徐々に緑色のリボンのような物が船体全体に纏わりついていた。

やがて姿勢は徐々に下を向き始め、ラクトゥーに向かって調整が始まる。その時レオパルドンは叫んだ。

 

「必殺! レオパルドンダイナマイト!」

 

やるしかない、今更何が起ころうとも。その時、レオパルドンの目にある物が飛び込む。

埃をかぶった茶色い小箱。それは――




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