死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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31話1 コーヒー代

――その時、ミナカはラクトゥーの青い空に緑の流星を見た。

 

 

冴えた空気を切り裂いて、飛び交う赤い光の中を緑の星が落ちて来る。その姿を、ワイヤーで縛られ着陸予想地点に引き連れられる中で確かに見た。

その円盤に二又を付けたボディが徐々に視界の内で大きくなる。

やがて、彼女とヴァレンの前の草原に静かに着陸。周囲にはアクー・ジャヌスの残骸と、ミナカが乗って来た戦艦……それらの残骸が無数に散らばっている。

 

六脚の脚が柔らかいマーベラーの草原の中に降り立ち、そこからスロープが降りて静かに彼が降りて来る。

 

「あ、お……お兄様」

 

現れたレオパルドンは明らかに緊急修理を施したという態のフィールド・モジュレーターを身に纏っていた。

アルドに頭から胸にかけて縦一直線に断たれた箇所を始め、様々な所を透明なパテで固められており、内部機構が透けて見えている。

……何故、ここに来たのだろうとミナカは思った。コーヒーを淹れてもらう為と言っていたが、本当にそれだけで来たのだろうか。

何か、他の理由があるのではないだろうか……その想像が声を喉に詰まらせた。

周囲にいるアンドロイド達がレオパルドンを見ると臨戦態勢を取るが、それをヴァレンが一度右手で制する。

 

「お久しぶりですね、お元気そうで何よりです」

「……貴公も」

 

レオパルドンの声は硬い。張り詰めたように。

 

「まずは彼女を破ったのはお見事。……武装もない中、彼女の一瞬の隙を突き――いえ作り出して仕留めるとは中々出来る事ではありません」

「……拙者が語った正体が、聞こえていたでござるか?」

「ドローンのマイクはそれなりに値を張るものだった筈ですが、内容はどれだけ音量やピッチを操作しても聞こえませんでした。ですが幾つか推察はしております」

 

ヴァレンは静かに語る。恐ろしいのはこの涼しい顔で、一瞬の内に切り伏せられてもおかしくはない事だ。

レオパルドンも、きっと内心は冷や汗をかいているに違いない。無表情で無骨な受け答えをしてる姿に、心が苦しくなる。

 

「貴方の内部は拝見させていただきました。痛ましい事と思います」

「……」

「ここで一つ取引をいたしませんか? もし貴方がその鎧を引き渡していただけるのなら、貴方の要望に出来る限り応えましょう」

「それは神になるという野望の為でござるか?」

「はい。全ては遍く奇跡の為です……もし貴方が肉体を欲するなら直に肉体をご用意いたしましょう、何処かへ行くのならば手段をご用意いたしましょう。ご不安なら書類にサインをいたします」

 

ヴァレンは淀みなくそう言うのに対し、レオパルドンは静かに答える。感情が一切伺えない声で。

 

「なら、ミナカ殿を殺さないでいただきたい……そうすれば拙者は喜んでこの鎧を渡すでござるよ」

 

それは、あの日あの時のレーゾスと同じ言葉だった。

どうして今になって、この場でもう一度聞けたのか。ミナカには想像が付かなかった。あの別れの後、実は電子麻薬が後遺症を残した結果と言われたら納得出来たかもしれない。

レオパルドンのその言葉に対しヴァレンは一拍押し黙る。

 

「野望は結構、アンドロイドの反乱も拙者には関わりのない話でござる……だが拙者にはミナカ殿が必要なのでござる」

「……貴方を騙し、電子麻薬漬けにしたのですよ?」

「今もって許せぬ話ではござる。しかし、それは貴公には何の関係もない話でござるよ」

 

その時、不意にレオパルドンのその緑の卵のような瞳がミナカを向いた時。ミナカは心臓をわし掴みにされた心地だった。

 

「自炊して早十数年。拙者、パスタとオリーブオイルで稼いだ中性脂肪で健康診断は常に要検査でござった。今更、薬の一つや二つ端数でござろう」

「お、お兄様……」

 

彼に何て言ったらいいのだろう。お兄様の後の言葉が続かない。

そんなミナカを見て、レオパルドンは片手を上げる。

 

「こういう時。どう言えばいいかは知ってるでござる――よう相棒、まだ生きてるでござるか?」

 

一拍置いて。

 

「嘘を吐いた報いは受けてもらうでござる。これが終わったらコーヒーを淹れて欲しいでござるよ、いつも淹れてたでござろう?」

 

恐らく笑いながら言った言葉に、ミナカは戸惑いを隠せなかった。

 

「……そ、それだけ? ほ、本当にマジでそれだけ?」

「それだけとは?」

「コーヒーってなんかの比喩とか隠語じゃないんですか? お前を殺すの丁寧な言い換え的な、もしくはお前がカップだたっぷり飲めよ俺のコーヒーを(意味深)的な?」

「拙者何のために来たと思っているでござる……コーヒーはコーヒーでござるよ」

「な、なんで……?」

 

アレだけ切れてたのである。雨の中、アンタが憎いまで言った。

終わったと思った。

それが何でひと月経ったらコーヒー一杯で無罪放免になるんだろうか。

ヴァレンが再度手下を右手で制する中、レオパルドンは答えた。

 

「奇跡を見た」

「はい?」

「ミナカ殿にとっては些細な事でも、拙者にとっては大きな事なのでござるよ……そうでござる拙者はあのシーンが好きだったのでござるよ」

「な、何の話?」

「そうでござる。拙者はオタクでござる、でもオタクが作品のメッセージを無視したら……一体何が残るというのでござるか」

 

暗喩の多い、独白のような言葉。相変わらず一向に察しがつかない。

それを察したのか、レオパルドンは結びの言葉を紡ぐ。

 

「やり残した事があったでござる」

 

その言葉をミナカは知っている。

 

「そう。欲しくなったんでござるよ、拙者も一位というヤツが……」

 

バイザーに隠れた目、緑色の卵のような双眸をしっかりとミナカに向けて……逸らさずに。

 

「拙者は今まで必死に生きる為、ただ帰る為だけに戦っていたでござる……」

 

そこで、一旦彼は目線を逸らす。

 

「けれど拙者も動画制作者の端くれ……一位の景色を見たくなった、そう拙者今度はヴァレン殿と戦ってみたくなったでござるよ」

 

――それは、あの雨の時。もう一度言ってほしかった言葉だ。

 

「もしここでミナカ殿を置いて帰れば、拙者は一生後悔を背負う事になるでござる! 拙者の命ある限り、ミナカ殿は殺させぬでござる!」

 

――――――。

何か、気の利いた事を言おうと思った。でも、舌がもつれて上手く言葉に出来ない。

嗚咽と涙は自然と漏れていた。けれど、人に見せる訳には行かない。クズキャラで売っているのだ……キャラがブレてはいけない。

 

「時に、ミナカ殿。普段飲んでるコーヒーってアレ何の銘柄でござるか? ブルーマウンテンか、キリマンジャロか」

「……あ、あれインスタントです。安い、徳用パックの……」

「それで十分でござる」

 

レオパルドンは周囲に降り注いだ戦艦の破片を引き抜くと、フィールド・モジュレーターの左腕甲と右足甲にかける。

即座に加工が始まり、出来上がったのは百二十センチほどの長さの棒に、洋梨形の柄頭を持ったメイスだった。

出来上がったそれを右手に持つと、次に左手側に突き刺さった戦艦の装甲板に左腕甲を付けて加工。全長百五十センチほどの円形の盾に変わる。

応援は期待出来ない、マーベラーの銃座は全てオーバーヒートを起こしている。空では視聴者達が決死の思いで戦っており、戦況はあまりにもかんばしくない。

 

「私に勝てると……。ミナカを守る為、銃になるおつもりですか?」

 

ヴァレンが制していた右手を引いた途端、周囲に配下のアンドロイド達が足早に放射状に展開。

対し、レオパルドンの脳裏に思い浮かぶのは好きな作品。鉄の巨人のその姿。

彼に倣ってこう答えた。

 

「拙者は、銃にならない。『レオパルドン』になるでござる」

 

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