死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで 作:生駒伊織
――武器を鍛造した直後、レオパルドンがまず相手にするのはアンドロイド達だった。
爆発エネルギーを付与したメイスを叩き着け、一体を爆炎と共に粉砕する。
左の盾で赤い光を放つ光弾=バグ弾を受けた後、右斜め前――もっとも近い戦艦の主砲の破片に足早に近寄る。
その間、盾で身を防ぐも徐々に盾はひしゃげていき、徐々に対応能力を超えレオパルドンに直撃していった。その足が弱点の発露により徐々に遅くなり、やがて止まりかける。
距離は目測で五メートル。遠い。
……異能のアンドロイド達の猛攻を受ける中、レオパルドンが思い出すのは自分の好きな作品。
とある街に住む平凡な人間を装った殺人鬼。植物のような生活を望む、触れた物を爆弾にする能力者。
生きる事に真摯な彼ならば、きっとこうするだろう。
「――」
レオパルドンは左の崩壊寸前の盾に爆発エネルギーを付与。同時に腕と足のエアー・コンプレッサーを吸入し加熱――爆発と共に地面を滑空し五メートルの距離をゼロにする。
盾を焼失した時、レオパルドンは滑空する中レオパルドンビデオシグナルを起動。
真横を通り過ぎ去る直前、右足で自らの右手側に突き刺さった甲板の破片を蹴り光弾を防ぐ盾とする。反発のエネルギーをかけ、耐久力を上げるのも忘れない。
光弾が甲板に弾き返され、何人かに直撃する中。レオパルドンは右腕を伸ばして回り込むように体を動かし、姿勢を変える。
左足で踏みとどまり、深い土煙を立てた所で停滞世界が切れる。
数十メートルはあろうかという主砲の前に辿り着いた。
”レオパルドン! ほれ、家賃だ!”
”風俗代! アンドロイド風俗はまたの機会だ!”
視聴者の言葉で身に纏う白い靄――エネルギーの量が増える。
そうして再び女の声と共に胸板が二つに割れ、体色が黒。目の色が赤に変わった。
《出力上昇確認。高速加工モードに入ります》
そのまま主砲に両腕を突っ込み、プラズマトーチを展開。即座に左腕を引き抜くと、二メートル五十センチのフィールド・モジュレーターを覆うほどの長方形の盾が出来上がる。
同時に右手を引き抜くと、手には全長八十センチほどのくの字型の柄を持つ短剣が握られていた。タリボンという、フィリピンで使われていた短剣である。
武器が出来上がると、即座に硬化のエネルギー付与をかけ、近くの敵へその頭部にスナップを効かせた一撃を叩き込む。くの字の柄が断ち切りの威力を上げるのだ。
《主ヨ、オ前ニ憎シミヲ……》
呪いの言葉と共にタリボンが粒子と化し無手になると、持っていたシールドの上三分の一をグラインダーで切り取って加工。時代劇で見るまきびしを作成すると、爆発エネルギーを付与し放射状にばら撒いて即席の地雷に。
地雷原に仲間たちが次々とかかり、爆ぜていく中。死体の上を歩き一人だけ突貫した球体に無数の触手を持つアンドロイドが襲い掛かる。
《全テハ、未来ノ為ニ! 今ココデ貴様ヲ討ツ!》
「貴公……」
黒煙を上げ、球体からは黒いオイルがまさに流血のように流れているその姿を見て、レオパルドンは奥歯を噛み締めながら盾に柔化エネルギーを付与。
切り離し、柔化した盾を即席の網とし球体型アンドロイドを拘束。咄嗟の事に対敵は対応しきれなかったのだろう、ゴムやガムのように広がった盾を諸に頭からかぶる形となった。
《ヌッ!》
「貴公、そして貴公達の正義は解る」
右手に力場を載せる。そうして自分の好きな作品を思い返しながら彼は叫んだ。
「レオパルドン――パンチ!」
盾の上から敵を叩き潰す。それきり、もう二度と動かなくなった。
「…………だが、拙者にも譲れぬものがあるのでござる。解れとはけして言わぬ」
それが彼が正義と引き換えに戦う理由であった。
――レオパルドンは折れそうになった自らを奮い立たせ、ヴァレンの周囲にいるアンドロイド達を叩き潰していく。
足音がする。
気付くと周囲をアンドロイド達に囲まれていた。
……レオパルドンは地球でLARP=実際に体を使ってキャラクターになりきるロールプレイングゲームの経験があった。
人間はヒーローじゃない。素人でも三人に囲まれれば積む。
”やべーぞ、レオパルドン!”
”囲まれた!”
視聴者のコメントも不安げなものが多い。
「なるほど……そろそろ体もあったまって来た事でござる、ダイスロールでクリティカル百回出せばこの人数に勝てるでござろう」
頭の中で十面ダイスを二個振って、目星をする。
それが目に止まった。地面に降り積もったであろう戦艦の破片、それにおそらく近くに水源があるのだろう。思った以上に湿っている。
ならば、とっておきの策があった。
一番近くの敵が三メートルまで距離を縮めて来た時、レオパルドンは視聴者数によって増大したエネルギー出力でフィールド・モジュレーター右手に格納されたプラズマアークを展開。
「レオパルドンファイヤー!」
右足を地面に、左足から片膝を着き。右手で地表に熱化エネルギーを付与し地表のイオン化を促進、放電範囲と安定性を確保。
そこから展開したプラズマアークから高電圧を流し込み、空気が弾ける音と共に青白い光が取り囲んでいた周囲のアンドロイド達を焼く。
彼から半径三メートル圏内にいた者は全滅。しかし、離れていく毎に被害は小さい。
「このカラーリングでござる、これを使わなくては嘘でござろう」
右手のガントレットを左手で直すポーズを取るのを忘れない。
「なんと……」
ヴァレンですら目を丸くしていた。
……自分の姿が一瞬、鏡のように磨き抜かれた白銀の装甲板に映る。
そこに映る自分から自然と目を背けたのは、自分の醜悪さに耐えきれなかったからだ。だが、それでも戦うしかない。
今ここで自分が折れれば、一体誰がやるというのか。
……憎しみをぶつけて来るアンドロイド達。視界の端には肩を貸し、仲間を介抱する者の姿も見えた。
それでも引くわけにはいかなかった。白い靄をマントのように翻し、レオパルドンは次々アンドロイドを叩き潰していく。
カタールが折れた次は、右手に投てき用斧であるフランキスカを作成。アンドロイド達の残骸を踏み締め、人型の上半身を跳ね飛ばす。
相手が距離を一気に詰めたところで、ビデオシグナルを再度起動。右手からバグ弾を出す直前に左手を掲げて覆い。増幅のエネルギーをかけて撃つ前に破裂させる。
……戦いの末、レオパルドンは左脇に突き刺さった三メートルほどの赤い鋼鉄の骨組み。丁度縦と横に重なった鉄十字を手に取る。
最後に残った一人。フィールド・モジュレーターを付けた自分と同じぐらいの背丈。首が異様に長い無骨なアンドロイド。
《キ、貴様ハ何ダ!》
それに対しての答えは――
「拙者は正義の戦士――」
が、それに被りを振るう。
「いや、違う……拙者はただの人間。レオパルドンでござる」
鋼鉄の十字架を振り下ろし、それを再び背負う。
……その姿は、彼の故郷で原罪を背負ったという救世主の姿にも似ていた。