死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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4話1 配信冒険者ギルド所属、第81実行部隊旗艦『アクー・ジャヌス』

 

 

――時は少し遡る。

 

 

配信冒険者ギルドの仕事の一つに、遺跡の管理業務がある。

文字通り、古代の時代に築かれた各惑星の遺跡を管理するというものだ。

 

各地に点在する観測衛星が、突如遺跡を中心にして高エネルギー反応……位相の揺らぎを観測する。

惑星ラクトゥー、惑星レーゾス……この銀河に遍く星々に点在する遺跡全て。

 

時間は各星系の惑星により様々であるが、惑星ジャ=クー基準で十六時三十二分四十一秒ジャスト。

 

丁度、赤い彼が目覚めたその瞬間であった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

ミナカ達の船が惑星ジャ=クーを離れ、成層圏に達したのと時を同じくして――

 

 

星野を一つの船が渡る。

――配信冒険者ギルド所属、第81実行部隊旗艦『アクー・ジャヌス』

 

その内部では、どこもかしこもアラート音と怒号が飛び交い、焦りの熱気に満ちている。

金属の床を踏む靴音が幾つも反響し、警告灯の赤が乗員の顔を断続的に染めていた。

 

「おい、ワープドライブまだ使えないのか!? 逃げられちまうぞ!」

「何もかもオシャカになってる! ちょっと待ってろ、もうすぐ復旧する!」

 

ギルドの内部報告では、問題が起こったのは配信冒険者ギルドに所属する底辺配信者のチャンネルだ。

彼女の配信に映った、赤いパワードスーツを身に纏った男。

異様に堅牢な装甲と体格以上と思わしき怪力、奇妙なエネルギー付与能力。

更には現れた時に発生した、ギャラクシー・ライブリンク全体を駆け抜けた電磁波。

そんなもの、この銀河のあらゆるダンジョンに精通し管理している彼らですら見た事がない。

 

彼ら配信冒険者ギルドの理念は、ダンジョン配信とそれにより発掘される資源の公正にして健全な管理。

それを担うのが、彼等実行部隊である。

 

彼等の理念に沿えば、必ず確保しなくてはならない。

しかし、ここに来て彼らに一つアクシデントが発生した。あの電磁波により船のワープシステムが使用出来なくなっていた。

もう既に三十分と言ったところか、マニュアル操作で船を駐屯惑星の大気圏から打ち上げたはいいものの、ここから惑星ジャ=クーまではワープ航法を使わねばならない。

 

「後、五分で復旧しろ! こうしてる間にもあの赤い奴はジャ=クーを出てるかもしれん!」

 

藍色のジャケットにグレーのスラックス。肩の階級章には銀の台座。笹の葉の耳にオールバックにした金髪の艦長が、神経質そうな声音で叫ぶ。

喉ぼとけが上下し、右の指がコンソールのレバーの一つを握りしめて白くなっていた。ギルドに、そして遍く配信冒険者にこれでは示しがつかない……その思いが艦長の心を無性に掻き立てる。

そこに新たなアラートが一つ。東側、艦橋の窓から見えるのは赤い瞬き。

宇宙で光は瞬かない。

それは、信号弾だ。

 

「当艦に高速宇宙船一機接近! 艦船データと照合……これは、特殊捜査官の船です!」

 

艦長は心の中でその肩書きを復唱する、特殊捜査官――

彼等実行部隊を通常戦力とすれば、特殊な状況に駆り出されるギルドの奥の手。

配信冒険者ギルドの中でも、取り決めに違反した戦闘力の高い配信冒険者等を相手にする……単独行動が常の、言わば特記戦力。

 

「タキオン通信でメッセージが届きました。ギルド長命令です、現時刻を以て惑星ジャ=クー圏の騒動鎮圧に特殊捜査官を一名加える……との事です」

 

読み上げられた辞令に対し、艦長は苦虫を噛み潰した顔を浮かべる。特殊捜査官が加わる事が意味するのは……この件はお前の部隊では力不足だと、突きつけられたという事だ。

 

「加わるのは誰だ……?」

「第63方面古代文明担当官、ヴァレン・スローン特殊捜査官です!」

「……誘導灯を出せ、お開けするんだ」

 

誘導灯が星の荒野に上がる。

喧騒が一瞬、まるで吸い込まれるように静まり返る。

滑らかな、涙滴を思わせるフォルム。両翼のエンジンには淡雪の様に白い光が灯る。その赤い高速宇宙船が、アクー・ジャヌスの剣を思わせる船体の中に一台入った。

 

「突然の訪問のご無礼、何卒お許しください。何分、私の船は燃料が心許なく……復旧にはもう少しばかりお時間かかりそうですか?」

「少々お待ちください。今全力を尽くしております、スローン特殊捜査官」

 

杖の石突が床を叩く度、浅く低い金属音が艦橋に反響する。

ヴァレン・スローンという男は、艦橋に入るとにこやかな笑みを浮かべて艦長に向けて一礼した。

彼は白くゆったりとしたコートを揺らし、右手には機械を継いで作った様な杖。眼鏡をかけ、銀の髪を後ろで一房にまとめている。

彼ら実行部隊が配信冒険者ギルド戦力のヒエラルキーの内にいるとすれば、ヴァレンは外にいる者である。にこやかな雰囲気ではあるが、艦長含めたアクー・ジャヌスのクルーは言い様のない異物感を感じていた。

 

「ふむ……」

 

一度右手の腕時計を見ると、ヴァレンは腕時計を一瞥すると、ゆっくりと艦橋を見渡した。その目は、まるで電子機器の一つ一つを測り取るような冷たい光を帯びていた――艦長にはそう見えた。

その視線が止まった先は、アラートを点滅させているコンソールだった。彼の眼鏡に、淡く輝く緑色の数値が幾重にも反射する。

艦長には、それは何かを見抜いた目のように思えた。

そこでヴァレンは白いコートの右内ポケットからスマホを取り出すと、軽くのぞき込んで微かに頷く。

その仕草に艦長の背筋に戦慄が走る。――彼には、それが人ならざる者が何かを確信したように見えたのだ。

ヴァレンは、おもむろに歩き出す。

 

「スローン特殊捜査官?」

「失礼、ギャラクシー・ライブリンクが使えない物ですから。この艦の内部配信システムを少しお借りします」

 

思わず声をかけた艦長に、ヴァレンは人差し指を口許に当てる素振りを見せてコンソールに向かう。艦長は、否気付くと誰もが言葉を失った。艦橋そのものが彼に服従したかのように、空気が冷たく沈み込む。

その時、艦橋のモニターにヴァレンの姿が映る。右端には『ギルド規則監視用ログ配信』と書かれていた。

誰もがその様を見ていた。

ヴァレンはその前に立つと、杖のスイッチをスライドさせて入れる。ブウン、という低い起動音。杖の表面を薄い緑の光が走り、艦橋の照明が一瞬だけ沈む。

そして左手の人差し指と中指を組ませ顔の前に置くと。

 

「定刻より三十分過ぎております。配信冒険者規則は常に守られねばなりません。ルールとは、常に守られるから美しくあるのです」

 

その瞬間、ヴァレンの周囲の空気が僅かに揺らめく。艦長には理解出来ない何か、形而学上の世界を越えた理が、ヴァレンの手の中で今まさに形を成しているように見えた。

 

艦内のスピーカーが一斉に短くノイズを上げる。

同時に、ヴァレンはコンソールに二の腕まで達する程深く左腕を差し込む。機械は悲鳴を上げるように電子音を放ち、次の瞬間には息が絶えたように全ての音が止まる。

沈黙の中、誰かの呼吸音だけが広い艦橋を満たす。

一瞬の緊迫の後、引き抜かれる。

 

「い、今何をされたのですか?」

「私にも遅参した責任があります、幾ら私の管理する惑星の遺跡が奇妙な変化を起こしたとしても……それは遅れていい理由にはならないでしょう」

 

コンソールには傷一つ無い。

恐る恐る尋ねる艦長に対し、ヴァレンの左手の指には赤い光の板のような物が挟まれていた。厚みは一切存在せず、何で出来ているのか艦長には解らない。

だが、それは本来存在してはいけない情報の塊のように思えた。

途端、それは微細な粒子となり消える。

 

「これが患部です。私の力により、ワープシステムを妨げていたコードを実体化させて抜き取りました。外部配信でないから最低限の出力で、数秒も持ちませんでしたが」

 

言葉は続く。それはまるで教師が子供に懇切丁寧に教える様に。

 

「意志には力が存在します。その力を使い、同期と補正により可逆的に現実を改変する。それが我らウィザードなのですよ」

 

声は穏やかであったが、艦長の耳には人の皮を被った怪物が喋っている様に響いている。

ヴァレンはその杖――位相転換杖の石突きを一度とん、と突く。

 

異能の者、ウィザード。

観測と現実を一致させ、奇跡を顕現させる魔術師達。

選ばれし者にしか振るえぬその力を使い、誰もが慄然とする中……杖の先に未だ灯ったほのかな残光が、ヴァレンの頬を横切った。

 

 

 

 




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