死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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32話1 貴方は世界線分岐点です

 

――ミナカが駆ける直前、ドヴェル=スタイン家の部隊に何とか抵抗している第十三方面オルムステッド家旗艦『フィアン・ルー』にて。

 

 

「ジリ貧ね、バルタザール」

「えぇ、お嬢様」

 

ブラスターの匂いが立ち込める中、キャストリル・クォスティ・オルムステッドはぽつりと呟く。今は机を縦にしたバリケードの中で、バッテリーの残弾を確認している最中であった。

バルタザール……白髪の老紳士も同じく手にしたライフルの残弾を確認するが、表情は渋い。おそらく自分と同じで残数は少ないのだろうとキャストリルは察した。

 

「バルタザール。もし貴方が実はウィザードだったり、特殊部隊の出身だったりしたなら余興はもう沢山。さっさとこのバカ騒ぎを終わらせてくれるかしら?」

「残念ですがお嬢様。小職はそのような経歴は一切ございません」

 

護衛衛星はまさかの実体弾で破壊されてしまった。

アンドロイド兵は叛旗を翻し、ドヴェル=スタイン家に合流してしまう始末である。唯一の希望は父親が送ってくれた配信冒険者部隊であるが、着くのが先か殺されるのかが先か。

 

「バルタザール、賭けをしないかしら? このまま私達が死ぬか、それとも生き残るか」

「お嬢様はどちらに賭けられますか?」

「勿論、生き残る方よ」

「……いささか、分が悪い賭けではないでしょうか?」

 

 

そこでキャストリルの脳裏を過るのはあの日、廃戦艦城での事。

 

『もう一つは……何ですか? 急に黙らないで下さいよ』

 

あの女に教えるといったもう一つの理由。どうして声をかけたのか、それを彼女は口にする。

 

 

「分の悪い賭けって実は好みなの」

 

あの女はレーゾスを攻略し、ラクトゥーに単騎で乗り込み、無敵のウィザードに喧嘩を売り、果てには決別したレオパルドンまで動かした。

分の悪い賭けに勝ち続けた稀有な女である。

そして今もまさにレオパルドンが刃を向けられている中ですら、彼女は何か勝機を見つけたらしい。

……キャストリルは、あの女が分の悪い賭けを好む理由を段々分かり始めて来た。

 

「人って希望に狂う物なのね……運命の花が焦げ付き始めた時にこそ、その甘やかな香りを知りたくなってしまう」

 

キャストリルがその言葉を口にした時、ミナカの配信が突如切れる。

どうやら契機を見つけたらしい。

 

「バルディナ……」

 

口にして思う事は『いや、こうじゃない』という躊躇。

そう、あの女の名前は――

 

「……やるじゃない、ミナカ。ミナカ・アラギ」

 

その名を口にする。

しかし、不満な事が一つあった。

 

「今続きを見れないのが無粋ね。アーカイブは残るのかしら?」

 

 

◆◇◆◇

 

 

【必殺】惑星ラクトゥー対策統合スレPart11【レオパルドンダイナマイト】

 

 

792:名無しの視聴者

そう言えば、クズのあのおまじないって一体何なんだ?

 

793:名無しの視聴者

>>792

唐突ゥ

 

でも、確かに

 

794:名無しの視聴者

なんで指刀で切ったら機械が言うこと聞くんだよ……

 

 

◆◇◆◇

 

 

――G.H.O.S.Tが身を焼く。

 

 

普通はサイボーグやパワードスーツに使う物を生身で使うのだから、即座に筋肉が悲鳴を上げて全身から血が噴き出す。脳のパルスが弾けて、心臓が神速の鼓動を打つのが解った。

七歩目にアキレス腱を伸ばし、宙に飛び込む。そうして右の手の平をレオパルドンと刃の間に伸ばした瞬間、――焼けるような痛みが走った。

 

「――」

「ミナカ殿!?」

 

銀の刃が肉を裂く。恐らく骨が逝っている。滴る血が、高速加工モードが切れて戻ったレオパルドンの赤い胸を更に赤く染めた。

それでもイドロダイトの短剣は、レオパルドンの胸の直前で止まっていた。

瞬間、レオパルドンが即座にその場から右に転がって抜け出す。

 

「――」

 

一拍の躊躇も無かった。

短剣は即座に引き抜かれ、ミナカの手の平から血が溢れ出した直後。次はレオパルドンではなく自分を狙うのは、ミナカは視線で察した。しかし、そこでヴァレンの口から大量の血が溢れ出す。

……即座に赤い腕がミナカの体を掬い上げ、その場から距離を離す。顔を上げるとそこにはレオパルドンがいた。

 

「ミナカ殿、何故でござる!? こんな血だるまに……」

「…………絶好のタイミングだったでしょう、撮れ高ばっちりの。カメラが回ってないのが惜しいくらい」

 

苦し紛れの嘘にしては、結構いいセンスだったと思う。

痛みに歪む顔を引きつらせ、何とか作り笑いを浮かべる。レオパルドンの言葉が少しばかり止まった。

 

「……ミナカ殿」

 

レオパルドンは再度十メートルほど離れた所。無数の戦艦の破片にミナカをもたれかけさせた。

ズタズタになった右手をピンクと黒の格子柄のジャケットに突っ込むと、中から銀のナノマシンカプセルを取り出し打とうとする。しかし血で滑り、思わず地面に落としてしまった。

それをレオパルドンがひざまずいて拾い上げた後、ミナカの首に打ってくれる。

そうしてミナカが見るのはヴァレン。吐血の染みた右手で位相転換杖を掴むと、ゆっくりと体を起こしてこちらに向かい始めた。……レオパルドンは彼女に背を向け、壁になるように立ち上がる。

 

「…………アレは、もうパパじゃないんですね」

 

レオパルドンの大きな背中が立ちはだかっても、ヴァレンの姿は見えた。

息も絶え絶えになりながらも、見えない炎で炙られているのだろう。その目的の為にはどんなリスクも辞さないところに、血を感じてしまった。

ミナカには解る。アレはもう止まらない。止まる事など出来ないのだ。

 

「拙者が、その考察を口にする事は出来んでござる。この世の作品の読み方は二種類。込められた意味を読み解くか、自分で作品の意味を作り上げていくか……おそらくこれはミナカ殿自身が意味を作り上げるべきものでござる」

 

意味を作り上げていく事。自分にそんな事が出来るのだろうか。

それだけ言うと、レオパルドンはヴァレンに向かって歩き始める。

 

「ま、待ってください……お兄様! カメラに映らないんですよ!」

 

状況が変わった訳ではない。未だにレオパルドンはカメラに映らなかった。ミナカもドローンを使い切ってしまった。

 

「そうでござるな……いやはや、ミ=ゴのオマージュを攻撃にするとは盲点でござった。ラヴクラフトは全て読んだんでござるがな……しかし、行かなくてはならんでござる」

「勝ち目なんてないじゃないですか!」

「そうでござるな。もう拙者にはこの初期装備の超硬い鎧と、怪力しかないでござる」

「なら、なんで……」

 

最後に一度振り返り。

 

「絶好のタイミングでござろう、ここで勝てば撮れ高が高い」

 

再び歩き始めたレオパルドンは、全身傷だらけだった。透明な破片が体から幾つも零れ落ち、まるで流血のように青い人工筋肉の溶液が流れ落ちる。大急ぎで修理した箇所の綻びが見え始めていた。

……視界の中でレオパルドンとヴァレンの距離は近づき、やがてゼロになった。

 

「死にたくないのです……この手で、遍く奇跡を世に放つまでは……なのに何故、立ちはだかるというのですか」

「返す言葉の候補はざっと三十。バランスをとって次はゲームから行くでござる……拙者の魂はこう言っている。アンタを止めろと」

「貴方に自分の言葉はないのですか」

「ボキャブラリーが豊富と言って欲しいとこでござるな」

 

そうして二人は再び戦い始めた。先程と違い、フィールド・モジュレーターは脆かった。エネルギーが断たれ、結晶構造が元の素材そのままだからだ。

レオパルドンの体は爆ぜ、砕けていくのをミナカは黙ってみてるしか無かった。

体は動かない。何か手助けをしようにも、もう手だてが何も無かった。

 

こんな時、ヴァレンが言うようにウィザードだったら。

けれど、ミナカに才能は無かった。何回か測定したが数値は常にゼロを刻むだけ。

ここに来て、ミナカは無力だった。

 

「誰か……誰か……」

 

その時、走るのは――あの時と同じ感覚。

 

 

”この瘤……なんか、変な感じ……?”

 

 

刺された右手が疼く。気づくともう血は乾いていた、傷跡も塞がっている。右手だけじゃない、全身が軽かった。

そこそこ高値の医療用ナノマシンを使ったとは言えど、明らかに回復量がおかしかった。

体を起こすと、乾いた血がパラパラと粉になって落ちていく。そして視界にあのレーゾスと同じように青文字が浮かび上がった。

 

 

【警告! 貴方は世界線分岐点です!】

【これから観測行為を継続する場合、世界線が大幅に変動します。当該世界の物理法則・因果律秩序を求めるならば、早急に観測を止めて下さい!】

 

 

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