死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで 作:生駒伊織
【貴方が観測する場合の変動率を予測計算・算出します】
【演算終了群:候補【エラー】を表示】
【候補【エラー】:0.000000% ⇒ 1.048596%】
「何これ……」
あの時と同じ全く読めない言語が現れ、ミナカは戸惑う。直後、視界に新しくオルドラウス文字でメッセージが表示される。
――イドロダイト接触による因子の完全解放を確認。
――ウィザード適正値の再計測を開始。0から計測不能に修正。
――座標確認:武装作成開始。
その文章を認識した瞬間、ミナカの右手に戦艦の部品が幾つも……まるで先程のレオパルドンが刀を作成した時のように集まっていく。
部品同士は互いに絡み合い、まるで生物のように一つの形を目指して組みあがっていく。そうして出来上がったそれは、ミナカの身長と同じ……百五十センチほどの杖だった。杖の頭には真鍮色のランタンのようなパーツが付いている。
ミナカは、それの名前を知っていた。間違いない、これは夢にまで見た――
「位相転換杖だ……」
ウィザードの証。物理法則を改竄する事の出来る異能者専用の武器。
杖から電流が走ると、まるで骨伝導のようにミナカの内側から声がした。聞こえる言葉一つ。
――杖を天に上げろ。そして力を流せ。
「やってやりますよ、コンチクショー!」
もう何でも良かった。レオパルドンを救えるなら使える物は何でも使う。血も涙も、夢も悪知恵も根性も、乙女の尊厳も……降って湧いた物だろうが何だろうが。
そうして言われるがまま、ミナカは杖を上げると……杖頭から光が奔る。
◆◇◆◇
…………………………その者を、選ばれし者と呼ぼう。
◆◇◆◇
――レオパルドンの前に白文字が浮かび上がったのは、丁度ヴァレンの攻撃を地面から金属片を掘り起こして回避した直後だった。
〈GALAXY LIVE LINK:RE CONNECTED〉
〈REC:LIVE / ALL SYSTEMS:NORMAL〉
刹那、彼の周囲に再び白い靄が現れてフィールド・モジュレーターが再起動する。同時にコメント欄には視聴者達が困惑しながら戻って来た。
”ファ!?”
”なんで急に復旧してんの!?”
”レオパルドン、ボドボドじゃないか!?”
どうやらヴァレンに改竄された姿は、再び配信に映るようになったらしい。
その時、レオパルドンは気付く。目の前にいるヴァレンが持つ短剣から七色の輝きが失われている事に。
”おい、宙の方だとダンジョンも消えたってよ!”
”マジかよ!?”
どうやらヴァレンが張ったという、あのダンジョンも消失したらしい。
ヴァレン自身も驚いた表情を浮かべていた。彼の視線の先を右目で辿ると、そこには金属製の杖を持っているミナカがいる。数秒後その場に倒れ込んだ、どうやら意識を失ったらしい。
「………………あの子が? ソーサラーの改変は不可逆の筈なのに……」
そのチャンスをレオパルドンは見逃さなかった。右手に仕込んだワイヤーロールを再び取り出すと、硬化エネルギーをかけて再び投網を作成。右に転がっていた刀を二本回収。
手元に戻り網が粒子と化し、二刀を腕の中でくるりと一回転――中国の刀術の腕花の要領だ。
両手に持った瞬間、再び電気が通り磁場に砂鉄が集まり始めた。
「どうやら、拙者幸運に恵まれたようでござるな」
形勢逆転とは言わないまでも、挽回のチャンスは巡って来た。
レオパルドンは反発のエネルギーを砂鉄に付与し、再び戦塵を切る。しかし、未だイドロダイトの短剣の脅威は変わらなかった。
ゲームのバグ技を使われる敵の気持ちをレオパルドンは痛いほど理解した。
ヴァレンのソーサラーの技というのは言わば現実世界で行うバグ技だ。
右の刀を振るうと、ワープで躱される。
左の刀を振るうと、量子フェージングでダメージにならない。
双刀を連結し、ハサミのようにすると軌道を変えてまるで電磁誘導されたように刃はすり抜けて直撃された。
先程の連刃攻撃もまるで無敵化を使われたかのように効かなかった。先程より深く二本目の刃が直撃しても、血は一切出なかった。
挙句、右の一本が隙を突かれて明後日の方向に弾かれる。
”なんでこいつ動いてんだよ! とっくに死んでる筈の出血量だろ!”
”物理法則も何もあったもんじゃねぇな!”
コメントですら冷え切っていた。
――あの短剣を何とかしなくてはならない。
そこで思い出すのは、自分が好きな作品に出る描写。頭の中で算段を弾き、一度右手で自分の心臓の位置。精神核が収められているそこを撫でる。
必要なパーツは揃っていた。後は自分の覚悟一つだけだった。
「ここまで来たら、やるしかないでござるよ皆のように」
――彼らならば、きっとそうするだろう。ロールモデルとメンターの考えが、彼の覚悟を再び作り上げる。
ぽつりと呟くと、レオパルドンはヒーローになる覚悟を決めると右の腰アーマーからアナライズガンを取り出す。
「遅い」
懐に潜られた瞬間。ビデオシグナルを発動。僅かに軌道を修正をした後、レオパルドンは両刃の短剣に向けて引鉄を引く。
スキャンデータを取得。
停滞世界が溶けた瞬間、まるでクラッカーのように乾いた爆発音。レオパルドンは右足の鉄板を爆破し、一旦ヴァレンから二メートルほど距離を離した。
遮蔽物が欲しい。
「アナライズガンですか……今更超音波で鍵開けやスキャンする道具に利用価値は無いでしょう」
「そんな事はないでござる。拙者、三十超えてもCSMとかつい買っちゃうでござるよ……バーニングザヨゴを撃ちたかったが故に」
「なるほど、貴方は三十代という事ですか。以外にお若い」
右足の濡れた地面に熱化エネルギーをかけて周囲を乾かした後、グラインダーを準備する。
同時に左足で転がっていた破片を固定。背後を振り返り、幅広の板状の破片があるのを確認。
今は時間が欲しかった。レオパルドンビデオシグナルを回復し、超音波に増幅をかけて土埃や鉄粉で煙幕をかけるのがスタート地点だ。
後は何とか時間を稼ぐ、とりとめのない雑談を――
「拙者、TRPGを趣味の一つでやっていたでござるが特にD&Dを好んでいたでござる、3Dプリンターでフィギュアも作っていたでござるが――」
「その手には乗りません」
雑談は右から左への横一閃で、文字通り切り捨てられた。
やっぱりネタの使い回しは何事においても駄目なんだなという痛感と共に、レオパルドンは足裏のローラーで後方に下がって回避。
「どうやら貴方の超速対応には一定のクールダウン期間があるようですね。三十秒と言ったところでしょうか?」
完全に把握されていた。非常にまずい。
「……今口にしたそれは社外秘でござるが」
「連発はよくない。便利な物に頼れば、対応策を立てられて自ずと戦い方が狭まる」
しかし、連撃をしようとした瞬間ヴァレンが吐血する。どうやらスタミナはこちらに分があるらしい。……それでも意志の力でねじ伏せたのだろう、ヴァレンは必死の形相を浮かべ立ち上がろうとする。
こんな時、どうすればいいか。
――後十秒。
ヴァレンの姿が掻き消える。ワープだ。
レオパルドンは左の刃に流す電力を最大限に上げ、足裏のローラーを右に回転させて周囲の砂鉄を急速に――まるで自分への檻のように――巻き上げると反射エネルギーを付与。そこに右のプラズマアークを流す。
流された電流は瞬間、彼を覆う。
「レオパルドンバーリヤ!」
ヴァレンの生物故の一瞬の躊躇で五秒を稼ぐ。残りの五秒は――
「お、兄様!」
電流が消え、砂鉄が消えた左の刃が短剣に根元から両断されたその時。
空気の弾ける音と共に、崩れかけた戦艦の残骸から四メートルほどの灰色のミサイルが発射された。
今まで意識を失っていたと思ったミナカの突如の奇襲に、ヴァレンは一拍対処に時間を割かれる。ヴァレンが右の位相転換杖の先端を向けると、炎が絡みつき中空に固定される。
それで五秒が経った。
レオパルドンはグラインダーを起動。
土煙を立てた瞬間、レオパルドンは即座にビデオシグナルを発動させ、アナライズガンの超音波を増幅。あのレーゾスダンジョンの時と同じように煙幕を立てる。
停滞世界の中をゆっくりとレオパルドンは背後の装甲板に向け、ローラーで下がった。
世界が等速に戻った瞬間、即座に装甲板を切り出し始める。
ヴァレンに向けてレオパルドンはアナライズガンを向け、引鉄を引き続ける。作業が終わるまでの間、何とか煙幕と酩酊で時間を稼ぐのが狙いだ。
やがて、ヴァレンが短剣の力で徐々に超音波をねじ伏せゆっくりと立ち上がって行く。
白いコートの裾が翻り、煙幕が一閃されるとレオパルドンの左手には新しい剣が握られていた。
刀と同じ百四十センチの両刃の剣。反りは一切なく、すらりと長い銀の刃が陽の光に照らされて眩しかった。
「この剣の名前は、名づけるならそう……セクシーパラディンでござる」
そう言うと、コメント欄は騒然とした。
”セクシー……パラディン?”
”だっっっっっっさ!”
”もう駄目だ(顔を覆う)”
レオパルドンは右の腰アーマーにアナライズガンを格納すると、剣を両手で握る。切っ先は下。
同時に左右のスリーブに格納していたワイヤーのロールを廃棄。代わりに左右二つの切り札を装填。
「ワイヤーを捨てますか。身軽になったという訳ではなさそうだ」
ローラーを高速回転させ、レオパルドンは一気にヴァレンとの距離を詰める。
切り上げの一撃を狙う。顔への攻撃は人間の生理反応で必ず視線を上に行かせる。
……防御の為に出された小回りの利くイドロダイトの刃とセクシーパラディンの刃が触れ合ったその時、セクシーパラディンの刃が砕け散った。
陽の光を反射し、無数の破片が飛び散る中。左のスリーブを解放し切り札を切る。
それはハンガーに転がっていた古い発煙筒だった。
スリーブから転げ落ちた瞬間、火薬臭と共に灰色の煙が立ち込めた。ヴァレンの顔に煙がかかる直前、レオパルドンは賭けに出る。
「――」
フィールド・モジュレーターの胸部を解放。その奥、自分のアーマーを解放して精神核を露にする。
これが覚悟を決める理由だった。
彼のその目が大きく見開かれ、腰降ろしイドロダイトの刃がまるで矢のように放たれる中。レオパルドンは右の切り札を切る。
「まさか、それは……」
弾けるような音と共に煙が割れる。その時、彼の手に握られていたのは――
◆◇◆◇
――ミナカの前に現れたそれ、煙を裂き天高く上げられたのは丸い紫色のシリコンヘッドであった。
それはミナカがレーゾスに行く前注文した電動マッサージ機である。エネルギー付与をかけたのだろう、マッサージ機はすぐに粒子となって消えた。
「使える物は何でも使うでござる!」
本当に何でも使うヤツがいるか、という言葉が出かけた時ミナカは気付く。レオパルドンの手から先程まで握られていたセクシーパラディンの柄が無くなっていた。
刃が砕けた所は見えていた。晴れていく煙から覗く地面にも転がっていない。
「小賢しい」
その時、紫色の位相転換杖の刃が一度輝く。身体強化をかけた上での右足からの足払いで、レオパルドンは対応出来ず地面を転がる。
そうして短剣の刃が改めて彼の胸――緑色に淡く光る四角い精神核に向けられた。
「尺骨神経を狙い、短剣の取り落としを狙いましたか……しかし僅かに幸運が足りなかったと見える」
「……」
「自らの急所を晒して隙を作らせるのは見事です。だが奇をてらい、この短剣を奪おうとする……貴方らしくない欲のかき方だ」
「……」
「欲しくなったのですね。この力を……不完全とはいえ、これだけの力があれば何だって出来る筈」
話している最中、ヴァレンが身を屈める。顔を苦悶に歪ませ、数拍肩で息をした。
「渡しません、これは私の物です。銀河配信社会、オルドラウス銀河の運命……貴方の体……神の鎧、いただきましょう!」
乾いた、金属の砕ける音が小さく鳴り響く。
この宇宙の殆どの者達が見守る中、ミナカは終わったと思った。
位相転換杖が手の平の汗で滑り落ちる。否、落ちたのは位相転換杖じゃない。ミナカ自身だ。
「お、お兄様……」
「……」
「嘘、いや」
「……」
「だって、そんなこと……」
レオパルドンは完全に沈黙していた。あれだけ冗舌だった彼が、今はピクリとも動いていない。
レーゾスの時よりなお冷たく、彼の緑の目から光が失せる。
息が止まる。魂すら手放してしまいそうな程の衝撃が走り、それは今まさに叫びとなって空気を振るわせようとしていた。
が――
「なんだと……」
ヴァレンのその声が先に響いた。彼がゆっくり短剣を引くと、堅牢なイドロダイトで出来ていた短剣は中央から先が砕け散っている。
一体何だ。そう思った時、答えは再び野太い声から告げられた。
「ハッハッハ、ハッハッハ、ハッハッハ――実際やってみると難しいでござるな、この笑い声」
「……一体何をされた?」
レオパルドンの右手。人差し指がヴァレンに突き刺さる。
”後は、ここいらで手品でも見せとくでござるか……”
ミナカが思い出すのは、廃戦艦城と見せたレオパルドンの手品。そうだ、あの時彼が続けて言った言葉は確か――咄嗟にそう思った時、レオパルドンはあの日あの時と同じ言葉を口にする。
「すり替えておいたのさ!」