死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで 作:生駒伊織
【いつの間に】惑星ラクトゥー対策統合スレPart23【俺達は騙されていた?】
144:名無しの視聴者
はい!?
145:名無しの視聴者
すり替えておいたのって、すり替え!?
146:名無しの視聴者
セクシーパラディンは?
◆◇◆◇
――セクシーパラディンが出来上がった直前にまで時は遡る。
大切なのはタイミングである。手品は何時だってタイミングが命だ、レオパルドンはそう思う。
「この剣の名前は、名づけるならそう……セクシーパラディンでござる」
我ながら、この名前はどうかと思う。しかし、この剣の機構。そして元ネタをかんがみれば、これほどマッチした名前は無いだろう。
元ネタになった映画と同じく、この長い刃の下にはもう一本の刃が仕込んである。
そう、今まさにヴァレンの手の中にあるイドロダイトの短剣とそっくりの偽物と。
「ワイヤーを捨てますか。身軽になったという訳ではなさそうだ」
奥の手の切り札として電マと発煙筒を装填する。電マはあの茶色い小箱に入っていたヤツ、名前は『暴れん棒の魔太郎』というらしい。……勿論、新品未使用品だ。
あらかじめ脆く作っていた刃を砕き視線を上に誘導した直後、発煙筒を使い隠し刃を隠す。同時に胸の精神核を開く。
ヴァレンがイドロダイトの刃で一撃を狙った瞬間、電マでファニーボーンを直撃。体内に短剣を滑り落とした後、煙の中で隠し刃を握らせる。
――手の中でくるりと一回転させる。ガンスピンの要領で。
その後、電マに増幅のエネルギー付与をかけて煙を晴らす。
結果は、ヴァレンは見事この手品にひっかかりイドロダイトの短剣はレオパルドンの中にある。
「拙者、手品が特技でござるよ」
「くッ!」
位相転換杖の刃を両腕を交差し、起動したエアー・コンプレッサー=異能対処用のプログラムを発動させて防ぐ。炎の絡む紫の刃は彼の腕の中間で止まった。
空気の層で刃を受け止めたままレオパルドンはゆっくりと立ち上がると、ヴァレンは一度背後に跳躍。一メートルほど中空を飛んだ所で、その姿が掻き消えた。
今、イドロダイトの短剣を失ったなら取るべき手段は一つ。
……ミナカの確保である。
「ミナカ殿!」
「――何もしないで下さい、お兄様」
自分の背後にいるミナカに振り返りながら叫ぶ。後ろを振り返り目に入るのは、既に体を起こしているミナカの姿。
彼女は両目を閉じ、浅く腰を落とし、左手は杖を握って右手は両手分の持ち手に添えるだけ――まるで居合のような姿勢を取っていた。
ミナカが答えた直後、レオパルドンはビデオシグナルを発動させる。
「……」
ミナカの後方。その虚空からヴァレンが現れる。
刹那、ミナカの位相転換杖から刃が走る。勢いで、明らかに棒を振るように抜かれた瑠璃色の刃はヴァレンの紫のそれと鍔迫り合いの形となった。
暮れていく夜の色と、明けていく夜の色はかくはんし白い火花を散らす。
その時、レオパルドンは確かに見た。
ミナカが右のポケットの上に手を伸ばすと、そこから人差し指と中指で淡く光る黒い板を取り出しヴァレンに投てき。それはヴァレンの左の胸に吸い込まれるように消えた。
ビデオシグナルが解けた瞬間。その一合の中、ヴァレンは再び姿を消した。
そうしてレオパルドンの視界に新しく白文字が浮かび上がる。
〈FLAG:ACTIVE〉
〈INTRUDE:WALLET-USER NAME:VAREN SLOAN / REAL TIME TRACKING〉
〈Com St:STABLE〉
その表示が現れた瞬間、ミナカは叫んだ。
「ヤツはそこです!」
炎を散らし、数十メートル先前方の虚空――高さは目測で三十メートルと言った所か。
瞬間、ヴァレンが虚空に現れる。彼は位相転換杖を向けると、十二本の短剣のような形に分割される。明らかに長射程距離から狙い撃つ形だ。
レオパルドンは足裏のローラーを回転させ、右横にある先程ヴァレンが宙に静止させた光子ミサイルへ滑るように向かう。それを材料に高速で武器を作成した。
〈VIEWERS:???????????????????????/Au REACTION LEVEL=HIGH〉
同接カウンター数、そして配信冒険者ランキングは共に計測不明。ただこの場に集まる意志は自ずとレオパルドンに告げている。
――これがこの日最大のバズであると。
その時、ネットの全て。認識不可能の上位パラレルワールドの全てに散らばったミームが呼応。
観測者の感情、その万分の万分の一がこの場に集う。
その現象を、神話と呼ぼう。
出来上がったのは百五十センチ程の剣だった。両刃のそれは、シンプルな鍔と柄で組まれており、柄にはミサイルの噴射口が取り付けられている。
「私は神、なのです……」
ヴァレンがそう言う言葉に対し、レオパルドンはこんな時どう返すかを知っていた。最終局面=エンドゲームでどう言えばいいか、答えは――
「なら、拙者はレオパルドンでござる」
そこでレオパルドンは叫んだ。
「レオパルドン、ソードヴィ――」
光子の炎が爆ぜ、刃は音を置き去りにしてヴァレンに走る。瞬間、システムアラートを告げる赤文字が銀河に躍った。
〈AUTO:SOUND FILLTER ACTIVE〉
〈STILL RECOVERING…〉
刃は咄嗟に防御を取ったヴァレンの張った赤い壁を突き破り、ガラスの砕ける音と共に彼を貫く。
黒炎に燃え盛る神の野望は、今ここに潰えた。
◆◇◆◇
――ミナカはゆっくりと、位相転換杖を右手に握りながらヴァレンが倒れ堕ちた地点に近づく。
あれほど、無敵だったヴァレンは今は地面に倒れ伏している。どうやら直撃は避けたらしい、左肩は抉れ赤黒い血が草原に血だまりを作っている。
コンタクトも何処かに行ったらしい。その黄色と緑のオッドアイと目が合った。
「……ミナカ殿」
「これは、わたしがやらなきゃいけない事ですから……」
所在なさげに背後から話しかけるレオパルドンに対し、ミナカは短くそう答えた。
位相転換杖から瑠璃色の刃を再び出す。そうしてヴァレンの元に向かうと、その刃を彼に向けた。
「見事……貴方は、選ばれし者として覚醒された」
「……」
「私を討ち果たし、役目を全うしなさい……それがウィザードの務めです」
ヴァレンは痛みを臆面にも出さず、淡々とまるで他人事のように言う。そこには先ほどの狂気のような表情はない、ただ無味乾燥な顔が浮かんでいる。
これが、さっきまで神になろうとした男だとは思えなかった。
怒りも憎しみも……正直に言えば、ミナカの胸の内には確かにあった。
「さぁ、早くなさい」
息を呑む。
そしてミナカは刃を。
刃を……………………降ろさなかった。
ヴァレンの前で瑠璃色の刃を再び位相転換杖の中に収める。
「何故です……?」
「わたしは、貴方の事が憎い……今更パパだなんて呼ばない」
「ならば、何故?」
その赤と青の瞳を、涙が零れ落ちないように目いっぱい見開き。ミナカはピンクと黒のジャケットの中から医療用ナノマシンを取り出すと、ひざまずいてからヴァレンの左の首に銀のカプセルを刺す。
困惑するヴァレンを見下ろしながら再び立つ。ヴァレン・スローンはこの期に及んで、何故自分がミナカの手にかからなかったのか分からないらしい。
だから、ミナカはぽつりと呟くように告げた。
「ママが最後に名前を呼んだのは貴方……」
「……」
思い返すのは、母がミナカに残した最期の言葉。それは愛で娘の名を呼ぶのではない、生き方を定める言葉だった。
『ミナカ、伝わらない愛はないわ……どんな時でも、どんな形でも想いは確かに伝わるの』
母の愛を父に告げなくてはならなかった。それが、ミナカの下した決意である。
もしここで自らの憎しみでミナカがヴァレンを殺してしまえば。
……ならば母の人生は何だったのかというのか。
風が吹く。母譲りの髪が風に揺れ、それは遠い銀河を超えて砂の惑星にまで届く気がした。
彼が気を失うときびすを返し、ミナカはヴァレンに背を向ける。
目が覚めた後でも、もう彼が何かをする事はないだろう、その確信があった。
「終わりました、お兄様……」
歯をむき出しにして彼に笑いかける。涙は流れなかった。
「ミナカ殿……」
今ここで一つの戦いが、一つの旅が終わったのだと思う。今まで結構な寄り道や、迷いをして、歪んで曲がってきたかもしれない。
それでも、ここが終着点なんだと思った。そうして、また新しい戦い。新しい旅が始まるのだ。
「どうです、お兄様! 見ました、ワガハイの雄姿を! 惜しむらくは配信記録には音声が入ってないのが残念なところですが、いやはや撮れ高は高いでしょうこれ!」
「あぁ、立派だったでござるよ」
彼の労いの言葉が、ただひたすら嬉しかった。
――その時、ラクトゥーの大地が震える。
「は?」
「え?」
前方。宇宙船の残骸が転がるその先に映る、小さな石碑と青い水を湛えた池。
そこから七色の光が溢れ出し、ミナカの視界の裏に青い文字のメッセージが浮かび上がる。
【ラクトゥー演算機の限定的稼働を、ギャラクシー・ライブリンクより承認】
【理由:選ばれし者の覚醒を確認と共に、地殻のエネルギーの急速充填が計測された為】
【演算機の操作権限を選ばれし者に移譲】
一切読めなかった。が、内容は同じ物を表示されたレオパルドンによって知る事が出来た。
「なんか、あの演算機が限定的でござるがミナカ殿にだけ使えるようになったっぽいでござるよ!」
「え、マジで!?」
やった! なんてラッキーなんだろう!
そう思った直後、新しいメッセージが表示される。その瞬間、レオパルドンが固まった。
【惑星地殻内エネルギー臨界点到達!】
【警告! このままでは三分後にラクトゥー半径十四パーセクにも及ぶ超新星爆発が起こります!】
文字の意味を図りかねていると同時に、レオパルドンが叫んだ。
「まずいでござるぞミナカ殿! このままでは拙者達――」
星が弾けて諸共一巻の終わり。だからそれを回避するにはこの三分で丁度いい願いをひねり出すしかない。
「ンアーッ! 結構ワガハイいいシーン撮ってた筈なのに、なんで毎回オチに爆発が関わるんですか!?」
「ひねり出すでござるよ、ミナカ殿! ミナカ殿ならやれる、出来るでござる!」
狂乱の最中、新しく青文字が視界の中に映る。
「……え? マジでござるか?」
「どったんですか! お兄様!?」
「なんか、拙者……今までこのアーマー、故障してたらしくて本来なら肉体の鋳造機能があるっぽいでござる。で、今それの修復パッチが当たるとか……」
地表を割り、彼らの前に七メートルほどの黒い尖塔が現れる。塔の先が八片に割れると、そこには光輝く男の姿が映る。
身長は百八十センチ。肉付きはかなりよく、……言ってしまえば肥満体形であった。
「あ、アレは……は、裸のおっさん……?」
「アレは拙者の元の肉体でござる。あー、全裸でござるな。ゲーミングPCみたいに七色に輝いてるでござる……」
「アレがお兄様……」
ミナカにとってレオパルドンはかけがえのない相棒だと思っている。それは本当だ。
けれど……。
「膝……ないですね」
「業務スーパーのパスタが主食でござるからな拙者……」
「お腹の肉、めっちゃ分厚くありませんか?」
「拙者、六月の健康診断で体重三桁行ったでござる」
「なんていうか、その…………その……あの姿表現するとしたら」
言うなり、レオパルドンはミナカの方を振り向いた。
その緑色の卵のような瞳で、彼女をしっかりと見つめると。
「イカすでござろう?」