死にたくないので炎上上等! 地球への手がかりを探すSFオタクが、銀河最底辺ダンジョン配信でミームから神話になるまで   作:生駒伊織

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エピローグ 永遠のために君のために

 

 

 

それからの事を――

……事件後にまとめられた記録と、俺自身の記憶を交互に織り交ぜて語るとするなら。

 

 

キャストリル・クォスティ・オルムステッドは、この一件でオルムステッド家内での立ち位置を確固たるものにしたらしい。

 

フィアナ・アルフェルドは、この事件の直後に救助を確認。その後はオルムステッド星系の病院に収容後、ミナカ・アラギと再会。

 

キナイ・ミスリルは、依然としてその消息が掴めない。ただし彼女が率いていた組織の残党が、この事件の直後ギルドによって一斉検挙されたらしい。

 

 

ドヴェル=スタイン家は声明を発表。蟄居処分にした長男は、この事件の直後に病死したと発表。

以て事件の首謀者死去により、事態の完全終結を宣言。オルムステッド家には多額の賠償金が支払われる事となった。

 

反乱の対処に協力した視聴者達には緊急時の行為という事で、違法行為を咎められる事なく恩赦が与えられた。

並びに、アンドロイドの臣民権問題が帝国評議会により取りだたされ、近々法改正されるという噂が立っている。

 

 

ヴァレン・スローンは、ギルド軍駐屯地の重犯罪者専用刑務所に収容。収容時に、身体の八割をバイオ素材に換装。以て、ウィザード能力の消失を確認される。

惑星レーゾスからギルド軍駐屯地に移送される際、輸送船の船体トラブルが発生。砂の惑星にメンテナンスの為、緊急着陸する事態となった。

更にその際、ヴァレンの体に埋め込まれたGPSの信号が途切れるも、一時間後には復旧。船の修理を以て囚人護送に問題なしと判断され、今に至る。

キャストリル殿の話によれば、とある女性の墓石には白い花が添えられていたらしい。

 

ミナカ・アラギは、覚醒させたそのウィザードの能力を買われ、ウィザード育成機関に配属される。

 

そして、ここからは俺の話になる。

俺は――

………………否。拙者は、ミナカ殿と別れた後も配信冒険者として活動を続けているでござる。

 

 

◆◇◆◇

 

 

――マーベラーにて。

 

 

艦橋の静けさが少し痛かった。零点エネルギーエンジンの音は一定で、周囲にドローンのプロペラ音だけが響く。

 

熱狂の中のふた月が過ぎて、ひと段落した後。今やレオパルドンは一人で宇宙船を操作出来るようになっていた。

配信も一人で行っているし、SNSの管理も、倒した敵の解体作業と換金も自分で行っている。ミナカに任せていた物は全て。

 

銀色の球体型ドローンが座席に座る彼を映し、ギャラクシー・ライブリンクに上げ続ける。

 

「ミナカ殿、ミナカ殿がいなくなったら部屋ががらんとしちゃったでござる。でも……すぐに慣れると思うでござる。だから………、心配しないで欲しいでござるミナカ殿」

 

コンタクトレンズタイプのモニターに映る配信中の自分の姿を見る。

太ももまでかかる白い髪に百四十センチの細い体。顔は元の顔とは似ても似つかない可愛らしい感じ、……そんな自分がコクピットの上で体育座りをしてるのは、なんだか不思議な気持ちになった。

自分の愛する漫画のセリフをぽつりと引用すると、開いている配信コメントはと言えば。

 

”いなくなると寂しいよな”

”でも、ウィサードになりたいって言ってたから、これでいいんだろう……”

 

何処か感傷的なコメントが白文字で流れていく。批判的なコメントは存在せず、今は夢を追いかけるミナカを懐かしむコメントだけがそこにある。

そこでレオパルドンは一度咳払いをすると。

 

「でも、やっぱり一人っていいでござるな!」

 

瞬間、コメントには一斉に草のコメントが流れた。流れるコメントは『ちょwおまw』、『お前、それでいいんか?』等である。

 

「ミナカ殿のお陰で、拙者は今全身思春期の少女のオナペット男でござる! まぁ……でもそれはそれ、これはこれでござる!」

 

レオパルドンは一度背中まで流した白の髪を右手で掻き上げる。

 

”何か、色々さっぱりした顔をしているな”

 

胸のあたりを撫でる。それはあの日あの時、魂が存在していた箇所――ミナカが血を流して守ってくれたのと同じ所。

 

「……ちょっと、今から気取ったセリフを言うでござるよ」

 

”許せる!”

”なんでも言っていいぞ”

 

こほん、と一度わざとらしく咳払いをする。

心に浮かぶのは好きだった作品達。メドレーみたいなオマージュを口にする。

 

「この発狂した宇宙で冷たい方程式を解くには、たった一つの冴えたやり方しか許されなかった……きっとこれが、俺なりの運命石の扉の選択だったのだろうな」

 

あの日あの時の奇跡を忘れない。

彼女が行って見せた奇跡。異世界でのシンクロニシティとも言うべき、あの無意識の引用。それは地球行きのチケットを捨てても、行くべきだと思えたから。

 

”お前がそう言うのなら、まぁ……”

”ところで最後、なんの選択だって? ちょっと聞こえなかったんだけど”

 

マーベラーの船窓に緑色に輝く星が映り始めていく。惑星ファ=ザという帝国に属する植民地惑星だ。

つい先週、発見されたばかりのダンジョンに潜るのが今回のレオパルドンの仕事である。

 

「それではそろそろ今回の配信を始めるでござるよー、今回は惑星ファ=ザで二泊三日でボスまで行くでござる!」

 

”おー、がんばれー”

”最近、ちょっと面白さ落ちてきてるから気を付けろよ”

 

実際、ミナカが抜けてからという物チャンネルの勢いは緩やかに落ちていった。しかし、いない人間に頼る事は出来ない。

ミナカは既にウィザードとして華々しい道を歩き始めている、今更自分が邪魔する事は出来ないだろう。

最後に別れてから連絡も取っていなかった。

そんな訳でレオパルドンは一人、惑星ファ=ザの地面に降り立った。フィールド・モジュレーターを重ね、青空の下に広がる活気づいた人のいる大都市の中。建築物は何処となく古風なイギリスの街並みに似ている。

 

 

ファ=ザのダンジョンはバリバリの居住区画にあった。現在住人は避難しており、周囲に人はいない。

ダンジョンの入口は、住宅街の狭間にあった。急造で設けられた白いコンクリートブロックみたいな箱の前、そこに見覚えのある顔がいた。

 

「お久しぶりですお兄様、さてもう潜ります?」

「ミナカ殿。何故、ここに?」

 

そこにいたのはミナカだった。ジャケットを黒とピンクから、白とピンクのそれに変えており、ラクトゥーで手に入れた位相転換杖を腰の黒革のホルスターに。

背中にはハルハルのムラマサを背負っている。

 

「写真一枚あれば特定は簡単ですよ。結構大急ぎだったんで、着の身着のままで来ちゃいましたが」

「そ、そうじゃなくて……どうしてここにいるでござるか?」

 

ウィザードとして華々しい活躍が期待されている筈の彼女が一体どうしてここにいるのか。今は学園に通っていて、まだ実戦には出られないと聞いていたのに。

驚くレオパルドンに対し、ミナカは笑いかける。

 

「ちょっと忘れ物をしてましたからね。学校に退学届けを出して、帰って来たんですよ」

「忘れ物?」

「約束したじゃないですか! お兄様をつきっきりでサポートするって! 地球に戻る手段を探すまで付き合います!」

 

動揺で、一拍間が空く。

 

”それに命を救ってくれたお兄様に、少しでも恩返しをしたいんです! 大丈夫です、ワガハイがつきっきりでサポートするとお約束します!”

 

確かに、あの時。初めて出会った日に宇宙船でそう言っていた……。

 

「まさか。その為に、来てくれたのでござるか?」

「ワガハイ約束は破るより、守る方が得が多いと思うんですよ」

「しかし、それではミナカ殿の未来が……」

 

全てを投げうつとは思っていなかった。

彼女が乗っていたのは約束された成功。大きな数字が保証された道だった筈だ。

それに対し、ミナカは察したのだろう。最後に結びの言葉を放つ。

 

「分の悪い賭けって好みなんですよね」

 

レオパルドンは、唇を嚙みしめる。……もし、これが生身の状態だったら目から汗が流れていたかもしれない。

その隙を縫って、ミナカは二言目を切り出した。彼の内心を知ってか知らずか、いつもの調子で話は続く。

 

「それに配信冒険者ランキング! ラクトゥーのヤツは計測不能になったから、まだワガハイ達一位になってないじゃないですか! 今度こそ一位になりますよ!」

「ミナカ殿……」

「というか、なんなんですか最近の配信の体たらくは! アレだけやってチャンネル登録者数と再生数が落ちるなんて、ちょっとありえませんよ! 早急なテコ入れが必要です! ……このワガハイ、ウィザードの能力を手に入れてから戦闘能力が飛躍的に上がりました! これからはバンバン前線に立ちますよー!」

 

幻影の涙を振り払い、レオパルドンは気分を早急に切り替える。

声は自然と弾んでいた。

 

「生きるも死ぬも、一緒でござるよ。ミナカ殿――これが拙者のなろうチートでござる!」

「だからなんなんですか、なろうって! なんになるつもりなんですか!」

「勿論、ランキング一位でござる!」

 

そうして彼等は今日もダンジョンに潜る。ファ=ザの季節は夏、晴れ渡った青空はまるで新しい旅立ちを祝福するようだった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

――銀河配信社会の片隅で。

 

――声は遠く離れていても、姿は陰り掠れても。

 

――それでも、彼らの冒険は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(了)

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