死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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4話2 配信冒険者になろう!

 

青から藍。藍から黒。グラデーションの空を突きっ切ると、風音は消えて真空が宇宙船の装甲を叩く。

惑星ジャ=クーを第二宇宙速度で超え、極軌道を外れて星の荒野に達する。

 

ミナカはおんぼろ宇宙船のがたつくコクピットに座りながら、擦り傷だらけのハンドルを握る。イオンスラスターを蒸かした振動が船体を浅く揺らした。

前面にずらりと配置したトグルスイッチ、燃料を刻むメーター、黒いゴムのカバーが罅割れたスイッチ、縦に罅の入った液晶モニター。

それらが整備不足が原因で漂う錆の混じった油の匂いが満ち、クッションの硬くなった椅子の前に一セットになって全て収まっている。

対し、彼は既に機内に戻っていてすぐ真後ろのベンチに座りながら話していた。向かいにもベンチが存在し、小さなコンテナや段ボールがベンチいっぱいに並べられていた。

白く照らす照明の中、白と黒二つのドローンはカメラを回している。

 

船内は無重力状態で、周囲にはボルトやナットなどが浮いていた。

 

「つまり、地球という星の日本という国で普通に暮らしていたのに、気がついたらあそこにいたと」

「えぇ、その通りでござる」

 

船窓には青白いプラズマに、漆黒の宇宙に浮かぶ星が滲むのが映る。

……大気圏を突破して一目散に惑星ジャ=クーを後にし、後遺症の耳の詰まりや胸の圧が消え去った頃。ミナカは赤い彼の話を聞いていた。

 

「そして日本ではダンジョンもアンドロイドもブラスターもなくて、そもそも戦った事がないと……」

「SF映画でしか見た事ないでござる。というか、銃すら撃った事ないでござる……免許制で興味はあったでござるが、熊とか普通に怖かったでござるし」

「よく戦えましたね」

 

そこで彼は自分の両手を一度見る。まるで今たったその事に気付いた様に。

 

「体が勝手に動いたでござる、正直無我夢中で。あんな力が出てパイプを引き千切り、……もうエネルギーに至っては自分でも良く解らなかったでござる」

 

彼は手をグーパーして見つめるが、今は何も起こっていない。ミナカには、その動きが心許なく見えた。

 

「なんとかなって欲しい、吹き飛んで欲しいと思ってパイプを叩きつけたらあぁなったでござるよ。……神様やスキル画面が出てこないタイプの転生は、こういう時が面倒でござるなぁ」

「こういった話他に知ってるんですか?」

「えぇ、なろうで」

 

なろうってなんなんだろう。そう思っていると彼は遠い目を向ける。

 

「ただ、直感で解る事が一つあるでござる……多分、あれが拙者のチート能力なんでござるなぁ」

 

しみじみと彼は感慨深げに呟く。

 

「配信中にしか使えない、同接数によって変動するエネルギー。能力に制限があるのは好きな展開でござるが、いざ自分がやるとなると躊躇うでござるな」

「本当に配信中にしか使えないんですか?」

 

そこで彼はその場に転がっていた、機材の分厚い破片を右手で取ると、顔の前に横に置く。

 

「んんんんんん! 拙者も目覚めろ、その魂するでござる!」

 

ヘルメット内のHUD、実際の光景……ともに三十秒経っても何の変化も起こらなかった。

 

「……駄目でござる。多分、配信して無い時はこの超硬い初期装備の鎧と怪力で戦えって事なのでござろう」

 

少しがっかりした感じで、厚さ一センチもある機材の破片をくにっと人差し指と親指で折る。

 

「そもそも、この鎧脱げるのでござろうか? なんか、チャックもボタンもないでござる」

「ほえ? なんか無いんですか?」

「留め具も継ぎ目もないでござる。まるで拙者の体そのものみたいに……戦ってる時は気にならなかったでござるが、うーむ」

 

そこでふと疑問に思った。

ダンジョン配信もブラスターも何もない、およそ荒事とは無縁の人の筈なのにどうして……と。

 

「そもそも……なんで戦ったんですか? ワガハイなら逃げちゃってますよ」

「襲われてる人がいたら助けるのは当然でござろう……ルークなら、きっとそうしたでござるよ」

 

そう言った直後、彼は震える自分の両手を見て握る。

 

「ただ、拙者はヒーローの様にかっこよくは出来ていないらしいでござる」

 

本当に変わった人なんだと思う。同時にいい人なんだろうなとも思った。

そこで彼がいたという世界の話に戻る。さっきのは殆ど触りで、深掘りはしていない。

一体どういう世界で、何があって何が無いかが繰り広げられる訳であるが。

 

「なるほどなるほど」

 

一部始終聞いたミナカの感想は――

 

「お兄様、もしかしていけないお薬をされてらっしゃる…………?」

 

口に出した瞬間、言葉の軽さが舌に残る。

どう聞いても妄言にしか聞こえなかった。ぶっ飛んだ登場の仕方で、見た事のない戦い方をした彼であるが、流石に気がついたら他の世界から来ましたはないだろう。

 

「…………なるほど、そういうタイプのなろうでござるか」

 

良く解らない事を言って、頭を抱える彼。

疑問に疑問は尽きない。

しかし聞けば聞くほど、どうしてそうなったという様な話だ。ネットはあるが、宇宙船は近く星のちょっとしか行けない。動画配信はあるが、ダンジョンはない。

ドローンはあるけど、アンドロイドはまだ実験段階。

スマホとSNSはある。……聞いた時は、アンドロイドはいないのにSNSはあるんだと思ってしまった。

 

引き続きミナカは話を聞く。なんでも、彼はそこでSFというよくわからない物の考察動画を作成していたらしい。

 

「いやあ、登録者数一万。兼業でやってたにしては、そこそこ行っていたと思うのでござるよ」

 

しかも、ミナカより登録者数は多かった。わけわかんない動画のクセにと思う。

でも、一万。凄いとも思った。

 

「基本的にはモンスターの生物学的見地からその生態や習性を考察したり、主人公達が取った戦法の戦術的見地からの考察や作中で出て来た道具の再現。後は実際の武術から見て、架空の武術を考察したり……そういう動画を上げてたでござるよ」

「ち、ちなみに。どうしてそこまで登録者行ったんですか?」

「基本的に拙者は3Dモデリングや数値計算を多用した、そこそこの考察勢だった訳でござるが……大事なのは自分が信じた物を、独自の視点を保ちつつ考察し続ける事が大事かと」

 

ミナカは一度首を縦に頷く。

なるほど、あんまり参考にならない。

そこで赤い彼は、その白い頭をぐるりと見まわす。

 

「しかし、自分が異世界転生するとは……突発的なろう的状況に拙者困惑」

 

本当なろうってなんだろうとミナカは思った。

しかし。もし彼の言う世界があったとしたら、ちぐはぐな世界だと思う。

空想の話にしては結構面白い。昔ネットで漁った、一人で数十年も誰にも見られる事のない物語を書いた人の話みたいで。女の子の股におちんちんが生えてる奴。

でも。

 

「父さん母さん…………どうしてるんだろうか」

 

少しの空白の後。ぽつり、と呟いたその言葉は痛々しく思えた。ミナカは嘘つきだから解る、この人の悲しみだけは本当の事なのだろう。

 

「…………大丈夫ですよ、きっと」

 

命を二度も助けてくれた彼に対する、その言葉だけは本物だった。ミナカは損はしない、だけどなるべく損もさせない。

ミナカは宇宙船の操縦を自動操縦に切り替えると、ゆっくり無重力の中を漂い、彼の元に近寄る。そうして胸元のジッパーを開け、そっと彼の首に腕を回す。

傷つけない様に、壊してしまわない様に。冷たい鉄の肌、それは金属だからという訳ではない。彼の孤独、悲しみからも来ているに違いない。

 

「お兄様……」

「……………………はい」

 

抱き締めたまま、ミナカは一息置いた。

――ここがチャンスだ。

 

「動画配信者になりませんか?」

「はい?」

 

虚を突いた後、隙を詰める。

別に、この人がヤク中だろうが実は本当に異世界人だろうがミナカにはこれっぽっちも関係ない。大事なのはミナカにとって、この人が莫大な視聴者とお金を産む人だという事だ。

今日だけでしばらく遊べるほどの額を稼いだ。

こんな人、絶対に逃してはならない。

この人がいれば、配信冒険者の一位も夢じゃない!

 

「ワガハイ、聞いた事あるんです! あるダンジョンの最奥は実は異世界に繋がっていて、ワープ機能を持っているとか! もしかしたら、ひょっとしたら地球への手がかりがあるかもしれません!」

 

……という事は死んでも口にはできないので、実際には美しい言葉で着飾った建前をすっごく健気で同情している感じで朗読する。

首から手を離すと、その場ですくっと立ち上がり、身ぶり手振りで自分を印象づける。

ちなみに今言った事は、一部を除き都市伝説を元にした出鱈目である。

地球への手がかり? そんな物ある訳がない。

だがミナカは知っている。人間にはいつだって希望が必要だ。嘘を信じこませるのに大事なのはちょっとの真実を含ませる事。それで嘘は自立する。……学校をドロップアウトしてから、ミナカは今までそういう仕事をしてきた。

 

「……なぜ、そう言えるので…………ござるか?」

「パパはダンジョンの研究家だったんです! 古代の人は優れた力を持っていたって聞きました。」

 

嘘である。真っ赤な嘘である。何をしてるのか、どんな名前で、そもそも生きてるかどうかすらも知らない。

古代の下りは一応、本当。この前そういう遺跡があったって、ネットニュースで見た。

彼は戸惑う様に、ミナカの言葉を測っている。大事なのは、自分が絶対的な味方であると解らせる事だ。

 

「ワガハイも、パパもママももういないんです……だからお兄様の事、とても他人だとは思えなくて……」

 

他人である。他人はどこまで行っても他人である。

そう思いながら、鍛え上げた涙腺で涙を流す。見よ、この美しい涙を。まるで本当に悲しんでるみたいだろう?

 

「それに命を救ってくれたお兄様に、少しでも恩返しをしたいんです! 大丈夫です、ワガハイがつきっきりでサポートするとお約束します! 動画編集とカメラと宇宙船操縦には自信があります! お料理もお洗濯もお掃除も!」

 

ここら辺は全部本当。下働きに次ぐ下働きの末に身に付けた、自慢のごますりスキルだ。

 

「そんな、いきなり顔出しデビューだなんて……Vでもないでござるし」

 

多分、彼の言葉で動画配信者を指す言葉なんだろう。Vというのはよく分からないが、心は読めた。

この人、実は目立つ事そんな嫌がってない。その承認欲求いただき。

 

「何より、お兄様は今スターです!」

 

ピンクと黒の格子柄のジャケットの中から、スマホを取り出すとSNSの一つを見せる。操作は一と二で終わる、検索をかける必要すらない。

自分と彼の事は今トレンドランキングに載ってるのだから。

見せる画面は全て彼が映っている。配信から切り抜かれた動画や画像は、ギャラクシー・ライブリンクの隅々まで広がっていた。

そして人は口々に、これは誰だ。一体どこの誰だ。あの女を守る所に感動した、エモい、最高とか勝手に言ってる。

 

「す、すごい……これが拙者でござるか? 今までトレンドになんて、入った事ないでござる!」

「はい! お兄様は、今話題の真っ只中にいます! もう一秒出るだけで、お金がザクザク稼げちゃいますよ! 今お兄様は約束された成功のカーペットの上に立っているんです! おっきな数字というね!」

 

感動したのか、動揺しているのかは分からない。ただ今彼はミナカの動画に釘付けになっている。

ここで、ダメ押しの決め台詞だ。インパクト一択。

 

 

「お兄様ならなれる! 配信冒険者ランキング一位! この銀河配信社会の成功者に!」

 

 

そして空かさず、彼の願望。欲求に繋げる。

解りやすく、単純な未来予想図を見せてやる。これを頑張れば成功するというビジョンを持たせるのだ。

 

「配信冒険者ランキング一位になれば、本来禁止されてる領域のダンジョンに潜る許可も下りる! 企業や貴族のコネも出来て、いろんな情報が手に入るかも!」

 

しばし画面を眺めると、重たい口を開く。

 

「……確かに、何時までも落ち込んでる訳にもいかないでござる……」

 

ミナカは右手で口元を覆い、上がった口角を隠す。しかし、内心では湧き立つ物を押さえられなかった。

はい勝った! はい、今わたしの勝ちが決まりました! ……そう思いながらも本音を圧し殺し、ミナカは顔を明るくする。

 

「そしたら!」

「フォカヌポウ! 動画配信者、やってみるでござるよ……これが拙者のなろうチートでござるな、きっと!」

 

だからなろうって何なんだろう。そうは思いながらも、やる気の芽を育てるのは最初が肝心な事を知ってるミナカはお馬鹿な子のフリをして無邪気に喜んだ。

その隙にもう一台のスマホをミナカは操作する。

……ニューロ脳波synC=コントローラーでネットを漁り、適当に入力したら契約書を自動で作ってくれるアプリを落とす。口約束だけではダメだ、何かあった時に勝つのは契約書を持ってる奴なのだから。

コンタクトモニターで作業してるから、こっちが何やってるか知る由もないだろう。

その時、彼の視界のモニターに赤い線が走る。

 

「あれ、ミナカ殿もしかしてもう一台スマホを持ってらっしゃる?」

「ほえ!? な、何故急に!?」

「実はミノタウルスの時から、ミナカ殿がスマホを使うと同じ画面が拙者のヘルメットに映るのでござるよ。もしかして何か書類の様な物を作っておられる?」

 

――ウッソだろお前!?

胸の内で悪態、背筋に冷たい物が同時に走る。

そこで思い出すのはエネルギー付与の時、勝手にウォレットが連携した瞬間。確かに思い当たる節がある。

彼はしばし考え込むと。

 

「考えるに、恐らくこの鎧。コンピューター類への高速リンク機能があるのではないかと思うでござるよ……少し試してみるでござるか」

 

そう言うと、彼は右手で拳を作ると親指で人差し指の横を押す。そうするとミナカのスマホが……それも契約書を作っていた方が鳴る。

黒画面に表示される名前は、文字化けして見えない。

次にこの艦の電灯が急に暗くなり、点滅する。

マジかよ。そんな気持ちでいっぱいだった。

 

「ふむ、なんていうかRXで言う所のロボみたいでござるな。これはこれで面白い機能でござる、……しかしこの文章読めないでござるな」

「オルドラウス文字が読めないんですか!? でもこうして喋る事は出来て……」

 

そこで気付く、これはチャンスだ。

大急ぎで報酬に関する条項。配分の利率を書き換えた後、もう一方のスマホを出す。ついでにピンクのタッチペンも。

可愛い感じのシール。ウサギやらクマやらネコも張った、こうすれば遊びだと思うだろう。もしもの時は、後で外せばいい。

 

「これは?」

「ミナカがお兄様の相棒になる契約書です! やっぱりこういうのは書類が無いと! 遊びですよ遊び!」

「ふむ、確かに口約束というのはしまらん話でござるな」

「約束は身を守る為にあるんです! 約束は守るより破る方が刺激的で面白いですけど、破るより守る方が損が少ないんです!」

 

たっぷり稼がせてもらおう。可愛いシールに惑わされ、彼が名前を書くのを見て彼女はそう思った。

そんな彼女に対し、彼は立ち上がると改めて彼女を見た。一瞬、急に背丈が延びた事にミナカはぎょっとしてしまう。

 

「前職はしがない兼業動画制作者でした。色々不勉強な所があると思うでござるが……ミナカ殿、どうかよろしくお願いします」

 

そこから頭を下げるその姿を見て、思わずにやけてしまったのは……それは多分ミナカが初めて何でも言う事を聞いてくれる人を見つけたからに違いない。

 

「では、そうですね! まず配信用の新しい名前を決めましょうか!」

「名前、でござるか……確かに本名を使うのに抵抗はあるでござるが……さっきのは駄目でござるか?」

「今のあれ、正直何て発音するのか分かりづらいです! もっとかっちょいい奴にしましょう!」

 

ピンクと黒の入り混じる髪を揺らし、ミナカは腕を組みながら考える。その傍で、赤い彼が小さく右手を上げた。

 

「考察チャンネルでは、ゲロッパうどんの名前で活動していたでござる」

「……なんです、そのクソださい変な名前」

「ストレートな名前を敬遠する風潮が、地球の日本のネットにはあるのでござる」

「ダサいんでなし! お兄様はゲロッパうどんで有名になりたいんですか!?」

 

そこで、彼は一度口ごもる。両手で頭を抱えて、「いや……でもなぁ」という小声が何度か漏れた。そうして恐る恐ると言った感じに口を開き。

 

「まぁ、その……そしたらレオパルドン、とか」

「レオパルドン? どんな意味ですか?」

「とある作品で主人公が駆る、最強のロボットの名でござる」

「それ、めっちゃかっこいいですね! 一位に相応しい名前です! よし、それにしましょう! 今からお兄様はレオパルドンです!」

「面と向かって呼ばれると、ちょっと気恥ずかしい気持ちになるでござるよ」

 

何故だか気恥ずかしそうにする赤い彼=レオパルドンであるが、ミナカは思わず鼻歌を口ずさんでしまう。

さて、ここからどうしようかとミナカは考えを巡らす。

まず配信冒険者をするには、大前提として配信冒険者登録が必要だ。しないと規律違反で逮捕される。という訳で、ミナカはドローン一台を走らせた。

 

「まずはギルドに配信冒険者として登録しましょう!」

「……ギルドに行って、受付で登録するのではないでござるか?」

 

そこできょとんとした表情を浮かべる風にレオパルドンが顔を向ける。対し、ミナカも顔にはてなを浮かべ。

 

「なんで、ネットがあるのにわざわざギルドに行かなきゃならないんです?」

「正直、ギルドに行ってステータスチェックの流れになって……人からワーキャー言われたかったでござる」

 

という訳で必要なデータを取る為、スキャンする。欲しいのは脳波と体温などの生体データ。アンドロイドなら陽子波長。これさえあれば登録は可能だ。

ドローンが白い光を投射し、その赤い鋼鉄の肌を舐める様に照らす。

スキャンが終わり、生体データの結果が出る。画面を見るミナカの赤と青の目が、大きく見開いた。

 

表示欄は空白のまま。脳波から始まり、体温や脈拍……生体反応はそのどれもがゼロ。

たとえ、どんなアーマーを付けていても生体データは取得できる。特に脳波なんて。

途端彼の鎧ではなく、彼そのものが計れない様に思えた。

人間用のボタンは、ちゃんと押したのに……という所で船体にアラートが響いた。

 

自然とコクピットの窓に目が行く。

彼方に映るのは青い瞬き。暗闇に輝きを放つそれは、Cビーム現象。

その瞬間、彼女は血相を変えて座席に滑り込み再び操縦桿を握る。自動操縦を即座に切り、マニュアルに変えた後、操縦桿を思いっきり右に回して旋回。

口からはヤバイヤバイ……という低い呟きが小さく漏れた。

 

「どうされたんでござるか、ミナカ殿?」

「……大丈夫、大丈夫。あれはただの光、光」

 

レオパルドンのその声すら届いていない。呟きはまるで自分に言い聞かせるように呼吸を整えた。

だが、真空の宇宙で星は瞬かない。

その青い光は量子の歪み。船がワープゲートを使う際に発生するそれの名は、タンホイザー・ゲート。

――圧縮された時空間がタキオン荷電によって急速に膨れ上がり、フェムト秒単位で生滅する世界の中で船体に物理法則が裏付けられる。

 

彼らの前に突如現れたのは、鋭く研がれた剣の様な船体。彼らのボロ船を覆う白亜の名は、『アクー・ジャヌス』。配信冒険者ギルド所属の第81実行部隊の旗艦である。

 

 

 

 

 

 

 




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