死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について 作:生駒伊織
我等が神々、異なる天より穢れき世に来たり
彼等諸芸の達人たるナーロチトゥなり、秘蹟を以って諸々の災い、憂愁(うれい)を祓い、福(さいわい)を与えん
種よ、救いと叡智の板を以って、此岸たる中つ国より彼の者等を崇め奉るべし
彼の者等、皆光輝たる鎧。転生の機能に霊(たましい)を納め、異能の権能を肉体に納めて来たり
今や天に在ます神よ、爾(なんじ)等の光栄を永久に讃えん
一人は、子を作りて帝国の皇祖とならん。その子、銀河に光の網を張らん
一人は、精霊に形を与え鉄の体を授けた。彼の者等を叡智の板より名を取ってアンドォロイドと言ふ
一人は、溢れる異能を持つ者。ウィザード・ソーサラーの祖なりて、野へ下り数多の血を残す
……。
…。
一人は、ラクトゥーの聖域にて功を永久のものとせん。イドロダイの鎧を讃(ほ)め揚(あ)げよ
――銀河配信社会に広く知られる教典より引用。
◆◇◆◇
「ぎ、ギルドの船? ……いや、でもわたし達何もして……」
急に目の前に現れた戦艦に、ミナカは反射的に慣性中和装置を入れて船を停止させた。
ぶつん、という音が鳴る。軍用無線による短距離電波ジャックだ。低い男の声が艦内に響き渡る。
《こちらは配信冒険者ギルド所属第81実行部隊旗艦、アクー・ジャヌス。冒険者登録番号1891919567963号、ミナカ・アラギ。止まりなさい》
今度こそミナカは現実を直視した。
「は、配信冒険者ギルドぉぉおおおお!? う、嘘でしょ!? なんで!?」
慌てふためくミナカに対し、レオパルドンは落ち着いた声音で訪ねた。
「これは一体どういう事で? 配信冒険者ギルドって、さっき登録しようとしてたとこだと思うでござるが」
「わかんないです! そんな、わたし普通に配信してただけなのに……」
ミナカのその疑問に対して、タイミングよくスピーカーから理由が答えられる。
《貴方が保護している赤いアンドロイドをこちらに引き渡して下さい。ギャラクシー・ライブリンクに重大な危機を及ぼす可能性があります。ご協力お願いします》
ギルドに目を付けられた。そう思いミナカは青い方の目をレオパルドンに向ける。
もしここで、ギルドにレオパルドンを引き渡せばどうなるだろうか。向こうは彼をアンドロイドだと思っている。
……なら結果は簡単に想像出来る。彼の身柄を拘束して実験体扱いした後、後日ミナカには得られる物からすれば雀の涙程の金額の買い取り金が支払われるだけだ。
なぜならアンドロイドはそういう物で、配信冒険者ギルドは横領する上から目線のクズ共だから。
冗談じゃない。
これは、ミナカが見つけた金の生る木だ。
――――――損はしない、絶対に。
「ミナカ殿?」
操縦桿を握りしめ、まとまらない考えを何とかまとめようとする。
別に多くはいらない。この彼を独占したいだけなのだ。それに彼には命を助けられた借りがある、そんな彼を見捨ててしまうのは幾らなんでも後味が悪すぎる。
スマホが一度鳴る。何かの着信が来たが、今はそれどころじゃない。
とにかく逃げなきゃ!
直後、船の上に小さな衝撃が走る。
一体何だ……と思った時だ。
《どうか、ご協力をお願いできますか? 規則ですので――失礼いたします》
ぱちっという、火花の弾ける様な音がスピーカーに響き、柔らかい男の声でそう伝えられる。
「ヌッ!?」
天井から蛇の様に絡んで来たそれに、レオパルドンは思わず素の悲鳴を上げた。
急に現れたそれは、例えるならビームの縄。節目には一センチ程の金属の輪がある。
――とん、と男は何もない筈の天井からすり抜けて船の床に着地した。
白い帽子と白い外套、にこやかな笑みを浮かべた男が船内の後方。ミナカ達の後ろに立つ。
右手には、ミナカの憧れの位相転換杖。杖の先はレオパルドンに絡みつくビームの縄と繋がっている。
その時、一瞬。ミナカを見て、男の顔がこわばる。
しかし、即座に顔を引き締めた後。赤と青の目を大きく見開く少女に対し、まるでそれが質問だったかの様に彼は答えた。
「物体と自らの位相を同期させる。量子フェージング、ウィザードの基礎の基礎です」
そこで彼は短く何かを唱えたかと思うと、それまで縄を外そうもがくレオパルドンの体中から音が鳴る。関節十四か所から立て続けに異音が鳴ったかと思うと、彼は膝から崩れ落ちた。
「力の流れを操り、打撃に変換しました……艦内の独自配信から引っ張って来たので、最低限の威力しかありませんがアンドロイドの意識を奪うには十分です」
石突を突くと、絡め取っていた縄が赤い巨体から外れ杖の先に戻る。
彼は白い帽子を外した。一度怯えるミナカが引き攣った声を上げる中、頭を垂れて一礼し。
「突然の訪問申し訳ございません。私、配信冒険者ギルドで特殊捜査官をしておりますヴァレン・スローンと申します。以後お見知り置きを」
「…………な、なんでギルドの殺し屋が? し、しかもヴァレン・スローンって本物?」
「配信冒険者登録を辿りここに来ました……ギルド規則に基づき彼の身柄を是非とも受け渡していだきたい、ミナカ・アラギさん?」
ウィザードの中でも、ヴァレン・スローンはその戦闘力の高さで有名だ。先ほどミナカ達が苦労して脱出したサンドドラゴンの巣に単騎で入り、生きて帰って来たという。
約束が無かったら、速攻で売り飛ばしてる。というか今でも心が揺れている。
「もし交渉に応じていただけるなら、相応の報酬のご用意があります。ご一考いただけないでしょうか?」
暗に言ってるその意味は、『今のは威嚇、ここで頷いとけ』である。
ヴァレンは杖を構えない自然体のまま、笑みを崩さない。
それが不気味だ。例えるならネズミとサンドドラゴンだ。サンドドラゴンがどんなに笑みを浮かべても、ネズミにはそれが「お前を食い殺すぞ今すぐに」と言ってるのと変わらない。
その時、背後から音がする。
「おや、私とした事が……打撃の威力を見誤りましたか」
「…………どうやら、あまり良くない状況の様でござるな」
軋む音を立てながら、巨体は圧を放ちつつ立ち上がる。床板が沈む程の重量を支え、その目はしっかりとヴァレンに定めながら。
「ほう……感嘆すべき頑健さですね」
「お兄様! ……ちょ、すげえ!? 立てるんですか!?」
労わるより先に驚きが来た。それに対し、彼は何とか……と言った態で言葉を紡ぐ。
「拙者、レオパルドンと申す……」
「これはご丁寧に。お加減は大丈夫ですか?」
「ある作品ではこう言っていた……まだやれる、でござるよ」
それに対し、ヴァレンは左手を口元に当てる。そうして薄っすらと覗く青い瞳は、冷静な分析の光が走っていた。
ヴァレンに対して、レオパルドンはぎこちなく両手を前に出す。
「それでは腕をただ前に出しただけですね。腰を少し落としなさい、右足を前。左足は対角になる様、半歩後ろに――戦いは基礎が一番重要なのですよ」
「なんのつもりでござるか?」
「失礼、私こう見えて休日には子供に体術を教えておりましてつい……そう、後一センチ右拳を顔の前に。ふむ素晴らしい、飲み込みが早い」
言われるがまま、レオパルドンは彼の言う通りに構えを修正する。
ヴァレンはと言えばその場に、自分を中心にして杖で円を描いて。
「今からこの円を動きません、先手も譲ります……私に一撃を当ててみて下さい」
意を決した様に、レオパルドンは右拳を握ると殴りかかる。
船内の空気を割く一撃。彼の拳が杖に叩き付けられると、衝撃波が走りミナカの桃色の髪を一房さらう。ヴァレンは微動だにしないが、位相転換杖が僅かに軋む。
「素人丸出しですが、膂力は申し分ない。ふむ、ちょっとワクワクしてきましたね」
もう一度ミナカは戦艦を見る。せめてあっちが来てくれれば良かったのに。
彼女がそう思った時、両方のスマホにメッセージが表示される。
ギャラクシー・ライブリンクが復旧した。脊髄反射の領域でミナカは配信画面を開く。
〈GALAXY LIVE LINK:CONNECTED〉
〈REC:LIVE / ALL SYSTEMS:NORMAL〉
〈VIEWERS:10562/Au REACTION LEVEL=LOW〉
幸運な事に、開いた瞬間同接は万を越した。
「お兄様! 今配信画面を開きました!」
困惑したコメントが流れる中、彼の赤い体表に一瞬薄っすらと白いエネルギーが覆ったかと思うと――それは爆弾のように爆ぜた。コメントが流れる度、閃光となって船内を走る。
レオパルドンが拳を振るう毎に、防ぐ杖からはまるで巨大な鉄球を叩き付けたかの様な音が響いた。
視聴者数は上昇し続けるのと連動し、白いエネルギーは旋風の様に渦を巻く様に走ってヴァレンの外套を翻す。
それでもヴァレンは構えすら取らず、その場に自然体で佇んだまま。
「これが先程の。ふむ、面白い……非常に面白い。丸を一つ上げましょう」
円の縁から微動だにせず、ヴァレンは杖を目の中央――縦に構える。呼吸はあれだけの猛攻を食らったというのに、未だ規則正しくなだらかだ。
”急に開いたらVSウィザードで草”
”しかも、相手ヴァレン・スローンかよw”
”こいつなら行けるか?”
まるで神話の怪物の様に拳を叩き続けるレオパルドン、それを受け止め防ぎ続けるヴァレン。
その時彼は右足で蹴りを狙う。しかしそれは僅か一ミリ、一グラムの力を込めた杖先で逸らされ、いなされた足先が箱にぶつかった。その中身が飛び出て、彼の前にピンク色の電動マッサージ機とコンドームが宙を踊る。
「情報を書き換えてエネルギーを創出する、ですか……ではアドバイスをしましょう、その力を活かすなら様々な道具を使う事です」
レオパルドンは無重力に漂う電動マッサージ機を右手で掴み、それを立ち上がると同時に左から薙ぐ。
「あ、それわたしの……いや何でもないです!」
”草”
”もう遅いぞ”
ミナカの声が響く中、ヴァレンは再び杖で受ける。
「ですが、もっといい武器を選びましょう」
「知らんでござるか? 電マは震える物でござる」
彼は息の引きつる音と共にスイッチを押す。
白いエネルギーが電動マッサージ機のシリコンの先まで絡み、増幅された振動が電動マッサージ機から雷鳴の様な音と共に杖を吹き飛ばす。
ヴァレンが喩え僅かであっても後退したのは、この戦いで初めての事であった。
途端、ガラ空きになったヴァレンの胴に左手を向ける。人差し指と中指の先にあるのは――紫色のビニールに包まれたコンドームである。
崩された態勢から無理矢理ヴァレンは、体を翻して躱す。
「おお、僅かな時間でここまで成長するとは! 素晴らしい!」
「喰らえ……エッチなガンビット攻撃!」
空を切るコンドームが、一拍開けて爆ぜた。
爆ぜた瞬間、眩む閃光が船を満たしてヴァレンの外套が焼け焦げる。
「流石お兄様!」
”おお!?”
”効いた!?”
”スポンサー案件w”
外套が燃える中、質量のない赤い壁が複数重なり煙と炎を消す。
ヴァレンの顔から笑みがほんの少し陰ると、レオパルドンの電マが杖を叩き折らんとばかりに迫り、その瞬間『勝った!』というコメントが溢れた。
エネルギーの乗り振動を最強に設定したシリコンヘッドを防ぐ為、その時初めて両手で杖を真横に構える。
「まるで人の意志を嵐に変えて纏っている様だ。阿頼耶の鎧と言うべきでしょうか」
――その杖が粉々に爆ぜた。
攻撃を受け止めた瞬間、全てのパーツが爆ぜる。
”逝ったーwwww”
”位相転換杖壊したら、もう魔法は使えない!”
”マジで勝っちまうのかよww電マで”
そうして二枚目のコンドームがヴァレンに迫る中。
一瞬。一刹那。攻撃と次の攻撃に生じた隙を突き、ヴァレンは動く。
ヴァレンは懐に右手を入れると、ある物を取り出す。手に握られたのは大きさ五十センチ程の小剣だ。柄は短く、切っ先は両刃。何処となく古雅な装飾が施されている。
一度ミナカに、兵器工場で瘤をみた時と同じ感覚が走る。
同時に悪寒も。
彼女の目の前でその刃が一度七色に光ると、コンドームからエネルギーが消えた。
「――その元を断つ」
粉々に――バラバラになった杖を天井に放り投げ、自由になった左手で彼はそれを虚空から抜き取った。
その時、彼が纏うエネルギーが急激に減る。コンドームはヴァレンの胸で止まり、砕け散り一片が二センチ程のリングになった杖が再びレオパルドンに縄となって絡みつくのは全て同時の事であった。
「貴方の力は脅威だ。故に、基礎を超えて抜き取らせていただきました。これが実体化したこの船の配信システムの根幹です――これを逆流させると」
ヴァレンの左手に握られるのは、青白く質量のないデータの塊。データを砕くとレオパルドンから一切のエネルギーが消えた。白い靄はまさしく霧散。
ばちり、という音が鳴り――ヴァレンは丁度胸の辺りに落ちてきた位相転換杖を再び左手で掴んだ。
ヴァレンの足元にレオパルドンの体が倒れ込む。痙攣する様に体が振動し、緑色の目の光は徐々に消えていく。
「二重丸を上げましょう。この私が盤外戦術なんて物を取らねばならなかった……貴方はまさしく規格外でしたよ、レオパルドンさん」
盤外戦術という所でヴァレンの緑の瞳が短剣に向けられる。
そこでぽつりと、一段低い声。
その緑色の瞳に、分析の色が灯る。
「素敵な鎧ですね、どこで手に入れられました?」
対し、ミナカは言葉を失っていた。
電動マッサージ機がエネルギー付与の代償に、細かな粒子となって散る。……その細やかな音が、空白の間を埋めた。
そんな中、ヴァレンは分離したそれを杖に戻す。そうして彼はまるで一人舞台の役者の様に、倒れ伏したレオパルドンに語り掛けた。
「時に、次のアドバイスです。貴方は攻撃を放った瞬間、ワンテンポ遅れる。……故にこの様な搦め手を突かれれば、折角の耐久性や怪力が台無しです」
言い切った後、ヴァレンの緑の目が一度足元に向く。足は決めてた円から半歩出ていた。
「ですが、その分析力と戦術の組み立て力は非常に見事です。試合にも勝負にも勝ったのは貴方でした、ただ私に勝てなかっただけで」
そこでヴァレンは振り返り、彼の背後にいたミナカを見る。杖を血振るいの様に振るい、鋭い音が鳴る。
ひっ、という声が漏れた。
「パパぁ……」
一度父を呼ぶ声が小さく漏れた。
その時がしっと、ヴァレンの右足首が掴まれた。瞬間、スローンは杖を逆手に持ち切っ先を向けた。
一拍、固唾を飲む様な静寂。弱々しい声。
「キャップは言ったでござる、まだ、やれる……」
「まさか……動けるとは」
「まだ……まだ……」
その様を見て、思わず喉の奥が詰まった。
しかし立ち上がろうとした所で、一切の力が抜けた。レオパルドンの二つの瞳は緑から黒に染まり、とうとう完全に意識を失う。
杖を戻し足首から手を外すと、ヴァレンは一言。
「素晴らしいガッツです。おまけして三重丸をあげます」
そこで改めて彼はミナカに向き直る。ひっ、と言う引き攣った声が一度漏れミナカは思わず目を瞑る。
――ぷつん、と頭に走る感覚が一つ。
恐る恐る目を開けると、ヴァレンは一切敵意のない笑みを浮かべた。
「ご安心を、彼は三重丸です。彼の意志を汲み、貴女に危害を加えるつもりはありません。それではミナカ・アラギさん。艦までご同行願えますか?」
ミナカは咄嗟に周囲を見回す。武器は無いか、何か手立てはないか、このまま終わるのだけは嫌だ。
しかし相手はウィザードである。起死回生の手はなく、何も思い浮かばない。
最後に彼女は倒れ伏したレオパルドンに、その赤と青の瞳を向けると……。
「お兄様……」
縋る様な声に、返ってくる物は無かった。
レオパルドンが崩れ落ちるその姿は、彼女の一位になる夢が砕け散る様子そのものだった。
命以外の何もかもを失ってしまった。そんな思いから引き攣った笑みのミナカに対し、ヴァレンの顔は終始変わる事は無かった。
その間もミナカのスマホが立て続けに鳴る。
それは彼女が登録したありとあらゆるSNSに、一人の依頼主からメールが届いた事を告げる音だ。
送り主の名は、キャストリル・クォスティ・オルムステッド。
タイトルは全て、《お茶会へのお誘い》。
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