死にたくないので炎上上等! クズ少女配信者の銀河最底辺ダンジョン配信に現れた俺は、ただの鎧の傭兵だったが、地球への手がかりを探してると『レオパルドン〇〇説シリーズ』が乱立し神と呼ばれた件について   作:生駒伊織

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6話1 ミナカ・イン・刑務所。ウィズ・パイセン。~膜かケツか、それとレオパルドン

――配信冒険者ギルド、駐屯惑星『ドルトムント』。

 

 

配信冒険者ギルドの駐屯惑星ドルトムント。

聞いたところによれば元は新緑に包まれた広大な土地であったのだが、幾度の戦争ですっかり開拓され尽くし、現在の帝国が勃興した後は配信冒険者ギルドの駐屯地となったという。

 

惑星ジャ=クーから二十光年離れたそこに連れられたミナカは、今は四方をコンクリートで固められた鉄格子の牢獄に押し込められていた。

鉄格子のはまった窓には配信冒険者ギルドのそれとは違う、白と金で装飾された船が地表に到着してる様子が映る。

今は私服のままだった。囚人服に着替えるのは、配信冒険者ギルドの調査が終わって、本採用ならぬ本有罪が決まってからだ。

 

「それで、お前さん……一体全体何やったんだ? アタイは違法改造と密輸をな。これで五回目」

「……ワガハイ、単にダンジョン配信をしてただけです。初回……」

 

自分より年上の赤い髪を流した蓮っ葉な女が先客で一人。ミナカの苦手なタイプだ。

一度自分の顔を食い入るように見つめた後、何故か親しげに話しかけてきた。

なんでこんなのと一緒に入れるんだよ、と思うがけして口には出さない。こういうのは「舐めてんの?」で喧嘩が出来るタイプだ。

赤髪の女は器用な物でどこから手に入れたのか、良く解らない部品で何かを作りながら喋っている。

 

「はえー、配信冒険者かい。それが何でまた?」

「配信システムを落とした事に関わって、でその際に逃走しようとしたのと抵抗しようとしたから、ここにいるんです」

 

逃走しようとしたのと、配信画面を開いたのがまずかった。それが無ければブタ箱は避けられただろう。

多分、ミナカはこれから鉱山に送られるだろう。そこで何年入るだろうか、きっと出る頃には少女ではないだろう。保釈金を払えば別だが、払ってくれる様な人間はいなかった。

レオパルドンがどうなったかは解らない。配信冒険者ギルドに確保された後、別々になってしまった。多分、実験台送りだろう。

 

「さて、まずはどうしましょうか」

 

という訳で、頭では脱獄のプランを考え始める。

鉱山送りなんてまっぴらごめんだ、損はしない。

という訳で脳の中で片っ端から役立つコネをリストアップする。

 

あの時、夢が砕け散ったと思ったが諦められない。

何としてもレオパルドンと一緒に脱獄し、配信冒険者としてランキングの頂点に立つのだ。

 

……惑星ナージャンの奴は、もう死んでるからダメ。惑星ザスケラの奴は、いけないお薬漬けだからダメ。惑星ロ=ダンの奴は、お値段異常だからダメ。

どいつもこいつもロクな奴がいない。というか今ミナカは一文無しだ。

 

「パイセン、刑務所でお金稼ぐ方法ってあります?」

「ムラついた看守に体売れば一発だ! ちなみに、制服の第一ボタンを外してる奴は高確率でムラついてる」

「マジかぁ……」

 

そこに群青色の制服を着た看守がやって来る。赤髪の女は、「きっとアタイの番だ、へへ」と何が楽しいか解らないけど笑いかけた。こういう底辺のノリ、ミナカは嫌いだった。

 

「冒険者登録番号1891919567963号、ミナカ・アラギ!」

 

しかし、呼ばれたのはミナカであった。

制服の第一ボタンは外れていた。ごくり、と喉が鳴る。

幸か不幸か中性的なタイプだ。

脱ぐしかないのか、こいつ相手にパンツを!

諦めるしかないのか、膜を!

 

「出ろ、釈放だ!」

「……すんません、わたし初めてなんで最初はケツからで――え?」

 

釈放という言葉にミナカは自分の正気を疑った。誰かが保釈金を払った、でも誰が?

その時、看守がぽつりと信じられない様な顔でこう話しかけた。

 

「……お前、一体何をやったんだ? 運営貴族がお前達を呼んでるぞ?」

「ファ!?」

 

 

◆◇◆◇

 

 

――ミナカが看守に連れられる少し前。

 

看守の話を盗み聞きした所によれば、今の自分がいるのは元は爆弾などを置いている耐爆室なるとこを改装した部屋らしい。

レオパルドンは一通りの身体検査が終わった直後、十畳程の鈍い灰色の部屋に置かれていた。四角形の部屋に窓はない。

あるのは赤い鉄骨で出来た、一応シーツと毛布と枕の置かれたベッド。クロームの光を放つトイレ。天井の向かって右の隅から睨みをきかせる監視カメラとスピーカー。

 

それだけしかない。

ネットも繋がらない、鈍い光を放つ壁の色は鉛か何かか。

無味乾燥な部屋の中、レオパルドンはベッドに腰掛けながら静かに物思いに耽っていた。

 

「刑務所でござるか。映画で見た様なアメリカンさでござるな」

 

一度レオパルドンは、その目――白いラスター線の走るバイザーを向かって右手側のカメラへ向ける。

 

「紙とペンがあれば、張り紙の一つでもして寝転がるでござるが……いやはや、やはり『ヒューッ』という感じにはいかぬでござるな」

 

彼は自分の黒い両手をしばらく見つめる。サンドドラゴンの時にも見つめた手は、比べ物にならない程震えを帯びていた。

しばらく見つめた直後、彼はゆっくりと握りしめる。それは怯えを押し殺す様に。

 

「いやいや、これではまるで小娘のようではござらぬか……拙者が憧れるべきなのはヒーローであるべきでござる! もう拙者は三十代でござるよ!」

 

声は少し上ずり気味。それを押し殺して叱咤するが、そこで彼はまるで腹に重たい一撃を食らったかの様にうずくまる。

ぷつん、と一線が切れる時は人には往々にしてある。

ミナカの姿が消え、看守すらも目の前からいなくなった今が彼にとって、まさにそれであった。

 

思い返すのはミノタウロスから始まった戦闘。わけも分からず、声を上げる事すら出来ずに戦い、そこから崩れ落ちるダンジョンに巨大なサンドドラゴン――ただの一般人が背負うには、あまりに重たい出来事の数々。

そして、その先のヴァレンが過ると瞬間レオパルドンは拳を強く握っていた。

悲鳴を上げなかったのは、きっと彼の最後の意地に違いない。数拍置いた後、彼は叫び声を上げた。

 

「あー! 転生特典選べるタイプのなろうが良かったでござるよ! チート能力の他にオプションで恐怖感じないタイプの特典も欲しいでござる!」

 

一拍置いて。

 

「いや、やっぱり精神系はなし。そういうのって必ずぶり返しが来るでござるからな。それに『身につけた技術だけが身を活かす』と、ウォルフも言っていたでござる」

 

恐らく、監視カメラを通して見ているだろう人達には何のことかさっぱり解らないだろうなと思いながらレオパルドンは呟く。

思い出すのは、あの時のヴァレンの姿。あの時、自分は小説の様なチートを振るい、これから負ける事なく連戦連勝のチート無双街道を行くと思っていた。

 

『貴方の力は脅威だ。故に、基礎を超えて抜き取らせていただきました。これが実体化したこの船の配信システムの根幹です――これを逆流させると』

 

――ぞくり、と鎧の中で背筋に怖気が走る。

手も足も出なかった。今思い出しただけでも無力感と絶望がぶり返す。あのヴァレンと比べれば、ミノタウロスやサンドドラゴンは霞む程に。

もう魔法は解けた。チートも使えないこの状況で、自分に何が出来る?

 

『助けて、パパぁ……』

 

……そう思った直後。思い浮かぶのは、ミナカの事。

あの時、最後に見たのはミナカの泣きそうな顔。彼女のパパと呼ぶ泣き声がやけに耳に残っている。

 

…………年下の子供は、守らなくてはならない。それが年長者としての努めだ。

 

こんな時、彼ならどうするだろうか。彼女ならどうするだろうか。

昔、仕事に行き詰まった時に教えられた時の事。メンターとロールモデルの考えが思い浮かぶ。こういう時は自分が憧れる人間ならどうするかを考えるのだ。

 

答えは直ぐに出た。

自分が好きな作品の主人公達は……こんな所で諦めはしない。

――スネークなら、コブラなら、茂なら。

たとえこの鎧一つ脱いだら冴えないおっさんと、若々しいギャル……日本なら即職質を受ける組み合わせだとしても。多分Xに上げたらボコボコにされる組み合わせだったとしても。自分は、ミナカを助けなくてはならない。何故なら――

 

「拙者は帰らなくてはならぬ! 来年には色んな作品の新作が上映されるし、年末にゼロ年代幻の傑作『ウォー・イン・ザ・フィクション』のブルーレイが発売されるでござるよ! 初回特典はなんと主人公ウォルフのフィギュアでござる! 帰らねば!」

 

それがレオパルドンの答えである。

自分は絶対に現代日本に帰らなくてはならない。この世界のデザインは嫌いではないが、現代日本には新作や名作が彼の帰りを待っていた。

 

「ミナカ殿は、希望でござる……拙者は守らなくてはならないでござるよ」

 

現状、ミナカだけが現代日本への帰還に繋がる唯一の希望だ。彼女に何かあれば、それこそ一巻の終わりである

彼女を信じるしかない。

 

「ここで諦める訳にはいかぬ! 勝ち続けなくてはならぬでござるよ、この名の元ネタの様に!」

 

そこで彼は意気込みを新たに、ふと人差し指を壁に突きつけると、軽く擦るだけで白い粉が付いた。このパワードスーツの力を持ってすればあるいは……という算段が生まれる。

 

「この壁、意外と脆いでござるな」

 

大事なのは考察だ。実現したい絵があるなら、まず現実の理屈――原理原則に目を向け計算する。

SFとは、おもしろいデタラメだとある漫画が書いていた。そのおもしろさを出す為の考証に全力をかけるのであると……なら考証はレオパルドンの得意分野だ。

 

『この距離ならカメラに映らない』

 

かつて見た作品のキャラの言葉が脳裏を過る。どうやら自分は、六面ダイス二個振って目星に成功したようだと思った。

監視カメラの死角……カメラの真下を割り出すと、レオパルドンはベッドから立ち上がる。

次にヴァレンの言葉を思い出し、構えを取る。

 

『それでは腕をただ前に出しただけですね。腰を少し落としなさい、右足を前。左足は対角になる様、半歩後ろに――戦いは基礎が一番重要なのですよ』

 

まずは素振りだ。

教えられた通り両腕を出し、腰を少し落とす。右足を前、左足は半歩後ろ。

格闘技は少しかじった事がある。

手探りのまま右拳を出す。風を切る音と共に、腕に覚えるのは少しの反動。一拍の硬直。

 

『貴方は攻撃を放った瞬間、ワンテンポ遅れる』

 

ヴァレンの言葉を思い出し身震いした直後、まるで爆弾を破裂させたかの様な音が部屋に響く。聞き耳を立てた所によると、このパワードスーツのパンチ力は百トンらしい。

百トンのパンチの威力は、シャドーでもこれ程の威力があるのかと彼は驚いた。

 

「特撮系のカタログスペックのまんまみたいなパンチでござるな……これならいけそうでござるよ」

 

オタクの大好物カタログスペックを摂取すると、ヴァレンへの怯えも少しだけ晴れる。

 

「さて、弱点はひとまず置いといて……ここを出たらどうやって、ミナカ殿を探すべきか。考察者としてはスマートに行きたい所でござるが」

 

ここを出ればネットリンク機能が使えるだろうか。なら、ハッキングをすればいいだろうか……一応ハッキングはした事はある。紙とダイスとルールブックを使ってであるが。

そう考えを巡らせながら、いざ壁に向けて右の拳を向けたその時。

 

《レオパルドン、釈放だ。出ろ》

 

部屋に備え付けられたスピーカーが、男の声でそう語りかけられた。握った拳は途端緩んで開く。

 

 

 

 

 

 




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