Fate/ZERO-ONE Others night 作:古鉄の夜
飛電インテリジェンス代表取締役社長、飛電或人は疲労困憊していた。いつも通りに出社して、社長秘書型ヒューマギアである
ボランティア活動に従事していたヒューマギア丁愛が突如として暴走。マギア化して他のヒューマギアも巻き込み、多大な被害が出てしまったという。……死傷者も出てしまったという非常事態であった。
或人は現地にイズと共に飛んでいくと、すぐさま事態の把握に努めた。
今、人とヒューマギアは緩やかだが共存の道を歩み始めようとしている。その未来に影を落とすかもしれない。それだけは避けなければ……。或人は焦燥感に駆られていた。
現地では対人工知能特務機関
しかし、現場に散乱していた各ヒューマギアの残骸から回収した電子チップのデータはバックアップ含めて完全破壊されており、なにも情報が得られなかった。
……丁愛達ヒューマギアは初期化され、また再度、ラーニングし直すこととなったのだ。せっかく“シンギュラリティ”に達し、自分の“心”を見出せたというのに……彼らの心が消されてしまった事実は或人を落ち込ませた。
付近の監視カメラ等の映像も軒並みハッキングによって消されており、この暴走は何者かに仕組まれた可能性があると亡から知らされた。
それはヒューマギアが自ら暴走してしまったという最悪の予想を考えていた或人に些かの安心を与えたが、それでも死傷者が出てしまったことに変わりない。
緊急記者会見にて、そのことを記者団へ丁寧に説明。真相究明にA.I.M.S.と共に全力で当たっていくと述べた。刃も共に証言してくれた。
各方面への対応が落ち着いた頃、流石に或人はへとへとだった。その日、遅く自宅に帰って泥の様な眠りについた。
……そして翌日。いつも通り、五個の目覚まし時計がかき鳴らす爆音に叩き起こされて、まだ疲れの残る身体を引きずってなんとか出社。
疲労の見える或人を労ってアップルティーを淹れてくれたイズに感謝を述べると、ティーをゆっくりと飲み干していく。
「……はぁー、美味しい。疲れが取れるぅ〜〜」
「お口に合えば幸いです、或人様。——社長、アポイントメントです。これは……先日の暴走事件で我が社の秘書型ヒューマギアに救助してもらったという方々が本社に訪ねてこられたそうです」
「なんだって!?」
本社の受付を行なっていたヒューマギアから通信を受けたイズは緊急性が高いと判断し、即座に社長である或人へ報告する。
それに或人は色めきだった。ならば、あの事件の詳細を聞けるかもしれない。映像データが残っていなかった為、正直、手詰まりだったのだ。現場を直に見ていた人の話は貴重だ。何より飛電の秘書型ヒューマギアが現場にいたという報告は気になった。
本社に勤めるヒューマギア達からも特にそういった話は聞いてはいないが……?
「すぐに会おう! その人達は会社のエントランスに来ているのか?」
「はい、お母様とそのお嬢さんとのことです」
「イズ、行こう!」
「かしこまりました、或人社長」
そうして二人は社長室から急ぎ、ビル一階のエントランスへと向かっていった。
エレベーターから降りて、階下のエントランスホールを見回してみる。受付付近に据え付けられたソファで珍しい豪奢な柄の着物を着た女性とその娘と思える少女が腰かけていた。……中学生くらいだろうか? この子も着物姿だ。
……少女がこちらに目を向けた。自分達に気付いたのだろう。立ち上がり、眼を大きく見開いて自分達を見つめている。
正確には自分のやや後ろに控えて立つイズを。少女が声を上げた。
「あの時のヒューマギアのお姉さん!」
「えっ!?」
或人は少女の見せた予想外の反応に思わずイズへ振り返ってしまう。しかし、当のイズは首を傾げていた。
「イズ、あの人達と知り合いだったのか?」
「いえ、初対面のはずです。——今、メモリーを確認してみましたが……やはりありません」
「美遊。人がたくさんいる所でそんな大きな声を出しては駄目よ……ああ、もう」
注意する母、陽代子の言葉も聞かず、美遊と呼ばれた子は着物で動きづらいだろうに小走りで或人達の方へやってきた。陽代子も仕方ないといった様子で美遊の後を追ってきた。
……珍しい着物姿の美人と美少女のそんな姿に他の社員やヒューマギアもなんだなんだ? といった様子で顔を向けていた。
……エントランスの隅っこで副社長である福添准と山下三造専務が陽代子のその姿に顔を赤くしながら、なにやらコソコソと囁きあっていた。
「和服の似合う妙齢の美人って……いいよな!」
「いいですね! 副社長!!」
「副社長(独身)、松下専務(バツイチ)——キモいです」
「「鉤括弧の中は余計だよ!!」」
隣にいる副社長秘書型ヒューマギア、シェスタにとツッコまれていた。それに魂の雄叫びを放つ中年男性二人……。
「先日は助けていただいて本当にありがとうございました! 髪、ショートにしたんですね。とってもよく似合ってます!」
「……なんだって?」
美遊がイズにかけたその言葉に或人は眉を潜めた。或人の知る限り、イズが髪を伸ばしていた記憶は無い。イズの言葉は真実なのだと或人にも分かった。——なにより。或人の記憶にある髪を伸ばしたイズといえば……嫌な予感がする。
「ああ。やっぱり、飛電インテリジェンスで秘書をされていた方だったのですね。私、朔月陽代子と申します。この子——美遊の母です。娘と私の命を助けていただいたこと、誠に感謝しております」
「え? ええっと……」
「あの……朔月陽代子様に美遊様――でしたか。私は貴女方とは初対面で——」
「あの! レッドワン……“仮面ライダーレッドワン”とお姉さんが呼んでいた人に、会わせてもらえませんか? あの人にもお礼をしたいんです!」
「仮面ライダー……」
「レッドワン!?」
また突拍子もない話が飛び出してきた。普段クールに対応してみせるイズも、これには首をかしげてしまった。或人も大声で聞き返してしまっていた。
「……じゃあ、イズさんと私達を助けてくれたあのお姉さんは違う人……なんですね」
「はい。暴走事件当時、私は飛電本社で業務をしておりました。陽代子様と美遊様を救助されたというヒューマギアは別個体である――と推測します」
「そう……ですか。じゃあ、あの人――レッドワンの居場所も……」
「ええ。申し訳ありませんが存じません……」
あれから或人達は陽代子と美遊から落ち着いた場所で詳しい話を聞こうと場所を社長室に移した。
来客に対応の為のソファに二人とも腰掛けてもらって、或人はデスクを挟んだ対面のソファに座った。秘書であるイズは社長である或人の傍らに控えていた。
そこで改めてイズと似たそのヒューマギアは違うのだと説明。先程まで恩人に会えたと嬉しそうにしていた美遊は落胆の表情を隠せなかった。落ち込まないの。と陽代子が美遊を慰めていた。
或人は二人を助けたという謎の仮面ライダーについて改めて尋ねることにした。
「美遊ちゃん……君とお母さんを助けてくれたっていうお姉さんと……仮面ライダーレッドワンについて教えてくれないかな? お母さん——陽代子さんからも聞かせてもらえますか?」
「はい。構いません」
「はい。あれは美遊の生け花教室の帰り道に起きた出来事なのですが——」
そして二人から事件当時の話を聞き、件の仮面ライダーレッドワンの外見を聞いた或人は強い既視感を覚えた。名前と言い、その剣に可変するアタッシュケース。そこから聞こえた電子音声といい……或人は懐からあるものを取り出すと二人に見せた。
「美遊ちゃん、陽代子さん。二人が見た仮面ライダーの腰に付けていたっていうベルトって……これに似ていなかったかな?」
「あれっ!? このベルト……レッドワンが腰に付けていた物と色違いだけど、ほとんど同じ物です!」
「そうね……私も同じに見えるわ」
心底驚いた様子で美遊が声を上げる。隣で陽代子も口に手を当て、記憶で見た黄色と黒のツートンカラーのベルト。そのバックル部の形状が色こそ違うがほぼ同一だと結論した。
その反応を見た或人は隣に立つイズに確認の目を向ける。イズは心得た、と一つ頷いて返した。
或人とイズは二人にある程度、事情を話すことを決めた。
「ど、どうして社長さんがこれを持っているんですか……?」
「……それはね、美遊ちゃん。俺もレッドワンと同じ仮面ライダーへ変身できるからなんだ」
「社長さんも!?」
「そう。俺の名はゼロワン——“仮面ライダーゼロワン”だ」
「先程からのお話を伺う限り……お二人が目撃した仮面ライダーレッドワンとは或人社長が変身したこの姿に酷似していたのではありませんか?」
或人は飛電インテリジェンス、代表取締役社長としての顔とは別の——自分のもう一つの名を伝えた。その横でイズが端末にアクセスし、空中投影型モニターを二人の前に映した。
そこには或人が変身する仮面ライダーゼロワンの立ち姿があった。
「この人です! 私達を助けてくれたのは! ……白かった所が黄色になってますけど」
「ええ……それにスーツのデザインも細かい所が違っていますけど……あの、これを私達が知ってしまって良かったのですか?」
社内秘に当たるのでは? 陽代子は気遣わしげに或人を見たが……。
「いえ。別段、言いふらしているわけではありませんが、知っている人は社外にもそれなりにいますので……ちなみにウチの社員は俺がゼロワンだとみんな知っています」
「そうなのですか? ……失礼かもしれませんが何故、社長である飛電さんがそんな大変なことをされているのですか? 戦われているのですよね。仮面ライダーだというのなら……」
「私達もあれから色々調べました。仮面ライダーのこと。
——人を襲うマギアや、俗に“怪人”と呼ばれる者達と人知れず戦う仮面の戦士の噂——仮面ライダーという都市伝説。レッドワンも、社長さんもその一人なんですよね……?」
「そんな噂が立ってたのか……というか詳しく調べたんだね? 美遊ちゃん」
「勿論です! レッドワンは私とお母さんの命の恩人で……そしてヒーローですから!!」
美遊が向けてくれたその笑顔が、或人には輝いてみえた。そうか……
「レッドワンは……美遊ちゃん達の笑顔を守ってくれたんだね」
「はい!」
美遊は勢いよく頷いて返した。それが嬉しくて或人は破顔した。隣の陽代子がそんな娘を微笑ましく見守っている。普段、冷静なイズもにっこりと笑顔を浮かべていた。
「そっかそっか……俺も嬉しいな。誰かの笑顔を守る為に戦ってる仮面ライダーが“俺達以外にも”いるなんて……あっ! ちょっと話が脱線しちゃったね。
それで、俺が持ってる“飛電ゼロワンドライバー”なんだけど……これは俺のじいちゃんが遺言と一緒に俺に託してくれたものなんだ」
「飛電社長のお祖父様……先代社長、飛電是乃助氏ですね? 飛電インテリジェンスをたった一代で、日本が誇るAIテクノロジー企業にまで成長させてみせた是乃助氏のご活躍……私も存じております」
「ありがとうございます。天国のじいちゃんもそう言ってもらえて喜んでいると思います。……むしろ陽代子さんみたいな美人に褒められたと知ったら、じいちゃん大わらわだろうな!」
「まあ、お上手ですね」
陽代子はそれを冗談と受け取ったらしく、コロコロと笑っていた。……或人はあながち冗談でもないのだけど、と思っていた。是乃助の妻で亡くなった或人の祖母、“飛電一子”も目の前にいる陽代子と同じ着物の似合う女性であったから。
昔、アルバムで見た祖母の若い頃の写真……大層な美人であった。私は大和撫子と呼べる女性に弱いのかもしれない。と、祖父がアルバムを見せながら幼い自分に零したことを或人は今でも、覚えていた。……どうも祖父の一目惚れだったらしい。
また話が逸れてしまった。或人はゼロワンドライバーを手にした経緯を改めて二人に話した。
自分が元お笑い芸人であったこと。とある遊園地で働いていて、ある日、突然イズが姿を現し、急逝した祖父の遺言を預かっている。会社に来てもらいたいと請われた。
遺言には将来、飛電インテリジェンスが開発したヒューマギアが悪意ある者に利用され、災いを世にもたらすだろう。この難局を乗り切る手段としてゼロワンドライバーと飛電の社長職を孫である或人に託す。ドライバーの使用権は飛電の社長のみ。
……そう記されていた。
「……戸惑いませんでしたか? いくらお祖父様の遺言と言えどいきなり大会社の社長となって、しかも仮面ライダーとして戦ってほしいなんて……」
陽代子が心配そうに或人を見やった。少し性急過ぎるのではないだろうか? 孫を信じていたのかもしれないが、陽代子は是乃助の判断にいささか疑問があった。
或人はその懸念を理解した上で一つ頷くと答えを返した。
「最初は俺も断りました。いくらじいちゃんの頼みとはいえ、社長なんて大役、俺に務まるはずがないって。それにあの時の俺の夢はお笑い芸人としてみんなを笑わせる事でしたから。
ゼロワンドライバーも……戦うなんて当時の俺にはまるで実感が湧かなかったから、正直……聞き流していました」
「そう、だったんですか……」
仮面ライダーだというなら始めから強い動機を持って戦っていたのだろうと、なんとなく思っていた美遊には少し意外だった。
……失望の念が無かったといえば嘘になる。
陽代子は、大人の判断で或人が断りの返事を入れたのも最もだ。と納得することができたが……美遊には子供心にヒーローへの憧れがあったのだ。
朔月美遊は現実的な人間だ。きっとあの時、レッドワンに命を救われていなければ、ヒーローなんて幻想。仮面ライダーなんてただの都市伝説。所詮、噂だと言い捨てて生活していた筈だ。
それだけにあの出来事は美遊の中で衝撃的だった。これまでの人生。少し冷めた性格をしていた反動もあったのだろう。「仮面ライダー」という現実に存在するヒーローへの好奇心が爆発してしまった。……だから或人の答えを聞いてがっかりしてしまった。
だが、それでは今の或人の姿と結びつかない。今現在、彼が飛電インテリジェンス社長の椅子に座っているということは、仮面ライダーゼロワンとして戦っているのだろうから。
「では、社長さんはどうして仮面ライダーに変身しようと思ったんですか……?」
そう、彼が戦う決意を固めた理由があるはずだ。美遊はそれが知りたかった。
或人は話を続けた。社長の件に断りを入れて、自分が芸人として勤めていた遊園地「くすくすドリームランド」に戻った或人。そこで、暴走するマギアに遭遇してしまい、破壊の限りを尽くす光景を目にしてしまった。
遊園地の支配人が語ってくれた夢——お客様が笑顔になって幸せになってくれる。そんな遊園地を作るのが自分の夢なのだと。
或人はそんな支配人の夢に強く共感した。自分のダジャレやギャグで誰かを笑わせてあげたい……そんな夢を持って或人はお笑い芸人になったのだから。
それが壊されていく。笑い声どころか悲鳴があちこちから聞こえてくる。或人にはそれが見るに堪えなかった。
「……だけど俺が一番許せなかったのは、マギアが支配人の夢を嗤ったことだ。挙げ句、検索して聞いた風なこと口にして……俺は人の夢ってのは検索して出てくるような単純なものじゃないと思ってる。
それこそ人生賭けて追っていくもので……一言で言い表わせるものじゃないし、夢の形だって人それぞれだ。
力があれば……ドライバーがあれば、あいつを止められる。それが——俺がゼロワンに変身したきっかけだよ」
——お前を止められるのはただ一人……俺だ!——
或人は二人に話ながら、改めて自分が仮面ライダーとなった日のことを回想していた。
あれから酷く壊れてしまったくすくすドリームランドだったが、今はすっかり立ち直り、来園客数も伸びてきていると聞く。飛電インテリジェンスからも変わらず、園内サポートスタッフとしてヒューマギア達が働きに行っている。
あの支配人は今もお客さまを笑顔にする遊園地を続ける為に頑張っているのだろう。
「やっぱり……社長さんもレッドワンと同じ仮面ライダーです!」
「ご立派です。目の前で引き起こされる悲劇を止める為に戦う……生半可な覚悟で出来る事ではありません。是乃助氏は素晴らしいお孫さんを育てられたのですね」
「あはは……あ、改めて他の人にそう言って貰えると照れちゃうな……」
或人は頭をガシガシとかきながらそう答えた。顔が熱くて堪らない。そんな或人の様子をイズも笑顔で見守っていた。今の自分はその時の或人を記録でしか知らないが、彼が誰かの為に成した事を認めてもらえるのは社長秘書として純粋に嬉しいものだったから。
次に或人はイズに似たヒューマギアについて二人から些細を聞いた。その口調や仕草。レッドワンとのやり取りを聞いて感じた印象は……やはり、自分を悪意の道に引きづり込んだアークの秘書を自称するヒューマギア“アズ”を強く連想させるものだった。
「……少し言い辛いんだけど、美遊ちゃん。その……ヒューマギアと会いたいって話だけど……出来れば遠慮してもらえないかな? 危険かもしれないから……」
恐らくアズであろうヒューマギア……恩義を感じている美遊達にどう説明するべきか? と悩みながら或人はなんとか言葉を口にした。
——思ったより直接的な物言いになってしまった。我ながらこれはない。
「ど、どういう意味ですか!? あのお姉さんは私とお母さんの命を助けてくれたんですよ! 変なこと言わないでください!!」
やはりというべきか、美遊に反感を持たれてしまった。或人は慌てて言葉を重ねた。
「ち、違うんだ美遊ちゃん! 俺もそのヒューマギアを意味もなく、疑いたいわけじゃないんだ。誤解しないでくれ!」
「美遊! 落ち着きなさい。まずは飛電さんの話を最後まで聞きましょう? ……何か理由があるのですか? あの人のことで」
いきり立つ美遊を陽代子が肩に手をやりながら宥めた。とはいえ、陽代子も流石に眉を顰めながら或人を見返している。恩人を疑われているのだから当然だろう。或人は眉間に皺を寄せながら話を続けた。
「……美遊ちゃんも陽代子さんも知っていると思うけど、以前、ヒューマギアのみんなが自由と権利を叫んで社会を巻き込んだ大騒ぎが起きた。
俺もその騒動をなんとか止めようとしたんだけど……その途中で……すごく辛いことがあって……そんな時あいつに……イズと瓜二つの“アズ”というヒューマギアに唆されて身に余る力を手にしてしまったんだ。
その力に——悪意に呑まれてしまった俺は……感情任せに暴れ回ってしまって……周りのみんなにとんでもない迷惑をかけてしまったんだ。
…………あの時の俺は……仮面ライダーなんかじゃなかった。ただの暴力の化身だった……」
思い出すのもきつい過去だ。ゼロワンに変身してからずっと苦楽を共にしてきた『一人目のイズ』を破壊され、その悲しみをアズから齎された“アークドライバー”によって憎悪に変換されてしまい挙げ句、戦いの中で分かり合えた滅亡迅雷net.のヒューマギア“迅”を自分の手で破壊してしまった。
幸い、彼は刃がバックアップから修復してくれたが……それでもあれは間違いなく己の罪だ。
美遊は或人の罪の告白に動揺してしまった。
項垂れて、完全に意気消沈してしまったその姿。先程まで或人から感じられた明るさや前向きさは欠片も見えなかった。
……社長さんは嘘なんてついてない。
「……そ、そんな……お姉さんが、悪い人だったというんですか? ……じゃ、じゃあレッドワンも暴力の化身になってしまうんですか!?
そんな——信じられません! だったらどうしてあの人達は私達を助けてくれたんですか! 信じません! そんな事……そんな、こと……う……うぅっ……」
取り乱した美遊の瞳から涙がポロポロと溢れ出した。或人の言葉に嘘がないとするならあの人達が必死になって助けてくれた姿は……なんだったのだろう?
陽代子は娘の頭を優しく撫でながら慰めた。
その泣き顔を見た或人は慌ててソファから立ち上がると美遊の側に駆け寄り、目線を合わせるとバッと頭を下げた。
「美遊。そんなに泣かないの」
「ごっ、ごめんよ美遊ちゃん! 君を泣かせるつもりはなかったんだ! ……確かに俺が知っている通りのアズならば人助けをするなんて考えづらい。何か心変わりすることがあったのかも……それとも君の言う通り別人なのかも……だとしたらレッドワンが悪意に支配されていなかったのも、君達を助けたのだって納得できる。
いや、仮にアズが悪い奴のままだったのだとしても……レッドワンは既に悪意を克服し始めているのかもしれない!」
「グスッ、ほ、本当ですか? ヒグッ!」
「その様なことが可能なのですか……?」
美遊も陽代子も不安で仕方ないという顔で……それでも或人の言葉を信じたくて問いかけた。
そんな二人へ或人は力強く頷いて応えた。
「本当だ。悪意に呑まれた俺が正気に戻れたのは仲間が——大切な人達が諦めず声を掛けてくれたから。体を張って止めてくれて……俺の夢を思い出させてくれたからなんだ」
人とヒューマギアが互いに手と手を取り合い、仲良く笑顔で暮らせる世界にするという夢を。
——その先にある……お前の夢はなんだ!!——
——忘れるな、或人。本当の強さとは“力”が強いことじゃない……“心”が強いことだ——
不破が夢を思い出させてくれた。「ゼロツードライバー」——そこに格納された人工知能「ゼア」のデータ空間内で父が真の強さに気付かせてくれた。だからこそ俺は一度、踏み外してしまった自分の道に戻ってこれた。そうだ……
「レッドワンにも夢が……なにか心の支えとなるものがあるのかもしれない。だから君達を助けようと必死だったんじゃないかな……俺の勘だけど」
「…………或人さんが嘘を言っていないの、わかります。私も信じたいです、レッドワンを。私達の命を守ってくれた仮面ライダーを。
あの人に私はまだお礼も言えてないんです。ちゃんと伝えたい……助けてくれてありがとうって」
「分かった。俺がレッドワンを君の所に連れてくる。俺もその仮面ライダーのことは気になるし、しっかり調査しないといけないからね。必ず美遊ちゃんにありがとうって言わせてあげるから」
美遊は着物の袖でぐしぐしと涙を拭うと或人の顔を真っ直ぐに見た。
「お願いします。或人さん」
「うん……約束する!」
「私からもお願いします。飛電社長」
美遊と陽代子。二人の心からの願いに或人はしっかりと頷いて返した。そして二人を安心させようとここは一つ、いつものギャグを。と二人から一歩下がり、スーツの襟をピッ! と整え、直立不動の姿勢をとった。
「この飛電或人社長にぃ〜〜任せなさい! ハイッ! あるとじゃ〜〜〜ないとっ!!」
「今のは“有ると”の対義語となる“無いと”を掛けたとても面白いギャグです。同時に、深刻になってしまった場の空気を切り替えようと放った或人社長、会心のギャグでもあります」
「あ〜〜〜っ! お願いだからギャグどころか俺の心情まで丁寧に説明しないで〜〜〜っ!?」
イズはどこからか吊り下げ太鼓を取り出すと或人のギャグの締めにドドンッ! と ハチで鳴らして音頭をとった。
そして唐突な或人のギャグに頭の上に?マークを浮かべてる美遊と陽代子に笑顔で解説して差し上げた。……或人はあまりの恥ずかしさに頭を抱えて悶絶していた。
そんな社長と社長秘書の珍妙な掛け合い漫才に陽代子は「あらぁ……」と困り顔を浮かべていたのだが……隣の美遊は嬉しそうにしており、拍手までしていた。
……ウケている。娘の笑いのツボに今更ながら気付いてしまった陽代子。内心で愕然としていたのであった……。
慎二とアズの話は次回となります。
おかしい……今回で或人と慎二。両サイドの描写をするつもりだったのに一話分の文量に達してしまった。