《龍神装》知らないのか?   作:みつばち

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魔法騎士団入団試験

 

 オレがこの世界に来て、7年が経った。数字としてはそれなりに大きく感じるが、実際の感覚ではあまりに短いものだった。

 最初の1年でこの世界のことを粗方知ることができた。

 四大国のこと、魔法騎士団などクローバー王国に関わること、魔導書(グリモワール)のこと、この世界での魔法の使い方など様々だ。

 

 今挙げたことは、ここに来てから1ヶ月以内には調べることができていた。では、残りの11ヶ月は何をしていたのかと言うと、それは当然……衣食住の確立だ。

 当然ながらオレはクローバー王国における身分証明書にあたるものをもっていない。故に、この国の国民から見てオレは異邦人、人の多い街では後ろ指を指されて暮らすこと間違いなしだろう。

 実際に、現『黒の暴牛』団長であるヤミ・スケヒロ氏も元はこの国出身ではないらしく、王国に流れ着いた当時から迫害を受けていたらしい。――全員、実力でボコしたらしいが……。

 その話を聞く以前は平界や王貴界にも聞き込みのために回っていたのだが、聞いてからは活動地域を恵外界、それも人の寄り付かない他国との国境線スレスレに移すことにした。悪目立ちは避けた方がいい。困窮している人を見ればきっと盗みにも手を出してしまうオレであればなおさらだ。

 

 衣食住を確立し、生活が安定した残りの6年間はひたすら修行の日々だ。

 この世界の魔法の仕組みを知って、オレはあまりにも自分に合わないと感じた。システマチックに過ぎるのだ。

 <Infinite Dendrogram>における<ジョブ>がこの世界における魔導書(グリモワール)や魔法属性にあたるのだろう。<ジョブ>があればスキルが使える、魔導書があれば魔法が使える。そういう風に才能が有る者はもちろん無い者にも平等に手を差し伸べる。それはもちろん素晴らしいのだが、《神装》を完成させた自分にとっては、深海にいるかのような息苦しさがあった。

 だから、この世界でデンドロのスキルを再現することにした。幸運なことに、MPとSPの知覚、操作技術は体に染みついたままだった。そうして、オレは6年掛けてかつてのスキルや魔法を作成していったのだった。

 

「大変ではあったが充実した日々だったな……。これで(トーリ)相棒(ヨル)がいてくれたのなら文句なしだったのだが……」

 

 心情的にもそうだが、実益的にもそう思う。特に相棒がいなくなって《神装》の莫大なコストを支払う代替手段を考案する必要があった。オレは思っていたよりもアイツにおんぶに抱っこだったらしい。もし、また会うことがあればアイツのお願いは全部聞いてあげよう、そう思った。

 

「ハハ……考え事をしていたら時間が経つのも早いな。もう着いてしまった」

 

 そう呟いて、顔を上に向ける。そこにはアルター王国の決闘闘技場を思わせる中世チックなコロッセオが直立していた。周りに目を向ければ、多くの若者が緊張と期待がない交ぜになった顔で佇んでいる。今日行われる魔法騎士団入団試験、それへの合格を眼前に見据えながら。

 

「ぬぉああああああ! 寄るな鳥共~~~!!」

 

「アレは……確かアンチドリだったか。魔力が低いほど集られてしまうとか言う……」

 

 入場してすぐ目に付いたのはスズメのような愛嬌をもった鳥の大群に群がられる少年。試験会場らしい静謐を切り裂く叫び声に一瞬放心する。――あっ、人とぶつかった。見間違えでなければアレ、魔法騎士団長じゃないか……?

 

(あの少年……あそこまでアンチドリに集られるのは見たことがない。もしや、魔力が存在しないのか……? だとすれば、何か魔法に代わる代替手段があるのか?)

 

 今にも頭を握りつぶされそうな少年を横目にふと考える。何も恐れずに会場に立つ彼を見て、魔法が使えないとは思えなかった。

 

「――受験生の諸君……待たせたね」

 声と同時に、会場内に存在していたアンチドリが一斉に羽ばたく。今回の審査員、魔法騎士団長のお出ましだ。

 一瞬の静寂の後、受験生がどっと歓声を上げる。クローバー王国の花形職業、それの団長ともなれば、彼らにとってはスーパースターにも等しいのだろう。

 

「今回の試験は私が仕切らせてもらうよ」

 先刻の声と同様の人物が告げる。他の団長に確認を取らず、決定事項のように振舞う態度には、通常傲慢さが付き物だが、彼のそれはそんな気風は微塵も感じさせない清廉さに満ちたものだった。

 現最強と目される魔法騎士団、『金色の夜明け』団団長ウィリアム・ヴァンジャンス……。次の魔法帝最有力候補とも囁かれるそうだが、その噂に決して名折れしない御仁だと、実際に見て感じた。

 熱狂冷めやらぬ会場であったが、ヴァンジャンス団長はそんなものはどうでもいいという様に自身の魔導書を広げる。そして――

 

「“魔樹降臨”」

 その呟きは天に穴を開けた。しかし、雲間から生じるのは青空などではない。巨大な木の根だ。それがオレを含む受験生目掛けて伸長する。

 傍から見れば攻撃かと思うほどに大規模な魔法、しかしその狙いは違った。伸びた根が受験生全員に箒を手渡し始めたのだ。

 パフォーマンス程度にこんな魔法を使うのか……。他の団長が冷めた顔で一連の流れを傍観していたが、魔法は与えられた役目をしっかり果たしたと言える。なぜなら――

 

『…………!!』

 会場の空気は先程の熱を忘れてしまったように緊張に満ちている。試験会場らしい良い空気感だ。

 ヴァンジャンス団長もそう思ったようで、満足そうな笑みを浮かべ、続ける

 

「それではこれより魔法騎士団入団試験を始める……!」

 

 

「諸君らには今からいくつかの試験を受けてもらう。その様子を我々九人の魔法騎士団長が審査し、後に九人各々欲しい人材を採択させてもらう。誰にも選ばれなかった者は魔法騎士団に入団する資格無し――という事だ」

 

 試験が始まり、受験生に大まかな流れが説明される。"誰にも選ばれない"、明確な不合格要素を意識したからか、あちこちからゴクリと喉を鳴らす音が聞こえる。待ち構える最悪の未来に大半の人間の足は竦む。それでも、試験の開始は待ってくれない。

 

「――一次試験はその箒を使って飛んでもらう」

 傍に仕えていた魔法騎士がお手本として箒に乗って浮かぶ。

 

「魔力を操作(コントロール)できる魔導士なら感覚で出来る事だ。魔導士の最も基本的な移動方法だよ。箒飛行が出来ないようじゃ話にならないよ……!」

 

 そう、突きつけるように言い残す。

 リアルでは誰もできないこと――デンドロでもあまりいなかった気がする――がここでは常識扱いか……。あまりのカルチャーギャップにここが別世界なのだと改めて理解する。

 ふむ、そうか。一次試験で求められているのは単に箒で飛ぶことだけ。苦労して完成させた《空中歩行》や《無重翼》を試したかったのだが、出鼻をくじかれてしまう。

 まぁ、仕方ない。別に自慢したいわけではないのだ。今の自分がこの世界でどれだけ通用するのか確かめる機会はまだある。ひとまず真面目に試験に取り組むとしよう。

 そう嘆息しながら、箒に足を置き空へと浮上するのであった。

 

 それから試験は進む。身長ほどの壁を壊す試験、飛び回る的を撃ち落とす試験、魔法の創造性を試す試験、種を成長させる試験など様々なものがあった。

 どの試験でもオレが作成したスキルを使用することはなかった。理由としては、基礎的な能力を試す試験には不適格なものばかりだったからだ。かつての<超級>や神話級以上の<UBM>に類する存在を考慮して戦闘系スキルを優先して作成したのだが、これならQOLの向上のために生産職のスキルも作成しておいたほうが良かったのかもしれない。生産スキル作成をけちり、7年間パンを食べ続けていた過去の自分を思い出し、失笑する。

 

 まぁ、何はともあれ次で最後の試験。今度は腕試しにちょうどいい塩梅のものだといいが……。

 

「――それでは……次が最後の試験だ。最終試験は実戦形式だ。適当に二人一組になってもらってその相手と闘ってもらう……。魔導書を使って構わない。攻撃魔法の一つや二つ覚えて来ているだろう? 魔法騎士団(我々)は戦闘が仕事だ。君達の力、存分に示してくれ」

 

 最後は対人戦。デンドロで対人が多かった身としては助かるが……。問題は相手だ。果たして、この試験場にオレが全力でスキルを使っても問題ない人間がいるのか――

 

「――いたな。そんな人達……」

 

 疑問が一瞬にして氷解する。オレの全力に拮抗する、あるいは凌駕するであろう相手がこの会場には確かにいた。ルールにも抵触していない。

 ただ、了承してくれるかどうかが分からない。オレの今考えていることはルールの裏をついた外法であり、魔法騎士団に真っ向から喧嘩を売る愚かな行為だ。

 しかし、やりたい。前世(?)――容姿が据え置きなので死んだ心地がしない――から数えて7年も我慢したのだ。折角会得した《神装》をここで披露せずして一体いつ使うというのか。

 理性と欲望がオレの中でせめぎ合う。こうなってしまえば、答えは一つ。この状況でオレが取るべき最善手は――

 

「……では……始め――!」

 

 第一試合が始まる。結局オレが選んだのは傍観だった。流れに身を任せ自分の望む状況になるのを祈るだけだ。しかし、それが本当に大切なことなのかもしれない。誰かが言っていた気がする。《歯車を廻し、残骸を繋げ、結末を祈る(デウス・エクス・マキナ)》、と。

 

 投げやりなことを考えながら、試合に目を移す。

 対戦するのは先程アンチドリに追われていた推定魔力ゼロの少年アスタとフッハが口癖の少々軽薄そうな青年セッケ。

 アスタの方は試合前にセッケから何やら侮蔑するような発言を寄越されていたが大丈夫だろうか。あまり一方に肩入れするタイプではないが、必死に努力するものが馬鹿にされるのはそれ以上に好かない。

 心情的にはアスタに勝ってほしいものだ。

 

 と、そう考えている間に試合が動く。

 セッケが青銅の防壁を作り出す。強度は逸話級金属にも満たなそうだが、魔法である以上見た目以上の力があるかもしれない。ただ、見た感じMPが疎らで大した防御力はなさそうだ。

 さて、アスタはどうするのか。……? 待て、アスタはどこへ行った?

 アスタのいた場所を見るも、彼はいない。まさか、とセッケの方を見る。

 

「――――」

 

 思わず目を見開く。既にセッケの目の前にはアスタがいた。しかもそれにセッケは気付いていない。その速さのまま、アスタは魔導書から大剣を取り出し、そして振り下ろした。

 それだけで防壁はなかったかのように砕け散った。それがこの場で起きた全てだった。

 

「――オレはテキトーに頑張ってイイ思いをする為に魔法騎士団に入るんじゃねー……。死に物狂いで魔法帝になる為だ」

 

 自分に起きたことを知覚することなく気絶したセッケに向けて、アスタはそう言い残す。まるで主人公のような物言いだ。いや、それよりもだ。

 

「――驚いたな」

 

 シンプルな感想。しかし、そう述べる他ない。

 この場でアスタがやったことは単純。セッケに急速接近して大剣を振り下ろした、それだけだ。ただし、()()()()()()でという言葉がつくが。

 縮地じみた高速移動も魔法ではない。あの一連の行動にMPの流れは一切存在していなかった。だからこそ、馬鹿げているのだが。

 それにあの大剣も異常だ。アレからは魔力が感じられなかった。いや、正確に言えば何か異質な力が渦巻いているのは分かった。その力が、セッケの魔法を魔力ごと否定するように叩き切ったのだ。(アンチ)魔力の剣、とでも言うべきか。古巣で恐れられていた【元始聖剣】のような理不尽な性能……。<Infinite Dendrogram>にも存在しないであろうMP(魔力)を持たない存在であるアスタだからこそ扱えるそれに、面白いと心からそう思った。同時にオレであれば打ち合える、とも。

 

 それからの試合は、初戦ほどの衝撃もなく可も不可もない試合内容だった。強いて言うなら、ユノという青年の試合であろうか。四つ葉の魔導書の性能には正直懐疑的であったので、それを払拭するような戦いぶりに評価が覆るというものだ。

 

 さて、あれだけ大勢いた対戦相手ももうほとんどいない。あと、1、2回ほどで終わるだろう。仕方ない、残った受験生と――

 

「――そこの君、少し構わないだろうか?」

 

 戦おうと考えていたところで、ヴァンジャンス団長から訝し気な色の乗った声がかかる。これはまさか、あるのだろうか……。

 少々周りからの視線が痛いものの、願いの成就が眼前まで見えているとなれば最早気にならない。浮足立ちながらオレはコクリと頷く。

 

「君は先程から他の受験生と闘うことを避けているようだが……。何か闘えない理由があるのかな?」

 穏やかな、しかしオレという人間を測ろうとする固く冷たい言葉。それがオレの考えの不当性を突き付けてくる。やるべきではない、言うべきではない……のだが。

 

「この場にいる人間としては不適格なのかもしれないが、オレは魔法騎士団に入団することを最優先に考えてここに来たわけではない」

 

「ほう……?」

 

 ヴァンジャンス団長の目が細められ、視線の冷たさが一層増す。周りの受験生からも所々罵声が上がっている。

 

「それはつまり、君はこの試験を遊び――」

「――試験を物見遊山として消費しようと来たつもりもない」

 

 半分で、と続けようとしたヴァンジャンス団長の言葉に被せるように、自分の意思を言葉に載せる。並々ならないオレの様子に話を聞く価値はあると判断したのか、ヴァンジャンス団長が続きを促す。

 

「オレが今日この場に来たのは自分の力を試すためだ。守るべきものを守るために磨いた技巧が、真にその本懐を果たすに足るものなのか、試すためだ……! 故に、オレは望む。魔法騎士団長との試合――いや、決闘を!」

 

 大声でまくしたてながら、オレはこの7年間で自覚した原点を追想する。そうだ、以前は気づけなかったことだが、オレの強さへの渇望は『ただ強くなりたいから』などという単純な動機から来ていたものではなかった。

 <Infinite Dendrogram>に初めてログインした時に出会った少女。戦いを忌避しながらも、周囲の思惑のままに戦に引き摺りこまれるあの優しい少女を守りたいと願ったから強さを求めたのだ。オレは彼女を守る前に死んでしまったが、彼女のような人間を守りたいというその願いは世界が異なれど変わっていない。

 

 オレの挑戦を聞いた周囲の反応は様々だ。不敬だと怒り狂うもの、下民を見るような目で嘲笑を浮かべるもの、英雄を見るような目で歓喜の声を上げるもの、そして見定めるように傍観するもの。

 対する団長たちは困惑気味だ。入団試験で団長に決闘を申し込む馬鹿は流石に前例が無かったのだろう。それでも目に見えて乗り気な人もいて多少は希望が持てるというものだ。

 しばらくして、団長たちで考えがまとまったのか裁定が下る。

 

「君の考えは分かった。上昇志向に満ちた素晴らしい覚悟だと思うよ……。それでも騎士団員を選抜する神聖な試験として君の要望は――」

「――受けてやってもいいんじゃねーの? ヴァンジャンス」

 

 デジャブを感じる会話への乱入を果たしたのは、先程の審議の中で唯一高みの見物を決め込んでいたヤミ団長。どういった風の吹き回しかと、団長たちが一斉に彼へ顔を向ける。

 

「何のつもりだい、ヤミ? 騎士団長と受験生の実力差ぐらい君は当然分かっていると思っていたのだけど……?」

 

「だからだよ」

 

「……?」

 

「そんなものはトーゼン分かってんだよ。ただ、ソイツはそれを知った上で勝てると考えてやがる。その勝算が嘘かハッタリかは知んねーが、確かめてからでも遅くはねーだろ?」

 

「君は、確か……。ハァ……、分かった。決闘を許可しよう」

 

 数回の問答を交わした後、最後はヴァンジャンス団長が折れる形でオレの決闘が承認される。なぜ、『団長相手でも勝てる』というオレの考えが見抜かれているのかは謎だが、レジェンダリアの【コーラス・インセクト】のような心を読む技能がこの世界にも存在しているのだろうか。

 まぁ、何はともあれ決闘が出来ることを喜ぶとしよう。




クユリの原点:
 他人の都合で戦乱に巻き込まれる友である少女を助けたい。その願いを果たす前に交通事故で亡くなってしまったことをかなり後悔している。
 なお、仮に奇跡が起きてこのままデンドロ世界に帰還を果たした場合、友の死亡によってフォルテスラ√直行となります。クユリ死亡→ブラクロ世界→再びデンドロ世界帰還√なんて天地が逆転しても起きないのであり得ないですが。
 なお、クユリ死亡√以外では詳細不明の必殺スキルを使われない限り、相性的に【疫病王】に必ず勝てるので少女は亡くなりません。

クユリの所属する魔法騎士団は?

  • 金色の夜明け
  • 銀翼の大鷲
  • 黒の暴牛
  • 紅蓮の獅子王
  • 紫苑の鯱
  • 碧の野薔薇
  • 翠緑の蟷螂
  • 珊瑚の孔雀
  • 水色の幻鹿
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