異世界転生 作:魔導科学
「いらっしゃい!」
「こんにちは。実は頼みがあって・・・」
「なんです?リョウさんの為なら、いつでも嫁入り出来ますよ?」
「ちょっと!?」
あまりに突拍子もない返答に、カオリは思わず横から言葉を挟んで食い止めた。
「いや、実はコイツに新しい仕事を、見付けてやって欲しくてですね?ゴモリーさん?」
「もう〜。リョウさんたら〜」と、俺に寄りかかり、胸にのの字を書くゴモリーさん。
「はい!離れて!で、仕事はあるの?」
カオリが間に入って、引き離す。
それを、呆然と眺める若者。
「だ、旦那、モテるんですね!オラ、かぁちゃん居るけど、羨ましいだ!」
「真面目に生きてりゃ、ちゃんと見てくれる人は居るからな?だから、新しい仕事に就いて女房、子供と幸せに暮らせよ?」
「へい、有難うごぜぇますだ!」
「そう言えば、リョウさん。最近、低賃金で使い潰されて解雇された挙句、盗みや心中なんていう話が、結構出回ってるんですよ?」
ゴモリーさんが、世間話を始めた。
「不景気だから、と言うのもあるかも知れませんが。でも大体、とある大店が関わってる感じなんですよね・・・」
なんて呟きながら、ゴモリーさんが若者に一枚の手紙を渡す。
「此処なら、若くて力もあるから、問題なく仕事できるでしょう」
「へぇ、有難うごぜぇます。姉さん!」
「一体、なんの仕事を紹介したの?」
カオリが、紙を覗き込みながら聞く。
「めぐりちゃんの鍛冶屋ですよ。彼処は、人気の鍛冶屋だから、幾らでも人が欲しいって、言ってますからね」
なるほど、手に職が付いて、更にちゃんと儲けを出してる所なら良いな。
流石、めぐりちゃんとゴモリーさんだ。
此方に何度も頭を下げて去って行く若者を見送り、瓦版屋を後にした俺達は、また町を歩いていた。
「土左衛門だ〜!」
「お、お役人様、土左衛門でさぁ〜来てくだせぇ〜!」
町人に声を掛けられ、川辺に向かう。
其処には人集りと、お互いに手を握りあって手首を紐で縛った遺体があった。
「おい!誰が発見した?後、コイツの身元が分かるヤツはいねぇか?」
「・・・酷い!?」
カオリが悲しそうな顔をして、目を背ける。
俺は遺体に手を合わせ、岡っ引きが持って来たむしろを被せる。
「旦那、仏さんの知り合いを、連れて来やした」
岡っ引きが連れて来たのは、見窄らしい格好の爺さんだった。
「お役人様、此奴は同じ長屋に住んでる奴で、この娘の方は、二人で祝言を挙げようって言ってた娘さんです」
「そうか。なんで、心中なんてしちまったかね」
「へぇ、なんだか働いても金にならねぇとか、賃金が貰えないって事を、最近聞いてましたね。確か、大黒屋で働いてた筈だったと思います」
「・・・そうか、有難うな爺さん。面倒掛けたな」
「いえ、お役人様のお役に立てて、良かったです」
「・・・リョウ」
「大丈夫だ、俺は生まれ変わったからね。そして今は、カオリや珊瑚、皆が居てくれる」
俺は前世の事を、思い出していた。
何度も思った。
何故、現実世界に闇狩人や仕事人は、存在してくれない?
何故、悪がのさばって、善良な者が搾取されなければならない?
毎日、辛い思いをして生きて来たからこそ、この話は俺にとっては、とても重い話だ。
現場を岡っ引きに任せ、二人でその場を離れる。
気が滅入るな。
「・・・リョウ、ちょっと休憩しない?」
「あぁ、そうだな」
そう言って、カオリは団子屋の椅子に腰掛けた。
店の女の子が、注文を取りに来る。
「団子を二つと・・・いや、四つ貰おうかな」
「はい!有難う御座います!」
「やぁ、リョウさん」
「こんにちは。お父、じゃ無かった。お役人様」と目の前に座ったのは、ユカさんとポポだ。
「リョウさん、今は往診の帰りなんだが、具合を悪くしてる人達が多発していてね。大体、栄養失調や精神的なストレスによるモノだ」
「そうなんだよね。精神的に疲れた人たちは皆、大黒屋って言ってた」
ユカさんと、ポポはそんな事を言う。
大黒屋・・・糞ブラック企業だな。
美味い団子で、ちょっと気分転換なんて思ったが、大黒屋のせいで気分が宜しく無い。
「あ、さて!あ、さて!さては、南京玉すだれ!!」
団子屋のすぐ近くで、ネアさんが南京玉すだれをやっている。
「ちょいと伸ばせば、地獄の大百足!」と、伸ばした玉すだれを、額の辺りに持ってくるネアさん。
日本には存在しないが、アマゾンに居るセンチピード・オブ・ヘルと言う超狂悪なモンスターが居る。
食欲旺盛で、人間を見れば追っかけ回し毒液を吐いたり噛みつき攻撃等、危険な生物で、俺は黒い悪魔の次に、嫌いな存在である。
そんなネアさんの大道芸を眺めつつ、皆でお茶を飲んでいると「おい!誰に断って此処で芸をしてんだ?」と、感じの悪いチンピラ紛いの連中がやって来た。
「ここで芸を見せるんなら、きっちり大黒屋さんに『カスリ』を置いてきな」
「ちょっと、なによ!?此処の場所が大黒屋って、誰が決めたのよ?」
「うるせぇ、威勢がいい姉ちゃんだな。なんなら、アッチで可愛がってやってもいいんだぜ?」
「ヒヒッ、そいつは名案だ」
チンピラたちが下卑た薄笑いを浮かべ、品定めするようにネアさんを囲い込んだ。
「おい!止めろ!」
「あぁ!なんだ木っ端役人!大名家に出入りしてる、大黒屋さんの邪魔すんのか?」
「大名家の名を汚すような真似を、大黒屋もよく許しているな。奉行所に名が届いても構わねえんだな?」
「チッ、覚えてろよ!」
と、チンピラ共が去って行く。
「リョウ、有難う」
「いえ、今の俺は役人なんで」
「リョウ、しょっ引けば良いんじゃ無いの?」と、カオリが不機嫌そうに言う。
「カオリ。帰ったら多分、あの煩い上司が文句言って来るぞ」
「リョウさん、何でですか?リョウさんとカオリさんは、役人ですよね?」
「あの手のチンピラ共は、虎の威を借る狐なんです。大名家の名を出せば、此方は何も出来ない、更に言えば上司は事なかれ主義の人間だから、俺達が怒られる。そんな図式になるんです」と、ユカさんに説明する。
「此れも、前世の記憶から読み解いた話ですよ。な?カオリ」
「そうね。そう言われれば、ドラマでもそんなシーンがあったわね」