異世界転生 作:MSZ-006
楽しい朝御飯の後、皆それぞれの仕事場に出掛けて行く。
俺達も、職場に到着した直後。
「彩刃さん!また、心中です!真毅村さんと一緒に、現場に行って下さい!」
小煩い上司からの指示で、俺達は現場に向かう。
「リョウ、あれって・・・」
カオリが、小さく呟く。
「あぁ、この間の」
俺は目の前の光景が信じられず、呆然としながら答える。
現場では、ゴモリーさんを通して仕事を紹介してやった若者が、首を吊っていた。
「何でだよ?女房、子供が居るんだろ?」
俺は変わり果てた若者を見つめ、溢れそうになる悔しさを必死に堪えていた。
「・・・リョウ」
カオリは、そんな俺を心配そうに見つめる。
「お役人様!ウチの旦那は、自害なんてしません!折角、新しい仕事を始めたのに・・・!」
幼い子供を背負った女が、泣き崩れながら俺達に縋り付いてきた。
「そうだな。仕事を紹介したのは、俺だ。だから、何でこんな事になったか、此れから調べる」
「新しい仕事を紹介して下さったのは、お役人様だったんですね?お願いします!」
「奥さん、最近の状態を教えて下さい。何か、おかしな事は無かったですか?」
カオリが、泣き崩れる女に話し掛ける。
「旦那が家に帰って来た時、飴の袋を持ってニコニコしながら帰って来ました」
女が、語り始める。
「大黒屋さんに暇を出されて困っていたけど、八丁堀のお役人様に仕事を紹介してもらえた。後、子供に土産の飴まで貰ったって」
女は、すすり泣きしながら言葉を続ける。
「新しい仕事は鍛冶屋で、此れからもっと頑張るって仕事に行ったんです。それで昨日、帰って来たら『大黒屋に呼ばれた、ちょっと行ってくる』とそう言って、出たきり帰って来なくて・・・」
「大黒屋に?何の話か聞きましたか?」
「いえ、ただ金を貰えるとだけ」
「金を貰える?」
「カオリ、遺体に不自然な痣がある。後、懐に多少の金子が入ってるな」
俺は遺体を樹から降ろした後、検分していて分かった事がある。
・・・コレは自殺じゃ無い、他殺だ。
「大黒屋に、行って来る」
「私も行くわ」
「これはこれは、彩刃様。どうされましたか?」
愛想笑いを浮かべながら、店の奥から出てくる大黒屋。
「昨日、ここへ暇を出した男が来なかったか?」
「ええ、参りましたよ」
「何の用件で?」
「はい。手前どもの手違いで、渡した金子が少しばかり少なかったようで。それを不憫に思いましてな、不足分を直々に手渡してやったのですよ」
「・・・ほう?わざわざここに呼んで、自ら手渡したと。随分と情け深いこったな、大黒屋」
「滅相も御座いません。まさか、その金を持ってあのような真似をなされるとは。せっかくの金子も、死んでしまっては宝の持ち腐れ。いやはや、勿体ない事を」
唇の端を吊り上げ、こちらの反応を楽しむ様に、薄ら笑いを浮かべる大黒屋。
「大黒屋。俺はあいつが自害したなんて、言った覚えはないぞ?」
「・・・。っ、・・・はは、これは手前どもの早合点でしたようで。お騒がせいたしましたな」
大黒屋は一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに元の薄ら笑いに戻した。
「・・・お忙しいお役目、どうぞお励みください。お出口は、こちらで御座います」
恭しく頭を下げる大黒屋を一瞥し、俺は静かに答える。
「・・・そうか。邪魔したな」
店を出て暫く歩くと、カオリが俺に声を掛けて来た。
「リョウ、大黒屋は・・・」
「カオリ、分かってる。奴は、黒だ。だが、まだ仕事の依頼が無い」
「そうね」
俺達は奉行所に戻って、不自然な痣の報告等を終わらせる。
しかし『どうせ、自害でしょう?』と、小煩い上司は取り合わず、話はそれで終いとなった。
夕方、古ぼけた社にボロボロな姿の一人の女が佇んでいる。
「お願いします。どうか、この恨みを。私が、身体を売って稼いだ金です。どうか、この願いを聞き届けて下さい」
泣きながら、社に手を合わせるのは、切腹した浪人の嫁。
『・・・分かった。金を置いて、此処から去りなさい。決して、振り返るんじゃ無いよ?』
「はい・・・。有難う御座います」
浪人の嫁は泣きながら振り返らず、その場を立ち去る。
暫くして、もう一人やって来た。
「お、お願いします!此処に来れば、晴らせぬ恨みを晴らしてくれるんですよね!?ウチの旦那を殺した大黒屋をどうか!頼み料は此れしか無いけど、どうかお願いします!!」
涙を流しながら、必死に社に手を合わせる幼子を背負った女。
社の前に置かれたのは、小銭と飴の入った袋。
「・・・分かった。決して振り返らず、そのまま去りなさい」
「有難う御座います。どうか、どうか、お願いします」
泣きじゃくる女が去った後、ゴモリーさんが金を取る。
深夜、静まり返った古ぼけた社に、仲間たちが集まる。
「依頼人は、切腹した浪人の女房。それから・・・リョウさんが、仕事を紹介した若者の妻」
ゴモリーさんが、古びた机の上に小判一枚と、汚れの目立つ小銭、そして飴の袋を置いた。
「あれ・・・? この飴、私が売ったやつだよ」
珊瑚が呟く。
俺は黙って、その袋を見つめる。
「金が足りねぇからと、飴まで頼み料として置いていったのか。だが金の重みで、仕事をする訳じゃ無い。金に染み込んだ、涙の重さで仕事するまでだ。それでゴモリーさん、的は?」
「的は大黒屋の店主と、その手下共。それから・・・裏で糸を引く大名家の主と、その家臣」
重い沈黙が流れる。
相手は、大名だ。
しくじれば命はない。
「この仕事、降りたい人は降りて下さい。決して強制はしません」
俺はそう言うと、迷いのない手つきで小銭数枚と、飴の袋を手に取った。
「やらない訳ないでしょ?」
「・・・許さない」
「そうだね〜。許す事は、出来ないね〜」
「折角、来てくれたのに許せない」
「この依頼、受けます」
「ご主人、僕も受けるよ」
「主、私も受ける」
「私もやるわよ。南京玉すだれの錆にしてやる」
カオリ、リリーさん、マリーさん、めぐりちゃん、ユカさん、ポポ、瑞、ネアさんが順に答える。
「では手引きとして、我々が大名家に入り込みます。丁度よく、大黒屋から大名家に誘われていますからね」
ミリィさんは、メガネをクイッと上げながら全員を見渡し宣言する。