異世界転生 作:魔導科学
ミリィさんの一人芝居を眺めつつ、大名が大黒屋に話し掛ける。
「のう、大黒屋。そちは、どの娘が好みじゃ?」
「フフ、お殿様。手前は、お殿様のおこぼれを頂戴できれば、それだけで十分でございますよ」
スッとリリーさんと、マリーさんが部屋を出る。
「む? 何故、部屋を出る?」
「ははぁ、なるほど。お殿様、左様でございますか。恐らくは、この娘が最初のお相手を務めるという、あやつらなりの気遣いでございましょう。ハハハ、心得たもので・・・」
「酒が無いな。おい!」
「はっ」
傍にいた侍に、大名が声を掛ける。
大黒屋は揉み手をしながら、一人取り残されたミリィを、値踏みするように見つめた。
部屋を出た姉妹は、誰も居ない部屋にいた。
「お姉ちゃん〜、ツメかして〜?」
「・・・うん」
マリーさんが、リリーさんの蛇味線のツメを受け取る。
そのツメを専門の金具で固定し、鉄の篠笛に取り付ける。
その後、侍が酒を取りに部屋を出てくる。
「お姉ちゃん〜、先に仕事するね〜?」
「・・・気を付けてね。マリー」
マリーさんが、他の部屋に入って篠笛を吹き始める。
ピーーーーッ!!
ピロリ~~、ピロリラ~~~~!!
ピララ、ピララ、ピララ、ピララ・・・ピィィィヤラリィィーーーーーーーッ!!
殺しのテーマが、篠笛で奏でられる。
「おい!何故、この部屋に居る?勝手に入るな!」と、障子を開いた瞬間、マリーさんの篠笛が、侍の喉元に突き付けられる。
「ごめんね〜?でも、今まで散々、悪い事してたんだよね〜?お仕置きだよ〜?」
声も出せずに、侍はその場に崩れ落ちた。
「おい!大黒屋?何故、篠笛の音が響いている?」
「分かりませぬ。おい!他の娘たちは、何をしている?」
「さて、皆目見当もつきません」と舞いながら、ミリィさんは冷たく言い放つ。
「チッ、役に立たない奴だな!お殿様、ちょっと見て参ります」
大黒屋が、部屋から出て来る。
廊下を歩く大黒屋が、月光に照らされて美しく佇むリリーさんを見付ける。
「おい!お前、さっきの笛の音は、なんだ?」
リリーさんは、スッと口元に手を持って行く。
「おい!聞いているのか?」
大黒屋が、近付いてくる。
リリーさんは、口元から蛇味線の糸、魔導絹糸をシュルリと引っ張り、大黒屋の首筋めがけて放つ。
銀の糸が脂ぎった太い首に幾重にも巻き付いた瞬間、リリーさんは音もなく縁側から庭の松へと躍った。
「ぐっ、が……っ!?」
大黒屋の肥え太った身体が、滑車にかかったように宙へ浮き、月夜の松に吊るし上げられる。
リリーさんが、魔導絹糸を指先で弾くと、糸が切れて大黒屋の巨躯がドサリと落ちる鈍い音がする。
地面の上に転がったその顔は、見開かれたまま光を失った濁った瞳で、何も映さぬ夜空を凝視していた。
「・・・月の綺麗な晩に、似合わない物を飾るのは無粋」
「大黒屋の奴、遅いな。おい、娘! 此方へ参れ」
「お断りいたします」
「何だと!?」
「これにて、演目はすべて終了いたしました」
舞い終えたミリィさんは、扇子を閉じると静かに膝前へ置き、両手を揃えて深く頭を下げた。
「ならば尚更だ! 此方へ来い。儂が直々に、可愛がってやる!!」
鼻息荒く立ち上がり、ミリィさんに掴みかかろうと迫る大名。
「・・・本当に、分からないお人ですね」
ミリィさんは膝前の扇子をバッと開き、掌の紙吹雪を鮮やかに扇ぎ飛ばした。
舞い上がった紙吹雪は、まるで本物の猛吹雪のようにうねりを上げ、大名の視界を真っ白に染め上げる。
「くっ、な、何だ!? 前が見えん! 誰か! 誰か、誰かあるか!!」
吹雪の向こうから、凛とした声が響く。
「・・・お呼びでしょうか?」
「ええい、糞! あの娘め、捕らえて無礼討ちにしてくれるわ! ・・・ん? 誰だ、貴様は!?」
吹雪がすうっと晴れた先に立っていたのは、ミリィではなく見慣れぬ町同心の男。
「奉行所の彩刃と申します」
「町方風情が、儂の屋敷に一体、何用だ?!」
「・・・用件ですか?」
俺は、ゆっくりと大名に近付く。
「依頼が、ありましてね?未来を奪われた若者の家族と、夢を追った浪人の遺族から・・・」
「依頼?なんだそれは?それが儂に、何の関係がある!?」
「関係無いとは、言えないでしょう?大黒屋と一緒に、ボロ儲けしてたんだから」
「貴様!?何故、それを!?おのれ!」
大名が脇差に手をかけた刹那、俺は鋭く踏み込み、高々と掲げた柄を奴の手首へ垂直に叩き落とした。
「ぐあぁっ!?」
鈍い衝撃と共に、大名の動きが止まる。
俺はその手首を柄頭で力強く押さえつけ、間髪入れず左手で鞘を鋭く後ろへ引き絞る。
半身に開く体捌きと共に、右手で一気に刀を抜き放つと、銀光を帯びた切っ先は流れるような軌道を描き、大名の首筋へとピタリと吸い付いた。
「・・・地獄の閻魔に、宜しくな。大黒屋が、先に待ってるぜ?」
俺は刀の峰に左手を添えて、スッと引く。
血飛沫が上がり、大名は崩れ落ちた。