異世界転生 作:魔導科学
やって参りました、総帥室。
「シュウさん、一つ文句があります」
「ほう?何かな?」
「ウチの娘たちが、酷い目に遭ったんです!この責任、どう取るおつもりですか?」
「ふむ?酷い目に遭ったか・・・。リョウ君、双六ゲームの世界を見て、何か気付いた事は、無かったかな?」
「気付いた事?」
「そう例えば、なぜ転生者しか知らない情報が出て来るのか?」
「それはシュウさんが、このゲームの製作に、携わっているからですよね?」
「確かに、私も製作に携わっている。しかし、それだけじゃない。このゲームは、プレイヤー達の潜在意識を読んでゲームに組み込む」
プレイヤーの潜在意識を読む?
どういう事だ?
「詳しく、お願いします」
「案ずるな。簡単に言えば、君が見た世界は君の思考の反映・・・即ち、前世の記憶が紡ぎ出した幻影に過ぎないということだよ、リョウ君」
「前世の記憶?と、いう事は珊瑚たちがブラック企業で働かさせられたのは、俺の記憶を元に作られた世界って事ですか?」
「そういう事になるね。尤も、本来であれば過去のトラウマを抉る様な状態に、ならない仕様の筈なんだがね?」
シュウさんの説明によれば、この世界はプレイヤーの思考を読み取って構築されるものらしい。
その世界は、当然の事ながらプレイヤーによって見る物語が違う。
同じ物語の世界に入れば、同じ世界を見る事は可能なのだが、過去のトラウマを蘇らせる様な仕様では、無いとの事。
じゃ、何故にブラック企業が出たのか?
しかも、珊瑚たちに!
「リョウ、大丈夫?」
「すまない。カオリ、俺のせいだな。珊瑚たちに謝って来る」
「珊瑚、瑞、ポポ。ごめんな、辛い思いをさせてしまった」
俺は、片膝を着いて珊瑚たちを抱き締める。
ピィ!、ピピィ![大丈夫、パパが辛い思いをして来たのが、よく分かった!]
「クァ〜!」
「ピィ〜!」
瑞とポポも、まるで気にするなと言わんばかりに、俺に身体を擦り付ける。
珊瑚たちの小さな体温が、俺の罪悪感を溶かしていく。
そんな風に感じた。
「リョウ君、辛い思いをさせてしまったのは、此方にも原因がある。・・・どうだろう? 総帥としての謝罪代わりに、其処の魔導機械生物を物語の時と同じ様に、人型に固定してあげようじゃないか」
「・・・えっ? 人型に、ですか?」
俺は驚き、腕の中にいる瑞とポポを交互に見つめた。
あのゲームの世界で見た姿が、現実になるのか。
「私からも頼むよ、リョウ君!」
食い気味に言葉を重ねてきたのは、セニョール監督だった。
「実はシュウさんに頼み込んで、君たちの物語を観させてもらったのだ。・・・失礼は承知だが、あの歌のライブ、そしてその子たちが人型になった姿。それこそが、私が求めていた『究極の画』なんだよ」
覗き見をされていたようで、正直あまり気分のいいものではないな。
前世で、それなりの修羅場を潜ってきた身だ。
相手が世界的な巨匠だろうと、踏み越えていい一線というものがある。
だが俺たちは、この監督の映画の出演者でもある。
ここで感情に任せて無下に断るのも、大人の振る舞いとしては憚られるか。
俺は一度小さく息を吐き、静かに監督を射抜いた。
「・・・監督。今後、覗き見のような真似は控えてください。こちらにも守るべきプライベートがあります。これ以上、土足で踏み込まれるなら、話は別ですよ」
「・・・分かった。すまない。今後、気を付ける」
セニョール監督は俺の目をじっと見つめた後、深く頭を下げた。
合気道の達人であり、かつて日本で長く修行していた経験を持つ人だ。
そんな武道家としての矜持を持つ男が、真っ向から俺の視線を受け止めた上で非を認めたのだ。
その言葉に嘘はないだろう。
俺は視線を、シュウさんに戻し聞いた。
「魔導機械生物って、シュウさんの会社の・・・?」
「ああ、そうだ。ミッシェルの作品だよ。・・・もっとも、その根幹にある導線を引いたのは私だがね」
なるほど、あのホイポイ◯プセル擬きを、実用化させてしまうような奥様だ。
かつてミリィさんに連れられて行った量販店で、初めてあのカプセルを目にした時、そのあまりの便利さに決意した日のことを思い出す。
あの天才発明家が手がけたのなら、魔導機械生物まで造り出していても、もはや何の疑問も湧かないな。
「瑞とポポは今の話、どうだ?」
俺は、瑞とポポに意思確認する。
もし拒否があるなら、それを尊重しよう。
「クカァ〜!」
「ピピィ!〜」
俺の腕の中で、二匹は弾けるように鳴いた。
どうやら、喜んでいるようだ。
「では、リョウ君。一度、魔導機械生物のカプセルを出してもらえるかな?」
シュウさんの言葉に、俺は少しだけ眉をひそめた。
確かこのシステムは、カプセルに戻すと初期状態にリセットされる仕様だったはずだ。
「シュウさん・・・カプセルに戻せば、今のこの子たちは消えてしまうんですよね?」
「その通りだ。だが、安心したまえ。蓄積されたメモリーを損なうような無粋な真似はさせない。私が直接システムを書き換え、彼女たちを『あるべき姿』へと導いてあげよう」
「そうなんですね?なら、安心です」
今まで、俺たちのやり取りを傍らで見守っていたユカさんが、俺の腕の中にいるポポの頭を優しく撫でながら、ホッとしたようにそう答えた。